神々の復讐 人喰いヒグマたちの北海道開拓史

著者 :
  • 講談社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065298862

作品紹介・あらすじ

「ヒグマの聖地」である北海道に流入していった人間たちとヒグマとの凄絶な死闘をもとに、近代化の歪み、そして現代社会の矛盾を炙り出す。

膨大な資料から歴史に埋もれた戦前のおびただしい北海道の人喰いヒグマ事件の数々を発掘し、なぜヒグマは人を殺すのか、人間はヒグマや自然に何をしてきたのか、という問いを多角的に検証する労作!

北海道で幕末以来に発生した人喰いヒグマ事件をデータ化し、マッピングした「人食い熊マップ」も掲載!


(目次
序 章  歴史に埋もれた人食い熊~上川ヒグマ大量出没事件
第一章  明治初期の人喰い熊事件~石狩平野への人間の進出
第二章  鉄道の発展と人喰い熊事件~資本主義的開発とヒグマへの影響
第三章  「枝幸砂金」と人喰い熊事件~ゴールドラッシュの欲望と餌食
第四章  凶悪な人喰い熊事件が続発した大正時代~三毛別事件余話と最恐ヒグマの仮設
第五章  軍事演習とストレスレベルの関連性~大正美瑛村連続人喰い熊事件
第六章  受け継がれる人喰い熊の「DNA」~北見連続人喰い事件
第七章  十勝岳大噴火~天変地異とヒグマの生態系との関連
第八章  炭鉱開発と戦中戦後の人喰い熊事件~封じ込められたヒグマの逆襲
第九章  樺太~パルプ事業の拡大と戦慄の「伊皿山事件」
おわりに 現代社会にヒグマが牙を剥きはじめた

感想・レビュー・書評

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  • 今年は例年以上にクマによる被害のニュースが多い。人身被害は、過去最多だった2020年を上回る勢いである。
    クマが殺処分されると、管轄市町村に苦情が寄せられることも多いというが、さて手をこまねいたままで共存していけるのか、難しいところではないだろうか。

    本書は2022年11月刊。
    なかなかインパクトのあるタイトルだが、ヒグマがアイヌの人々に「カムイ=神」とされたところから名付けたのだろう。ただ本文中では特にアイヌとの関わりには触れておらず、明治期以降の北海道や樺太でのクマ(特に人喰い熊)被害に焦点を当てている。

    明治11年から昭和20年まで、70年に渡る地元紙(函館新聞、北海タイムス、小樽新聞、樺太日日新聞)に目を通してクマに関する記事を拾い出し、データ化したというからその労力に恐れ入る。それに加えて市町村史や郷土史等にもあたっているという。
    そこから浮かび上がってくるのは、まずは予想以上にクマによる人身被害は多いということだ。吉村昭『羆嵐』の三毛別事件はつとに有名だが、それ以外にもかなりの事例がある。新聞記事などで記述される「人喰い熊」の事件の現場はどれも相当凄惨である。

    これ以前にどれくらいの人身被害があったのかは不明だが、この近代のクマ事件に関して、著者はいくつか仮説を述べている。
    大筋としては、人間がクマの居住地に入り込み、衝突が生じやすくなったということで、これはなるほどその通りだろう。著者が注目した時代は開拓時代にあたり、多くの人が入植し、鉄道等も発展した時代である。
    恐ろしい野獣と思われるヒグマだが、「人喰い」に走るクマは実はさほど多くはないという。著者の概算では全体の0.04~0.06%程度で、いくつかの事件は同一のクマによるものではないかと述べている。北海道内でも事件が多い地域とそうでない地域があり、「人喰い」クマの「血脈」のようなものがあるのではないかとの推測もしているが、このあたりはどうだろうか。母熊が人間を狩るのを見て子熊が習得したという推測もしており、個人的にはこちらの方がありそうな印象は受ける。
    鉄道の工事や軍事演習の音がストレスになったという説も述べているが、可能性としてはともかく、若干根拠は弱いように思う。
    開拓期は狂犬病が流行した時期でもあり、中には狂犬病に罹って狂暴化したクマもいたのではないかという推測は、同様に根拠は弱いのだが、ちょっと興味をひかれる発想である。

    巻頭のクマ事件発生マップが労作で、目を奪われる。
    クマが暴れた地点がそこここに点在しているわけだが、これは同時に、人間が居住域を広げていった証左でもある。そうして住むところを追われていった野生動物は数多かっただろうが、ヒグマの場合は体も大きく、力も強い。ひとたび人を襲うようになったクマとの「共存」は容易なことではない。

    「おわりに」で著者は近年のクマ被害についても触れている。過疎化が進み、野生動物が再びテリトリーを広げつつある。農業が大規模化し、無人の畑地が増えて餌が入手しやすくなったこともある。
    猟師は高齢化し、駆除に関する目も厳しい。ヒグマはここ20年間で4倍に増えているという。
    人とクマ、両者にとって「ちょうどいい」距離を保つ術はあるのだろうか。

  • 有名な事件だけしか知らなかったけど、これほどまでにヒグマが起こした事件が多かったのかと震えた。人間との摩擦により追いやられ、反逆に出た人喰いヒグマという異形の神たち。残虐に殺されていく人間のあまりにか弱いことよ。昔の記事などは読みにくいところもあるが、大変興味深く読めた。


  • おそらく、日本の獣害史上で最大の惨劇といえば大正4年の苫前三毛別事件だと思う。吉村昭著の『羆嵐』、木村盛武著『慟哭の谷』によってそのストーリーや実際の内容はよく知られている。
    そしてこれらの著作のなかでは触れられていない事実がある。この事件には確かな予兆があった。苫前付近では、事件以前から恐るべき人喰い熊事件が続発していた記録が確かに残っている――。

    明治21年から昭和20年までのおよそ70年間の地元紙に目を通し、約2500件にのぼるヒグマの関連記事を拾い上げデータベース化、事件のあった場所をマッピング。市町村誌や郷土史、公文書、林業専門誌の記事なども参考にしながら人喰い熊の事件と北海道開拓進展の推移の一致、広がっていく鉄道網の沿線と共に広がる被害を可視化。苫前三毛別事件をはじめとした上川ヒグマ大量出没事件、丘珠事件、剣淵村人喰い熊事件、美瑛村連続人喰い熊事件、北見連続人喰い熊事件、伊皿山事件。今もメディアで頻繁に取り上げられるような事件から、歴史に埋もれた事件まで開拓時代に発生したヒグマによる殺傷事件を網羅し、開拓や自然災害、炭鉱の盛衰がヒグマに及ぼした影響と、生活圏を奪われたヒグマがどのように「人喰い熊化」していくかを丹念に考察した読みごたえのある一冊。

    報道する側、記録する側、それを見る側もそれぞれの事件を当然別個のものとして扱ってきていたという指摘に思わず唸る。著者が行ったように事件をデータベース化して時間軸、地図上に配置して面として各事件の「流れ」を視えるようにすると、いくつかの事件が一個体によるものとも推測でき、人間を獲物とする習性が母熊から子熊へと受け継がれていたかもしれない可能性も浮かび上がってくるというから恐ろしい。
    けれど忘れてならないのは、人食い熊となるヒグマの確率は生息数から換算して1パーセントにも満たないという事実。
    タイトル『神々の復讐』の「神」はヒグマそのものを指しているのか。アイヌの文化では、ヒグマは山の神と呼ばれている。神々の棲み処を奪ってしまったから、人間は復讐を受けているのだろうか。人を殺した山の神は「悪い神」に堕ちてしまうという。それが本当なら不憫で仕方がない。

  • 資料をもとに北海道の熊が人を襲う事件を明治以降終戦前まで追った1冊。
    題材は面白いし、資料も膨大な量にあたっているんだけど、そこから導き出される推察がどこか飛躍していてずれている。調査に時間をかけていそうなだけにもう少し科学的に考えられれば…
    引用が多すぎるのも文章を読みにくくしている。

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著者プロフィール

ライター
専門は海外事情、田舎暮らし、DIY
著書に『ロバと歩いた南米アンデス紀行』(双葉社)、『世界のどこかで居候』(リトルモア)、『ハビビな人びと』(文藝春秋)、『笑って! 古民家再生』(山と渓谷社)など。

「2015年 『旅人思考でイスラムと世界を知る本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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