直筆で読む「坊っちやん」 (集英社新書 ヴィジュアル版 6V)

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  • 集英社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087204148

作品紹介・あらすじ

本書は、漱石が四〇歳の時に三週間で書き上げたといわれる青春小説の傑作「坊っちやん」の直筆原稿を写真版で完全収録したものである。漱石が原稿用紙に書いたままの「肉筆」で、書き始めから終わりまですべて読むことができる。この種の「復刻物」は今までも研究者や一部マニアの間では流布していたものの、新書版で登場するのはこれが初めてである。手書き文字を書いたり読んだりする機会が減ってきたこういう時代だからこそ、当時最高の知識人が自らペンを執り書き綴った直筆原稿にじっくり接して、いろいろな読み方・楽しみ方を見つけて欲しい。岩波版「漱石全集」の元編集者・秋山豊氏による直筆の味わい方・解読の手引きと、漱石の孫・夏目房之介氏のエッセイも掲載。

感想・レビュー・書評

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  •  写真版なんですけど、直筆です。「坊ちゃん」。こういうものが、無事残っていることにカンドー。全部読まなくても、覗いてみる価値は十分。
     高校とかで、国語とかのセンセーしてる人とか、なりたい人は、必見。後ろに、樋口一葉の達筆の写真があって、比較すると笑ってしまうこと間違いなし。

  •  何年か前,松山出張のとき初めて「坊っちやん」を読んだ。書かれてから百年をこえたが,いきいきとした描写で,テンポも非常に軽快,今でもおもしろおかしく読める。子供でもじゅうぶん読める。さすがお札になるほどの文豪だ。樋口一葉も読んでみようか。今回自筆原稿を写真版で読むこの本が出たので,読み返してみた。漱石研究家・秋山豊の解説と漱石の孫・房之介のエッセイがついている。
     当然のことだが,自筆原稿は世界に一つしかない。掲載された雑誌「ホトトギス」の虚子が読んだほか,今に至るまで原本を手にとって通読したのは数人に過ぎないという。幸いこの「坊っちやん」は肉筆が完全に現存しているが,戦災などで失われたり,散佚したりして,百年も残るものは多くない。
     原稿と印刷された作品は,同じものではない。今の文庫本など,かなづかいが全面的に改められているのは論外としても,発表当時から漱石の意図した表記と印刷された表記はずれている。なぜか。それは出版側の善意による手直しであったり,活字を拾った文選工,それを並べて組んだ植字工による誤植や原稿の読み違いであったり,そもそも漱石がうっかり誤記してしまったりすることによる。例えばこの作品で漱石は「小供」「子供」の二つの異なる表記を原稿用紙に書いているが,出版時には「子供」に統一されてしまったりする。「面」と「顔」,「右左」と「左右」など,こういうのは枚挙にいとまない。全集を編むときも,刊本をもとにすると,それにならうことになる。本人は,「小供」「子供」を使い分けていたようでもあるし,そうでないかもしれないのだが。それでも最新の全集では,なるべく自筆原稿に忠実に表記を見直したらしい。
     漱石はこの作品を三週間で書き上げたといわれるが,原稿を眺めると,語尾を「だ」にするか「である」にするかなど,細かい表現で迷った跡や,推敲して削ったり足したりした箇所が意外と多いのに気づく。漱石自身は自分の肉筆がこんなに衆目に晒されるとは考えていなかっただろう。漱石が公表したのは,この原稿ではなく活字になった作品だ。だから,あえて原稿を写真で眺めるというのは,作品を鑑賞するのとは違った倒錯趣味かも知れないが,しかし単純に面白い。
     読み始めると,まず変体仮名にとまどった。今見るひらがなとは全く違う文字が頻出する。当時はひとつのかなに対して複数の字体があったらしい。例えば「か」は「加」を崩したものだが,漱石は「可」を崩した文字をつかう。「の」の上に横棒のついたようなのである。また,漱石の「も」は横棒が一本しかないから「し」と紛らわしい。「は」は「む」から点をとったような字である。ほかにも,「た」「な」「れ」「に」などが今の形とは似ても似つかない。学校教育では当時すでに現在の字体に統一されていたらしいのだが。漢字も読みにくい。決して悪筆ではないのだが,旧字体を崩して書いているため,新字体に慣れた目にはすぐにはわからない。とはいっても欄外に注があるので特段問題ない。
     孫の房之介は,あまり読みにくいので途中で読むのをあきらめたそうだ。初めの十頁も読めば要領はつかめると思うのだけど。まあ確かに活字を読むよりはずっと時間がかかる。忙しい人向けではない。ただ,実の孫であり,漫画家,エッセイストとして出版にかかわる人にして,読めないとほうりだしてしまうのは,文化の断絶を示すようですこし物寂しい。漱石は房之介が産まれる三十年以上前に死んでいる。年齢差も八十を超えていて,しかもじいさんは歴史的人物だから,二親等とはいえ孫からは遠い存在に感じられるのかも知れない。
     年配の作家を除けば,最近の創作活動はどんどん電子化されてきているのだろう。そうすると後世の研究者は,作家の思考過程を跡づける重要な資料を手に入れることができなくなる。手書きノートの類は残る可能性があるとはいえ,そのうちユビキタスか何かが普及して,メモ等の断片も電子化されるに至れば,深い研究は阻害され,文学は衰退の一途をたどるのではないか。効率化もいいけれど,失われていくものも多い。

  • (推薦者コメント)
    『坊っちやん』は、夏目漱石の代表作の一つである。ここまで著名な作品となると、最早綺麗に印字された製本版ではなく、夏目直筆の原稿からも隠された意図が容易に浮かび上がってきそうだ。専門家はそれを論証すべく、高価な専門書や貴重な資料を漁る必要に迫られる。しかし、集英社が今回、極めて安価な新書という媒体で直筆版を出すにあたった。これは称賛すべきことである。

  • よくもまあこんなものを一冊に纏めようと…!もうそれだけでおなかいっぱい幸せです。

    面白いです、すごく面白い。文字の一つ一つを確かに夏目漱石が書いたのだなあと思うととても神秘的だし、自分の持っている文庫本とはやっぱり違うところもあってとても不思議な気分。本も文字もそれに関わる人たちも総て生きているのだなあと嬉しくなりました。特に高浜虚子の大胆さが面白い。それに対する解説で「牧歌的な創作」と当時の漱石の様子が表現されていたことも愉快だった。

  • [ 内容 ]
    本書は、漱石が四〇歳の時に三週間で書き上げたといわれる青春小説の傑作「坊っちやん」の直筆原稿を写真版で完全収録したものである。
    漱石が原稿用紙に書いたままの「肉筆」で、書き始めから終わりまですべて読むことができる。
    この種の「復刻物」は今までも研究者や一部マニアの間では流布していたものの、新書版で登場するのはこれが初めてである。
    手書き文字を書いたり読んだりする機会が減ってきたこういう時代だからこそ、当時最高の知識人が自らペンを執り書き綴った直筆原稿にじっくり接して、いろいろな読み方・楽しみ方を見つけて欲しい。
    岩波版「漱石全集」の元編集者・秋山豊氏による直筆の味わい方・解読の手引きと、漱石の孫・夏目房之介氏のエッセイも掲載。

    [ 目次 ]
    自筆原稿を「読む」たのしみ(秋山豊)
    直筆「坊っちやん」(夏目漱石)
    読めなかった祖父の直筆原稿(夏目房之介)

    [ POP ]


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    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 確かに、悪筆。
    でも、これで読むと、また違った感じがする。

  • 驚いたね・・・楽しいし〜(まあ・・坊っちやんですから,書可な久てもよいだらふ)〜活字では伝わらない気持ちが伝わってくる気がする。集英社もよく考えたものだ・・・感心。孫は之が売れると踏んで企画を請けた

  •  

  • 読めないから見るだけでした。

  • この間三省堂をほっつきあるいてたら平積みになってたので発見!その瞬間ものスッゴイ笑顔……になったらしい私(友人談)きっと何か獲物を見つけた猛禽類の様な笑顔だっただろう、ってどんな笑顔…それって笑顔???鳥って笑うの?ともかくどうせなら、丸々原稿復刻とかの方が嬉しいな。そして出来れば「こころ」がいいな。と思いつつ。(※22万で売ってるのを確認しました、「こころ」の復刻原稿版/07.11/18)なにんせよ、作家の直筆なんて、それだけでもう心沸き上がるではないですか!それがまた漱石だなんて、なんというベストチョイスだ!と思います。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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