赤い唇 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087602449

作品紹介・あらすじ

人々の欲望が渦巻くパンパの町。女たちはハリウッド映画のロマンスを夢見、男たちはタンゴの歌詞で女を誘惑する。美貌の青年が結核で死んだ。その母親のもとに、町のビューティー・クイーンだった女性からお悔やみ状が舞い込む。そこで明かされる意外な事実。二人の間に何があったのか。メロドラマのスタイルを借りてプイグが鮮やかに描き出す、青春群像。クールで熱いラブゲームが今甦る。

感想・レビュー・書評

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  • 作者はアルゼンチン人。

    手紙、単語の羅列、報告書、口に出す言葉を心の本心、独白、ラジオドラマ、という形式に現れる男女の恋模様は、駆け引き、報復、浮気、嫉妬、果ては殺人まで。
    以下、それなりにネタバレしています。

    ===
    美男子で遊び人のフアン・カルロス・エッチェパーレは、肺結核で1947年に死んだ。
    死亡記事を見たファン・カルロスの昔の恋人のネリダ・フェルナンデス・デ・マッサ(愛称ネネ)は、彼の母ドニャ・レオノールに手紙を出す。
    最初の章はネネの手紙。彼女の手紙の内容は自分がファン・カルロスに送った手紙をもう一度読みたいのでお繰り返してもらいたい、ということだが、何通かの手紙の中に今の生活やファン・カルロスへの変わらぬ想いが綴られる。
    ネネはファン・カルロスとの結婚を望んでいたが、彼の病のために家族から反対さていたことと、彼の妹セリーナとの諍いから、ファン・カルロスとは別れて商人のマッサと結婚したのだった。今では二人の息子もいるのだが、心はいつまでもファン・カルロスとの思い出を引きずり現在の生活には不満だらけだった。

    そして物語は1937年に戻る。
    ファン・カルロスは、ネネの他にも、ネネや妹セリーナの女友達のマベル、そして子持ちの未亡人エルサ・ディ・カルロとの恋愛を楽しんでいた。
    ネネは春の祭りで女王となるが、そのことでセリーナやマベルとの諍いが生まれる。
    さらに自分の家族からもファン・カルロスとの交際を反対された彼女は、妻帯者の医者のアルチェロと不倫関係を持つ。
    その後公共競売人のマッサと結婚し、二人の息子が生まれる。だが美男子で遊び慣れしているファン・カルロスに比べてあまりにも地味で節約家で面白みのないマッサや、やんちゃで容姿も良くはない息子たちには不満しかない。

    マベルはファン・カルロスと交際を続けていたが、彼の病気を恐れて付かず離れずの関係を続けていた。
    エルサ・ディ・カルロは、ファン・カルロスの持ちかけてきた投資話に乗り、田舎の宿を買い、そこでファン・カルロスの病気養生を行うことにする。
    ファン・カルロスの妹のセリーナは、兄を愛するがあまりに周りの女たちを攻撃していった。

    ファン・カルロスと遊び仲間のパンチョは、パーティーの帰り道にマベルの家の召使いのラーバを暗がりに連れ込むことに成功する。だがその後彼の子供を産んだラーバを冷たくあしらう。未婚でパンチョの子を産んだラーバへの世間の風当たりは厳しかった。
    ついにラーバは、忍び込んできたパンチョを刺殺してしまう。
    裁判ではパンチョの暴力による正当防衛として無罪となった。

    だが、パンチョが忍び込んだ相手はラーバではなくマベルだったのだ。
    マベルはファン・カルロスとの関係と同時にパンチョとの遊びが明るみに出ないようにと嘘の証言をしていた。

    そして1968年。
    入り乱れた恋愛模様も過去のこと、彼女たちはそれぞれの人生を送っていた。

    ラーバは新たな男性と出会い、多くの子供達、孫たちに囲まれていた。
    エルサ・ディ・カルロは、ファン・カルロスからの投資には失敗したが、自分と子供と孫とでの生活は保っていた。
    セリーナはいまでも兄の墓詣でを欠かさない。
    そしてネネは結局夫のマッサとやり直して平穏な人生を過ごした。
    病による死が近づき、マッサに「しまってある手紙をそのまま焼き捨ててほしい」と依頼する。
    マッサが暖炉に焚べた手紙は、かつてファン・カルロスがネネに送ったもの、そしてネネがファン・カルロスに送ったものだった。炎の中にかつての恋人たちの言葉が蘇る。
     …もうたくさんと言われるまでキスを送る…完治せずに帰ることを…こんなにも君が好きだと感じているんだから…誓いを立てた真面目になるって…また手紙を書くよ…

    ===
    若い彼らの恋愛模様は、手紙、会話、ラジオドラマ、報告書、言葉の羅列、告解、から浮かび上がってゆく。

    ファン・カルロスが女性に会いに行く道のりは、『…乗り合いバス、車の大揺れ、土埃、女の約束「完全に治っていないの?きっと年末までにすっかり治るわ」、噂、君に会いたい、入り口、南京錠、鎖、悪い事のあとには良いことが来る。』という形で書かれる。

    さらにファン・カルロスを巡るエルサ・ディ・カルロとセリーナの女の対決は、表面的な言葉とその本心とで語られる。
     「よく来てくださいましたわね(何しに来たのよこのチビ)」
     「まあ、素敵なお宅ですわ(貧乏人のくせに!)」
    といった状態(笑)

    また、最初にネネがドニャ・レオノールに手紙を送っているのだがその手紙が実は…ということがあったり、その手紙で10年前の恋愛の確執が再発したり、過去と現在が繋がる。
    入り混じった恋愛は、嫉妬、裏切り、密告を呼び殺人にまで及ぶ。出てくる男たちは遊び人だし、女性たちはいかにも女!という感じで、実際に周りにいたら相当面倒な人たち(笑)

    彼らが足を引っ張り合う話なのでどこまで混乱してゆくのかと思ったのだが、ラストで書かれる彼らのその後は案外平穏だった。
    恋愛模様の混乱からして人が破綻する展開かと思ったのだが、自分の感情のもつれをすべて内諾して歳を重ねた人間の郷愁を感じるなんとも穏やかで優しい終わりとなっていた。

  • 物語をあちらこちらの視点から語る、とても凝った作品

    読みながら「色」について考える。色が視覚的に与える効果というのは、背景にしている文化によっても多少変わるものなのだろうけど、文化間で重なり合うイメージも一方であるのだろうと思う。そのことは考えてみるととても不思議な気がする。私はそのかすかに交わり合うところを手掛かりに読んでいるのだと思う。薄っぺらい読み方しかできず歯がゆいところもあるが、そういった本との付き合い方(読書の仕方)で折り合いをつけることを最近は覚えたという感じだろうか。

    『赤い唇』は技巧的なところばかり目について、あまりうまく読めた気はしなかった。ラテンアメリカ文学とひとくくりにするのも微妙なんだろうけど、もう少し他のものにもあたってみたいと思うところだ。

  • 小説の装置として手紙が有効に使われている。時間の経過と、手紙の読まれる順番を意図的に逆さにすることで、静かな感動を呼んでいる。その他さまざまな小説技法が詰め込まれているが、試みはすべて成功しているように思える。

  • 『蜘蛛女のキス』などで知られるマヌエル・プイグの、2作目の長編小説。
    書簡体・会話体・報告書などが入り交じる凝った構成がとてもプイグらしい。特に手紙やモノローグ、延々と続く会話は、『蜘蛛女のキス』のモリーナを彷彿とさせる。喋り言葉は本当に上手い。
    脚本のト書きのような文章が延々と続く部分も、よく読むと非常に饒舌で、プイグの小説が徐々に饒舌さを増して行ったのも頷ける。そういう意味では『蜘蛛女のキス』や『このページを読む者に永遠の呪いあれ』のような、読者を圧倒する饒舌さは薄めではあるのだが。

  • 技巧的だがイヤミはない。最後の場面はホント上手。ラテンアメリカ文学おすすめの一冊。

  • ラテンアメリカの文学を読んでみたくて買いました。すらすら読めない本が多かった中で、手紙のやりとりで物語が進むという形式のこの本は比較的読みやすくてよかったです。最後の部分の描写が私は好きです。

    ネタバレはこちら http://d.hatena.ne.jp/ha3kaijohon/20120409/1333950483

  • ・視点がたくさんある。
    ・結局は、結構ハッピイエンド?

  • 名作映画「欲望の翼」のインスパイアとなった小説です。

  • まあそれなり

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