古書奇譚 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087607130

作品紹介・あらすじ

気弱な古書商が出会った本は、なんとシェイクスピアの正体を決定づける奇書だった!? 余白にある謎のサイン、命を狙う追っ手。果たしてこの本は本物か? 極上ビブリオ・ミステリ。(解説/穂井田直美)

感想・レビュー・書評

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  • 古書商が手にとった本には、あのシェイクスピア本人の書き込みが‥?
    妻をなくした気弱な男が、古書を巡る冒険に巻き込まれます。
    渋いタイトルの割に、のりは軽くて読みやすいですよ。

    ピーター・バイアリーは古書商。
    最愛の妻アマンダをなくして9ヶ月、二人で住むはずだった片田舎の家に引きこもりがち。
    鑑定を頼まれて、近所の屋敷に出向きます。気難しい住人の所蔵していた本には‥

    最近のことだけでなく~
    学生時代のアマンダとの出会いから12年に渡る愛のなりゆきも少しずつ描かれます。
    大人しい文系男子の夢?図書館に通ってくる美女に声をかけてもらい、スムーズに上手く行っちゃう、しかも相手はお金持ちって(笑)
    不思議な縁には、ややファンタジックな要素もあります。
    こういうのが好きかどうか?で評価は分かれるかも。

    シェイクスピアの時代の出来事と、問題の本が手から手へと渡っていく年月もありありと書かれていて、この部分が面白い。
    ピーターが手にとったのは本当に本物なのか?
    それにもう一つの謎、アマンダそっくりの顔をした美女の古い肖像画の謎も。
    交互に描かれつつ話が絡み合うのは、だいたいは上手く行っているのですが、傑作になるにはもう一歩かなぁ‥おもに構成が。あと少し、という気がするんですが。
    とはいえ、十分、楽しめました!☆

  • あぁぁ~これは凄く良かった。
    ビブリオミステリに入るかな。
    主人公現在・主人公過去・本の遍歴の過去の3編が交互に絡み合ってストーリーが続くのだけど、3冊本を読んだくらいの満足度。主人公過去編がせつなすぎてもうね…。
    シェイクスピアの別人説も美味しい設定。
    映画の「もうひとりのシェイクスピア」観たいと思ってたよな~と、この本読んで思い出したり。
    あ、あと本の再生のシーンがすごく好きです。
    日本の書物だとあんまりこういうことは一般的じゃないけど、革の装丁がある欧米ならではだよなぁと。

    それにしても、ほんとにこういう本が出てきて大発見になったらおもしろいのにな!殺人は抜きでね?
    欧米なら有り得そうなので、がんばって欲しい(笑。

  • 読書の愉しみをあじわえる、正統派な作品だった。
    主人公はアメリカ人の「気弱な」古書商。(帯に「気弱な」って書いてあった。この一語、利いてます)
    3つの時間軸(古書をめぐる主人公の冒険と再生が描かれる1995年、主人公と亡き妻のロマンスを軸にした1980年代、それと古書の持ち主の遍歴が明かされる16~19世紀)が交互に描かれる。図書館好き、本好きにはたまらない設定だし、なにより、ロマンス部分が初々しくて、胸がきゅんきゅんした。
    登場する人物が多すぎて、シェイクスピアがらみの謎解きは、正直、100%理解できたとは思えないのだけれど(ロバートが二人出てくるのには参った。でも、実在の人物を扱っている以上、名前変えられないもんね…)それでも、ひとりひとりの人物の背景にロマンやドラマを感じてたのしめた。ラファエロ前派の絵画みたいな雰囲気。
    著者の次の作品は、ジェーン・オースティンがらみのビブリオミステリということで、そちらも是非読んでみたいと思いました。

  • ヘタレな主人公が頑張って活躍。古書とシェークスピアの薀蓄。謎解きとスリルとどんでん返し。盛りだくさんで楽しかった。

  • 解説では本書をビブリオ・ミステリとして紹介しているが、「ビブリオ」については問題はないが、これを「ミステリ」と呼ぶのはどうだろうか。もっとも、解説の中でも触れられているように、ビブリオ・ミステリには定義があるらしく、それによると、本に関する職業の人物が主人公、本に関する場所が主舞台、作中で特定の本が重要な役割を果たす、の三つのうち二つ以上を満たしておればいい、というのだから、その意味で本書はまちがいなくビブリオ・ミステリといえる。しかし、その定義について言えば、それ以前にミステリとしての要素を満たしている本であるという前提があってのことだろう。

    たしかに殺人事件が起き、主人公が犯人と考えられる状況が作り出される。それを解決するために主人公が活躍し、犯人と対決する場面も用意されている。だが、殺人事件が起きるのは半分以上読みすすんだ後であり、殺される人物は、それまでほとんど顔も見せていない。何より、それまで不安障害で、人と接するのが苦手だった主人公が、事件発生後まるで人が代わったように、ヒーロー振りを発揮するのが、とってつけたようだ。

    しかし、この本の読者はそんなことは問題にもしないだろう。ビブリオ・ミステリというレッテルをはがしさえすれば、何の問題もない。原題は" The Bookman’s Tale ” 。フェアリーテールの、あの「テール」なのだ。訳者もその原義を生かして『古書奇譚』という邦題にしたにちがいない。とはいえ、本書にミステリ本来の面白さがないわけではない。いや、本好きの読者ならまちがいなくはまるとびっきりの謎解きが用意されている。

    シェイクスピア別人説というのがある。ストラトフォード・アポン・エイヴォンの役者シェイクスピアは手袋職人の息子で、地元のグラマー・スクールしか出ていない。それにしては、作品を読む限りギリシャの古典その他に詳しく、誰か他に作者がいたのではないか、ということから同時代の有名な人物であるフランシス・ベーコンや劇作家クリストファー・マーロウ、第17代オックスフォード伯などが実作者ではないかというものだ。シェイクスピアについては詳しいことが分かっておらず、はっきりしているのは死んだ年月日だけだという話まである。

    そこで、登場してくるのがシェイクスピア本人手書きのマージナリア(本の余白に記された覚書)入りの二つ折り本。『冬物語』の種本といわれる、これも同時代の詩人・劇作家ロバート・グリーン作『パンドスト』である。ふとしたことから、この本の売買に関わることになった書籍商ピーター・バイアリーは、一週間という期限の下に真贋を決定しなければならない。その経過を追うのが、この小説の本筋だ。殺人事件はそれに付随する挿話に過ぎない。

    けれども、本書の魅力はそこだけにあるのではない。主人公ピーターが、いかにして今の職業である書籍商を営むことになったのか、という彼の半生の物語がある。今は亡き妻アマンダとの出会いから結婚、そしてその死に至るまでの臆病者と堅物のカップルならではのラブ・ストーリーはそれだけで一篇の恋愛小説になる。個人的な感想で申し訳ないが、主人公の両親以外の人物がすべて善人で協力的であるのも含め、引っ込み思案の青年が資産家で大学の創始者一家の一人娘と相思相愛になるというご都合主義的な展開は好みではない。まあ、その辺が「テール」である由縁か。

    もっとも興味深いのは、現代から遠く離れた時代を舞台とする、『パンドスト』という本が持つ運命の物語だ。多くの資料を読み込み、本の成立事情を組み立てた後、一冊の本がどういう経路で、著者から他人の手に移り、また別の人の手に渡ってゆくのかを追った歴史小説的なサイド・ストーリーこそ『古書奇譚』という表題に相応しい部分ではないだろうか。しかも、主人公の現在、過去の回想、という二つのストーリーを綯い合わせるのが、この『パンドスト』という流転する本を主題とする三つ目の物語。そこにはまた別の恋愛譚があり、それこそフェアリーテールめいた不思議なめぐり合わせを生むもととなる。この時空の異なる三つの話が代わる代わる語られる構造こそ作者が最も心を砕いたところだろう。肝心要の贋作者の資質等々、所々安直と思われる部分があるにもかかわらず本書が多くの読者に支持されるのは偏にその語りの手法にある。

    本を扱った小説に目がなくて、解説でも取り上げているエーコの『薔薇の名前』、カルロス・ルイス・サフォンの『風の影』に始まるバルセロナ四部作、ジョン・ダニングの『死の蔵書』に始まる古本探偵クリフ・ジェーンウェイ物と、手当たり次第に読んできたが、本書は、あまりミステリらしさにこだわらない点で『風の影』のテイストに近いといえるかもしれない。主人公と一緒に殺人事件に巻き込まれたリズ・サトクリフが亡き妻に代わる伴侶にでもなれば、シリーズ化も可能だろう。

    ここからは、本の内容と直接関係がないのだが、ここのところ読んできた『道化と王』、『地図と領土』、それに本書、とおよそ領域の異なる小説が、ロンドン大火、ウィリアム・モリス、ラファエル前派等で繋がっていることに、シンクロニシティを感じた。過去を振り返ってみてもこういうことは時々起こる。本書の主人公が窮地に陥ると、死んだはずの妻アマンダがピーターの前に現れ、何かと指示を与えて夫を助けるところに、ミステリにそぐわぬ神頼みに似た精神を発見し苦笑を禁じえなかったが、偶然手にした三冊の本の間に共時性を発見して面白がっている自分も、それを笑える立場ではないことに思い至った。

  • 愛妻を喪った古書店主が、偶然見つけた妻そっくりの古い絵から、シェイクスピアの謎を解く本を巡る騒動に巻き込まれ…という話。
    時間軸があちこちに飛ぶのは効果的で、整理されているので混乱もしない。
    また、過去軸でシェイクスピア本人を登場させたのは斬新だった。
    ただ、クライマックスから突然ミニインディージョーンズ展開になり、ラストもちょっと無理にまとめた感が…。
    亡くなった妻とその家族はとても魅力的で良かった。

  • 新刊案内で気になって購入して積んでいたものをやっと読んだ。クラシカルなカバーイラストがシックな1冊。現代は"The Bookman's Tale"だけど、邦題のほうがずっと素敵。

    大恋愛の末に結ばれた奥さまを失った古書商が、奥さまロスの中で見つける、古書界の大ニュースを追ったお話。本書には、プロの書評家のかたの手になる抱腹絶倒の書評が別サイトに2編掲載されていて

    http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20151216/1450222802

    これでもう十分なレビューなんだけれど、ちょっとだけ自分の感想を足してみる。

    古書を商うピーターのパートと、書誌学的なパートのどちらも楽しめるけど、全体的には映画『ノッティングヒルの恋人』と『恋に落ちたシェイクスピア』をかわるがわる折り重ね、その上に『ゴースト ニューヨークの幻』をどかんとトッピングしたようなスイートなお話だと思う。こういったお話は前述のサイトでは「文系男子の夢」との記述があるが、文系女子の夢でもあるから、このスイートさはジェンダーフリー。それに、ミステリでも純文学でもそうなんだけど、アメリカ文学は「不遇な中で真面目に生きていこうとする人物」には限りなく優しい目が注がれ、祝福が与えられる。この作品で描かれるアカデミックな世界の部分は『ストーナー』に通じるな、と思った。『ストーナー』より5段くらいスイートではあるけれど。

    個人的には、アマンダの父親がピーターに本音というか、お婿さん(的ポジション)心得を打ち明ける場面が正直で面白かった。息子・娘にかかわらず、資産家の跡取りを伴侶にすることは、自分の実力が家名にかき消されることでもあり、気苦労の連続だということを嫌みなく言ってしまうところがナイスガイ。シンシアはひょっとしたらどこかに入り込みたかったのかもしれないけど、意外にもナイスガールだったし。

    ビブリオ・ミステリとしての謎の仕掛けと取り回しはポール・アダム『ヴァイオリン職人の探求と推理』に似た展開と道具立てで「ああ、なるほどね」と思いながら読んだし、期せずしてミシェル・ビュッシ『彼女のいない飛行機』と同じ体裁の物語だった。「まあ、残りの年月は察してあげてよ、うふふふふ」というのも、きっと同じだ。

  • 現在、愛する人との出会いと別れ、中世の贋作にまつわる物語、と3つの時系列で進み、ラストで一つにつながる。主人公の出会いと喪失と復活が一気に読ませる。贋作の話がまた面白い。

  • シェイクスピアにまつわる本を追いかける、古書籍商人の冒険。
    映画の脚本にちょうどいい、という感じ。難しすぎず、適度にサスペンスと恋愛要素も絡み、ハッピーエンド。素直に面白かった。
    わかりやすく書いているが、丁寧にシェイクスピア周りの人間関係を調べているのも(かつ蘊蓄を語りすぎていないのも)、バランスがよく、好感が持てる。
    監督によっては、映像でも佳作となりそう。

  • 書店で 文庫にしては
    大変趣味のいい表紙デザインと
    タイトルに惹かれ購入。

    私のアンテナは
    時にめざましい働きをしてくれる。

    この古書にまつわるミステリーは
    人の全てを語り尽くすかの勢いで
    私を夢中にさせた。

    結末を語ることは
    ミステリーでは禁忌であるが
    そんな常識を思い起こすまでもなく
    この小説の結末は誰にも話したくない。
    今はまだ。

    そう。
    今はまだ…ピーターという高潔の人を
    あたたかい気持ちで心に浮かべていたい。

    人の愛と 運命の数奇。
    文字と書籍の神々しいまでの力。

    この本に記された あらゆる純粋さに
    私は最大の敬意を払いたい。

    重厚にして心救われる一冊。お薦めします。

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