漂砂のうたう

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087713732

感想・レビュー・書評

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  • 好き。遊廓のお話が好きならば是非。

  • 2011.5.4読了。
    元士族で幕府がなくなるに連れて役を失い、家を飛び出し根津の女郎屋の受付にいる男が、周りが自由や思想にかぶれていく中、閉塞感を味わっていたが、花魁が道中失敗を苦にして自殺騒ぎを起こしたのを機に吹っ切れていく。

  • 花魁を抱えた廓(くるわ)で下働きをする定九郎。
    彼の目を通して当時の不安定な世相や、
    おかれた身の上の閉そく感が語られていく。

    武士の制度が廃止され、遊郭の下働きに転落した定九郎であるが
    この作品の面白さは、主人公の嘆きを暗さで覆うのではなく
    漂う水底の砂のようにしっとりとした情緒で包みこんだ点と、
    随所に隠された謎解きにつながる会話の妙である。
    読了後に「ああ、そういうことだったのか」と気づかされる。

    あえて、肩の力を抜いて綴ったように思わせる文章だが
    丹念に選び抜かれたひとつひとつの語彙を充分堪能できる作品。
    タイトルの意味や、本の装丁までも粋なセンスを感じる。
    《第144回 直木賞受賞》

  • 直木賞受賞作品。
    士族の次男定九郎は、根津の貸座敷で妓夫を務めている。幕末から維新にかけて価値観ががらりと変わるなかで、誰もがどう生きていくか考えざるを得ない。
    龍蔵、ポン太、小野菊など登場人物の造型がしっかりしていて、読みごたえあった。花魁が久しく行われなかった道中を紙衣で行う場面がおもしろかった。

  • 144回直木賞受賞~定九郎は根津の貸座敷で妓夫として潜り込んでいるが,元は御家人の次男であり,長男は父に止められて幕軍に加わらなかった。妓楼の門口で台に上って瓢客を呼び止めて揚げ代の交渉するまでが仕事だが,兄貴分には龍蔵がいて逆らうことはできず,楼主たちが金を出し合っている賭場の上がりを取りに行く役目も担わされている。一生をこの業界で終えるのかと思うと居たたまれず,世の中は士族の反乱などで騒いでいるようだが,遊郭の日常には変化がない。使いに出て返ってくると,どこからかポン太という売れない噺家が絡んできて,小野菊というお職の花魁を褒めそやしている。一方では売れない妓は首を括る騒ぎを起こし,ご一新になっても徳川の御代と変わらない籠の鳥であると感じさせられる。武士の面目を保ちたかった筈の兄は俥引きとなっていたが,落ち着かぬ仕草に仲間内からも馬鹿にされる有様だ。深川で同じような仕事をしていた時代の同僚が声を掛けてきて,花魁の小野菊を足抜けさせようとして話を持ちかけられるが,乗るか断るか迷っている内に,同じ渡世の吉次が龍蔵のいない昼見世に登楼するのに手を貸してしまい,早く出てきた龍蔵が客の下駄を見ただけで正体を見破り,額が割れて15日も仕置き部屋に寝付かされるほど打ちのめされた。花魁が久しく行われなかった道中を紙衣で行うと申し出てきた。成功すれば評判は上がり,失敗すれば転落を余儀なくされる。吉次の手先となっていたのは弟分の嘉吉であると判ると,道中を失敗させるための手だてを思案する。錘を余計に仕込んだ紙の着物が千切れていく中,花魁は平然と道中を続行しようとするが,見世の者に止められ,仕置き部屋に閉じこめられた。逃げ出した定九郎はポン太の手引きする寄席で圓生の噺を聞いて,花魁は水に飛び込むのではないかと案じて見世に引き返すと,仕置き部屋に空けられた穴から抜け出し,増水した神田川に身を投げた。生け簀から抜け出したら生きられないと妓楼に居続けた定九郎は跡取りのいない楼主から見世を任された龍蔵に武家の出であることを見透かされていたことを告げられても妓夫として仕事を続け,急逝したポン太の墓参りに来た花魁・小野菊と再会する~時代考証を大事にしていて,明治初期を調べ尽くしている。今風にしてくれれば読みやすくなるのに,読み辛いことこのうえなく,よく直木賞をとったものだと吃驚。芥川賞が相応しいような気がするが,彼が書く他のもとを考えると,新撰組をテーマにしたものが多くて,娯楽ものが本領かも知れない。次を読もうとか,別の本を読んでみようとか考えさせない受賞作だった

  • 遊郭が舞台、といっても吉原ではなく根津。御一新後の明治初期が思わぬ薄暗さ。決して優しいだけの筆致ではない、むしろ人の暗部を突き付けるような鋭さがあって、全編息苦しさを感じた。映像化したら映えそうな道中から、謎を孕んで、でも希望あるラストまでが特に面白い。
    整然とした文章が非常に巧みで人の心情が丁寧なので、さらりと最後まで読み切れる。時代小説も歴史も遊郭にも疎い私でも、非常に読みやすい小説でした。

  • 後半円朝が出てきたので、俄然話しに興味が湧いた。

  • 閲覧室 913.6||キウ

  • 読み終わった後、とても不思議な心境になりました。
    本を閉じて、「歴史」の流れの中で生きる今の自分と過去、未来を振り返りたくなる物語でした。
    ぜひ静かな環境で、1人読んで欲しいです。

    読後の感慨深さを考えて、星は3.9くらいで。

  • 窮々とした明治の生きにくさがなまめかしいほどリアルでした。

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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