紅蓮の雪

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087717389

感想・レビュー・書評

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  • 双子の姉が自殺をした。突然の出来事に弟や元婚約者は、信じられないでいた。姉は自殺する1ヶ月前、突然婚約を解消した。なぜ?遺品を整理しているうちに、ある大衆演劇の版権のチケットが。自殺する一週間前だったので、その足取りを辿ろうと訪ねる。
    そこで、若座長からスカウトされる。戸惑いながらも大衆演劇の道に踏み込みながら、姉の自殺の真相に迫っていきます。

    姉の死の真相もそうですが、大衆演劇の魅力も描かれていて、その描写は美しく儚く、切なかったです。兄弟愛、家族愛、禁断の愛など良くも悪くも色んな「愛」が詰まっていました。
    特に遠田さんの大衆演劇「愛」も伝わってくるくらい、大衆演劇の裏側や演者たちの芝居に対する愛などちょっと見てみようかなと思わせるような表現でした。
    テレビでしか大衆演劇について知らなかったのですが、その裏側では壮絶な戦いが巻き起こっていて、改めてその奥深さを知りました。

    最初は姉の死の真相に迫るということでミステリー要素かなと思いましたが、そこは一旦置いて大衆演劇での苦悩が描かれています。歌舞伎とも演劇とも違った手法やお客さんとの距離、楽しませるために色々なことをしている描写に凄まじさを感じました。改めて梅沢富美男さんや早乙女太一さんなど演劇人の魅力や素晴らしさを再発見しました。

    弟の大衆演劇生活がちょっと落ち着いた頃に事態は急変し、弟の家族の秘密や姉の死の真相について迫っていきます。怒涛の如く、次々へと色んな出来事が起きるので、その世界観に引き込まれました。過去を振り返りながら、姉と弟との壮絶な過去が描かれるのですが、精神的に過酷すぎて酷いなと思いました。
    後の方で、その真相が分かるのですが、とにかく複雑に絡まりすぎて、濃厚な人間ドラマを見ているようでした。

    そして最後のシーンは感情と感情とのぶつけ合いで、ジーンと感動しました。それまでも登場人物たちの感情のぶつけ合いが多くあったのですが、最後が一番印象深く、涙を誘いました。現実だけれども、芝居を見ているかのようでした。
    重厚感あふれる言葉、登場人物の表情、ついついページを捲るのがたまりませんでした。

    様々な過去を経てからの人生に新たなる幸せの1ページを送って欲しいなと思いました。

  • 遠田さん、こんな作品も書くんだなぁ、というのが第一声。
    勿論、遠田潤子作品に欠かせない、断ち切れたない血の話は脈々と流れているのですが、いつも(あえていつもと言わせて貰います)よりずっと砕けていて読みやすい。
    それは、この話を牽引していく慈丹を、遠田さんが明確に、もっと言えば自身も慈丹にぞっこんで描いたからだと思います。
    とにかく慈丹が格好いい。酸いも甘いも噛み分け、その捌けた人柄と芸で人を惹きつけて止まない色男。
    主人公、伊吹くんの存在が霞むほど、惚れずにいられない。
    遠田潤子さんが慈丹を思う気持ちが溢れていて、楽しそうなのが最高!なんですが、やっぱり上手い書き手でなければ、ファンアートに傾くでしょう。流石です。
    これは、おかわり期待したいなぁ(笑)。

  • 黒川博行氏の画家の奥様雅子さんの舞妓の絵よりも、この表紙は、なんとも悲し気であり、物思いの妖艶な感じである。

    読んでいて、女形の姿と理解。
    小説は、双子の女・男のふたり姉弟。
    姉が、婚約破棄をして、20歳の誕生日に、飛び降り自殺。
    遺品整理で、見つけた大衆演劇の半券と雑誌を不思議に思った弟の伊吹は、姉の朱里が、何を思ったのか? そして、自殺の原因を知りたくて、演劇を見に行く。
    そこで出会った慈丹との話で、劇団の一員になってしまう。

    幼き日に、双子の伊吹たちは、母親から無視され、父親からは、憎悪の眼を向けられて育った。
    教育と食事は、普通に与えられたが、精神的に「汚い」という言葉が、心に刻み込まれて、2人は育っていく。

    つい先日、摂津市の3歳の子供が、熱湯をかけ続けられて火傷で、命を絶った虐待とは違うけど、小説の中のふたりは、心傷つき他人に触れる事に異様に反応していく。

    劇の中の劇目も 「三人吉三」の十三郎とおとせの双子の物語りも、この伊吹と重なるような・・・

    舞台で、伊吹が、誕生日ケーキを目にして、産まれて初めて、ケーキを貰い、自分の誕生日を祝ってもらうのに、戸惑いと嬉しさとで、言葉に出ないシーンは、涙を誘う。
    みんな、当たりまえのように、自分の誕生日は、祝ってもらえるものと考えていたのだが、唯一の親からも祝ってもらえない人が、居るのだと、気付かされた。

    さして、話の後半 伊吹は、自分と姉の関係が、両親の近親相姦で、誕生した事に衝撃を受ける。
    自分を産んでくれた母を殺そうと思うほど、憎悪を感じている。
    親が、子供を愛せないなんて、・・・・
    そして、子供も、親の愛を感じないで、成長して行くなんて、・・・・
    残酷な話である。
    ただ、慈丹が、優しさと叱咤で、愛情深く包んでやっている姿が、なんとも言えない。

    平凡に、親の愛を一杯に育った私は、なんて幸福なのだろうと、・・・・
    そして、この年になっても、未だ、綺麗な花を送られてお誕生日を祝ってくれる人達に感謝しないと、・・・と、思われる日であった。

  • 道を外れているけれどありえないことだけど覚悟を決めて好きな人の子どもを産んだのならその子どもを愛してほしかった。
    伊吹は慈丹に出会えて良かった。朱里の分も幸せになってほしい。

  • 大衆演劇の世界は、観たことが無いので詳しくはわからないが身内で固めて地方をまわっているのかな…と思っていた。
    双子の姉が、突然自殺をした。何故かわからず最期の足取りを追った青年がその世界へはまっていく。
    まるでそれは必然のように…
    全ては、縁で繋がっていた…
    哀しさだけが残る。

  • ちょっと凄すぎて…

  • うおーーーん!慈丹、君はええ人や!!ザ・ドラマチック。これは面白かった。男女の双子の重すぎる運命の物語。両親から冷遇され寄り添うように生きてきた双子の姉弟、朱里と伊吹。20歳の時朱里が自死してしまう。朱里は生前、ある大衆演劇を観ていた。伊吹もその大衆演劇に足を運んだところ、看板女形の慈丹に才能を見出される。大衆演劇=富美男ぐらいの知識だったが、演劇系の小説が好きなのでのめり込んで読んだ。展開的に昼メロのようになりそうなのにチープな感じは全然しない。双子の両親が酷すぎて絶句。慈丹の存在が光。伊吹に幸あれ。

  • 他人にはわからない苦しみを抱え、お互いを頼りとしながら生きてきた双子の姉弟、朱里と伊吹。二十歳の誕生日に自殺した朱里の足取りを追い、大衆演劇に足を踏み入れた伊吹は、女形として舞台に立ちながら、姉の死の真相に迫ることに。美しくはあるのだけれど、何とも言えない悲しみと苦しみが充満し、しかし読後は希望を感じさせられる物語です。
    過去のトラウマから他人との関りが苦痛で仕方ない伊吹の苦悩があまりに痛々しくてたまりません。魅力的な人物であるがゆえに彼は好かれ、愛情を向けられることが多いのにそれが苦痛であるというあまりに皮肉な状況。何故そんなことになってしまったか、という理由もあまりに過酷で。誰にもどうしようもない、背負わされてしまった因業の重さもまた凄絶としか言いようがありません。だけどきっと誰にも悪意があったわけではないのだと思うと……。一見独りよがりで自分勝手にしか見えないように思えた和香も、実は一途で純朴な子だったのかも、と思えばやりきれないばかりです。
    そんな中で、慈丹の存在にはとにかく救われました。いいなあ、彼。そして朱里が死を選んだ理由も、実は彼女の弱さでなく強さであったのだと思うと救いになるのかもしれません。

  • 大衆演劇の世界を舞台に描く息詰まる作品だった。これまで何作か読んだ遠田作品の特徴として、“自分の力ではどうにもならないものを主人公が背負っている”というものがある。本作がまさにそれで、主人公の伊吹は冷淡な両親のために心に深い傷を負っている。双子の姉・朱里と助け合って生きてきたが、その姉は自殺してしまう。誘われるまま足を踏み入れた大衆演劇の世界で、彼は何を見つけるのか……。半分ほど読んでわかった気になっていたが、明かされた真実はさらに上をいった。涙なくして読めない感動作だった。

  • 遠田潤子さんの本は毎回一気読みしてしまう。
    謎の出し方が絶妙で、とにかく先が気になって途中でやめられなくなる。
    今回も生い立ちから不幸な登場人物だらけだが、最後は爽やかな気持ちで読み終えることが出来た。
    いつも何があっても生きていくという強いメッセージが伝わってくる。
    大衆演劇という今まで殆ど知らなかった世界が描かれていたのも面白かった。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠田潤子の作品

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