あたしがおうちに帰る旅 (児童単行本)

  • 小学館
3.15
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本棚登録 : 27
感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784092905276

感想・レビュー・書評

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  • イヌと呼ばれペットショップで酷使される少女が逃げ出す話。
    これは☆1か2か迷う。
    あらすじは社会問題を子供向けのお話として語るYAっぽいけれど、読むとただのファンタジー。
    ファンタジーや冒険ものとしても微妙だけど、問題を語るものとしては非常に拙劣。

    まずキャラクターがつくりものすぎ。
    よくしゃべるコンゴウインコのカルロスはファンタジーとみなせばまあアリといえなくもない。
    じどうろうどうでこきつかわれるかわいそうなこ、を知識もなしにイメージだけでかいたような主人公は完全に変。
    ろくに人と話したことがなくて口もきけないし物も知らないのに、思考回路が発達していたり常識の範囲内で行動したりする。
    隠し扉から逃げるならこっそり出なきゃ意味がないだろとか、
    自分の名前さえもたないのに動物の名前は誰がつけたんだよとか、
    「古い布でつくった服」って誰が作ったんだよまさかおじさんかよ自分で作ったならどこでどうやって作り方を覚えたんだよとか、ツッコミどころ満載。

    頭で考えた設定上の無知と、ストーリー上必要な行為がかみ合っていない。
    訳者後書きに、「このお話をはじめて読んだとき、この女の子がしゃべらないことをまったく意識しませんでした」とあるけれど、そりゃそうだろう。
    この子は「しゃべらない子」じゃなくて「セリフがないキャラクター」でしかない。
    かんもくの子を描いているわけじゃない。

    そんで「おうち」の描写が最悪。
    カルロスからポリネシアを連想してしまったせいもあるけれど、「ドリトル先生」のなかの黒人の国みたいな描き方。
    イヌのなじみかたも「ペットショップ育ちの犬を野山に放して自由にしてあげる」みたいな勝手でお気楽な強者特有の発想で気持ち悪い。
    いったこともないルーツにそう簡単になじめるものか。
    現実には生まれ育った場所にもルーツのある場所にもホームを感じられずに苦しむ子供がたくさんいるというのに。


    あとがきの中には「世界のどこかでは現在でも子供を強制的にはたらかせるということがじっさいにおこなわれています」ともある。
    著者は孤児の売買など、子供がもののようにあつかわれている現状を調べ、注意をひくためにこの物語を書いたのだと。
    だったらなんでこんなありえないどこかのくにのおはなしにしちゃったんだろう。

    なにも調べずにイメージだけで書いたんだろうと思った。
    調べて書いてこの出来ならそうとう鈍い人ってことになる。
    ココナッツは甘くないだろみたいな些細な無知から、現実をまったく反映しないストーリーまですべてにおいて薄っぺらい。
    訳者の「どこかでは」って言葉は的確だ。
    どっか遠い国の自分と関係ない話だから楽しく消費できる。
    この本に出てくる問題はせいぜい「悪いおじさん」だけで、児童労働もそれがまかりとおる世界の構造もまったく関係ない。

    表紙の絵はかわいいけど詐欺。中の挿絵と違う人。
    絵としてはどちらも悪くないけれど印象がだいぶ違うから、中の絵を最初にみたときはぎょっとした。

    訳も微妙。
    カルロスがかつて世話になった人たちの中の「帽子屋のマッド」って、いかれ帽子屋のことかな?
    他のもなにかのキャラクターっぽいけれどよくわからない。
    隠れた木箱も「箱」というよりコンテナっぽいし。

著者プロフィール

ケンブリッジ大学で動物学を専攻。英国放送協会(BBC)で自然科学番組の制作にたずさわり、児童書も数多く発表している。絵本に『やくそく』『空の王さま』(以上、BL出版)『ちいさなちいさなめにみえないびせいぶつのせかい』『いろいろいっぱいちきゅうのさまざまないきもの』(以上、ゴブリン書房)、読み物に『ゾウがとおる村』(さ・え・ら書房)など。

「2021年 『デイビス&サットンの科学絵本 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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