フラミンゴボーイ (児童単行本)

  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784092906273

作品紹介・あらすじ

歴史のひとこまを力強く描く感動作品

一人のイギリス青年が、一枚のゴッホの絵をきっかけに訪れた南仏カマルグで、原因不明の高熱におそわれ動けなくなる。辺りにはフラミンゴが無数飛んでいた。気を失った後、助けられた家で不思議な話を聞くことになる。
第2次世界大戦の末期、南仏の田舎町カマルグにもナチスはやってきた。
そこで何が起きたのか………?
それは、フラミンゴと話ができる不思議な力を持つ少年とロマの少女の物語だった。




【編集担当からのおすすめ情報】
『戦火の馬』など、数々の児童文学書賞を受賞しているマイケルモーパーゴの新作長編。モーパーゴは、現代英国児童文学を代表する作家として、2018年に勲章を授けられている。
戦争をテーマに多くの作品を執筆。
本作品は、フランスの南部、フラミンゴの生息地カマルグが舞台となっている。ナチスが侵攻してきたフランスで、何が起きたのか・・・。フラミンゴを愛する少年とロマの少女の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 自分と同名の画家ゴッホのボートの絵と小さいときに読んだ物語の一場面に出てくるロマのおじいさんの「行き先は道まかせ」に惹かれて、フランス南部のカマルグを旅するヴィンセントは、暴風と蚊と急な体調不良から行き倒れてしまう。目が覚めたところは、暖炉のそばのソファーの上で、そこには、ケジアと犬のアミと変わった中年男性のロレンゾが住んでいた。ロレンゾはきちんと話をするのは苦手だったが、心をよく読み、人も動物も癒やすことができ、何よりも完璧にフラミンゴになることができた。ケジアは、小さい頃から「フラミンゴボーイ」と呼ばれていたロレンゾと自分たちの過去を語り始める。

    ロマとして差別され、強制収容所行きの恐怖に耐える少女と、人と違う言動により蔑まれる少年、それぞれの親たち、敵として現れながらも人として協力を惜しまないカポラル、それぞれが協力しあい、希望を持って生き抜こうとする姿を、厳しくも美しいカマルグの自然を背景に描く物語。



    *******ここからはネタバレ*******

    枠の話、ヴィンセントが旅に出たり、旅から戻らずにそこに居着いてしまったり、さらにそこで、カポとの感動的な再開に出くわしたりというところは、いささか作った感が強く感じます。

    でも、ケジアとロレンゾの話は、さすがモーパーゴ、引き付けさせずにいられませんでした。
    カポがあまりにも親切で面倒見が良すぎる点には疑問を持ちましたが、もともと優しい人なのでしょう。彼らへの親切は、自分の「仕事」への贖罪だったのかも知れません。

    ロレンゾが他のことは違う言動を取ると気づいた後でも両親は、彼を一番いい方法で伸ばしてやっています。他の人から離れたところに住んでいたからやりやすかったとは思いますが、彼のすべてを受け入れて、彼の幸せを一番に考えていたからできたことで、それによって、彼は人や動物を幸せにする力を得たのでしょう。ひとりの親として、これは見習わなくてはポイントです。

    ナチスによるユダヤ人迫害は周知ですが、ロマに対してしたことは、まだあまり知られていません(そして今でも差別は根強いように感じています)。戦争をいろいろな形で題材にする著者ですが、この作品が、知り考える機会のひとつになるのではないかと思います。


    戦争を扱ってはいるものの、残虐シーンは出てこないので、高学年からオススメします。

  • マイケルモーパーゴは、歴史の一コマを取り出して現代の私たちと繋げてくれるのが、なんてうまいのだろう。これまで第2次世界大戦を舞台にした物語を何作も届けてくれているが、毎回切り口が違って、毎回素晴らしい。
    イギリス青年のヴィンセントが、子どもの頃出会った忘れられない物語の一場面と一枚のゴッホの絵をきっかけに南仏カマルグを訪れ、そこで知り合った女性ケジアによって過去の物語が語られる。
    ロマの少女ケジアと障害を持ったロレンゾの物語は二人の家族の物語であり、第2次世界大戦末期ナチスによって侵略されたフランス田舎町の時代の空気を伝えるものでもある。
    その物語の中に占領軍のドイツ兵カポラルを描くことで、軍服の下には血の通った一人の父親がいることを、立場を超えて心が通えることを教えてくれる。

    人が戦争をしているときでも、湿原の情景とフラミンゴの生態が変わらずに力強く美しいことに感動する。
    その美しい自然の中の人々の愚行や哀しみに胸がしめつけられる。

  • ゴッホの絵に導かれ、フランスを旅する18歳のイギリス人・ヴィンセント。旅先で病に倒れ、中年の男女に命を助けられる。滞在することとなった彼らの農家で、聞かされた第二次世界大戦時の話…。
    フラミンゴが大好きで、動物たちと心を通じ合わせ病を治すことのできる、発達障害を持つ少年ロレンゾ。滞在する地でメリーゴーランドを設置し、生計を立てるロマの少女・ケジア。ロマは「ジプシー」と言えばすっと理解できる人の方が多いだろう(私もそうだった)、だがその呼び名が正しくはないことも今回知った。
    メリーゴーランドがきっかけで、仲良くなるロレンゾとケジア。やがて家族ぐるみの付き合いとなる彼らだが、ドイツの占領と共に苦しい立場に追い込まれていく。
    自分とは違う人間を排除しようとする心理の怖さ。生きづらい世の中を、支え合うロレンゾとケジアの姿にグッとくる。そんな彼らを何かと気にかける敵国ドイツのカポラル(伍長)。初めは彼を警戒するロレンゾ・ケジアの両親だが、何かと親身になってくれるカポラルを見ていると、戦争さえなければ彼も普通の人間なんだということを気付かせてくれる。なかなかに奥の深い人物で、読むほどに彼に心を持っていかれてしまう。もう一人印象的なのは、ケジアに優しくしてくれたサロモン先生。彼女の登場シーンは少ないのだが…突如学校から消えたという彼女、その理由は名前からうっすら察しがついた。
    全編通じて印象的なのは、フラミンゴの美しさ。ピンクの鮮やかさが本作を最初から最後まで彩る。もっと詳しく描いて欲しかったなと思う部分もあるけど、それでも喜怒哀楽の感情を全方位に爆発させながら、夢中で読んだ。クライマックスでは涙腺決壊。
    今回でモーパーゴ作品を読むのは5作目だが、訳者あとがきの言葉「同様のテーマをどこまでも追い続けながら、毎回新機軸を打ち出してくる、この作家の底知れぬ筆力に圧倒される。」には心から同意。今だからこそ、深く考えたいテーマが詰まっている。

  • ナチスの軍人の一人が 精一杯の信愛を示してくれて
    人対人なら こうも和やかにいくのにと
    切なくなりました
    辛いことも多いですが優しい終わり方も
    まるで ロマのメリーゴーランドのように
    美しい話です

    • yuka♡さん
      はじめまして。フォローありがとうございます。
      読むのがあまりはやくないのに読んでみたい本がたくさんたまっています...。
      いろいろ参考にさせ...
      はじめまして。フォローありがとうございます。
      読むのがあまりはやくないのに読んでみたい本がたくさんたまっています...。
      いろいろ参考にさせてください!
      2020/07/12
  • 2020年度(第66回)課題図書の高校生向け。
    読みたくて購入した。

    1982年の夏、イギリスの青年ヴィンセント・モンタギューは、導かれるようにフランスのカマルグへと向かった。
    そこで病で道に倒れ、ロレンゾに助けられる。
    ロレンゾは発達障害で、動物を癒す不思議な力を持つ「フラミンゴ・ボーイ」だった。
    療養中のヴィンセントは、ロレンゾと共に暮らすロマのケジアから、ながい話をきくーー。

    不思議な感触の物語でした。
    読み終わって物語の冒頭へ戻り、ヴィンセントの回想から始まる額縁小説だったんだっけと思い出しました。
    多感な年頃のヴィンセントは、「行き先は道まかせ」でフランスへ向かいます。
    世界は広いのだから本当はどこへだって行ける、そのことを読者の代わりに体現してくれます。
    ヴィンセントは、フランスの自室で死にかけて、またカマルグで突然の病で死にかけて、生まれ変わったようなもの。
    だから、ロレンゾとケジアの物語に触れて、道まかせでそのまま農場にいるのだと思いました。
    そして、ケジアの語るお話について。
    最近は、戦争を経験した方は亡くなりつつあるので、実体験としての戦争文学はもう生まれず、戦争を少し離れた場所からみるスタイルに移行しているのかなと思いました。
    「ロマ」や「フランス民兵団」という存在も初めて知り、それぞれの国の身近な戦争体験とはこういう風だったのかとわかります。
    ケジアもヴィンセントも、フラミンゴもカポラルもメリーゴーラウンドもみな、ロレンゾという純粋で正しい存在に癒されたかったのかもしれません。
    純粋で正しくあることは、とても難しいからこそ。

  • 課題図書 高校生

    原題flamingo boy
    by michael morpurgo

    主人公ヴィンセント・モンタギュー(イギリス人)

    1982年の夏の旅の物語、18歳の夏

    小学生の時に描いた「行き先は道まかせ」という幌馬車の階段にすわるロマのおじいさんの絵ちはヴィンセントのサイン

    もう一つの絵は赤、青、黄色、緑4つのボードの絵、こちらのサインもヴィンセント
    1つのボートの舳先には「アミティエ」=友情の文字
    場所は南フランスのカマルグ

    その絵はおじいちゃんとおばあちゃんからの彼の初めての誕生日プレゼントだった「1964.1.27のための」

    ある日その絵がベッドに落ちて、裏の手紙を目にすることになる
    も、そこはたった今まで、寝ていた場所で、偶然事故から免れた

    彼は試験に嫌気がさしていて終わった途端に家を出てカマルグへと向かった
    そこはフラミンゴの楽園
    そして、ヴィンセントは感染症?の熱で倒れる

    彼を見つけたのは犬のアミ
    そして、ケジアとロレンゾの家へと運ばれる

    病人のヴィンセントを手当てするケジア
    よくわからない言葉を発するロレンゾ

    ケジアとロレンゾがなぜここで暮らしているのか、ケジアがなぜ英語を話すのか

    ケジアは長い物語を話し出す

    セ・ル・アザー =それこそすべては偶然のたまもの

    ロレンゾ・スリー1932.5.28
    ママ、ナンシー
    パパ、アンリ

    ヴァル、馬シュヴァルという名の
    フラム、フラミンゴ


    ケジア・シャルボノー
    ママ
    パパ
    メリーゴーランド@エーグ=モルト
    アヴィニョンの橋の上で
    ロマ、ジッポ

    ロマのあいだに伝わる言葉「行き先は道まかせ、とこへでも自由に行きたいところへ行く」



    カポラル、伍長、ヴィリ・ブレンナー

    ドイツ兵
    ゲシュタポ
    ミリス(フランス民兵団)

    聖女サラの肖像

    アラン・ロバーツ(もう一人のイギリス人)
    鳥類学者












  • 南仏にある小さな村の湿地のほとりで、旅行中のイギリスの若者ヴィンセントは体調を崩して倒れてしまった。助けてくれたのはロレンゾとケジア。ロレンゾの話す言葉は断片的でよくわからなかったが、目が雄弁に気持ちを語ってくれた。ケジアは英語を上手に話し、二人がこの農場で暮らしてきた月日、特に戦争中の出来事について語ってくれた。その驚くべき物語とは…。
    モーパーゴの語る戦争の物語は、いつも敵や味方、悲しみや混乱を超えて、圧倒的なストーリーの面白さで読ませてくれる。教訓を語らなくても、登場人物があまりにも生き生きとしているために、体験を共有して心に何かを残してくれるのだ。

  • 戦争下で進んでいく物語なのに、悲しくもずっと優しさと温かい空気が包んでいる。

    人の言葉は苦手だけど、人の心と動物の言葉を理解する少年の優しさと強さに胸を締め付けられる…。

  • 心を通わせて、希望を失わないで。

    ある男の回想という形をとって語られる物語。少年の時、旅路で世話になった人の昔話。それは、フラミンゴと話ができる少年と、その少年の隣にいた少女の話だった。

    人間は自分と違うものを嫌う。戦争は残酷な行為に理由を与える。発達障害のロレンゾを笑った人もいたし、ロマのケジアにロマというだけで辛くあたった人もいた。サロモン先生はユダヤ人というだけで殺されてしまった。ケジアの両親もロマという理由でキャンプに連れて行かれた。

    メリーゴーラウンドは希望だ。すべては元の場所に帰ってくる。乗るのは主に子ども。希望の象徴だ。カポラルはケジアやロレンゾにとって、敵の立場にあたるドイツ兵だ。でも、彼は兵士になる前は教師で、亡くした子を想い、ロレンゾとケジアを守ろうとした。大人たちは警戒した。ケジアも信じきれなかった。でも、ロレンゾは受け入れ、信じた。カポラルは裏切らなかった。第二次世界大戦のヨーロッパにおいて、特にフランスにおいて、ドイツはどうしても悪者である。カポラルのような人もいたのだ。そして、ケジアは自分の希望の象徴である聖女サラをカポラルに託した。彼を守ってくれるように。再会のシーンは光に満ちている。

    一時は激減したフラミンゴが帰ってきて、ケジアは両親と再会し、ロレンゾと共に生き、メリーゴーラウンドは今も回っている。優しく、愛おしい物語である。あまりにうまくいきすぎているかもしれない。でも、それは皆が信じたから起きたことなのだ。信じることは難しい。希望は儚い。でも信じてみたいと思う。

  • 登録番号:0142566、請求記号:933.7/Mo77

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著者プロフィール

1943年英国ハートフォードシャー生まれ。ウィットブレッド賞、スマーティーズ賞、チルドレンズ・ブック賞など、数々の賞を受賞。作品に『ゾウと旅した戦争の冬』『シャングリラをあとにして』『ミミとまいごの赤ちゃんドラゴン』『図書館にいたユニコーン』(以上、徳間書店)、『戦火の馬』『走れ、風のように』(ともに評論社)他多数。

「2023年 『西の果ての白馬』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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