緑陰深きところ

著者 :
  • 小学館
3.86
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感想 : 69
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093866101

作品紹介・あらすじ

業を背負う男たち、奇蹟のロードノベル

兄さん、今からあんたを殺しに行くよ――。
大阪ミナミでカレー屋を営む三宅紘二郎のもとに、ある日一通の絵葉書が届いた。葉書に書かれた漢詩に、紘二郎の記憶の蓋が開く。50年前、紘二郎の住む廃病院で起きた心中事件。愛した女、その娘、彼女たちを斬殺した兄……人生の終盤を迎えた紘二郎は、決意を固めた。兄を殺す、と。
思い出の旧車を手に入れ、兄の住む大分日田へ向かおうとする紘二郎の前に現れたのは、中古車店の元店長を名乗る金髪の若者・リュウだった。紘二郎の買ったコンテッサはニコイチの不良車で危険だと言う。必死に止めようとする様子にほだされ、紘二郎は大分への交代運転手としてリュウを雇うことに。孫ほど年の離れた男との不思議な旅が始まった。
かつて女と暮らした町、リュウと因縁のある男との邂逅、コンテッサの故障……道中のさまざま出来事から、明らかになってゆく二人の昏い過去。あまりにも陰惨な心中事件の真相とは。リュウの身体に隠された秘密とは――? 旅の果て、辿りついた先で二人の前に広がる光景に、心揺さぶられる感動作。2020年直木賞候補となり、いま最も注目を集める作家が贈る、渾身の一冊。



【編集担当からのおすすめ情報】
『雪の鉄樹』で本の雑誌増刊『おすすめ文庫王国2017』第1位、『冬雷』で「本の雑誌 2017年上半期エンターテインメント・ベスト10」第2位、第1回未来屋小説大賞 、『オブリヴィオン』で「本の雑誌 2017年度ノンジャンルのベスト10」第1位など、近年急速に注目を集める遠田潤子氏。2020年には『銀花の蔵』で直木賞初ノミネートを果たし、いま最も波に乗る作家の一人です。
最新作は、著者にとって初めてのロードノベル。真骨頂ともいえる、過去の翳を抱えた男たちの、時にユーモラスで時に心を切り裂かれる、濃密で熱い物語をぜひお楽しみください。

感想・レビュー・書評

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  • おまんじゅう多めのロードノベル。
    兄を殺しに行く。と、70代のペーパードライバーが旧車コンテッサを購入。しかし購入したコンテッサはニコイチの不良車。
    ペーパーでシルバーで不良車。違う意味で不安が付き纏いなかなか集中できませんでした。
    そして何故か不良車を買ったお店の元店長が一緒に旅する事になります。金髪の謎の20代青年。謎の体調不良。
    兄を殺したい理由、謎の青年の抱えるもの、解き明かされる程に哀しくなります。
    最後の2人の会話良かった!!

  • 紘二郎は過去に愛する人と引き離され、そしてその人は兄に殺された。50年の時を経て「兄を殺す」旅が始まる。旅の途中で知り合った青年リュウとの触れ合いの中で、過去の恨みに捕らわれていた紘二郎の頑なな心が溶けていく。リュウ自身も過酷な過去を抱えていながら、それでもまっすぐに生きようとする姿に涙が溢れる。真相は読み手に委ねた終わりで余韻を残します。孤独の中で生きてきた二人がそれぞれに交差した時、誰かを見守り誰かに見守られるそんな人生の終わりが見えて救いになった。

  • 「殺してやる」と思うほど、誰かを憎んだことはありますか? 私は「死んでやる」と思うほど憎んだことがあります。憎しみからは何も生まれない──その通りだけど、憎しみにとらわれている間は絵空事にしか聞こえない。その頑なな心の変化を丁寧に描いています。私も「憎み死に」せず、生きてこの本を読むことができてよかったです。

  • 70代、暗い過去を背負って一人で生きてきた男が全てを清算するためにコンテッサを買い日田へ向かう。
    そこへ何やら訳ありの金髪の若者リュウが加わる。
    生と死、愛、家族、二人のバックヤードが明かされながら進み、ラストは切ないけど浄化される。
    読みやすかった。

  • 70を過ぎた老人と25歳の金髪男のそれぞれの過去にとらわれたロードムービー、最後は号泣しながら読みました。

  • かつて時代錯誤なお家事情で引き裂かれた恋人が実兄に殺されて、何十年越しかにその復習として実兄を殺しに行くというストーリーなのに、本当に復讐を成し遂げてしまうのか!?ってことよりリュウの正体が気になって仕方なかった。

    紘二郎とリュウの旅路と、紘二郎と睦子の恋愛パートが交互なこともあって睦子との恋が何十年も前のことのようには思えず、紘二郎もずっとそんな気持ちでいたんだろうか。でも最初から睦子の最期ありきで読むことになるので、幸福の気配がするたびに悲しくなった。
    けどなんでそもそもそんな悲愴な最期に?という疑問が二段構えの真相で、なんか本当にしんどくてしんどくて…最終的に辿り着いた推測が真実だったら兄のこと私は憎めないし…
    しかし中島の事情、つまびらかになった上で冒頭のやりとり思い出すと「お前どのツラ下げて!?」という気持ちにはなる。中島も苦しんでいたといえば苦しんでいたわけだけど。

    リュウの病気がわかってからずっと泣きっぱなしで読んでて、ジュジュが会いに来てくれたのは本当に救いだった…リュウの気持ちはわからんでもないけど、ジュジュと紘二郎のほうにどうしても感情移入してしまうし…

    ていうか香代さんがスゲー女すぎん!?
    器がでかすぎるし愛が深すぎる、香代偉大すぎ。

  • 50年前に兄が起こした一家惨殺事件。残された弟(綋二郎)は事件のあった実家でひっそりと暮らしていたが、兄から突然届いた絵はがきは綋二郎に過去を思い出させるきっかけとなり兄への復讐を決意する。
    ひょんなきっかけで知り合ったリュウと兄の住む大分、日田市へ凸凹コンビの旅が始まる。
    74歳の綋二郎と25歳のリュウ、それぞれの過去がわかってくるにつれ世代の離れた二人の間に友情が育ってゆく過程がいい。
    どんでん返しに近い結末が待っているが、この小説の肝ではない。

  • 前半は情報を小出しにする書き方で気になって止められなくなり、第三章で少し落ち着いて、第四章からは物語がどうなるのか気になって止められなくなって、あっという間に読んでしまった。

    後半は町田その子さんと似た印象。
    帯に大きく「兄さん、今からあんたを殺しに行くよ。」と書かれていて想像していたのとはまるで違う展開だった(苦笑)
    泣かせにくるいい話&幼児虐待というのは女性作家あるあるなのかな。
    町田さんより恥ずかしくなく読めるのは、主人公が無愛想な大阪弁の爺さんで、古い時代や漢詩など少し文学を感じる要素が盛り込まれていているから。

    読みやすくて面白いのでおすすめです。

  • 大阪のミナミでカレー屋を営む絋二郎はかつて兄が妻、子、義父を惨殺した自宅に暮らしている。ある日出所した兄からハガキが届く。それをきっかけに兄を殺す旅に出る。兄の妻睦子は、父の恩人の娘で政略結婚だったが、絋二郎と恋に落ち駆け落ちまでしていた。連れ戻され別れて7年後悲劇は起きる。事件はなぜ起きたのか?
    睦子に約束したコンテッサを購入して大分へ向かう絋二郎に同乗することになるリュウ。リュウはいったい何者なのか?

    こうやって書くと情報量が多い笑
    最初は、絋二郎とリュウの祖父と孫のような2人旅。謎のリュウの行動。差し挟まれる絋二郎と睦子の回想シーン。睦子が思い出の豆腐屋に預けた手紙。大分で知る事実。事件の真相、リュウの謎。
    70を過ぎた絋二郎よりリュウが先に死ぬという皮肉。なんか切ない、難しい。


    三宅絋二郎(73)
    征太郎(5歳上の兄)、草野睦子(兄の許嫁/同い年)
    桃子(睦子の娘/享年5歳)
    蓬莱リュウ(25/イダテンオート元店長)

    中島(絋二郎の友人)、香代(中島の姉)

  • 人の心の複雑怪奇さと奥深さを突き付けられる。
    読み進むに連れ疑問が膨れ上がり、疑問が紐解かれる度に哀しみが募る。

    50年前、愛した女とその娘を実兄に惨殺された紘二郎。
    長年の恨みを晴らす為、兄を殺す決意を固め、思い入れのある旧車で大分へと向かう矢先に出逢ったのは25歳の青年・リュウ。
    二人は共に6日間の旅に出る。

    復讐劇とは思えない、ほのぼのとした雰囲気に気を許していると後半は息詰まる展開が待ち受ける。

    白だと思っていた物は黒へ、黒だと信じきっていた物は白へ反転。

    最後は緑陰の涼風の元、皆の心が救済された事を確信した。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠田潤子の作品

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