百年の藍

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093866873

作品紹介・あらすじ

ジーンズに懸けた人々の百年にわたる物語。 鶴来恭蔵は、故郷の岡山県児島から浅草に来ていた。車夫の政次のアドバイスにより、憧れの竹久夢二に奇跡的に会うことができた。しかし翌日の大正十二年九月一日、関東大震災に遭遇。親を亡くした娘りょう、政次とでしばらく避難生活をしていた。りょうと児島に戻るという時に、政次からアメリカの救援物資にあったズボンを受け取る。生まれつき色覚に異常があった恭蔵だがズボンの藍色に魅せられ、国産ジーンズを作りたいと考えるようになる。 時代は進み、日本は太平洋戦争に突入し、鶴来家もその大きな波に巻き込まれた。 戦後、世の中が激動する中で鶴来の会社を支えたのは、りょうだった。そして、彼女も日本でジーンズを作るという恭蔵の夢を忘れてはいなかった。ある日、鶴来の家をひとりの男が訪ねてきた。恭蔵の思いは、途切れることなく繋がっていた――。

感想・レビュー・書評

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  • 大正12年、恭蔵は竹下夢二に会うため浅草に来ていた。
    絵が好きな彼は色覚異常のため色の選別ができなかったが、夢二の描く『あお』に心を奪われていた。
    昏い絵だけど心が安らぎ、光を孕んでいるような不思議な明るさを感じる藍を含んでいる。
    なんとも言えないこの描写に早くも心が奪われる。

    俥引きの政次との出会いから夢二との出会い、だが再会前に関東大震災に遭う。
    そこで母を亡くしたりょうを連れて故郷の児島へ帰ることに…。
    帰る前に政次に貰った救援物資のアメリカのズボンに魅せられた恭蔵が情熱を傾けていく…。


    人との繋がりを強く感じる熱い物語である。
    震災や戦争など時代に翻弄されながらもジーンズへの想いや作ることへの拘りを押しつけではなく自然に引き継がれていく様子に凄さを感じた。
    それは、百年も繋がってきている。


    りょうが語る自分の信じる道を行くこと。
    どう生きるか自分で決められるということ。
    そして、歳をとるってことは、ハンデじゃなく今の自分にしかできないことがあるはずだと言い、立ち止まらずに生きていることに強さと勇気を貰った。

    海が近くにある町に生まれいろんな青を見てきた自分が、この夏故郷に帰ることができなかったけれどこの物語で思い出すことができたのがとても嬉しかった。
    表紙の絵の『あお』も故郷の色に似ているなと懐かしく思った。





  • 感動した。感動した。もう壮大な大河ドラマのような物語でした。関東大震災、太平洋戦争、阪神淡路大震災とみゃくみゃくと続く歴史を背景に読む手が止まらず一気読みでした。日本でのジーンズの成り立ちがよくわかり、ジーンズの青が焼きついて離れませんでした。ラストのジーンズの価値を見いだす終わり方は感動ものでした。あなたもすばらしい物語を読んで感動して下さい。震えて下さい。

  • <倶>
     増山実。この作家さん,知ったのは僕が贔屓にしていてライブ観覧にもしばしば行くシンガーソングライターの金森幸介将軍様が,確かFacebookで紹介していたから。
     増山の作品を最初に読んだのは『波の上のキネマ』で,次が『河原町のジュリー』だったと記憶する。あいや違った『ジュリーの世界』だった。 題名 ”河原町のジュリー” にすればいいのに,と思った記憶がある。

      大正時代,岡山児島生まれの鶴来恭蔵と俥屋政次の二人が浅草十二階凌雲閣で出会う所から物語は始まる。この登場人物名設定のモデルは いにしえ大阪の「喫茶ディラン」の西岡恭蔵と大塚まさじに他ならない。そう作者増山実は1960-70年代の関西アングラフォークに心酔しとるのだから。先に書いた金森幸介もその一味であるw。かく云う僕も同じく大ファン。なので以下の感想文は多分にそちら方向の記述が多くなる。すまぬ。

     具体例 Θ を全部上げる。まづは前段の再記述から。
     Θ「鶴来恭蔵」は,”ディラン”の『西岡恭蔵』さん。代表曲:プカプカ 。
     Θ 「俥夫の政次」は”ザ・ディランⅡ” の『大塚まさじ』さん。代表曲:天王寺思い出通り。
     Θ「りょう」はもちろん超有名『加川良』古斉さん。代表曲:教訓Ⅰ。
     Θ 児島に住むボロ屋の「光弦」はそのままハーモニカ名手のシンガー・ソング・ライター:(以降SSW)『光弦』本人はたしか今は神戸在住。

     Θ 物語の主人公りょう が倉敷で住んだ下宿の大家で古本屋 俊徳堂の主人 「伊佐人おじさん」は 言わずと知れた『中川イサト』さん。代表曲:お茶の時間。
     Θ そしてその伊佐人の妻の名が「あずみ」これもSSWの『AZUMI』の事。彼も確か大阪在住。
     Θ お次は最後年をりょうと神戸でいっしょに棲んだ「りつ」。はい これは間違いなく『村上律』さんですね。中川イサトさんとユニットを組んでいたこともあるバンジョー弾きです。

     Θ 加えて,りょうの旦那「鶴来光太郎」は『山本コータロー』。代表曲は もうめちゃヒットした”走れコータロー ”♪これから始まる大レース。ひしめきあっていななくは。天下のサラブレッド4歳馬。今日はダービー楽しいな♪”(JASRAC 837513-0191)
     Θ 結局戦死してしまったもう一人の主人公 鶴来恭蔵と,戦地で一緒だった「多田清志郎」は,超有名バンド ”RCサクセション” のリーボボーカル『忌野清志郎』。代表曲は多すぎて書けない。笑う。

    Θ 大阪で,りょうが営業の為飛び込みで入った衣服問屋の亀田幸介。これは間違いなく『金森幸介』この僕の感想文の冒頭で,なぜこの本を読んだの書いた時に登場した大阪のSSW。

    ΘそしてとうとうSSW本物本人が実名で登場する。その名は『ウッディ・ガスリー』&『ピート・シガー』 ここに書き連ねて来た,主に1960年代後半から70年代のSSW達の模範となったアメリカの元祖フォークソング系SSWだ。余談だが僕の親しいミュージシャンにもこの「ウッディ」を名乗る奴がいる。 彼は京都に住んでいて吉田拓郎の歌や,ちょっと僕には理解不能のロック系の歌をバンドで歌っている。先日も祇園後祭見物に京都へ行ったときに・・・あら,これ以上は横道へ逸れ過ぎになるな。すまぬ。

     小説物語のベースとなるのは日本のジーンズ会社「株式会社ボブソン」社創業のエピソード。実は僕らの世代のジーンズといえばまさにこのBobsonの事だったのだ!でも期待していたほどボブソン創業の仔細については触れられていない。この物語を書き始めるキカッケみたいなものにしている,という感じである。

     気になる記述が一カ所あった。本文P304から引く。『全然オーケー,と美智子は右手の親指を立てた。』1960年のお話である。その頃は”全然”と言う言葉を肯定形で使う事は無かった筈。増山が現在の頭で考えた結果こういう表現になったのだろう。但し,僕の様に言葉に特別のこだわりを持たない人が読んでも違和感はないだろう。でもプロ作家らしくない表現だなぁ,とは思った。まあ言葉はどんどん変わっていくので,昔の事だからと云って表現の仕方まで昔のまま全部守って書く事は困難だ,と言われればそれまでであるが。

    あ,増山の作品で『甘奈津とオリオン』も読んでいた事を,僕にしてはめづらしく,最後におくづけを読んだ事で思い出した。すまぬ。
    僕は1959年生まれ。思い切って書いてしまうが,読了までに僕は何度も涙した。独り暮らしなので誰彼構わず涙を流すことが出来る。僕らと同世代のフォークソングファンにはとにかくたまらない一冊なのです。お心当たりの方々どうかお読みください。感動の面白さですぞ。

  • 色覚障害を患う共蔵は絵が得意だが、画家は諦め、家業の足袋作りも性格等で継げない。幸い姉が婿養子を貰い安泰だが、最後夢を持って憧れの竹久夢二に会いに東京へ出てくる。そこで震災起こり、夢はつかの間となるが、共蔵はアメリカ支援物資のジーンズと、震災で孤児となったりょうという娘を得る。ジーンズに魅了された共蔵は岡山の藍染などの技術を元に再現しようと奮闘し続けるが、なかなか再現できない。
    時代は移り、りょうが大人になり、共蔵は戦争の悪化とともにジーンズの夢を追えなくなり、話はりょう目線に移っていく。
    日本のジーンズの歴史に着想を得たフィクションだそうだが、良く練られたお話だった。朝の連続テレビ小説のような人間性溢れた重厚さ。途中の戦争が辛い。捕虜同士の話などが新鮮だった。あとは、ジーンズの染めが藍染と違うとこの表現が面白かった。

  • 国産ジーンズが作られるまでの壮大な歴史。

    人との出会い、運命の過酷さ、夢を持つことの大切さ、色んなことを感じました。

    ジーンズを見る目が変わりそうです。

  • 訳あって再読

    関東大震災から令和まで。
    日本製の、国産ジーンズを作りたいという祈りにも似た思いのバトン。
    何の気なしに毎日履いているジーンズが、こんなにも多くの時間と多くの困難と多くの人の手を経て生み出されてきたのか、とその遠い道のりを想う。
    寡聞にして未知だったBOBSONジーンズの歴史。
    まさにNHKの朝ドラにぴったりな人と人の出会いから始まる、日本の近現代史のモノづくり物語。

  • 過去から現代までの人々の繋がりをジーンズを通して描く作品でした。読み終わった後周りの様々な物についても、過去に多くの人々が関わって色々な思いを込めて完成したんだなと感慨深くなりました。

  • 人生100年といわれる。
    100歳以上の方がたくさんいらっしゃる。
    100年 みなさん頑張ってこられたんだなぁ。
    この物語は100年の物語。
    震災 戦争
    艱難辛苦を乗り越えて 生きた人たち
    日本産のジーパンを作る夢を織り混ぜながら一気に読めた。

    藍 好きだな。

    岡山の児島に行きたくなった。

  • 1923年大正12年からこの物語は始まる。病弱な青年・恭蔵が見た蒼天の空にかかる虹。どんな青より碧い1本のジーンズに魅了された恭蔵が追い求め続けた「夢」は時代と世代をまたぎ、次々と受け継がれて行く。幾つもの災害と戦争の日々の中で必然のように結びつく人々の姿が切なくて、力強い。
    登場人物1人1人が作り上げていく生き方、願いは百年の時を重ね、彩りを重ねて色付いている。

    今でこそジーンズは身近でありファッショナブルなもの、カジュアルなもとと多種多様に存在している。「国産ジーンズ」が生まれた経緯を知り、「ジーンズの街」として定着するまでの苦労は如何ばかりかと思う。日本のものづくりの精神と技術を心から誇らしく感じた。

  • ただのジーンズ作りの話じゃなかった。
    日本という国が、何をどう乗り越えてきたのか、
    それを描くんだという意気込みを感じた。

    そして、やっぱり戦争はダメだと強く感じる。
    戦争は何一つ幸せを与えん。

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著者プロフィール

1958年大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。2012年に「いつの日か来た道」で第19回松本清張賞最終候補となり、改題した『勇者たちへの伝言』で2013年にデビュー。同作は2016年に「第4回大阪ほんま本大賞」を受賞した。他の著書に『空の走者たち』(2014年)、『風よ僕らに海の歌を』(2017年)がある。

「2022年 『甘夏とオリオン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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