- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094061369
感想・レビュー・書評
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桜木紫乃『起終点駅(ターミナル)』(小学館文庫)読了。
読了といっても『イン・ザ・プール』とほぼ同時に読み終えたのですが。
『ホテルローヤル』を読んだこと、昨年11月に映画化されたことが手に取ったキッカケでした。
表題作を含む6編を収録した短編集。
6編に何かつながりがあるのかなと思いながら読んでましたが、「海鳥の彼方」(2編目)に登場する新米新聞記者、山岸里和が「たたかいにやぶれて咲けよ」(5編目)に再登場するだけで、ひとつひとつが独立した小説でした。
この手の地域を限定した小説は、その土地に住んでいるかいないかで印象がずいぶん変わるように思います。
函館、釧路、札幌郊外、天塩…。その土地の独特の雰囲気(風、空気、風景、方言、なまり)が感じられるかどうか。
その点では小生は『たしかにそうだよなあ』と思いつつ読み終えることができました。
タイトルにしても、その土地が起点であり終点であるということを知らないと、単に人生の起点と終点を扱っていると誤解し共感できないでしょう。
総じていえば、桜木紫乃の文章はみずみずしい。
ちゃんと物語を作りながら、登場人物が目に見えるような文章で、男には書けない視点で丹念に描かれています、それが男視線でも。
しかも桜木紫乃の文章表現は実にうまい。
たとえば、道央の銀行勤めをドロップアウトした主人公が母が住む故郷に帰る場面(「スクラップ・ロード」)。
今なら、夫を失い息子も寄りつかなくなった母に集落は優しい。生まれ育った土地の人間関係を外から見れば、銀行の上下関係よりもはるかにわかりやすい『哀れみ』の尺度があった。故郷に戻った自分にいったいなにがあるのか。考えると心臓がぎゅっと絞られるような痛みが走る。[p.178]
「夫を失い息子も寄りつかなくなった母に集落は優しい」なんて表現、どうやったら思いつくのでしょう。しかも「『哀れみ』の尺度」というおおよそはかることができないスケールを持ち出して、「たしかに」と思わせてしまうんだよなあ。
またたとえば、笑えない現実。
24歳で故郷の天塩を出た千鶴子が30年ぶりに故郷に戻り、若いときにお世話になったたみ子(85歳)を訪ねていき、そこでいうたみ子の近況(「潮風の家」)。
たみ子は三軒向こうの-といっても百メートルは離れているのだが-ヤッコを覚えているかと訊ねた。
「うん、行き来はないけど」
「昨年の暮れに家の中で死んでたんだわ。孤独死だと。なぁんとも流行りのない町に、流行最先端の死人が出たんで、しばらく大騒ぎだった」
それから、たみ子にもたびたびデイサービスの声が掛かるようになったのだという。たみ子は「年寄りが年寄りと一緒に折り紙折って、なぁに楽しいってよ」と言って、更に笑う。[pp.253-254]
笑い話の中に笑えない現実を描き出しています。「年寄りが年寄りと一緒に折り紙折って、なぁに楽しいってよ」って、ブラック過ぎ。
ところで、映画にもなった「起終点駅(ターミナル)」は、映画を観ていないのにどうしても佐藤浩市の顔がイメージされてしまって、個人的には少しばかり残念でした。
むしろ、道報新聞の山岸里和が登場する2編を映像化して欲しいなあ。
こちらも北海道新聞(道新)と村上里和(元NHK札幌放送局アナウンサー)をイメージしていまいましたが。(笑)
さてお仕事に復帰しまーす。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
生と死。人との繋がり。孤独。
様々な人の生き方を描いた短編集。
どれも、何かしら寂しさの中に温かいものを感じる。
2015.12.13 -
2014年9月
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鷲田完治が道東の釧路で法律事務所を開いてから三十年が経った。国選の弁護だけを引き受ける鷲田にとって、釧路地方裁判所刑事法廷、椎名敦子三十歳の覚醒剤使用事件は、九月に入って最初の仕事だった(表題作「起終点駅」)。久保田千鶴子は札幌駅からバスで五時間揺られ、故郷の天塩に辿り着いた。弟の正次はかつてこの町で強盗殺人を犯し、拘留二日目に自殺した。正次の死後、町を出ていくよう千鶴子を説得したのは、母の友人である星野たみ子だった(「潮風の家」)。北海道各地を舞台に、現代人の孤独とその先にある光を描いた短編集を、映画化と同時に文庫化!
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どの作品にも孤独な人物が登場し、人の死というものに関わっているので、重いです。それでも最後に希望が見える作品もあるけど、元気のない時に読むとちょっとしんどい。
装丁から受ける印象と、本の内容に隔たりがあるんじゃないかと思ってしまいました。
今の私には合わなかったけど、物語自体はじんわりと沁みる話が多いかと思います。 -
6編の短編集。
表題作だけでなく、どの話も重かった。みんな孤独で、重い過去を背負ってなんでもないように毎日の生活を送っている。
背負ってるものが大きいんだから、お願い!それ以上踏み込まないで!っていう登場人物がいて、でもその人もやっぱり何かしら重い荷物を背負ってる。
言わないだけで、普通の生活をしてるつもりの私たちの周りにももしかしたらいっぱいいるのかも…
ご近所と仲良く行き来して、親戚づきあいも丁寧に親しくして、職場の仲間や学校の友人たちも何でも話せる大切な関係…??
普通の暮らしをしたいだけなのに必ずついてくるこういう周りの存在。
とても丁寧に上手にお付き合いできる人がいる。
私は…別に何も背負ってないけど、少なくても今は自分のことと家族のこと、せいぜい実家のことを考えるので精いっぱい。
なんだか、負の荷物を背負ったような気分… -
皆さんの★の評価も微妙で、読もうか読むまいかと迷っていたところに、カバーが映画の佐藤浩市と本田翼になったものだから尚更手を出し辛くなったこの本。
だけども読む本切らして入った本屋の書棚でも行けそうなのはこれくらいだったので、漸く手にする。
“開拓のためによそから流れて来た者が住み着いた”土地、北海道。その寂れた町を舞台にして、他者と切り離された人生を送る者たちのお話が6つ。
なんだ、どのお話も生きる孤独とそれと交錯する他人の情とが絡まりあって読ませる佳いお話じゃないか。
私には、特に最後の2話、
歌人である老女と晩年の彼女と行動をともにした若い男の過去を辿って、ミステリーのような趣で読ませ、歌人の鮮やかな生き様を浮かび上がらせる「たたかいにやぶれて咲けよ」、
弟が起こした事件で街を追われた女性とその街で一人で暮らす老女の交流を描いて人生の諦観と達観を滲ます「潮風の家」
が良かったです。 -
祝!映画化(どの話が映画になったのだろう?)
北海道を舞台とした貧しい暮らしの中で生きる人の短編集。物悲しさの中でも、楽しさや生活することがじわりとくる。生きるとは大変だよな、でもそんな悪いことばかりでも無いよなと思ったり、退屈そうな人生も年をとるとともに馴染んでくると言うか。
小説を書いている弟の事を思い出した。「東京では書けない、地元ならではの色を出した小説を書きたい」と。まさにこれは東京から遠く離れた北海道の地だからこその、特色、味が良い感じで滲み出る作品であった。群馬だとどうだろうか?私も一時期住んでいたが、東京からそう遠いわけでもなく、特色もこれと言ってパンチが無いように思う。「おまえはまだグンマを知らないだけ」と言う漫画があったが、その後どうしているだろうか?
【心に残ったフレーズ】
名を成した人間は、死ぬと必ず喜ぶ人がいるものだ
私の死を喜んでくれる人がいるような強烈な力、個性にも憧れる。 -
北海道で展開される、さまざまな『ひとり』の物語。悲惨に描かない不思議。