圏外へ (小学館文庫 よ 5-2)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 458
感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (600ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094088250

作品紹介・あらすじ

小説家の頭の中をめぐる冒険!冒険!

主人公は、「カタリテ」と名乗る小説家。書き出しで行き詰まり、書き続けることができなくなってしまう。そんななか、小説内の登場人物が、痺れを切らして「蝙蝠」に変身しながら新たな話を始めてしまったり、<南の鞄>という謎の巨大鞄から生まれた、過去形で予言をする「ソボフル」なる人物の壮絶な半生が突如長々と語られ始める。
一方、ようやく自ら「語り」を再開させることになった「カタリテ」は、自らの作品世界に入り込んだ後、南を目指し、<エッジ>という名の作中人物や作家たちが集う奇妙な療養所に辿り着くのだが――。
解説執筆は、三浦しをんさんです。

感想・レビュー・書評

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  • 「ふたたび」の『圏外へ』
    文庫本では初めましての『圏外へ』。
    そうだ、そうだ、そうだったと確かめるような読書になった。
    一度通っただけじゃ覚えられない道をもう一度確認しながら通るような。
    そもそも一度で覚えられなかったのは、歩きながらきょろきょろし、通り過ぎた家のポストとかすれ違った人の髪型とか(すべて例えばの話)に意識を彷徨わせていたからで。
    今回もそうだ、そうだ、そうだったと思い出すのはそういう本筋でない部分が多かったような気がする。
    というより、この小説には本筋があるんだろうか?
    全ての道が曲がりくねり、ある時はジェットコースターのようにアクロバティックな曲線を描き、道を覚えるどころか自分が歩いているのか運ばれているのか分からなくなる。
    目的地なんて分かるわけもなく、頭は真っ白で目に映る景色に(景色を見せてくれる言葉に)時間を忘れて見入ることしか出来ない。
    終着点はいつの間にか現れ、心の準備をする猶予も与えられずにぽつんと置いてけぼりにされていた。
    でも何故か爽快。
    さみしいのに、爽快な気分。
    予想していたことではあったけど、まだまだ私は『圏外へ』の道を覚えてはいない。
    だからまた「ふたたび」ならぬ「みたび」歩こうと思う。
    きっと道なんて本当に覚えたいわけではなくて、ただもう一度(一度と言わず何度でも)歩きたいだけなのだろうけど。

    • MOTOさん
      時々、自分の事を誰一人知らない土地へ行ってみたいなぁ~
      と、思う事があります。
      >ぽつんと置いてけぼりにされてさみしいのに、何故か爽快な...
      時々、自分の事を誰一人知らない土地へ行ってみたいなぁ~
      と、思う事があります。
      >ぽつんと置いてけぼりにされてさみしいのに、何故か爽快な気分。
      に、惹かれました♪

      『圏外へ』の旅、面白そうですね♪
      2014/09/24
    • takanatsuさん
      MOTOさん、コメントありがとうございます。
      「時々、自分の事を誰一人知らない土地へ行ってみたいなぁ~
      と、思う事があります」
      同じか...
      MOTOさん、コメントありがとうございます。
      「時々、自分の事を誰一人知らない土地へ行ってみたいなぁ~
      と、思う事があります」
      同じかどうか分かりませんが、私もふらりと見知らぬ土地に行ったら、それまでの積み重ね(人付き合いやら役割やら)はゼロになるのかな…なんて考えることがあります。
      そんな時って心細いような、でもどこかでほっとしているような、ちょっとだけワクワクもしているような不思議な気持ちになります。
      『圏外へ』の旅はそういうのとはまた違うのですが、こちらのほうがややこしく、でも小気味良い(この表現が小説中に多用されています)旅です。
      本来なら「カタリテ」しか味わえないのかもしれない不思議な旅へのご招待をMOTOさんにも楽しんで頂けたら嬉しいです♪
      2014/09/25
  • 文庫で600頁近くなるとその分厚さにまずちょっと引くんですが(苦笑)、章立てが細かいので、読むのはさほど苦ではありませんでした。言葉遊びの類いは、なんだか80年代の小劇団の戯曲みたいなノリで、個人的には好きだし(笑)。文庫とはいえ装丁のスタイリッシュさは流石。

    ストーリーはとても説明しづらいけれど、ざっくり言ってしまえば作家である主人公(カタリテ)の内的世界の彷徨。現実なのか妄想なのか夢なのか劇中劇ならぬ作中作なのか、とにかく混乱させられるけれど、結局すべて主人公の内面世界での話だったのだと私は解釈しました。

    子供の頃好きだった北杜夫の『船乗りクプクプの冒険』をちょっと思い出しました。作者ではなく読者が本の中の世界に入り込んでしまうという話なら、エンデの『はてしない物語』とか、他にもたくさんありそうだし、作家が自分の作品の登場人物たちと出会うというのも、それ自体はそんなに目新しい題材ではないでしょう。
    最終的にフェリーニの『8 1/2』を引き合いに出しての大団円は、私も好きな映画なので上手いこと持ち込んだな~とか思いましたが、なんていうか、どうなんだろ、こういう構成や発想そのものが、作家として「反則」のような気も、ちょっとする。同業者が読んだら、共感するかそれとも「業界の暴露もの」(笑)として嫌悪されるか両極端なような。

    にもかかわらず、最終的に不思議なカタルシスがあったのは、きっと作者の「言葉」や「書くこと」に対する真摯な向き合い方、その誠実さが感じられたから。マイナス面をあげるとしたら「作家はこんなに苦しんで作品を生み出してます」という苦労話は、読者としてはそれほど知りたくなかったかなという点(苦笑)。それでもトータルで読み応えがあり面白かったです。あとからじわじわ効いてきそう。

  • 説明のしようがない作品w。

    でもその世界観はさすがで、あらゆるものが魅力的。語る側と語られる側。

    そして言葉のあやふやさというか、言葉を分解して考えるこの発想力。「雲を呑む」。たしか、架空とは「空に架かるモノ」つまり虹であり雲であるといったのも作者ではなかったか。

    広辞苑の第7版が出るこのタイミングで、これに巡り合ったのも縁なのかしら。

  • 雰囲気はとっても好きなんだけど、なんにせよもーちっと簡潔にならんのかいな?と思ってしまうせっかちな私です。がくり。
    でも後半に行くに従ってペースアップしたかな。
    雲呑屋いいよねぇ…。

  •  物語論を小説にした作品。物語をどう始めどう終わらせるか、人称はどうするか、登場人物たちはどこで生き、はたして生き続けるのかどうか、言葉が生み出す微妙なニュアンスをどう考えるか、などなど。カタリテである主人公の生み出す虚構が作家の現実と混ざりあいながら進む物語論はどう終結するのかが気になる、最後まで面白い作品だった。物語を生み出す作家という仕事の大変さを思い知ると同時に、そういった苦労を重ねたのちにできた小説を読める読者の幸せを改めて感じる。

  • 難物でした。
    いつまでも終わらない夢の中を歩いているような感じ。
    作家が自分の小説の中と現実を行きつ戻りつ(いや、戻っていないかも?)しながら、語る事の意味や、書く事の意味を探っている…お話。
    言葉の遊びも多く、日本語ってすごいなと気づかされる。
    揉みほぐしのエジンバラ先生のマシンガントークが、自分的にはツボでした。
    …とはいえ…
    あんまり理解できなかったので、またあとで再読したいと思います。
    はい、「二度目」と言うのはそっけない、「ふたたび」読みたいですね。

  • あっちへ行ったり
    こっちへ行ったり

    あの人だったり
    この人だったり

    不思議な書かれ方の小説です。

    読んだ後には無性に『南』へ行きたくなるのと
    思わず美味しい雲呑屋を探したくなります。

  • 10/11 読了。
    ワンタン食べたい。

  • ついていくのが大変だったけど、こんな本今まで読んだことなかった。読み応え最高。

    文章量もそれなりにあるにも関わらず、そんなこと感じさせられなかった。

  • 最初は、異次元に迷いこんだような感覚。そのうち、カタリテと一緒に、物語論とでもいうべき壮大な旅をしている気持ちになる。
    カタリテに生み出されながら、カタリテを育て、ときにはその背中を押してくれる愛すべき物語の登場人物たち。そして、彼らが発する言葉たち。
    どんなものにも「役割」と「詩」がある…円田さんのこの言葉は切なさと温かさと勇気に満ち、この作品を優しく包んでくれる。
    とても魅力のある作品だった。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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