犬と魔法のファンタジー (ガガガ文庫 た 1-19)

著者 :
  • 小学館
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094515633

感想・レビュー・書評

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  • 主人公は、今日も今日とて就職活動に精をだす。

    日本とファンタジーが混合したような生活の中
    必死に就職活動をするけれど…な状態。
    その横では、サークルに入り浸るお姫様女が
    僕といたり、新しいエルフが入ってきて駄目になったり。

    就職活動という、もっとも心折れる現実と
    あてはないけれど心躍る冒険者。
    平穏に、確実に、と思う現代人にとって
    冒険者は確かに難問です。
    というよりも、不安定すぎるわ、体力がいるわ。
    読んでいて、かなり心折れそうな内容でした。
    切実すぎて、辛すぎて。
    社会の縮小図を見ている感じでしたし。
    女の子とか、男の方とか、主催者の言動とか。

    今まさに就職活動を! という人は
    読まない方がいいと思います。

  • 就職活動なんてもう二度としたくない、と存分に思える本でした。

    ちょいちょい面白いところあるんだけど、↑が全てを覆い隠すよね。

  •  我を過ぐれば憂ひの都あり、
     我を過ぐれば永遠の苦患あり、
     我を過ぐれば滅亡の民あり
     義は尊きわが造り主を動かし、
     聖なる威力、比類なき智慧、
     第一の愛、我を造れり
     永遠の物のほか物として我よりさきに
     造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、
     汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
     地獄が現実のパロディならば、この世は地獄そのものだ。
     田中ロミオの送る現実的ファンタジー。
     ライトノベルで作品を世に出すようになってから社会風刺に偏り過ぎている気がする。『人類は衰退しました』は風刺色が強くも面白かったが、この小説はストーリーそのものがあまり面白くなかった。『CROSS†CHANNEL』のようなストーリーも面白い作品を今後期待したい。

     あらすじ。
     チタン骨砕は宮廷大学に在籍する学生である。身長二メートルに及ぶ巨漢だが、小心者で口下手な面がある。現在、就職活動中だが何十社受けてみても芳しい戦果が上げられず苦労していた。冒険組合に所属しており、とある遭難事故で救い仲良くなった仲間と、偶々拾った犬が拠り所だった。
     チタンは幾つもの面接を繰り返したが、内定を貰える気配はなく、日にちだけが過ぎていった。就活塾に通い切磋琢磨するも何の成果も得られずに刻一刻と時が過ぎていった。そんな中、冒険組合で買っていた犬「シロ」が不調を来たし始める。同じくシロを気にしけていたヨミカ来倉と共に獣医を巡るも、はっきりとした診断を下す獣医が見つからない。ついに不調の原因の分かる獣医を見つけたところ、シロは動物ではなく魔獣の類であり、魔力不足による体調不良だと判明した。だがシロは冒険組合の主催する内定者のみの登山のために連れられてしまう。登山の目的地はこの上なく危険と評される〈霧吹山〉であり、学生風情が登るのは無謀としか思えないような山だった。だが登山の参加者である内定者たちは、気の緩みか内々定の慢心か、霧吹山へ意気揚々と冒険と銘打った登山に向かう。その道中で遭難し、学生の団体は山中に転移までしてしまう。チタン骨砕は冒険組合の面々の救助に向かう。己が「冒険者」でいることを理由に。
    〈霧吹山〉を進み、遭難者たちがいると思われる地点に到達し、ヨミカを救いに行った先にいたのは魔獣の姿を取り戻したシロだった。チタンはシロに己が生き行く道を定めたことを告げ、別れる。後日、チタンは正真正銘の冒険者となり、雑誌のインタビューを受けていた。好きで冒険者をやっている訳ではない。冒険をする道しかなかったから冒険者となったのだ。だがそこには仲間がいる。同じ様に己の道を開拓し進もうとする仲間がいる。チタンはこう答え、冒険者としての人生を歩んでいく。

     ストーリーがつまらないのが致命的だった。社会風刺を主としているので、前半はほとんど就職活動の話だ。現代における就職氷河期をファンタジーの世界に置き換えたパロディであり、言葉や道具、設定のセンスは非常に優れているものの、ストーリー自体は起伏に欠ける。ファンタジーの世界で書き換えたリアルな就職活動記録のようなもので、面白味というものは一切排されている。『人類は衰退しました』ではブラックジョークとして社会風刺を描いていたが、この小説では自虐、またはルポの体で社会を風刺している。だがそれだけに退屈だ。冒険者という道を選択するまでの過程がストーリーの基本となっているが、冒険者になること自体に壁らしい壁はなく、妥協するか否かが分水嶺となっていて非常にネガティブな印象を受ける。就職活動に限定すれば、勝利は一つもなくただ負け続けるのみ。ひたすら負け続けた高校球児がプロの漫画家になる物語を野球の物語とは言えないし、漫画家の物語とも言えない。同じ不安定さがこの小説にも言える。サクセスストーリーの正反対を地で行く物語である。
     キャラクターはロクな奴がいない。味方が少なく、敵ばかりだ。かといって敵と面と向かって戦う訳でもない。非常に現実的だ。巨悪はなく、周囲の小ずるい人間に辟易とする生活。およそファンタジーとは思えない設定で物語は進んでいく。
     世界観は非常に優れている。キャラクターとストーリーを犠牲にして、魔法と異種族の存在するファンタジー世界の就職氷河期を描き切っている。端々にパロディや社会風刺を散らばめて、もう一つの世界を構築し切っている。就職活動関連は小学館の社内アンケートを利用しているためか、真に迫った内容になっている。
     また就職氷河期というテーマもきちんと描き切っている。主人公は結局就職を逃したが、就職難とそれに伴う脱落者の道行をきっちりと描いたのは好感が持てる。ストーリーやキャラクターを犠牲にしなければできないことだ。
     文章は硬質かつ古風で冒険小説風となっている。パロディやジョークを大真面目に語るのが良い。
     台詞は幾つか素晴らしいものがあったが、切れのある台詞は少ない。『人類は衰退しました』に比べると鋭いジョークの少なさが物足りない。
     総合的に見て社会風刺に舵を切りきった作品だった。物語的な面白さはないが、社会風刺の変化球として『人類は衰退しました』を同じように価値がある。だがストーリー性のなさが非常に悔やまれる。

    キャラクター:☆
    ストーリー :☆☆
    世界観   :☆☆☆☆☆
    テーマ   :☆☆☆☆☆
    文章    :☆☆☆☆☆
    台詞    :☆☆☆☆

  • 想像したのより大分リアルに就活だった。ファンタジーなのに。ちゃんとファンタジー世界なのに…!

  • 異世界においてのリアル現実の再構築は、人退でも何度もやられてた手法なので安心して読めるのだが、だったらコメディとして人退の一話としてやればよかったのにと。
    逆に、就活を絡めたシリアスをやるなら、ファンタジーではなく現実に則した世界観でよかったのにと。

    貴殿の今後の活躍を、心より祈念申し上げる。

  • あっつらいつらいつらい就活は嫌もう嫌だあああああ
    という半端ねえ就活の苦しさを呼び起こす作品である。ファンタジーとは何なのか。
    この世に就活という煉獄さえなければイディアみたいな意識高ーい系人種のことだって少しは嫌いにならずに済んだかもしれない。いやそれはないか。負い目のない奴なんて……。
    ちなみにヒロインはオタサーの姫。実に見事にオタサーの姫だけど読んでく内に好きになっちゃうから困る。
    あと犬がいい。犬が。
    あとがきにもある「直球の色物」という表現が正にその通りというしかない、痛いところを打ち抜いていくとんだ色物ファンタジーであった。

著者プロフィール

小説家・ゲームシナリオライター。代表作『CROSS†CHANNEL』『人類は衰退しました』『Rewrite』(竜騎士07、都乃河勇人との共著)『ミサイルとプランクトン』など多数。

「2016年 『アウトロー・ワンダーランド 1 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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