チェンジリング・シー (小学館ルルル文庫 マ 2-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094520828

感想・レビュー・書評

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  • この本、マキリップ本を揃えようと E-BookOff で書影を見ずにゲットしたから KiKi の手元にあるんだけど、もしもこれを本屋さんの書架で見つけたんだとしたら購入するのに戸惑っちゃっただろうなぁ・・・・。  というより、そもそも小学館ルルル文庫の棚には KiKi は最初から近づかなかっただろうなぁ・・・・・ ^^;  逆に言えば余計な先入観を持たずにネット上でポチしたおかげで出会えた本とも言えるわけで、世の中何が幸いするのかわからないものです。

    いかにも少女が好きそうな挿絵、そしてシンプル & ロマンチックな物語だと感じました。  逆に言えば「影のオンブリア」のマキリップと比較すると、幻想的な雰囲気は若干パステルチックで、ついでに書きすぎの感もあって、イメージ喚起力とでも呼ぶべきものが薄めかなぁ・・・・と。  ま、端的に言ってしまえばこのルルル文庫というレーベルのせいもあるのかもしれないけれど、「お子ちゃま用マキリップ」という感じがしないでもありません。  ま、そんな風にマキリップを定義できるほどには彼女の作品を読み込んでいるわけじゃないんですけどね。(苦笑)

       

    物語はチェンジリング(取り替えっこ)プロットなんだけど、貧しい健気な娘と王子さまが出会ってどうたらこうたら、そこに若くて魅力のある魔法使い(当然♂)が現れてさらにどうたらこうたら、取り替えっこのもう片方の王子さままで登場してどうたらこうたらと、ヒロイン・モテモテのストーリー。  う~ん、このテのヒロインもてまくり物語っていうのは KiKi のようなおばさんにはむず痒く感じられちゃうんですよね~。  

    しかも挿絵がこの表紙のイメージでしょ。  何だか少女マンガを読まされているような気分になってしまうのですよ。  さらに言えばこれは翻訳のせいなのか、マキリップ女史自身がそんな風に描いているのかはわからないんだけど、使っている語彙が直截すぎるような感じがしちゃいました。  海や月の光といった風景描写の中には「影のオンブリア」に通じる何かを感じないでもなかったんだけど、人物描写がちょっとねぇ・・・・・。  時折、「こんなにあけすけでいいのか?  マキリップ??」と思わないでもありませんでした。

    海に帰りたいのに帰れない王子キール。  ほんとうは陸に生まれた者なのに、海につなぎとめられてしまっている海竜。  そして、父の命と母の思考を自分から奪い去った海に「呪い(まじない)」をかけようとするペり。  この3人が「影のオンブリア」のデュコンとマグ同様に「どこにも属し、どこにも属していない」感じがして、マキリップの描きたいものはそこにあるのかなぁ・・・・・な~んていう感想を持ちました。

    まあ、マキリップはまだ2冊目ですから、まだまだ KiKi にはよくわからないことだらけ・・・・・。  次のマキリップ本に進んでみたいと思っています。

  • “「行ってはいけません。あなたは——」
    困ったように頭を振る。次の瞬間、海竜の頭のなかでさまざまなことがらが渦巻き、合わさって、正しい姿をとったようだった。真実に気づいたとたん、海竜がぱっと目を見開いた。
    「昔々、二人の息子を持つ王さまがいました。一人は王妃、つまりは王さまの妻の子どもでした。もう一人は海からやってきた……あなたです」
    海竜はそう言って、キールの不意をついた。
    「あなたなんですね」
    海竜は優しくキールの額に——目のあたりに触れた。つづけて、髪にヒトデの飾りをつけた女性の絵に触れる。その女性のものうげな青みがかった黒い瞳を、少年も海の下で覗きこんだことがあったのだろう。
    「あなたは海からやってきた息子ですね」
    「……そうだ」
    ようやく、キールが小さく答えた。
    「そのとおりだ」
    「ぼくは違います」
    「そうだ。きみは違う」
    海竜は再び、困ったような顔になった。
    「それなら、どうしてぼくは海にいるのですか?」”[P.211]

    題名がネタバレってますが。
    面白かった。言い回しとか。
    鮮やかな青や黄金の色が浮かんで、潮混じりの海の匂いが漂う。

    “「わたしもしばらくいますよ。きみに少しばかり魔法を教えておきたいですからね」
    平然とそう付け加える。
    「もちろん、きみが望むならですが。せめて厄介事に巻きこまれないように……」
    リョウは再び口をつぐんだ。あまりに一生懸命に床板の木の釘を見つめているので、ペリは、それが床から浮かび上がってくるんじゃないかと思った。
    その時、リョウが体を揺すり、両手で髪の毛をかきむしった。意を決したようにペリの目を覗きこむ。
    「どうなのでしょう?」
    「なにが?」
    「次も王子に恋するつもりですか?」
    ペリはリョウを見つめ返し、その可能性について考えてみた。それから深いため息をつき、ポケットに手をすべらせる。指が、すべての思い出が詰まった黒真珠に触れた。
    「それはないと思うわ。一度の人生に王子は一人で充分」
    「よかった」
    リョウはなぜか安心したようだった。いきなり空中から、ビールと黄色い水仙の花を取り出す。その上、宿屋の主人の台所から直接取ってきたと思われる温かいパンを。
    「まあ、リョウったら!」
    母親が花を目の前にして、大声で笑った。
    「大丈夫ですよ。明日、ちゃんとお返しをしますから」
    そう言うと、今度はペリの膝の上に早摘みいちごでいっぱいの籠を取り出した。
    「朝になれば潮に乗って、蔓日日草<ペリウィンクル>の花が山のように運ばれてくるでしょう。村の人たちは、絶対忘れられない収穫を行うことになるはずです」
    ペリの顎ががくんと落ちた。浜辺のいたるところで、海が整然と打ち上げた蔓日日草が黄金に変わっていくさまが、目に浮かぶようだった。
    「そうなったらケアリーは幸せでしょうね」
    「かもしれません。でもひょっとすると、ケアリーは幸せになれないかもしれません。おかしなものです、幸せというのは。黄金によって幸せになれる人がいます。黒真珠によって幸せになれる人もいます。でもずっとずっと幸運な者は、ペリウィンクルで幸せを摑みます」”[P.274]

  • マキリップはマキリップなのだけど……創元や早川から出てるものと比べると濃度が足りない気が。
    乙女的に一番の物足りなさはカップリングだったりするのだけどw

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