春琴抄 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005041

感想・レビュー・書評

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  • 春琴と佐助の一生を描いた作品。
    生まれながらにし盲目である春琴の手曳をしている佐助。佐助は手曳ではあるが、基本的な雑事、春琴の身の回りの世話もこなす、優しいがかなり気の小さい男である。
    一方、春琴は、周りにあまり感謝もせず、我儘に振る舞い続ける女。春琴の生き方には、当然周りからの反感をかい敵を作る。
    暫くして、春琴と佐助は、琴の師匠、弟子という関係になるのだが、春琴の稽古が厳しすぎて周りが幾度となく心配する。また、他の弟子やその道に通ずる人からも反感を買うことになる。
    だが、盲目でありながらもその努力から、琴の腕前は一流であり、それが余計に周りから妬まれた。結局、春琴は何者かに報復をされるのだが、佐助の異常なまでの奉公心、忠誠心、いや、最早そんなレベルではない境地に達しているが、師匠の醜い姿を見れないようにと、自ら自身の両眼を針で刺して視力を奪う。そして、そこにこの上ない幸せを感じる佐助。正直、凄い話です。

  • ページ数が少ないと思いきや、改行が少なくぎっしりと文章が詰まっている。文語調の美しい文体で春琴と佐助の物語は語られる。前半〜中盤はこれといった波乱はなく淡々とした話と思いきや、終盤は佐助の春琴への愛情の切実さ、尊さがこの上なく伝わって来るこれ以上無いと思えるような展開だった。この二人でしかあり得ないような関係性、愛情のあり方に胸を打たれた。

  • 主人公にとっては純愛のハッピーエンドだが、春琴の立場に立つとやるせない。
    痴人の愛とも共通する点として関係性の歪さがある。
    男性が自ら望んで支配されに行くのに対し、女性は男性が生活上いなければならない立場に追い込まれていく。そのアンバランスだからこそ成り立つ様子は、上手いなと思うと同時に当事者にはなりたくない。
    終盤、気弱になる春琴に対し、それを許さず昔の春琴のままでいて欲しい主人公。
    主人公の信仰のような愛、春琴の思い、愛とは何かについて考えさせられる。
    閉鎖的な空気感とそれを彩る贅沢品や音楽、美しい鳥の描写など、一つの絵巻物として完成されていた。

  • 山口百恵の映画は見ていないが、なんとなくあらすじは知っていた。それでもなお、その完璧なまでの信頼関係には驚かされた。主従として、師弟として、そして男女として、二人の間にはほんのわずかな隙間さえもなかったのですね。
    春琴がこれほどまでに激しい気性の人物像だとは思わなかったし、佐助がこれほどまでにマゾヒストな人物像だとも思わなかった。
    盲目であればこそ、の部分の描写力はさすが谷崎潤一郎、なのだと思う。

  • マゾヒズムの極致が純愛を育むのか、それとも純愛が人をマゾヒズムに至らしめるのか。

    雇い主でもあり師匠でもあり事実上の妻でもある盲目のパートナー春琴(しゅんきん)の顔面を悪人に無残に傷つけられたとき、丁稚でもあり弟子でもあり夫でもある佐助がとった行動は、自分の両目を針で突き刺し、春琴と同じく盲目の世界に足を踏み入れることでした。
    傷ついてしまった自分の顔を佐助にだけは絶対に見られたくない春琴(しかし春琴は盲目なので自分の顔面がどう傷ついたのかはもともと見ることができない)、自らも盲目の世界に入ることで春琴の美貌を記憶と網膜の裏にいつまでもとどめ続けることを決心し、春琴の思いに応えた佐助。

    「お師匠さま、私はめしい(盲目)になりました」

    そう告げた佐助に対し、「それはほんとうか」と言ったきり押し黙る春琴。この間、春琴には様々な思いが駆けめぐったと思います。佐助を盲目に至らしめたことへの罪悪感や懺悔の気持ち、その一方で愛する佐助に自分の醜い顔を見られずにすむという安堵感。

    この物語の最大の見せ所が、この無言の数分間にあると思います、鳥肌ものです。

  • 簡単に言えばマゾヒスト文学。

    全盲で琴の達人で、超美人だけどめっちゃわがままの春琴先生に、弟子の佐助がいじわるされたりぶたれたりしながらも愛を捧げる話。

    佐助と春琴さんの恋愛は少し倒錯してますが、描かれた人間の弱さや佐助の忠義が美しく、読んでいて気持ちいいです。

    次は刺青かな。

  • 再読。

    盲目の美女春琴と、彼女を敬愛する丁稚であり弟子、佐助。
    春琴の美と性質が此れ程際立つのは、佐助という「盲目的信者」のお陰である。

    春琴もまた、その存在がいて己が成り立つことを本能的に悟っている。
    女であることを感じ、盲目という弱みを美に換えてゆく狡さを持ちながら、月日という抗い難い流れの中で「自身」を見つめることはきっと恐怖であっただろう。

    利太郎の復讐は、神が二度目に与えた罰であったのかもしれないが、結果的に春琴は恐怖から脱することが出来たのではないだろうか。

    終始、地味な存在である佐助だが、彼女を救うという点で誰にも真似の出来ない立ち位置を築く。
    ただ、それが非常なマゾヒズムを伴うところに谷崎イズムが感じられて素敵だと思うのだ。

    恋や愛は、純であることよりも歪であることの方が色香を伴う。

    その中で、雲雀だけが爽やかに見え。
    歪の中にある、純を感じさせてくれる。

  • 恋は人を盲目にするという
    谷崎潤一郎は恋を芝居に例え、芝居には筋書きが必要であると論じた
    そして、すぐれた筋書きもまた、人を盲目にするものだ

    「春琴抄」は、春琴という女の「美しさ」を永遠とするために
    自ら目を潰す男の物語
    春琴は、その行為を知って始めて「うれしい」ともらす
    とてつもないツンデレだ
    このような小説が、男尊女卑はなはだしき昭和8年の軍国日本において
    キワモノ以上の扱いを受けることはなかったであろう
    しかし、これを天皇と日本男児の関係性に置き換えることは容易だ
    ちなみに
    明治時代以前において、天皇の顔を見ることはタブー視されていたらしい
    やはりこういったところに
    芥川龍之介の予知した「不安」の正体を見出すことができるのである
    谷崎と芥川は、小説における筋書きの価値をめぐって論争を展開していたのだ

  • 高校の図書室で見つけた。今思えば、教科書以外で初めて読んだ古典文学だったかも。
    薄くてこれなら自分でも読めそう、という不純な動機ではあったけど、いざ読んでみたらものすごかった。SM小説だよこれ!
    相手の欠点が自分の悦びに昇華されるなんて、まあ愛の形としては究極なのかもしれませんが。

  • 谷崎潤一郎の小説の中で最も好きな作品。切なく美しい。情景が目に浮かんでくるようです。傑作としか言いようがないと思います。

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著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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