- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101006512
作品紹介・あらすじ
高校卒業後、大阪から上京し劇団を旗揚げした永田と、大学生の沙希。それぞれ夢を抱いてやってきた東京で出会った。公演は酷評の嵐で劇団員にも見放され、ままならない日々を送る永田にとって、自分の才能を一心に信じてくれる、沙希の笑顔だけが救いだった──。理想と現実の狭間でもがきながら、かけがえのない誰かを思う、不器用な恋の物語。芥川賞『火花』より先に着手した著者の小説的原点。
感想・レビュー・書評
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初又吉直樹さん。
色眼鏡はよくないが、お笑い芸人だからか、どうしても食指が動かない作家さんだった。
この本は、うちの奥さんが映画化につられて購入したものの、文体があわなくて挫折して転がっていたのを居間で拾ったので読んでみた。
劇団を主宰する永田と青森から上京した大学生沙希の恋愛を描いた小説。
主人公の永田ははっきり言ってクズ。これだけクズな主人公も珍しい。クズっぷりを正当化して、あるいは、虚勢を張って、どんどんややこしくなった感じ。しかもヒモだ。ずっと感情移入できずに読み進める。
永田の劇団は全くパッとしないが、何故か沙希は永田の才能を信じている。大学卒業後はしっかりと
働いて永田を養う。永田はめんどくさい人間だし、腹立たしいくらい自分本位なのに、沙希はよくこんな奴に寄り添おうと頑張るなぁ。そんなに耐えてばかりで沙希は大丈夫かな?と心配していたら、やっぱりどんどんどんどんおかしくなっていく。
ぼろぼろになりながらも、なぜ沙希は永田と一緒にいたのか?それは沙希が東京という夢を諦めたくなかったからだ。沙希は女優になる夢を抱いて上京したが挫折。そんな折、永田に出会った。女優は諦めたが、永田を愛し応援すれば夢をあきらめずにすむ。東京に居続ける理由になる。
だから、沙希が東京を去ることを決めたということは、永田を見限ったということ。永田と復縁することは永遠にありえない。永田は気づいていたのか、気づいていないのかわからないが、二人の将来を一人で話し続ける…このシーンがたまらなく哀しい。
泣いた。
最後の最後ではじめて永田に感情移入する。
クズなんだけど、よく考えると同じようなクズさは自分も持っている。もちろん程度の差はあるけれど。
この小説は、同棲する男女を描いた小説なのに性描写が一切ない。少し不自然とも思ったが、又吉さんの意地でも性愛は書かない、という強い意志を感じた。
冒頭の30ページくらい、永田と沙希の出会いの場面は非常に文学的でとっつきづらい。
それを乗り越えると格段に読みやすくなるので諦めてはだめです。
読み終えての又吉さんの小説の感想は、けっこう好き。
芥川賞受賞「火花」作も読んでみたい、と思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
かけがえのない誰かを想う、不器用な恋の物語。
演劇の夢を追い続ける永田と大学生の沙希が、それぞれ夢を抱いてやってきた東京で出会い惹かれ合う。しかし、永田はどうしようもない男で、無垢で献身的な沙希は振り回されてしまう。
客観的にみると、どうしようもない男とそれに引っかかった女、なのかもしれない。しかし、どうしてだろう。人間の欠点をここまでさらけ出されると、不思議と応援したくなってしまう。私自身も欠点だらけの人間だからなんだろうな。
好きとか愛してるなんて言葉は全く出てこないが、永田の沙希への愛情は確かにあった。冗談ばかり言っていたが、すべてが彼なりの愛情表現であったのだと思う。
もし永田と出会わなかったら、沙希はこんな辛い思いをしなくて済んだのではないか、もっと幸せな時間を送れたのではないか。
"後悔"という言葉が頭によぎり悶々としながら読んでいたが、永田だけでなく沙希も悩みや葛藤を抱えており、実は互いに救いあっていたんだと知ったとき、二人は出会えて良かったんだと思えた。 -
数年前、「火花」で芥川賞を受賞したことで、小説家デビューした又吉さんの作品を初めて読みました。
あらすじを読んで、普段自分が読まない系統の本なとは思いましたが、友達が熱烈にオススメしてくれたので、読みました。友達曰く「冒頭の文章が本当にいいんだよ」との事で、楽しみにしておりました。『まぶたは薄い皮膚でしかないはずなのに、風景が透けて見えたことはまだない』(本文より)。友達の言った通り、冒頭のこの文だけで、「お、面白そう」ってなりました。
実際読み進めていくと、まず又吉さんの文章力に驚かされました。自分が聞いたことのある語彙ばかりなのに、その使い方も面白かったですし、ある物事を表現したり説明したりする時の日本語もユーモラスがあって好きでした。
ストーリーに関する感想としては、上手く言葉がまとまらないと言うのが本音です。人は自分で経験したことでしか物事を評価できないとはよく聞きますが、本当にその通りで、今まで読んできた小説たちのどれとも同じジャンルに分類できなさそうで、私の今までの読書経験だけでは感想を語るのが難しいです。
割と少ないページ数なので、体感は短かったですが、作中の人物たちは長い年月を共にしており、それに伴うそれぞれの変化によりすれ違うことも物語が進むにつれて、増えていきました。最後の場面は丸くおさまったとは個人的には言いきれないような気もしますが、沙希ちゃんの未来のためにも永田の決断で良かったのかなと思います。
永田は確かにクズなヒモでしたが、彼なりに沙希ちゃんを大切に、かけがえの無い存在に思っていたとも思います。
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主人公に感情移入できないまま読み進めていたら、最後にやられた。
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又吉さんの作品は話題すぎて正直読むのを躊躇っていたので今回初めて読んだ。初めは核心の周りをうろうろしてるような文章で、文体が独特かなと思っていたけれど、読み進めていくと読みやすく、とにかく面白かった。又吉さんすごい。ここ最近読んだ中で一番面白い。
演劇が題材だが、内容は純愛小説。
誰もが自分の恋愛に置き換えて読んでしまうのではないかと思うようなリアリティ。言葉にできなかった不器用な気持ちたちをちゃんと掬い上げて、描写しているのがすごい。登場人物たちの剥き出しの気持ちが活字でそのまま伝わってくる、だからこそ胸を抉られるし、救われる。ものすごい人間味が描かれてるなと思った。
永田はクズだなーと思うし、どうしようもなく不器用な二人だけど、だからこそ愛おしい。あんな恋愛、もう二度とできないなあって、、、!文中に沢山出てくる二人のアホな会話がほんとに切なくて、面白くて、愛しくて、、
永田が哲学的で時々ロマンティックなのは、又吉さんの人間性なのかな、すごく好きな言葉が沢山見つかった。色んな気持ちにさせてくれる本。
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一行目を読んですぐ、一瞬で惹き込まれ絶対好きだと感じた。あとがきにもこの冒頭のことを筆者自身が記しているが読み終えてからも改めてこの冒頭がかなり秀逸に感じた。
若い男女が出会い、間もなく共に暮らし始める。
時の移り変わり、時代の変化とともに初めはくすぐったい煌めきのように思われた二人の関係にもよくある話だか影が差し、変化していく。
あるタイミングから一気にストーリーは加速し、どんどん先に読み進めたい気持ちと裏腹に、この物語がまだまだ終わって欲しくないという祈るような気持ちに変わる。
全く別の性格を持つそれぞれの究極の純粋さが二人を追い詰め、まるで追い越して行くような描写はいかにもドロドロしているのに鮮やかに胸に迫り、あまりにも不器用な、それでいて必死な愛情に切なく涙がでる。
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以下ほんのりネタバレかも。
愛憎や嫉妬や焦りといった感情の表現が生々しくひりひりする。
野原や青山の言うことなんて本当にもっともで共感しかないんだけど全然それに気づかない永田のクセ強さはなかなか。
沙希ちゃんの優しさは宇宙規模。
永田のクズさはそれを凌駕する。
中途半端な知識で武装してむちゃくちゃ言って後で後悔するもそんなに沙希ちゃん以外は誰もダメージ受けないくらいのクズ。
バーの棚に並ぶ酒の名前から、ズブロッカは、ブラックブッシュは、ラフロイグは、ジョニーウォーカーは、とそれぞれを殺し屋に例えどんな殺し方をするかのシーンで、沙希ちゃんが1番強そうなお酒を伝えたところ好き。
永田と青山のメールでの喧嘩はなかなか面白い。
ずっと映画を見たいと思っていた矢先に、公開時に、コロナが重なりました。
けどこれは観ないといけないな。 -
永田の像は、若い頃の又吉さんが浮かんだ。又吉さんはあとがきで、劇団員に話を聞いてその純粋さに感銘を受け劇作家のことを書いてみたくなったと述べていたけれど、どう考えても主人公は又吉さんだったなぁ。『人間』の永山という人物にもとても似ている。永山も又吉さんだった。一気読みした『火花』は内容を覚えていない。でも芸人が主人公だし、こちらも又吉さんだと思う。
人間関係において不器用、プライドが高く頑固さもあり、自意識が過ぎる。ひとかどの者になりたいしなれると思っている。自分というものを客観的に分析できるわりには悪いところを変えようとしない。繊細で優しいのにそれを隠すかのようにおちゃらけたり怒ったりする。ひとことで言えば、気難しい奴。そんな、ちょっと人からは避けられがちな人を描くのが、又吉さんはお得意だと思う。ほとんど独白のような綴り方で自分自身を描けばいいのだから。
昏さの中にじわじわくる笑いがあったり、喩えが、伝わらなさそうで伝わるようなものが多くて、この人文章うまいなぁと素直に感心するところが多い。沙希と永田の最後の劇は、こみあげるものがあった。好きという気持ちがなければ出来ないのも恋愛だし、好きという気持ちだけでは続かないのも恋愛。又吉さんの人柄あふれる物語であると同時に、至高の恋物語でもあって、これは素直に読んでよかった。 -
又吉直樹『劇場』新潮文庫。
芥川賞を受賞した『火花』は面白く、深みがあったが、この『劇場』は色々詰め込んだ割には平坦で印象の薄い純文学風青春小説という感じだった。
冒頭の純文学風の文章が最後まで続くのかと思うと途中から又吉直樹の得意テーマが度々登場し、漫才のネタになりそうな軽いギャグも描かれ、どうしても軽薄な印象だけが残る。しかし、ストーリーはどこまでも平坦なまま結末を迎えてしまう。
大阪から上京し劇団を旗揚げした主人公の永田と大学生の沙希の友情のような恋愛のような青春が描かれる。
本体価格490円
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2020/03/10
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2020/03/10
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