雁 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101020013

感想・レビュー・書評

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  • 旦那と妾奉公という古典的な状況設定の中に、人智のむなしさを込めた中編秀作。物語るようなわかりやすい文体の中に当て漢字の多用と、英語・フランス語といった外国語を織り交ぜるという鴎外ならではの、明治の香り高い文章になっている。
    物語は高利貸しの末造一家、妾奉公することになったお玉一家、そして、学生岡田と「僕」周辺の大きく3つに分かれるが、特に末造と女房、お玉と高齢の父親の心情描写が優れていて面白かった。
    才覚に優れた末造の思いに反し、しだいに別心するお玉。そして制御不能な女房。お玉は時を経ず図太くなって、学生岡田と心を通わせていく。そして、あの日あの時に投じられた思いがけない一球に全てが収斂していく。書名は人の思惑とは裏腹に状況が進展していく象徴なのですね。

  • 個人的に非常に好みだった。末蔵の妻と妾に対する二面性やお玉の自我の芽生などが印象的であった。自我の芽生によってお玉は末蔵に対してのあしらい方を覚え、学生岡田に対する思慕を募らせる。岡田も満更ではないようであるが、何も起こることはなく2人は他人のまま終わるのである。この結末から鴎外が小説をロマンティックな展開を乗せつつあくまで現実に寄せていく、平凡に終わるように仕向けていると考えることができる。小説とはフィクションとノンフィクションを混ぜることで面白さが見えるからだろうか。

    視点が岡田やお玉、末蔵ではなく岡田の友人の視点で語られることも非常に面白い。物語をただ当事者に語らせるのではなくなんらかを通して読者に伝えることで物語に深みが生まれる。今回はそれが岡田の友人だったのだろう。また、恋愛事情を第三者から見ることで、盲目ではないクリアーな描写ができているのではないか。最後のお玉の様子などは、又聞きしたものではなく、友人本人が見た様子である。こういった細かな描写が小説を作っているのだろう。

  • 「雁」というタイトルからは想像もできない内容でした。
    主に男性の側から描かれた小説ですが、多くの女性が感銘を受けたのではないでしょうか。
    この本の面白さは、妾の娘、高利貸しの旦那、旦那の妻、医大生の相反する男女4人の、対比にあると思います。
    はじめは光と影のようにまったく交わることのないように思われた4人ですが、次第にの境界線はぼやけはじめます。

    わたしたちは気づかないうちに幻想を抱き、先入観で忌み嫌い、よく知りもしないのにあたかも知っているかのようにふるまっているものなのだと感じました。

    明治の粋や、ゆっくりした時間の流れを楽しむのもいいと思います。
    大人の女性におすすめの本です。

  • まだ子供の頃に「よろめきドラマ」なる言葉があって大人が使っていた記憶がある。
    今ならば「不倫物」というような意味だろう。
    森鴎外という文豪の作品に果たして「よろめき物」というジャンルを当てはめて良いものかと
    思いながらもその思いは拭えず読み進んだ。
    男親の暮らしのために大学の寄宿舎の小使い上がりの高利貸し末造の囲い者になったお玉が大学生の岡田に想いを寄せ、なんとかその想いを伝えたいと焦る。
    これだけを取り出せば「よろめきドラマ」としても成り立ちそうな気配。

    その気配を打ち消すのはやはり岡田の放った石で命を奪われた一羽の雁の出現だろう。
    あれは何を意味するのか。

  • 舞姫から鴎外先生への印象が悪なので、今まで読んでこなかったけど、ここにも舞姫的なものが潜む。

    冒頭で美男の岡田はもうこの世にいない印象を与えつつ、終盤で「あ、なんも起こんないのね」とわかる。

    たとえ小説でも泥沼にする必要もないと納得させる鴎外先生は全く持ってなんちゅうか・・・。
    先生、ドイツから女性に押し寄せられただけのことあるわ。

    雁もお玉も仕留める気はなかったのにーと岡田の本音が聞こえてきそう。結局、男も女も中身より外見に惹かれ痛い目に遭うのだが、これは傷が浅い、ひとり芝居に登場人物たちが身悶える。

    途中の呑気に円錐の堆積を講釈し始める場面では「あ~、男って結局、こういうことの方が楽しくなっちゃうんだよね~」と思った。
    その人を小ばかにした態度は女の気持ちと全くかみ合わない≠1/3r2πh。
    数字には執着あっても女の気持ちには鈍感でいられる。男女の脳内の違いを表した感じ?

    微に入り細を穿つ表現はなるほど!と納得させる公式みたいに理路整然としてて、なるほどねー。理系な文章だわ~と思った。

  • 主人公のお玉の自我の目覚めと落胆が見事に描かれていたが、末造の妻の嫉妬にもだえる姿の描写も見事だった。

  •  

  • テレビで主人公岡田が歩いた散歩道を再現していたのを見て、手にとってみました。名作ですが、読んだことなかったんだな。
    こういう恋っていいなぁ、って思う。美しい。しかし、ハッピーエンドではないんです。
    ただ、やたら地名が出てくるのですが、イマイチ映像化できない。横文字も多用していますが、はやりだったのかな。

  • 森鴎外と聞くと、文豪という印象が強すぎて手が伸びにくかったのだけど、いざ読んでみるとスラスラと読めて面白い。明治13年の話なんだけど、文体も古くない。美少年の大学生と高利貸の妾がひょんなとこから知り合いになって、微妙な空気を作って、でも距離は縮まらず。最終的に青魚、友達、投げた石、雁と様々な要素がおりなって、二人は一生離れ離れになる。伏線もあったり、頭で映像化しやすい小説でした。

  • ちょうど100年前の小説とは思えない程リアリティが溢れてる!
    末造とその正妻とのやり取りに代表されるように人間味豊かな場面が多い。
    明治期の東京の風俗が手に取るように分かるのも興味深いね・・・!

著者プロフィール

森鷗外(1862~1922)
小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医。本名は森林太郎。明治中期から大正期にかけて活躍し、近代日本文学において、夏目漱石とともに双璧を成す。代表作は『舞姫』『雁』『阿部一族』など。『高瀬舟』は今も教科書で親しまれている後期の傑作で、そのテーマ性は現在に通じている。『最後の一句』『山椒大夫』も歴史に取材しながら、近代小説の相貌を持つ。

「2022年 『大活字本 高瀬舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

森鴎外の作品

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