豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101050232

感想・レビュー・書評

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  • 東ティモールにいた頃にこの本を読んだ記憶があって、タイの描写はとてもよくわかったのだけれど、インド紀行と阿頼耶識のくだりはいずれゆっくり読もうと飛ばしたのを思い出した。できるだけゆっくり読んだけどやっぱり意味不明だった。後半はちょっと間違うとエロ小説になってしまうところを力でねじ伏せたような感じだった。

  • 三島由紀夫の長編小説『豊饒の海』全4作の3作目の作品。
    一作目では不器用さ故に悲劇の恋愛ドラマを生み出してしまった松枝清顕、二作目では純粋な青年の暴走の末に命を絶った飯沼勲が中心人物でした。
    三作目ではシャムの王女・月光姫(ジン・ジャン)がそのポジションとなります。

    一作目で清顕と親交のあったシャムの王子と共にバンコクに来た本多は、自身が日本人の生まれ変わりだと主張する7歳の王女ジン・ジャンに出会います。
    ジン・ジャンは本多に会うと懐かしがり、自分は清顕と勲の生まれ変わりだと言います。
    彼らしか知り得ない情報も言い当て、生まれ変わりだということが明らかでしたが、彼女の脇腹にはほくろがありませんでした。
    そして、ジン・ジャンと分かれた本多は輪廻転生の研究に没頭します。
    本作は二部構成になっていて、第一部はタイ仏教の考え、輪廻転生、唯識論についての内容がメインです。
    ストーリーの進捗はなく、哲学書でも読んでいるような文章が並び、読むのがかなりきつかったです。
    事前知識があるか、元々興味がある方には良いのかもしれないですが、理解が難しく、一応読んだはずですが、頭に何も残らなかったというのが正直なところです。

    ただ、ここで書かれる思想体系は、"豊饒の海"という物語の根幹だと思います。
    大乗仏教の唯識論で語られる唯識論とは視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に意識を加えた六種の識、それに潜在的に存在する末那識、さらにその根本に阿頼耶識という識があり、本書ではこの阿頼耶識こそが輪廻転生の主体であるとしています。
    インド仏教には業(カルマ)という考えがあり、業=行いによって、因果が生じるとしていると、私は認識をしています。
    大抵の宗教では、業が不滅の魂に堆積し、因果によって魂に残留し続けると考えるのですが(多分)、本書では阿頼耶識こそがそうであるとしているように思います。
    その思想に至る道筋が読んでも眠気に阻まれ理解に至らず、もう少し噛み砕いた解説が聞きたいと思いました。

    第一部はそんな感じですが、第二部はストーリーの進展が主になります。
    月日が流れて18歳になったジン・ジャンは、日本に留学してくるのですが、官能的に成長した彼女に本多は恋心を抱いてしまいます。
    彼女の裸体を見るためには、自分が直接彼女を抱くよりも、人為的な媒介が必要だと考え、本多の友人の伝手から軽薄な青年「志村克己」を紹介され、本多の代わりにジン・ジャンを口説いてもらいます。
    ある晩、覗き穴からジン・ジャンの部屋を除き克己の現れるのを待った本多は、ジン・ジャンの脇腹に3つのほくろを認めるという、やや気持ち悪い展開になります。
    ジン・ジャンの豊満な胸部、白い水着に映える褐色の肌の描写があり、クライマックスでは本多とその妻の梨枝による、ジン・ジャンの部屋除き大会が繰り広げられるので、一部の難解な内容とはガラリと変わって、俗っぽい印象となります。
    二部から読みやすくはなりましたが、終わり方も唐突で疑問符が浮かびます。
    豊饒の海全体を通すと重要な一作だと思うのですが、二部の展開は賛否があると思います。

  • 再読。豊饒の海の終わりから2番目。「天人五衰」の後が三島の念頭にあったからか話の展開が前2作より急いてバタバタとしている。
    さて、ここに来てはっちゃける優等生本多君。「春の雪」の時からは想像もつかぬ性癖を披露し始めて、草葉の陰で清顕もドン引きやろ、と読んでいてやや心配にすらなる。
    割と大衆小説的なノリもあって、澁澤を戯画化した今西書いてるときはやたら楽しそうで、楽しさ余ってかバーベキューにされてしまう澁澤龍彦もとい今西。
    そして今回も繰り広げられる恒例の皿屋敷タイム。ちらちらと感じるラスボス聡子の気配。

    全ては儘ならず、堕落していくことの無常さ。清顕の転生であるジン・ジャンは清顕の美しさの片鱗すら顕すことなく、猥雑さを揺蕩い本多の元を去っていく。本多含め今までの美しいものたちが腐敗臭を放ち混沌に崩れ落ちていく。唯一の美しさはジン・ジャンの死のみ。

  • 輪廻転生の子、ジン・ジャン、あまりにも悲しすぎる、淡い生、性。

  • 輪廻転生をモチーフとした”豊穣の海”の第3巻。起承転結でいうところの”転”にあたるかの如く、前2巻とは大きく異なった世界が示されている。

    前2巻ではいずれも20歳そこそこの青年が輪廻転生の対象であったが、第3巻でその役目を担うのはタイの少女である。第1巻に登場したタイ王朝の王子たちは実はこの伏線であり、舞台もタイやインドなどにも展じつつ、物語がドライブしていく。

  • 硬派な本多さんが結構好きだったのに、覗き魔でロリコンかよとちょっと興醒め。
    ジン・ジャンがちょっとイラッとする。

  • 主人公の本多は47歳。もう若い力は残っていない。そんな折タイで「自分は日本人の生まれ変わりだ」という幼い姫に出会う。その姫に惹かれていく本多を描く。本多のタイ・インドでの体験と輪廻の話も出ており、これまでのそしてこれからの輪廻転生の物語を考える上で重要な部分のよう。ただ前の巻よりは劇的ではなかった。

  • 再読。昭和16年、47歳になった本多は仕事で赴いたタイ(シャム)で、かつて日本に留学していた王子の末娘ジン・ジャンが、勲の生まれ変わりであることを知る。今までとちょっと違うのは、この時点で7歳の月光姫が自分の前世の記憶を持っていること。

    このタイ、インド旅行のくだりは三島自身の旅行記のようでもあり、詳細な描写は興味深いけれど小説の内容とは直接関係のない無駄な部分も多い。さらに、この四部作全体のテーマに関わることとはいえ、大乗・小乗仏教、ヒンズー教、インド神話、マヌ法典からオルフェウスやディオニュソスにいたるまで、本多のモノローグを借りた三島自身の知識の博覧会のような部分も長々とあり、いささか退屈。アラヤシキとかもういいよー。

    さらにその11年後、昭和27年、本多は58才。18歳になったジン・ジャンが留学生として日本にやってくるが、すでに彼女は前世の記憶を失っている。すでに老年にさしかかっているが本多はジン・ジャンに恋をする。しかしロリコンな上に覗き趣味の本多は自分の恋が成就しない決定的な瞬間を覗き見してしまい・・・。

    輪廻転生、これが「海のオーロラ」(里中満智子)のような少女マンガであれば、引き裂かれた恋人たちが何度も生まれ変わって悲恋を繰り広げるところだけれど、三島の描く転生者たちは生まれ変わるたびに違う相手に恋をする。清顕は聡子のために死ぬけれど生まれ変わった勲は聡子のことなど知らず槇子に恋するし、その転生であるジン・ジャンは槇子とも会っているけれど何の感慨も催さず別の人物に恋をする。本多はすべてを見ているけれど、ジン・ジャンはけして本多には恋しない。

    「この世には、記憶に留められる者と、記憶を留める者と、二種類の役割しかない(P188)」というくだりがありますが、 自らを「客観性の病気」と自認する本多は間違いなく記憶を留める側であり、傍観者である彼が覗き趣味になるのはある意味自然ななりゆきかも。本多という人物には明らかに三島自身が投影されているけれど、にも関わらず、いや、だからこそ、三島自身は「記憶に留められる」側にいきたくてもがいていたのかもしれないと思う。

  • 暁の寺。始まり方が前の2作品とは違った印象を受けた。本多さんが輪廻について色々と考察するのは興味深い。「柘榴の国」について語る今西氏の考えになるほどと思った。ジャン姫が美しい。慶子さんがかっこいい。まさか真面目一筋だと思っていた本多さんにこんな趣味が。覗きのシーンはこちらまで後ろめたさが。

  • 1・2巻から続いて興味深いのは序章あたり、夢と転生。どうしてここで欲望の話になるのか、終わりの巻でどうなってしまうのか分からなくなった。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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