忘却の河 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 66
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101115023

感想・レビュー・書評

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  • 高校生の時に出会って情景を気にいってしまい購入した。話の起伏としては普通だが印象的な描写が多く、お気に入り。

  • 4.09/604
    内容(「BOOK」データベースより)
    『「忘却」。それは「死」と「眠り」の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという―。過去の事件に深くとらわれる中年男、彼の長女、次女、病床にある妻、若い男、それぞれの独白。愛の挫折とその不在に悩み、孤独な魂を抱えて救いを希求する彼らの葛藤を描いて、『草の花』とともに読み継がれてきた傑作長編。池澤夏樹氏の解説エッセイを収録。』

    【目次】
    一章 忘却の河
    二章 煙塵
    三章 舞台
    四章 夢の通い路
    五章 硝子の城
    六章 喪中の人
    七章 賽の河原
    初版後記
    解説:篠田一士
    今、『忘却の河』を読む:池澤夏樹


    冒頭
    『私がこれを書くのは私がこの部屋にいるからであり、ここにいて私が何かを発見したからである。その発見したものが何であるか、私の過去であるか、私の生きかたであるか、私の運命であるか、それは私には分からない。』


    『忘却の河』
    著者:福永 武彦(ふくなが たけひこ)
    出版社 ‏: ‎新潮社
    文庫 ‏: ‎368ページ

  • 扉にこうある。

    レーテー。「忘却」の意。エリスの娘。タナトス(死)とヒュプノス(眠り)の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという。
    「ギリシャ 神話辞典」

    これでこのタイトル。それはもう。
    四つに組んで読みましょう。

  • 絶版になったと聞いて、散々捜し求め、やっと入手した本。
    以前「草の花」を読んだ時、ひどく落ち込んだ気分になったので
    恐る恐る最初のページをめくった。
    前作からなんと10年の月日を隔てた288pに及ぶ長編とあって、
    文体もかなり現代に近く、読みやすかった。(しかも回りくどくなくね(笑))
    著者の想いが伝わってきて、不思議とすらすらと一気に読めた。

    藤代家の四人の家族と、周囲の人々のそれぞれの心の動きが
    一編ずつ綴られていて、そのあまりにも切ない感情が、読んでいて
    ひどく辛かった。
    主となる登場人物に、「彼」と「僕」、「彼女」と「私」
    という微妙な隔たりがあるが、それを行き来するうちに、だんだんとそれらが融合されて
    違和感なく一体化する。そんな不思議な文章だった。

    藤代氏は過去の罪の深さに押しつぶされながら、生きてきた、いや、
    生きながら死んでいたんじゃないかな。
    そして妻の死後、自分の子供を身篭ったまま何も言わずに自殺した
    最愛の彼女の古里へ行き、そこで冷たい河原の石を拾う。
    彼はそして、彼の罪を捨てるため、彼女の許しを得るため、過去と別れを告げるために
    その石を、掘割へ捨てたんじゃないかと私は思う。

    誰の心にもある、誰にもいえない罪。
    彼らの幸せはどこにあったんだろう。
    おそらく、日々の何気ないところに「幸せ」はあったのかもしれない。
    ただ、それを彼らは幸せと感じていたかどうか・・・。
    過去のどこで、どうしていれば幸せになっていたのだろう。

    著者は後に、クリスチャンとなり、洗礼を受けたらしいが、
    人はやはり、「許し」を得たいものなのだろう。

    三浦綾子とよく似ている人のようだ。(2003.1.22)

  • 「草の花」よりもこちらの方が好き。この文体は本当に懐かしい。最近はこういう古い文体の作品が失われてしまった。登場人物がみな苦悩、悩み、孤独、暗い過去を抱え、どこにも出口が無く哀しい気持ちになるが、それまでバラバラだった歯車がぴたりとはまって回りだすように、最後に心温まる結末で結ばれる。読了後の幸せな気分と言ったら。登場人物同士の会話に「 」をつけないので読みづらいという声もあるようだが、その技法がまた想像力を刺激し、読者をより深く物語へ入り込ませる。共感できる部分が多々。著者の人間に対する優しい眼差しを感じるこの作品に出合えてよかった。おすすめして下さった方に多謝。

  • 再読。例えば生と死、愛と憎しみ、過去と現在、罪と贖い‥とかアンビバレントで最もらしい御託を並べて感想を述べるのは簡単だが、そんな簡単なものであるはずは絶対にないので言葉に詰まる。章ごとに人称が変わり視点が動く構成の力にぐいぐい引き付けられながら、流れの中に自分も忘却の彼方に蓄積された澱みを思い起こさずにいられなかった。池澤夏樹の言葉を借りよう。〈魂としての人間〉。全ての外皮を削ぎ落とした剥き出しの魂にだって穢れは残る。救いがあるのかどうか私にはわからない。それでも生まれてきてしまった。全うするしかない。

  • ストーリーだけの小説なんて読み返したくなるわけないですが、 この本は、人生であと4回は読み返したくなるでしょう。 思想がいい。哲学がいい。表現がいい。切り込み方がいい。

  • 『草の花』が有名ですが、私はこちらの作品の方がすきです。
    とても古い本だし、時代背景もうんと昔なのですが、共感するところがたくさんあります。男性作家なのに、女性の感情がここまで表現できる人は最近みかけません。もの静かな文面なのに心が揺さぶられます。間違いなく私の好きな本ベスト10に入ります。
    廃盤になった本もゼヒ読んでみたい、、、。

  • 私の生涯ベストと言って憚らない小説です。
    ストーリー展開,文章,どれも文句のつけようがありません。
    何度読んでも涙が出ます。
    ずっと絶版でしたが,文庫版が復刊されて,大変嬉しいです。

  • 私にとって完璧な小説です。
    読んでいるときは本当に幸せだった。文体も構成も素晴らしい。


    中小企業の社長である父、寝たきりの妻、家事を行う長女、大学生の次女、長女に密かに心を向ける美術講師。
    5人の視点から語られる家族。

    彼らはそれぞれ心に孤独と秘密を抱える。
    なぜ自分は生きて親しい人たちは死んだのか、彼らの心はどこにあったのか、そして自分はどこに心を向けて生きていけばいいのだろう。

    互いにすれ違い分かり合えなくても、それでもふと気が付くこともある。
    そして家族は続く。

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著者プロフィール

1918-79。福岡県生まれ。54年、長編『草の花』により作家としての地位を確立。『ゴーギャンの世界』で毎日出版文化賞、『死の鳥』で日本文学大賞を受賞。著書に『風土』『冥府』『廃市』『海市』他多数。

「2015年 『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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