高熱隧道 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117034

感想・レビュー・書評

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  • 黒部第3発電所建設のため黒部の渓谷にトンネルを掘る。
    トンネルは温泉の源泉を通り壁の温度は最大165度。
    死者は300人を超える。

    現代のブラック企業もビックリの佐川組。
    正気の沙汰ではない。人を人として扱っていない。
    なんとも恐ろしい時代だ。

  • 序盤に出てくる「おれたちは葬儀屋みてえなもんだ」「遺族のことは決して考えるな」とか、発火事故での「みんな諦めろ。仏ばかりだ」とかには、ドキッとしたが、これが通底するテーマ。
    後半の二度の「泡雪崩」を含む各ハプニングでの、人夫(作業員)らのとまどいをどう納めるか、どう工事を進めさせるかという技師たちの人間模様(たとえばご遺体の取り扱い、あるいは「演技」?までも)が心を打つ。
    あるいはまた、結局遺族らの泣き叫ぶ姿や、追加で見つかった遺体の取り扱い等をめぐり、技師と人夫の関係が崩れていくというのと、一貫した描写だとも思う。

    その他にも、自然との闘い(高熱ぶりや泡雪崩における「専門家」の無力さ)とか、
    「貫通」へのロマンないし熱狂(競争や嗚咽)とか、
    建設事業を進める上で必要な「神経の強さ」等、訴えてくるものは多い。

    泡雪崩の一回目のこと含めて、史実とは異なるフィクションもないわけではない。が、個人的には、曽野綾子の『無名碑』並みに印象に深く残る「土木小説」になりそうである。

  • 「『黒部ルート』2024年に一般開放へ」2018年10月17日発表のこのニュースに触れて、Twitter で @Simon_Sin さんが紹介してくださっていたのがこの「高熱隧道」でした。戦前〜戦中の、土木工事がまだ人力と火薬の発破(はっぱ)で行われていた時代の様子が詳細に描かれていて、大変興味深く読みました。開放されたあかつきには、ぜひ本書を片手に現地を訪れてみたいです。

    自分用メモ:人夫の読みは「にんぷ」。それを取りまとめるのは、人夫頭「にんぷがしら」。ふりがなが見当たらなかったので。

  • 黒部第三発電所建設のために岩盤温度最高165度を超える地熱の中、隧道を掘る極限の中での苦闘を描く。夏に読む本です。

  • ヒリヒリする読了感。
    プロジェクトXみたいなものかと思ったら
    淡々とした筆致で過酷さや非情さを浮彫にしていた。

  • 年代的には逆になってしまうが、「黒部の太陽」に続き本書を通読した。
    こちらは、日本が第2次世界大戦に向かおうとしていた時に計画された、黒部川第三ダム建設にまつわる記録小説になっている。
    「黒部の太陽」よりはフィクションの度合いが高められているが、骨子となっている灼熱地獄との戦いは無論事実に基づいているため、まるでノンフィクションを読んでいるかのような錯覚に陥る。
    「黒部の太陽」の時は水、そして今作における敵は熱。
    絶望的な状況の中で、任務を完遂すべく、そして自らの命を守るべく創意工夫を重ねる人間の知恵には本当に頭が下がる。

    軍が政を司り、全体主義という思想が無条件に人々を支配していた時代。
    現代に生きる我々からは想像がつかないぐらいに、人間の命というものがいかに軽んじられていたか。
    "高熱隧道"との死闘を描きながら、著者の吉村昭氏は徹底的にそのことを暴き出している。
    特に物語の終盤で露わになってくる技師と工夫との関係性は、当時の国家権力と市井の人々とのそれをなぞらえているように見えるし、結末における技師たちの敗走は、無謀な戦争を主導した軍政のそれを示しているとも考えられる。

    自然や動物との対峙を通じて人間の業を描き切る、という点において、氏の他作同様に、著者の真骨頂が見事に著されている作品。

  • かつて物見遊山で訪ねた黒部峡谷がこんな過酷な工事の舞台だったとは!しかも黒4ダム建設の話かと思ったら、もう少し昔の黒部第三発電所の方でした。

    吉村昭は初読ですが、淡々と克明な記述が良いですね。読後感は新田次郎に近いかな。他の作品も当たってみようと思う。

  • 黒部第三発電所というところの工事であった出来事を元に書かれた、いわゆる記録小説です。

    序盤からガンガン作業員の方たちが死んでいくのに、余裕で工事が続けられる様にはもはや狂気しか感じません。
    日本やべー、ってなるので、今自分がブラック企業に勤めていて大変。死にたい。という人は一度読んでみてください。マジ恵まれてるからね君ら。そして僕も。生まれてきた意味を知るRPG。

  • 富山県と関西電力の共催の「黒部ルート公募見学会」に応募し抽選で当たり、9月末に見学しました。
    その見学ルートの途中に「高熱隧道」があり、そのトンネル工事の過酷さを知り、この本を手にした次第です。この見学会は以下のブログを参照して下さい。
    http://blogs.yahoo.co.jp/zoh3nopc/39420621.html

    昭和11年から始まった黒部第3発電所建設工事の内の第1工区の阿曽原谷トンネル工事の1年4ケ月の自然と人間の戦いをテーマにした小説・・・というより過酷な現場の記録である。

    工事全体では300人以上の犠牲者が出ており、そのうちの200人以上の犠牲者がこの工区に集中している。
    小説前半の山場は、阿曽原~仙人谷の掘削工事で、掘れば掘るほど岩盤の温度が上がり、約500mに渡り岩盤温度が160℃以上の箇所があり、工事は掘削する人に後ろから水を掛けながらの修羅場で、火傷や爆薬の自然発火があり多くの犠牲者が出る。
    さらに、後半の山場となるのが、過去に日本では経験したこともない「泡(ほう)雪崩」と呼ばれる雪崩の衝撃波で、コンクリートの工事宿舎が川の対岸まで吹き飛ばされる。
    富山県や警察は工事の中止命令を出すが、軍や中央官庁の圧力で工事は再開し、犠牲者はさらに増えていく。
    この工事再開の背景には日華事変や太平洋戦争に向かっていく戦時体制に組み込まれた電力エネルギーの確保という問題が大きく影響している。
    作者は、イデオロギー的な表現を一切避け、この過酷な現場での監督者や労働者の姿を淡々と描くことにより、よりリアルさを浮かび上がらせている。
    本来なら極限状況を打破した英雄的な行為と、絶え間ざる人智の結晶として賛美の対象となるべき物語は、余りにも悲しい物語として幕を閉じる。
    黒部川のトンネル工事をテーマにしながら戦後の「黒部の太陽」とは全く別世界の物語がここにある。

  • 内容
    本書は黒部第三ダム建設のためのトンネル工事を描いた小説です。トンネルは昭和11年8月着工し、昭和15年11月完工しました。岩盤最高温度165度という通常では考えられない高熱地帯を掘削していきました。雪崩などの自然と闘いながら犠牲者300余名を出し、工事を完成させました。現場職員のトンネル貫通への情熱を描いた作品です。


    感想
    本書を読み、ゼネコン職員は、土木工事で困難に遭遇した時に、その困難を乗り越えるためにはなくてはならない存在であると感じました。本書では、高温な岩盤のため、ダイナマイトを岩盤に装填する時に自然発火してしまうという問題に対し、ダイナマイトに岩盤温度が伝わらないような工夫をすることでその問題を解決したと書かれていました。このような現場で起こっている問題に対し、問題点を分析し、専門家の方と協力しながら問題を解決していくということはゼネコン職員にしかできない仕事であると感じました。私も困難に遭遇した時には、問題を分析して、解決することで困難を乗り越えていきたいと思いました。
    またトンネル工事はダイナマイトの誤爆の危険や落盤の危険など多くの危険があり、安全には大変注意を払わなければならないと感じました。私が就職活動を通じて訪問した現場でも現場職員の方は安全について細心の注意を払っているということを言っておられました。私は将来、安全を何よりも最初に考える技術者になりたいと思いました。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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