大本営が震えた日 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.79
  • (32)
  • (44)
  • (50)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 473
感想 : 43
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117119

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 昭和十六年十二月一日皇居内東一の間で開かれた御前会議において、十二月八日対英米蘭開戦の断を天皇が下してから戦端を開くに至るまでの一週間、陸海空軍第一線部隊の極秘行動のすべてを、事実に基づいて再現してみせた作品。

    8月は意識して先の大戦に関する書籍を手にしてきましたが、そんな私の開戦のイメージは真珠湾への奇襲攻撃。

    それはあくまでも日本が戦争を始めた瞬間であって、奇襲攻撃を仕掛けるにあたり作戦や準備も含め入念に計画され、準備を行なってきたという事実を改めて痛感させられました。

    ハルノートによって開戦一択となったようなイメージをぼんやりと持っていましたが、それはまさに最後通牒でしか無く、軍部ではそれ以前から開戦に向けた準備を行なっていたということなんでしょう。

    そして、無知故に私自身のイメージとして真珠湾(海軍)から始まったと思っていた認識は半分しか当たっておらず、同時並行でマレー半島への奇襲攻撃(陸軍)があったことを知りました。

    真珠湾、ミッドウェイ、レイテ島、特攻、沖縄戦に本土空襲、原爆投下...

    戦時中ではなく、日本が戦争をすると決めた時から開戦までの1週間。

    そこで何が行われ、何を行っていたのか。

    タイトルである「大本営が震えた日」とは、極秘にすすめられてきた開戦に向けた準備の証拠が敵側に渡ったかもしれないという緊張感。

    一部の軍上層部の苦悩を描いた作品。

    最前線で戦った多くの兵士には開戦の直前まで知らされなかった事実。

    そして多くの国民は日本が戦争を始めたことを大本営発表のラジオにて知ることに。

    軍人約230万、民間人約80万もの犠牲者を出した大戦はこのようにして始まった。



    説明
    内容紹介
    開戦を指令した極秘命令書の敵中紛失、南下輸送船団の隠密作戦。太平洋戦争開戦前夜に大本営を震撼させた恐るべき事件の全容――。
    内容(「BOOK」データベースより)
    昭和16年12月1日午後5時すぎ、大本営はDC3型旅客機「上海号」が行方不明になったとの報告を受けて、大恐慌に陥った。機内には12月8日開戦を指令した極秘命令書が積まれており、空路から判断して敵地中国に不時着遭難した可能性が強い。もし、その命令書が敵軍に渡れば、国運を賭した一大奇襲作戦が水泡に帰する。太平洋戦争開戦前夜、大本営を震撼させた、緊迫のドキュメント。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    吉村/昭
    1927(昭和2)年、東京日暮里生れ。学習院大学中退。’66年『星への旅』で太宰治賞を受賞。その後、ドキュメント作品に新境地を拓き、『戦艦武蔵』等で菊池寛賞を受賞。以来、多彩な長編小説を次々に発表。周到な取材と緻密な構成には定評がある。芸術院会員。主な作品に、『破獄』(読売文学賞)、『冷い夏、熱い夏』(毎日芸術賞)、『天狗争乱』(大仏次郎賞)等がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 太平洋戦争勃発前の数日間を詳細な調査によって描き出した著者得意の記録文学。情報秘匿のためには人の死も厭わない軍部の闇、一握りの軍人により企図された奇襲計画...。
    「トラ、トラ、トラ」との高揚感、達成感とは真逆な感情が溢れ出す...。読後の疲労感が半端ない。

  • 吉村昭作品を読むのは、戦艦武蔵についで2作品目になる。
    開戦に至るまでの様々な出来事が緻密かつ丹念な取材で書かれている記録文学の良書。
    作戦の全容は少数の首脳部しか承知していなかったにも関わらず、ここまでの大規模な国家プロジェクトが徹底した企図秘匿の基にすすめられたことは只々驚いた。
    択捉島単冠湾からハワイまで航行し大艦隊で奇襲攻撃するという一か八かの作戦を立てたこと自体、日本が追い込まれていたんだと思う。歴史にタラレバは無意味かもしれないが、奇襲戦法が成功したことは奇跡と言えるが、もし成功してなければ原爆の犠牲者も出なかったかもしれないと思うと複雑。いずれにせよ、戦争ほど悲惨なものはない。

  • 開戦日に向かって、当時の日本の中枢が、右往左往し不安に駆られながら目的達成のために進めていく様が、なんともすごいリアルな感じで、当時の雰囲気を感じ取れた。
    でも、結果、ものすごい犠牲が出てしまうのだが、、
    その犠牲の上に今の日本があることは、忘れてはいけないと思った。

  • 「吉村昭」が太平洋戦争開戦前夜を描いたドキュメント作品『大本営が震えた日』を読みました。

    『戦史の証言者たち』に続き「吉村昭」作品です。

    -----story-------------
    開戦を指令した極秘命令書の敵中紛失、南下輸送船団の隠密作戦。
    太平洋戦争開戦前夜に大本営を震撼させた恐るべき事件の全容――。

    昭和16年12月1日午後5時すぎ、大本営はDC3型旅客機「上海号」が行方不明になったとの報告を受けて、大恐慌に陥った。
    機内には12月8日開戦を指令した極秘命令書が積まれており、空路から判断して敵地中国に不時着遭難した可能性が強い。
    もし、その命令書が敵軍に渡れば、国運を賭した一大奇襲作戦が水泡に帰する。
    太平洋戦争開戦前夜、大本営を震撼させた、緊迫のドキュメント。
    -----------------------

    昭和16年11月から12月8日までの太平洋戦争開戦に関するエピソードを集め以下の構成でドキュメントした作品です。

     ■上海号に乗っていたもの
     ■開戦司令書は敵地に
     ■杉坂少佐の生死
     ■墜落機の中の生存者
     ■意外な友軍の行動
     ■敵地をさまよう二人
     ■斬首された杉坂少佐
     ■イギリス司令部一電文の衝撃
     ■郵船「竜田丸」の非常航海
     ■南方派遣作戦の前夜
     ■開戦前夜の隠密船団
     ■宣戦布告前日の戦闘開始
     ■タイ進駐の賭け
     ■ピブン首相の失踪
     ■失敗した辻参謀の謀略
     ■北辺の隠密艦隊
     ■真珠湾情報蒐集
     ■「新高山登レ一二〇八」
     ■これは演習ではない
     ■あとがき
     ■解説 泉三太郎

    中心となっているのは、昭和16年12月1日に発生した上海号不時着事件、、、

    香港攻略や南方作戦に関する作戦命令書を持った「杉坂共之陸軍少佐」や暗号書を持った「久野寅平陸軍曹長」が搭乗した旅客機「上海号」が中国軍勢力範囲の山岳地帯に不時着し、作戦命令書や暗号書等の軍事機密書類が敵(中国)側に渡るのを恐れた日本軍の行動や「上海号」から脱出した「杉坂少佐」や「久野曹長」の逃避行が描かれています。

    軍事機密書類が敵の手に渡れば、これまで極秘裏に準備を進め、既に後戻りできないところまできているマレー半島上陸作戦、真珠湾奇襲作戦が明らかとなり、緒戦での勝利は覚束なくなることから、大本営を始め、関係者が震撼した事件です。

    ノンフィクションであることを忘れそうになるような冒険小説さながらの展開には驚かされましたね。


    また、太平洋戦争の開戦って、真珠湾攻撃ばかりが注目されがちですが、、、

    本作品では真珠湾に向かった聯合艦隊ばかりではなく、同時に行われた陸軍によるマレー半島への上陸作戦についても詳しく触れられており、

    ○12月7日には、既に戦闘(戦争)が始まっていたことや、
    ○マレー半島への上陸時、荒天により上陸用舟艇への乗り込みにおいて死者を出していたことや、
    ○事前にタイとの交渉によりタイ国内を通過できる予定が、「ピブン首相」の失踪により調整が遅れ、タイ国軍や警察との間に武力衝突が発生したこと 等

    初めて知ったことも多かったですね。



    マレー半島上陸作戦と真珠湾奇襲作戦を描いた名著だと思います。

    決して戦争を美化することのない、

    「庶民の驚きは大きかった。
     かれらは、だれ一人として戦争発生を知らなかった。
     知っていたのは、極くかぎられたわずかな作戦関係担当の高級軍人だけであった。
     陸海軍人230万、一般人80万のおびただしい死者をのみこんだ恐るべき太平洋戦争は、こんな風にしてはじまった。
     しかも、それは庶民の知らぬうちにひそかに企画され、そして発生したのだ。」

    という著者の言葉が印象的だし、太平洋戦争の本質を表していると感じましたね。

    決して忘れてはならない歴史だと思います。

  • 航空機「上海号」が中華民国軍支配地域に不時着。そこには対米英開戦に関わる作戦命令書を携行した日本軍参謀が乗り合わせており、もし命令書が敵に渡っていたら綿密な奇襲作戦がすべて水泡に帰してしまう。
    真珠湾攻撃やマレー攻略作戦の直前まで不測の事態に直面していた日本軍の実態を記録した作品。不確実性はつきものとはいえ、ここまでギリギリだったとは知らなかった。
    軍首脳部の狼狽ぶりと最前線将兵の任務に対する実直さの差異が印象的。

  • 取材に基づいた緻密な描写。素晴らしい。

  • 太平洋戦争前夜の日本軍の隠密の準備行動を描く。

    真珠湾攻撃や南部侵攻など、日本の奇襲で始まった太平洋戦争だったが、その準備活動はかなり危なっかしいものだったということが分かる。
    一歩誤れば、作戦は実行前に露呈し、戦争はもっと早く終わっていたのかもしれない。

    タイと一歩誤れば戦争状態になっていたことなど、知らなかったことも多く、勉強になった。


  • 吉村昭作品に、どハマりした常連さんから
    とても良かったと熱弁されたので、早速


    太平洋戦争開戦直前

    12月8日開戦を指令した
    極秘命令書を積んだ旅客機「上海号」が行方不明になった

    空路から、敵地である
    中国に不時着した可能性が考えられる

    絶対に、敵軍に漏れてはならない命令書を巡って、大本営に激震が走る

    と、いう記録小説



    昭和16年に入ってから
    ドイツ、イタリアと三国同盟を結ぶ日本に対して
    米英両国から、在外資産凍結令をはじめとして、重要物資の対日輸出禁止まで発展する

    野村駐米大使による、日米交渉が始められるも、外交交渉は難航し
    遂に、ハル国務長官から
    「ハルノート」を提示された事で
    日本側は、一気に開戦に踏み切る事となった


    海軍は、ハワイ州オワフ島真珠湾にある
    アメリカ海軍の太平洋艦隊と基地を

    陸軍は、シンガポール島攻略を最終目的とした、マレー半島上陸を
    同時に奇襲する作戦を計画した


    12月1日の御前会議で、開戦日に選ばれたのは12月8日だった

    主な理由は、月齢と曜日

    航空作戦の第一撃を加えるためには
    夜半から日の出頃まで月のある
    月齢20日付近が望ましく
    8日は月齢19日で、極めて好都合

    また、日曜日は
    アメリカ海軍の休息日で
    主力戦艦の大半が、真珠湾に投錨、集結される

    同時に奇襲する、南方作戦予定地の気象についても
    11月下旬から、長期判断を始めた結果
    8日は、最も気象状況が良いと判定された

    関係各所では、連日の諸準備に忙殺されていた

    南京の支那派遣軍総司令部から
    既に、香港攻略作戦に伴う
    広東第23軍に、暗号電報で指示が与えられていたが
    慣習に従って、作戦命令書を23軍司令官宛に
    直接手交することになった

    その作戦命令書が、搭乗機と共に行方不明になったのだ

    命令書には、近日中に
    香港へ日本軍が攻撃を開始することや
    マレー上陸作戦も明記されており
    近々のうちに、大々的な軍事行動に移ることを明らかにするものだった

    既に、海軍では
    真珠湾奇襲作戦準備に着手
    陸軍の南方作戦に対する準備も
    密かに進行している

    大本営陸海軍が、綿密に組み立てた
    史上稀な大作戦計画で
    奇襲という性格上、厳重な機密秘匿の上に成り立っていた

    その為、その書類は
    絶対に敵手に落ちてはならなかったのだ

    12月2日から始まった、隠密捜索は
    翌日3日、中国軍が発信した暗号電報を受信を元に
    敵地に墜落している地点の確認に成功した

    が、

    平時では、全く考えられない指令が下る

    総司令部からの命令は
    「上海号を粉々に爆砕せよ」だった

    上海号は、軍専用機ではない為
    民間人も搭乗していた、にも関わらずだ

    戦争の恐ろしさとは、細部にまで狂気が行き渡っているところなのではないか

    鉢の穴に糸を通すような
    一点の狂いも許されないような奇襲作戦を
    当時の、優秀な頭脳が寄り集まって作り上げたとは…

    厳重に張り巡らされていた企図秘匿は
    一般国民はもちろんのこと
    一部の上層部を除き、移動中の軍人ですら
    「ニイタカヤマノボレ1208」まで
    演習だと思わされていたと言うのは
    驚き以外の何物でもない


    いくつかの偽装工作が綴られる中で
    最も滑稽だったのが
    海軍水雷学校や、砲術学校の生徒3000人に
    横須賀、佐世保、舞鶴、呉の各海兵団に扮して
    東京見物をさせた事

    実際の艦艇群は
    ハワイ方面、南方方面に出動中のため
    東京湾内には、修理中の艦艇しか存在せず
    大艦隊が湾内にいると見せかけ、開戦決意を偽装させるためだった

    何も知らされていない学生達は
    朝日新聞社の見学や、銀ブラを楽しんだという…

    大本営の緻密な奇襲作戦とのギャップがハンパない


    陸海軍人230万人
    一般人80万人

    途方もない人々が犠牲になった太平洋戦争の陰には、いろんなドラマが隠されている




    #大本営が震えた日
    #吉村昭
    #太平洋戦争
    #優秀な頭脳が集まると
    #一周回って短絡的な結果になる
    #歴史に学ぶことの多さよ
    #吉村作品にハズレなし

  • 開戦直前の1ヶ月。秘密裡に戦争へ突入した。ほんの一握りの人が決断し、大きなリスクを負って奇襲作戦を進めた。成功しても英雄とは言えない。2015.9.6

著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉村昭の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×