ふぉん・しいほるとの娘(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (752ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117324

感想・レビュー・書評

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  • 2016.11―読了

  • 上巻に記載

  • 日本に残されたお稲は偉大な父・シーボルトを慕って同じ医学の道を志す。女の身で医者になることなど想像すらできなかった時代に、父の門下生を各地に訪ね産科医としての実力を身につけていくが、教えをうけていた石井宗謙におかされ、女児を身ごもってしまう……。激動の時代を背景に、数奇な運命のもとに生まれた女の起伏に富んだ生涯を雄渾の筆に描く吉川英治文学賞受賞の大作。

  • 吉村氏の淡々とした筆致が、心に沁みる

  • シーボルトの娘「いね」の波乱の生涯
    あるいは
    女性自立ものがたり&教養小説
    とみてもいいのであるが

    事実上スパイだった医師シーボルトと遊女の間に生まれ
    江戸時代末期、女でありハーフがゆえに辛酸刻苦して
    女医第一号になったという
    それはそう強調してなくて淡々

    吉村さんの筆は
    末と維新後の歴史事実にものすごく詳細に詳細に
    書かれてあったので、その雰囲気にのまれた

    つまり、その裏打ちがあるからこそ
    おいねさんがぴかりと光った女性だったのね
    との読後感なのである

    なるほどね、思うには思うが

    すっかり維新前夜維新後の歴史事実に目を覚まされた
    そりゃそうでしょ、港にゃ、外国軍艦押し寄せ
    大砲ガンガン、略奪や乱暴狼藉もあった
    つまり侵略
    対して日本の中は喧々諤々、まとまりゃしない
    長い鎖国の平和ボケ、陰謀あり、暗殺あり
    時代の急激な波に右往左往する人々
    (まったく、今もってしてないか)

    吉村氏の調べて書くという魅力にはまってしまい
    ちょうど教科書のようにも読めたわたしだった
    今後この辺のものを読むのが楽しいかもしれない

  • 幕末の激動の時代と「あいのこ」の数奇な人生と。この時代の女性ならではの苦労に思いを馳せ、生まれたばかりの我が子の幸多かれを心から祈る。

  • シーボルトが長崎出島で、遊女のお滝との間にお稲という子をもうけ、その子の話。
    シーボルトが鳴滝館で、外科を中心に医学を教えたこと、オランダ政府の命で、生徒を使い、日本の地理、学術等を調べたこと、シーボルトが江戸に呼ばれた際には更に詳しい情報を入手したことなど、知らなかったことばかり。
    シーボルトは、幕府に見つかり、国外退去となり、関係生徒も罰せられる。
    お稲は、あいの子であり普通の生活ができないこと、シーボルトへの憧れから、学問を目指すこととし、愛媛に行き、シーボルトの弟子の家に居候。
    そこで、産科医を目指すように言われて、決意し、基本的医学を身に付けた後は、大阪の産科医でシーボルトの弟子の家に居候。
    その医師に襲われ、長崎に戻り、タダを出産。タダ1人の子の意味。
    長崎で産科医として働く。
    日本が、開国に舵を切り、シーボルトが30年振りに来日し、お稲やタダと会う。シーボルトは本国妻との間にできた子供を連れてくる。
    幕府は、アヘン戦争を目の当たりにし、開国に舵を切るという合理的選択をするが、長州と薩摩が反対し、尊王攘夷の機運が高まる。
    その後薩摩はイギリスと戦争して、完敗し、攘夷はあり得ず、勤皇倒幕に方針転換。
    長州は攘夷を維持し、長州征伐を受けるが、近代兵器を購入していたため、負けず。久坂玄瑞ら急先鋒らが処罰され、落ち着く。
    坂本龍馬が間に入り、薩摩と長州が手を組む。
    坂本龍馬が船中八策を作り、幕府も江戸が戦火に飲まれることを避けるため、大政奉還。
    王政復古の大号令。坂本龍馬死す。
    しかし、薩摩の西郷隆盛は、戦争により幕府の主導権を完全に失わせようとし、江戸で掠奪を繰り返し、慶喜は我慢に耐えかね、勤皇派と戦争。大政奉還後の主導権争いで、会津藩や庄内藩が抵抗、榎本武揚は函館五稜郭で抵抗するが、完敗。
    タダは、愛媛医師の甥の通訳と婚約するが、甥は来日したシーボルトの通訳をしていたため、幕府勤皇派に捕まり、投獄される。その後結婚し、シーボルトの子に日本語を教えたり、監獄医療改革などに取り組むが、死ぬ。
    愛媛にいたお稲は、タダにも医学を学ばせようと考え、知人医師に大阪か江戸への送迎を頼むが、その際襲われ、長崎で出産。子連れで長崎で再婚し、更に子をもうける。
    お稲は、東京でも、宮中医師などをし、福澤諭吉らと交遊し、70か80で大往生。
    明治維新などの流れも分かり、大満足。

  • 壮大すぎる。大河にしたら面白い。

  • ようやく読了。

    上巻はいつ読んだのかわからないくらい前で、どんな話だったかも忘れたけれど、
    下巻だけでも結構おもしろかった。

    シーボルトが二人の若い女にてを出すあたり、最悪だと思った。イネの感情がよくわかる記述だった。

    江戸から明治への時代の変化をもっと知りたいと感じた一冊。

  • 異国情緒の街長崎を主な舞台に、シーボルトとお滝、そしてその娘お稲の二代を描く大河小説。印象的だったのは、中学生ほどの年齢で親元を離れ長崎から宇和島へ出立するくだりで、案内人がいたとはいえ、当時極めて異例な少女のひとり旅を、精確な行程と地理の描写で、情景が浮かぶほどリアルに描き出す。旅程を読者に追体験させる事によって、道中お稲が抱いていただろう希望と不安までが伝わってきて、取材に丹念な著者の真骨頂かと思った。構成としては、シーボルトの江戸期、お稲の幕末期、高子の明治初期と大まかに区分でき、日本、と言うより日本人の「意識」が大きく生まれ変る様と、主人公たちの生き様との絡み合いが読みどころ。時代の奔流は、かつて敬意を一身に集めたシーボルトが、後年再来日した際、周囲から浮いてしまう様子などにも表れており、本テーマを選んだ狙いも読み取れる。もっとも時代背景の説明は、特に幕末以降分量を割き過ぎの感もある。そのせいもあってか物語も終盤はややダイジェスト風に進み、長編であるがゆえの息切れのようにも感じたのは惜しい。とはいえ全編にはそれこそ老若男女の別なく新しい知識を貪欲に学ぼうとする熱気が溢れ、これが維新へと突き上げた本当のエネルギーではなかったかと思われるほど。そんな日本の一面を切り取った良作のなのは確か。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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