飢餓同盟 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121048

感想・レビュー・書評

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  • 安部公房の小説は、不条理とアイロニーと現実とのはざまでストーリーが揺れ動いて、話は面白いのだけど、大変難解な作品が多いとの印象を持っている。この作品はかなりわかりやすいと思うのだけど、それでも、全体を眺めると、大きなテーマが小さな世界に織り込まれていて、読み解くのは大変そうと思った。小説の舞台はスケールも小さく、舞台をみているようなドタバタ劇もあるんだけど、ストーリーを追うだけでは見えないものがいっぱいありそうな感じ。戦後の時期に隆興した現代文学の中でも、異彩を放っていると思う。
    以前、未読主要作品のまとめ買いをしたので、時折挑戦したいと思う。

  • 閉鎖された町、革命がテーマですが、読み進めるうちに小さな組織、例えばご近所付き合いとか学校とかに例えると理解しやすいかと思います。
    正気の革命なんてものは夢。
    だが、そこに魅せられてしまう者がいて、思いが強いと狂気になり、やがてそれは成功か不成功か、人為的なものもあるけど、この本では狂気、狂気、更に狂気。
    だけど、所々ギャグコミックのような描写に笑ってしまったりもする、いいエッセンスが加わりあまり苦がない作品だけど、個人的には結構難しかったので、また読み直したいと思います。

  • 既得権益者が政治経済を牛耳っている田舎町で、地熱発電所を建設して革命を起こそうという男とその同盟者?たちの物語。

    革命といいつつ、地熱発電の掘削場所探索の原理は胡散臭く、革命の思想はあやふや。男一人のドタバタ劇のようになり、結局は精神異常者と扱われてしまう。

    閉塞感のある組織に不満があるとき、権力を持たない者が一人でジタバタしてもうまくいかない、みたいなよくありそうな話で哀しい。

    口の重しには墓石と重い財布。

  • 未読の安部公房を補完中。1954年発表ということは比較的初期の作品ですね。不条理、SF、公房らしい要素はもちろんあるけど、かなりファンタスティックな印象を受けました。キャラメル工場とか、廃バスに住む人形芝居師とか、尻尾の生えた男とか、そういう設定のせいかもしれないけれど、ちょっとした比喩表現がとても可愛らしかったりして。反面、雪深い閉鎖された町、余所者は飢え死にしてもかまわないという神「ひもじい様」、革命を企てる男の狂気などは、大江健三郎ぽい設定だなとも思いました。

    理想論を掲げ飢餓同盟を結成して仲間たちを率いる花井という男の、しかし根底にあるのは単なる復讐心。花井以上に荒んだ生い立ちなのに、自殺に失敗し、花井に利用されてあっけなく命を枯らしてしまう巻き込まれ型不幸体質の織木がとても不憫だった。ラストの森医師の独白が感慨深い。現実こそが間違いなくいちばん非現実的ですね。

  • 読んでいて登場人物たちの策略に嫌悪感がしてくるが、考えてみれば現実的な小説だと思う。
    織木が唯一、真面目な青年として最後まで描かれていたのは、読者として救いだった。

  • 社会革命の縮図の中で各人の思惑が多角的に照らされている。枠組みを変革するという目的が権実世界の中でその枠組みの中で規定されてしまう。

  • 阿部公房にしては薄暗く重苦しく湿度の高い作品となっている。革命という大義名分を振りかざして小賢しく運動を進めようとする勢力が結局はお山の大将的エスタブリッシュメントに崩され取り込まれてしまうという元も子もないストーリー。いつの世もどこででもどこか聞いたことがあるようなお話でした。

  • 全部おもしろい。
    “まったく、現実ほど、非現実的なものはない。この町自体が、まさに一つの巨大な病棟だ。”

  • 自分達を不幸にする社会構造をひっくり返すという目的のために存在していた筈の手段が、目的へとすり替わっていく。
    最近も頻繁に見かける類の狂気かと思う、元は高い使命意識を持っていたであろう人々が、目的と手段を履き違えて頓珍漢な声を荒げ、白い目で見られる様は。
    そしてその活動すら、金持ちの金稼ぎに利用される様も、どこかで見覚えがあるなと思ってしまうのは穿った考え方だろうか。

    花井が革命に執着する気持ちはなんとなく分かる。
    飼い慣らされている、誰かに人生を掌握されているという、八方塞がりで前進も後退もしないことへの焦燥感だろうか。
    現状に甘んじていた方が楽であるにも関わらず、それでも八方塞がりからの脱出を試みる、これだけでは異常でも狂気でもないのだが…読後感には徒労感が付き纏う。

  • 花園という地名のよそ者には厳しい、とある田舎町。そこで町の権力者に対抗し、地熱発電の開発を目指す孤独でよそ者の集まり飢餓同盟が結成。同盟の代表者、花井は奔走するがメンバーは次々抜けていき、地熱発電の成果も権力者に横取りされてしまう。町自体が狂ったように描かれていた最後の場面が印象に残った。

  • 花園町のように、一部権力者の圧倒的な支配によって成り立ち、なんともいえぬ閉塞感が漂う町、というのは、こと、田舎においては今だにたくさんあるだろう。生きることに疲れながらも、生きることを求め続けた飢餓同盟の面々のアイロニー。八方塞がりの中でもがき苦しむ現代人もまた、彼らのようにユートピアを求めて彷徨っているのかもしれない。

  • 砂の女やら密会やら、安部公房の息が詰まる閉鎖的なストーリー、これらってどれも自らの足で閉じ込められに行ってるね、まあこんなはずじゃなかったとはなりますでしょうけど!

  • 面白かったです

  •  とあるさびれた田舎町で、共同体から疎外されルサンチマンを抱えたはぐれものたちが、地熱発電所の建設を利用してアナーキーなユートピアを目指す「革命」を企てるが、町の支配者たちに発電計画を横取りされて瓦解・挫折するまでをユーモラスかつアイロニカルに描く。

     描かれる「革命」が政治的な陰謀というより、1人の夢想家の大博打に町が巻き込まれていく形で、「革命」の挫折の要因が権力の弾圧や革命勢力の内紛のようなありがちなものではなく、地方政治における諸勢力間の陰湿でせこいなれ合いや、法的な許認可や土地取引の経済的な駆け引きの敗北であるのが、単なる反ユートピア政治小説と一線を画している。初出は1950年代と古いが、ある意味、原発や大型レジャー施設の誘致に翻弄される地方の姿を予見したとも解釈でき、すこぶる現代性をもった小説である。

  • 自分が安部公房に期待するものは、日常に非日常が滲み出すようなふわふわとしたジャメヴュとSF要素なので、そこからは外れていたかなと思う。
    ただ、その分読み口は非常に軽く、諧謔味は他の作品より強かった。そこを気に入るかどうかは、完全に好みの域。個人的には嫌いではない。

    あくまで自分の意見だが、本書は安部公房の学生時代を戯画したものではないだろうか。
    筆者は学生運動にかなり入れ込んでいたと聞く。
    いわば回顧録のようなものだとすれば、なかなか興味深い。

  • よくわからなかった。登場人物が誰が誰か把握するのも困難だったし、どういう人物かイメージもできなかった。なぜ花井がそれほどまでに飢餓同盟に執着するのかもイマイチ理解できなかった。
    自分に尻尾があるというコンプレックスなのか、仲間に対しての情があるのか?織田の遺書は鬼気迫るものがあったけど、それ以外はわりと読み流してしまった。田舎は怖いとこってこと?
    ドストエフスキーの悪霊をモチーフにしているとか。
    難しい。

  • 壁、箱男に比べてシュール度はかなり低いけど、出てくる人々はぶっ飛んでる。悲しくなる。

  • 「眠った魚のように山あいに沈む町花園。この雪にとざされた小地方都市で、疎外されたよそ者たちは、革命のための秘密結社“飢餓同盟"のもとに団結し、権力への夢を地熱発電の開発に託すが、彼らの計画は町長やボスたちにすっかり横取りされてしまう。それ自体一つの巨大な病棟のような町で、渦巻き、もろくも崩壊していった彼らの野望を追いながら滑稽なまでの生の狂気を描く。」(あらすじより)

    全体的にぱっとしない町の欲にまみれた、どろどろとした話。だらだら続く印象。安倍公房にしてはあまりおもしろくないが、人間に薬を飲ませて温泉の地下水脈を探査させ、それを楽譜にたとえて表すといった考えが奇抜で安倍公房らしさを感じる。

  • 閉塞感漂う「花園町」で共産主義的な革命を画策する者たちの哀愁劇を描く。”ひもじい同盟”という極めて貧相な名前から”飢餓同盟”へ名称を変え、地熱発電所を基軸に革命を試みるが・・・。

    作品全体に纏わりつくどんよりした暗い雰囲気と、あくの強い個性的な登場人物は安部公房ならではといえよう。ドストエフスキーの『悪霊』がベースにあるらしいが、当時の共産主義を担ぐ者たちに通ずるような、何かに飢えた者同士が至極脆弱な共同意志の下革命を目指すが虚しく瓦解する姿はなんとも滑稽である。

    本書で特に秀逸だったのは「患者に飢える」というくだりだ。患者の治療が医者の使命だが、その医者が患者に飢えるとはこれ如何に。本作のパラドックス的側面を巧みに表現した言葉と感じた。作者自身は本作をあまり好きではなかったようだが、安部作品のなかでは比較的分かりやすい物語かと思われる。

  • 話の筋は置いておくにしても、なかなかに理解が難しい作品だった。結末も救いがない。
    本筋とは外れるが、私は著者の日本語の使い方が非常に好きである。個人的には三島由紀夫よりも素晴らしいと思っている。

  • 飢餓同盟。革命のための秘密結社。

  • 「全集4」収録のものを読了したので、ずるだけど本棚に加えちゃう。

    地方政治の駆け引き、一攫千金を狙う地方人の希望と挫折、というあらすじはあるものの、そこは安部公房、卓越した物語設定と構成力、初期段階からすでに特徴のある比喩がちりばめられており、飽きない。
    「飢餓同盟」というタイトルも秀逸だなぁ。

    文庫で読んだのは大学生の頃だから、かれこれ30年近く昔かぁ(遠い目)。最近になって全集を読む、ということは、若いころ読んだ作品を再読することでもあり、当時読んだときの印象・とらえかたが全然違うんだなぁ、と感慨深い。ちっとは成長したのか俺?

    文庫のカバーも現在のものとは違い、公房夫人の真知さんによるイラストで、自分はこの一連のカバーが好きだったなぁ。

    それから、最初に読んだ当時は『方舟さくら丸』はまだ発表されていなかったのだが、『さくら丸』を読んだあとに『飢餓同盟』を読むと、この2作品の設定はけっこう似ている気がする。
    『さくら丸』は安部公房晩年の作品だが、『飢餓同盟』のシチュエーションがみごとに磨かれていて、さすが、進化し続けるのが文豪なんだな、と再認識。

  • 【本の内容】
    眠った魚のように山あいに沈む町花園。

    この雪にとざされた小地方都市で、疎外されたよそ者たちは、革命のための秘密結社“飢餓同盟”のもとに団結し、権力への夢を地熱発電の開発に託すが、彼らの計画は町長やボスたちにすっかり横取りされてしまう。

    それ自体一つの巨大な病棟のような町で、渦巻き、もろくも崩壊していった彼らの野望を追いながら滑稽なまでの生の狂気を描く。

    [ 目次 ]


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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • おおさか

  • ユートピアを目指すため革命を企てる男、花井の指導の下
    町からどこか外れた人々がなんとなく集まってできた飢餓同盟
    町の権力争いに巻き込まれてどんどん崩壊していく

    秘密結社による革命という目的をめぐって
    戦後の生きることに強烈な執着心を持った村人達がぶつかっていたり
    花井がずれてしまった目的のために狂っていき、そのため周りの人たちが離れていく様子が
    非現実な世界からとてもリアルな現実を突きつけてくる
    最終的に狂ってしまった花井は村社会の発展のための生け贄なのか?
    いろいろ考えさせられるのだが、何を考えさせられているのかまだ分からない


    地熱についての科学的な記述とか
    人間を計器にしてしまう想像力は安部公房ワールド全開で少し難解だった
    “ひもちび”とか“ウルドック”なんていうもじりの言葉遊びが面白い。
    複雑に絡んだ人間関係や権力関係、よくここまで作れるなぁ。

  • 狭い世界のなかでみんな狂っていて、でも事態が進んでいくからおもしろい

  • 花園温泉郷とキャラメルと電子頭脳

  • 八方塞がりの現実のなかであがきもがいているわたしたちすべてのうちに、花井や矢根や森といった人間が現に住み着いていることを、わたしたちははっきりと知るべきだろう。(p268)

  • 描写が生き生きしていてすごくよかった。舞台やキャラクター設定、SF要素なども、安部さんらしさ満載。雪にまどろむ寂れた町、診療所を与えられない医者、の組み合わせがカフカの「城」を思い出させる。

    しかし、花井さんは骨の髄までしゃぶられっぱなしだったなぁ。同盟が空中分解くらいで済むのかなーと思ったら、予想以上にひどい結末だった。うーん。主人公二人の身の上が自分と重なってしまって、結構堪えた。

    どんな思想があっても、どんな努力をしても、現実は壁だらけでどう行っても回り道だらけで、結局目的地にはたどり着かないまま歩かされ続けるんだよなぁ。
    春が来て、窪地に落ちた小鳥の死骸が一瞬見せた可能性が切ない。

    面白かったと言えば面白かったのだけど、どうもふに落ちないのは、花井の指導者としての采配がイマイチだったからかも。もっと頑張れるでしょ!まあ完璧だったらあの結末にはならないし、結局私の求めてるものにはならないんだろうけど。
    というわけで、ちょっと残念な気持ちで星みっつ。

  • 閉ざされ沈む小地方都市の町花園。
    それ自体がまるで一つの巨大な病棟のような町の中で
    "ひもじい"と呼ばれ疎外されたよそ者たちが結成した飢餓同盟。
    地熱発電に託した若い彼らの野望は
    町に渦巻き、飲み込まれ、やがて崩れ去っていく。

    安部公房の著作にしては珍しく、登場人物・主人公に名前があってびっくり。
    「夢」を生け捕りにした様な
    シュールにシュールを塗り重ねた彼の多くの作品とは
    ちょっと趣向が違う作品でした。

    「医者」と「党」の、安部公房。
    こんなに現実に寄った作品は初めて。
    革命の思想から遠ざかって久しい世代の私には
    少し入りづらい読みかかりでした。

    現実を書いているのだけれど、どこか寓話のようで。
    個人の心情を書いているのだけれど、まるで人間全体のことのようで。
    読み砕くのにセンスのいる作品だと思います。
    私には、まだ全部を理解出来ない。
    時間を見つけて、再読したい一作。

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著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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