水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121079

感想・レビュー・書評

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  • 2012/8

  • 脳内宇宙です。
    いつも誰かに見張られているような視点があり、逃げたり、対峙したり、無視したり、囚われたり。
    脳内世界へようこそ。

  • 父親を名乗る男が奇怪な魚に生まれ変わり街が水中世界に変わっていく。青年が見慣れぬ植物になっていく。等々、阿部公房の傑作短編集。もちろん優れた文学なわけだが、まーぶっちゃけカフカのような世界観がマジキチw

  • 『水中都市』
    男が妊娠して産むのは死だ、というくだりがすごく印象的。面白い。

  • 初期の作品に社会主義革命的思想があったことはちょっと驚き

  • ≪デンドロカカリヤ≫
    不気味な語り口で綴られた、“コモン君がデンドロカカリヤになった話”。
    ぼくらはみんな、不安の向うに一本の植物をもっている。伝染病かもしれないね。植物になったという人の話が、近頃めっきり増えたようだよ。(p.9)

    “植物になる”ということが、現在の喪失、自殺した人間、精神分裂などのパラフレーズとして使われているのかな。
    結末にはゾッとした。

    ≪手≫
    この物語の展開には思わず唸ってしまった。
    かつての伝書鳩“おれ”が、観念化され銅像となり、
    さらにその銅像の足首を鋸で切ろうとしている“手”
    この設定だけでも脱帽したくなるのだが、そこからさらにストーリーが加わっていく。
    なんとも言えない読後感を味わった。

    ≪飢えた皮膚≫
    貧乏人が金持ち夫人に復讐する話。
    夫人が薬物にはまっていく姿がブラックに描かれている。
    身体の色が変わってしまう病気というアイディアが安部公房らしい。

    ≪詩人の生涯≫
    糸車に巻き込まれた老婆が糸になり、その糸からジャケツが作られる。
    買い手もなく彷徨いはじめたジャケツは、詩人である息子の前に立つ。
    冬の厳しい寒さと春の訪れを感じさせる文章が印象深い。

    ≪空中楼閣≫
    無職の男のアパートの前に貼られていた“空中楼閣建設事務所”の工員募集。
    実体のない職業に、採用されたと思い込んだ男はどんどん狂っていく。

    ≪闖入者≫
    夜更けに突然やってきて、住み込み始めた闖入者9人家族。
    彼らをなんとかして追い出そうと、男は奮闘する。
    この設定も怖いな…特に一人暮らしには。
    都市伝説とかでありそう。
    孤独になっていく現代社会の生への皮肉だと思う。

    ≪ノアの方舟≫
    私はノア先生を見捨て、方舟を見捨て、そして村を永久に去ることにしました。今となって、私にねがえることはただ、この愚かなアル中患者に関する伝説が、せめて誤り伝えられぬことをねがうだけでした。

    この最後の文章がすべてを語っている気がする。
    ノア先生のめちゃくちゃな天地創造論も面白かった。

    ≪プルートーのわな≫
    猫に鈴をつけに行くのは誰だ?
    安部公房版イソップ童話。

    ≪水中都市≫
    魚になるとは、どういうことか?
    父親を名乗る男が、魚になっていく描写は、生臭ささえ漂ってくるようで、
    想像するとかなりグロテスク。

    ≪鉄砲屋≫
    安部公房には珍しい、政治色が濃い作品。
    その中でも、“雁もどき”の大群の襲来に備えて銃を売るという、
    奇想天外なアイディアで異世界感たっぷり。

    ≪イソップの裁判≫
    少し分かりにくかったけど、“噂”というもののいい加減さを皮肉った作品なのかな。

  • 久しぶりの安部公房。
    こ、こわかった・・・。

    所収作品
    ・「デンドエロカカリヤ」
    ・「手」
    ・「飢えた皮膚」
    ・「詩人の生涯」
    ・「空中楼閣」
    ・「闖入者―手記とエピローグ―」
    ・「ノアの方舟」
    ・「プルートーのわな」
    ・「水中都市」
    ・「鉄砲屋」
    ・「イソップの裁判」

    以下、まとまらないまま漫ろ書き。

    「闖入者」が全集のものと違った気がする。後者の方がすっきりしていて好きだ。怖いけど。

    安部公房の作品の怖さは、自分がいかに盲目的に生きているかを気づかされるところだ。

    たとえば、作品中よく「赤」を敵対視する人間が出てくる。なんだか大学紛争の時代などを思い起こすが、それそのものは問題ではない。
    問題は、その「赤」という思想に対して批判し、排除しようとする側だ。
    だいたいにおいて、そのような登場人物は金持ちで権力者で、計算高く口がうまい。彼らは一様に「民主主義」の素晴らしさを声高々に讃えるけれど、公房の作品からあらわれるそれらがいかに粗暴で高慢極まりないか。
    相手を貶めることによって自身の正当性を保ち、ふんぞり返るような感じ。
    何が恐ろしいって、それが日常的にありふれていることだ。公房が描く世界が、今私たちの世界そのものなんだろうと思う。他者を通じてしか思い至ることができないこと。この場合は読者の目か。
    自分も、そうなのだろうと思うと、すごく怖くて不安定になる。
    どうやったら目を見開いて生きることができるのだろうか。うーん。

    眼から鱗!とかAHA体験!みたいな清々しさは一切なく、ひたすらどろどろとした気持ちを突きつけられる。
    でもたまに安部公房を読みたくなるし、読んでよかったと思うんだよな、コレが。

    今回一番気になった(気に入った)文章はこれ。
    「プルートーのわな」から。ねずみオルフォイオスの台詞。

     「困難が君達を強くするのを待つよりほかないのだろうか。」

    そうなのかもしれない。

  •  阿部公房=『砂の女』が私の方程式で、その胸の奥がむず痒いというか、んーと、なんかしっくり来ない怖さというか、んーと、言葉に表し難い複雑さを感じ、よし他の作品はどうなのかと思い、数年前『S・カルマ氏の犯罪』を読んだ結果松田優作並みのなんじゃこりゃー感を得、俺が理解できるのは砂の女だけやなーと思いつつ、またどういう気分からか、ふと阿部氏の本を再び読んでみようと思ったのがコレ。

    まあ、勝手に集団で人んち入り込んで『民主主義による多数決の結果、ここは我々の部屋になりましたー、な、お前!』みたいな、そしてその部屋に元々住んでる奴は奴で『お、おう・・・あれ?』って感じの、私には理解できない当時の前衛的な内容で、何と言うか、もうお腹一杯です。

    阿部氏の本は分かる人には分かるのでしょうが、やっぱりこの時代の、偏執的な新自由主義批判、こっそり共産主義万歳みたい感がある内容は、面倒臭くてもういいです。ありがとうございました。

  • カフカ的な作品で理解が難しかったです。断片的には、何かを象徴しているのかなっと思うシーンもあるのですが。。。これを読んで面白いといえる人っているのでしょうか。。。

  • 安部公房は幻想SFとして普通に面白いと思う。「飢えた皮膚」「鉄砲屋」面白かった。

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著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

安部公房の作品

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