砂の城 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123127

感想・レビュー・書評

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  • うっかり裏表紙を読んでしまって結末を知りながらの読書となったのが悔やまれる。何も知らずに衝撃を味わいたかったなぁと。
    同時代を過ごした若者たちがそれぞれの信念の赴くままに歩む人生。破滅であったり、道を踏み外すことも美しく善きものをものを求めて本人たちが選びとったものなのだろう。母の想いを辿りながらの旅はドラマチックで美しい描写で魅了された。古いお話なのだけどとても引き込まれた。

  • ◯青春小説、と帯にはあり、解説にも軽小説・青春小説とあるが、個人的な感想としては、別段軽小説でも青春小説とも感じなかった。(解説の文芸評論家は片手間で書いたのだろうか、それともこれが世間的な評価なのだろうか。)
    ◯「善なるもの、美しいもの」(自分が信じるなすべきことなのか、)を追い求めるも、時代や環境の波に飲まれ、脆くも崩れ去る砂の城としての人間の「エゴ」が描かれており、そういった重厚なテーマを、掲載雑誌テーマと、その読者層に伝わるように書いていると思う。
    ◯もしも軽小説・青春小説と読めるのであれば、表面的な感想であるが、むしろ著者の技術の賜物である。
    ◯ただし、その根底に流れるテーマは、「軽」でも「青春」でもない。著者の他の小説にも引けを取らない、私の好きな遠藤周作そのものであった。

  • 理想像として描かれる母の青春、醜く歪んだトシの青春、そして疑問や不安を抱えながらも、清く正しくあろうとする泰子の青春。
    青春という浜辺で作るそれぞれの砂の城は波に攫われ消えてしまうけど、たしかにそこにあった。泰子の清らかさに眩しくなりながらも、私もそうありたい、と願う瞬間も幾度となく。

    美しい言葉が多くある本だなという印象だった。

    「夢みたものは ひとつの幸福 ねがったものは ひとつの愛」「負けちゃだめだよ うつくしいものは必ず消えないんだから」「美しいものと、けだかいものへの憧れは失わないでほしいの。」「人間がつくりだす善きことと、美しきことの結集」

  • 2022.1.15 再読
    前回どう読んだのか全然覚えていない。
    が、今回はかなり心に刺さった。
    それぞれの青春の痛みが。
    動き始めたら止まらない。転げ落ちていく様が。
    中でも水谷トシの行動は愚かで醜い。けれどそれを否定できない。だってそれが正しい事だと信じているから。
    泰子が本当の意味でそういった事に巻き込まれないのは、賢いからだけなのだろうか。

  • 新潮文庫の解説で遠藤周作の中のいわゆる軽小説と書かれてるけど、この言葉が気に入らない。別に軽くないし。どうせなら青春小説と書いてほしかった。
    さらに言えば新潮文庫の裏表紙のあらすじは結末をドーンと書き過ぎじゃないかしら。

    まず物語が亡くなった母の手紙から始まるというところが好きです。
    冒頭の泰子とトシの高校時代が無邪気で楽しそうで明るい未来が待っているという感じ。砂の城を築き上げている途中といったところですね。初めて読んだのが高校の時だったから2人の楽しそうな姿が目に浮かびました。
    それなのに泰子とトシは全く真逆の道に進んでいくことになるわけで。
    トシの気持ちは分かる気がするんです。泰子って完璧すぎる。こんな人が隣にいたら劣等感の塊になりそうなのに、トシはそればっかじゃなくて、ちゃんと泰子のことを親友だと思っている。
    でもやっぱり泰子より…って思うのは当然だと思うんです。その方向性が世間や泰子の思うような“美しいもの、善いもの”ではなかっただけ。
    泰子の言ってることは正論なんだと分っていながらも引きずられていくトシのことを、泰子は理解できないだろうなぁ。
    西に関しても、容赦なく泰子さえも殺すと言ったとき、あれは泰子じゃなくてあたしもショックでした。砂の城が崩れたのはトシと西よりむしろ泰子だったのかもしれません。

  • 「青春の浜辺で若者が砂の城を築こうとする。押し寄せる波がそれを砕き、流してゆく……。西は過激派グループに入って射殺され、トシは詐欺漢に身を捧げて刑務所に送られた。しかしふたりとも美しいものを求めて懸命に生きたのだ――スチュワーデスになった泰子は三人いっしょだった島原の碧い海と白い浜を思い浮べる。幸福を夢み、愛を願ってひたむきに生きた若者たちの青春の軌跡。」

    中江有里・選 遠藤周作
    「自分は何のために生まれてきたのか、そんな疑問を抱いたのは高校一年の時だった。ーそんな時遠藤周作氏の『砂の城』と出会った。
     仲の良い主人公三人がやがてバラバラの道を歩み、砂の城のようにはかなく波にさらわれ跡形もなく消えゆく青春小説だ。特に印象に残ろうのは、主人公の一人の亡き母が残した手紙にある「美しいものは決してなくならない」という言葉だった。これから戦場に向かう恋人からの最後のメッセージを未来の娘に託した母の思いは、過去も現在も未来までもひっくるめた希望の奥行きを感じた。人は未来を夢見て、過去を後悔しながら、今を生きるしかない。駄目でもみっともなくともこの自分で生きるしかない。なんのために生きるのかではなく、とにかく生きて何をすべきかを探そうと覚悟が決まった。そうして遠藤作品のとりこになったわたしは、その深みに身を沈めていく。」
    中江有里・選 遠藤周作
    ①『砂の城』(新潮文庫)
    ②『わが恋う人は 上・下』(講談社文庫)
    ③『深い河』(講談社文庫)

  • 高校の同級生である、早良泰子と水谷トシという二人の女性の青春をえがいた作品です。

    泰子は16歳の誕生日に、死んだ母から彼女にあてて書かれた手紙を、父親から受けとります。そこには、泰子とおなじ少女時代の母が、恩智勝之という男性とひそかな交流をつづけており、しかし戦争によって二人の運命が別れてしまったことがつづられていました。その後泰子は、母の夢を追いかけるように、得意の英語を生かしてCAとなる道に進みます。

    他方トシは、星野という男を追って神戸にわたり、信用金庫で働くことになります。星野は定職に就かずギャンブルが好きというだらしのない男ですが、彼に泣きつかれるとトシはついお金をあたえてしまうことになります。そんな彼女自身の暗い生活も、好きな男のために生きるという意義を彼女に感じさせ、その泥沼のなかに彼女は落ち込んでいくことになります。

    対照的な二人の女性の生きかたをたどるというストーリーですが、キャラクター造形がくっきりとしていて、エンターテインメント性の強い内容になっています。


  • 青春の試練に、人生の難しさ、厳しさを思い、それを重ねるべく努めないといけない。

    若者が夢想と空想のうちに築いていた青春=砂の城は崩れていく。

  • 壊れゆくことをわかっていて作る砂の城。高校・大学の打算的だけれど甘酸っぱい青春がよく描かれている。大学から就職にかけて社会を知る時期というのは、ある種現実を知って社会に対する夢や希望が壊れる時期でもあると思う。それを感じられる作品。

  • 旧カバーデザイン
    [第13刷]昭和59年12月25日

  • 中江有里「沙羅と万葉」に出てきたので読みたくなり。作中に出てきた「負けちゃ駄目だよ。うつくしいものは必ず消えないんだから」は、主人公の母親が17の時思いを寄せていた勝之にかけられた言葉。物語は、長崎の大村からスチュワーデスになった泰子、同級生で悪い男につかまり最後は信用金庫で横領しつかまったトシ、英語劇が縁でしたしくなった健康的な青年だったが、のちにハイジャック犯として機上で泰子と再開する西、母と結ばれずのちにインドのデリーで救らい院で働いていて泰子と偶然あった勝之。彼らをめぐって、何が善きもので、何が美しいものか、常に問いかけ、問いかけられるように物語はめぐり。「夢みたものは ひとつの幸福 ねがったものは ひとつの愛」ではじまる立原道造の歌がくりかえされ、印象的。

  • 「人間がつくりだす善きことと、美しきことの結集です」

  • 長崎の短大で学ぶ泰子、友人トシ、そして英語劇を合同で行ったN大の学生、西宗弘とその友人たち(星野ほか)。彼らのそれぞれの青春の歩み方が痛々しく感じられる。特にトシと星野の転落、そして思想に生きた西たち。ヒロイン泰子がそれらを否定的ではなく受け止めようとしていることに泰子の包容力を感じさせる。彼らの青春像と別に早世した泰子の母が娘に遺した16歳の青春。そこに登場する恩智という人物の魅力。泰子が一度恩智に会ってみたいと願うのは当然だろうし、西宮の甲東園・仁川・逆瀬川あたりを歩く情景の描写が、地元の私には嬉しい。いくつもの社会的事件を織り交ぜながら泰子たちの青春を描く小説は愉しかった。しかし、小説としてトシ、西の人間像が今一つ不自然で、展開に唐突感を感じて、纏まりきれていない印象は免れなかった。

  • 内容紹介
    憧れは裏切られ、理想は傷つけられる。傷ましく、美しく、儚い青春物語。 それでも人は生きてゆく。35万部突破! 青春小説の金字塔。

  • 星野が嫌い過ぎて,私にとっては好きになるのは難しい小説...
    ただ,全体的には考えることも多く,爽やかな青春小説.ちょっと古いけれど.
    作品中に出てくる「美しいことと善いこと」はとても印象的で,自分にとってそれは何なのだろうかと考えさせられた.

  • 善いもの美しいものってなんだろう。悪いもの醜いものってなんだろう。それらはいつも表裏一体で、見方によってはどちらにもなり得るのだと思う。

  • 体験の一つ一つが重く、学び成長するのが青春の時。解説によると、著者の著歴では軽小説に属するようだが、確かに読みやすく爽やかな読後感である。2017.7.3

  • 親友、遊び人の彼氏、過激派の友人。
    美しいもの、善いものは、
    一人一人の中に、それぞれ。
    キラキラ築き上げられては、一瞬で消える。

  • 遠藤周作の沈黙が借りれず借りた本。
    美しいこと、善いことを忘れないこと。どんなに辛いことがあってもそれさえあれば立っていられる。
    昔、母親が好きだった人の言葉を、その子供も求めて生きていく。

    一方でその主人公の高校生、大学と一緒に過ごした友達が、その後それぞれが全く別々の道を歩んでいく。その道はとても脆くて危うい砂の城のよう。

    さぁーと読める小説。大学時代一緒に過ごしてもその後の人生は、出会った人、環境、興味、嗜好で結構変わるよなーと改めて思いました。

  • 話のつくりはよくある青春群像ものだろうけど、遠藤先生の小説だけあって、情景は想像しやすいし、なにより話の運びがいいのか、めっちゃくちゃ読みやすい。でも逆に違和感なく読み進められすぎちゃって、読後の印象は浅薄かも。

    歌舞伎や浄瑠璃みたいに時代背景やそのとき印象的な大事件、時事を下敷きにしたもので、大衆娯楽小説であればマルなんだろうけど。遠藤先生といえばキリスト教的作品なので、きちんとした作品も読みたいな。

  • 思いきりメロドラマだけど、テンポよくすすみ、一気に読んでしまった。

    自分でもただしくない(=幸せになれない)と分かっていても、あえて社会的に間違った選択をしてしまう親友たちを、客観的に見つめる主人公。間違った選択をしても、なぜか鮮やかな生き方に見える彼ら。多種多様な生き方の選択が描かれている。

    そして風景描写がとてもうまく、目に浮かぶよう。
    長崎の素朴で美しい風景、神戸のかなしい裏びれた古いアパート街、インドの暑く不穏な空気。
    ストーリー展開ごとにマッチするオケージョンが、物語をひきたてる。

  • それぞれの美しさとは、善いこととはを、テーマにしており考えさせられる。
    新潮社版で読んだが背表紙の解説には結末がズバリ書いてありガッカリ…

  • 築いたものが砂の城ならば結局は崩れやすいよね。情熱に身を注いだ西もトシも、また泰子ですらみんな崩れたんだろう。
    美しいものと善いものは砂じゃないんだろうけど、それがなんだか分からずみんな探しながら生きてるってことなんかな。おもしろかったです。

  • 16歳の誕生日に母親の遺書を受け取る泰子。母親のいう「美しいもの、善いもの」が、まるで潮に流される砂の城のように彼女の周りで崩れていく。変わり果てる昔の仲間たち。じぶんの生き様に感じる焦燥感と、大切なものを失う喪失感との間に言われようのない歯がゆさを抱きながら泰子は生きていく。

  • 最初の母の手紙の
    「あなたはこれから、どのような人生を送るかしれませんが、その美しいものとけだかいものへの憧れは失わないでほしいの。」
    という一文が、印象づいた。

    泰子の話はだらだらと続いて面白くないな……と思ってたけど
    最後の最後で大きく展開し、引き込まれるように読んだ。
    人生の上手くいかなさが描かれた作品。

  • この世界には「ずっと変わらないこと」の美しさ・善さも存在する。けれど,他人が振りかざす正義の名の下に簡単に散ってしまうような危うい愛やはかない信念に,魂を捧げた登場人物たちの生き方は,はたして無駄だったのか。
    宗教色はなくても,弱さや惨めさに目を向けているという意味で,根底に流れるものは他の遠藤周作作品と共通するように感じる。
    本来,人は人を裁けない。永遠の美や強い信念ばかりが褒めそやされる世の中だけれど,砂の城のようにはかないものを受容できる心の空間を残した大人でありたい。

  • ~夢みたものは ひとつの幸福
    ねがったものは ひとつの愛~

    この世のなかには人が何と言おうと、美しいもの、けだかいものがあって、母さんのような時代に生きた者にはそれが生きる上でどんなに尊いかが、しみびみとわかったものです。あなたはこれから、どのような人生を送るかしれませんが、その美しいものと、けだかいものへの憧れだけは失わないでほしいの。

  • 多感の高校生の頃に読んだ本で唯一、ストーリが記憶に残っている本。
    青春時代に出会い、違う人生を歩み、ある場所で再会し、そして運命的な別れを迎える。強い信念に基づき行動する人間を制することの難しさを感じた。

  • 青春時代を共にした友人が、いつの間にか別の世界にいってしまっていた寂しさ。
    社会的にはそれが悪であろうとも、自分の「美しいもの、善いもの」を一心に追い求める人への憧れ。
    主人公に共感できる部分がとても多かったです。自分にとっての「美しいもの、善いもの」って何だろうか。まだ模索中。

  • 人にはそれぞれの人生がある。世間の判断では落ちぶれてしまったような生活であっても、その人が一生懸命に善いもの、大切なものを追いかけた結果であれば、それは立派な生き方であると思えるようになった。主人公の素子も、何が本当に正しいのかわからないというが、物語の展開に沿って一緒に考えていくことで、最終的に答えが出せたのではないだろうか。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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