死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.68
  • (284)
  • (369)
  • (531)
  • (63)
  • (8)
本棚登録 : 4328
感想 : 357
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126012

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 短編小説集だが、完璧な“何か”と当人の対比というのが一貫したテーマだった(人間の羊以外)。

  • 読後感が深く残る短編集。

    どの短編作品も重々しく、時には嗚咽を覚えるような嫌悪感さえある。どうしようもなく暗く荒んだ気分になるが、退廃的な世界感が最初から最後まで引きつける。

  • この手ごたえだけ重い、
    不可解な縺れをとくことはできないな。
    生きている人間を相手にしているのでは、
    決してそれは、やれないな。

  • 初めて大江健三郎を読んだ。
    彼の文章からは、グロテスクとも言えるほどの迫力と緻密な論理表現が共存している感じを受ける。人間の中のドロドロとした感覚をここまで明確に表現できるのかと、鳥肌が立つ。
    そして、大江が抱えている問題意識や鬱積がまざまざと伝わってくるストーリー。価値観の転回やコンプレックスを社会に引き起こした戦後に青年期を過ごした大江の描く物語は、平穏な時代をのうのうと過ごす私にとって、得体の知れない獣のように迫ってくるものがあった。

  • 初・大江健三郎。国語の教科書に出てきそうなくらい文章が上手。一言で簡潔に言えるものを、叙情的かつ具体的に例えて言い換えているのがすごい。「かわいい」をもっと詳しくどんなふうにかわいいのか説明してる的な。その言葉が何を指しているのか考えなければならず、頭を空っぽにしてボーッと読めるわけではないけど、文章のリズムが非常によくメッセージ性もある。さすがノーベル賞を受賞するだけのことはあると感じた。

    死者の奢り:大学生の僕が死体運搬のアルバイトをしたときの話で、水槽に浮かぶ死体や妊娠中の女子大生、12歳の少女の死体に漂う性的魅力など「生」と「死」の対比が見事。何より文章が上手。人生の真理や滑稽さも考えさせられる。

    他人の足:脊椎カリエスの病棟で閉鎖的な日々を送る少年たちの元に新しく学生が入院し、外部との関わりを持つよう働きかけるが…。障害者と健常者、異常と正常という対立から人生の真理を追求。そこには厚い壁があってお互いに関わろうとしていないのが現実。自分の足で立つ人間は非人間的だ。

    飼育:「町」か差別的な扱いを受ける谷底の村の人々が、黒人兵に対してまた差別的な扱いを行うという構造がおもしろい。短いけれど黒人兵との交流を通して親睦を深める様子がよくわかり、時には情欲的な何とも言えない感情が起こる描写も見事。生と死、子供と大人の違いなど、オチまで読むといろいろと考えさせられる。

    人間の羊:当事者の気持ちを無視して勝手に盛り上がる外野との対比が見事。フィクションなのにノンフィクションかのようなリアルな心情描写で、ああいう教師みたいな迷惑おせっかいの人っているなと感じた。

    不意の啞:外国兵に対する興味関心が、あるできごとをきっかけに急速に失われる。それは戦後の日本がどうなっていくのかという期待がなくなっていく様を表しているのかもしれない。権力・暴力を盾にするのは人間として非常に滑稽で、対等に語り合おうとしないのは穢らしい。

    戦いの今日:読み終わってからタイトルをあらためて見ると「なるほど」と思う。戦いはまだ終わっていない。左翼は煽るだけ煽って責任を取らずただそのときの鬱憤をビラを撒くという行為で晴らしていたのかなと少し思った。米国人に情欲が掻き立てられても、結局日本人は米国人から侮辱され、対等の立場にはなり得ない。いつまで経っても日本人は負けるのだ。

  • 途中でやめました。
    昭和34年発行ということで、表現が古くて馴染めない。

    死体洗い(プールに沈めるとか)のバイトの話しが、この本が発端だったのは知らなかった。

  • 比喩的表現に圧巻。
    ただあまりに多用にされるため、時に読みづらさを感じてしまう場面もあった。

    個人的に整理したテーマは以下の通り。

    『死者の奢り』:生と死の曖昧さ、その中間に生きる人間の葛藤。自分で生きているのすら曖昧なのに、新しくその上に曖昧さを生み出さなければならない重大さ。という女学生の言葉が刺さった。母になるとはすごい事だなと改めて感じたが、管理人が言うように人が生まれて死ぬ事にはなんの意味もない無駄なことなのかもしれない。

    『他人の足』:障害者としての劣等感•隔絶•放棄→希望の創出→裏切り→隔絶
    明るい方向性で話が終わるのかと思えば、少年の裏切りによってより深い悲しみへと追いやられる主人公。障害と共に生きることの厳しさを見せられたような気がした。

    『飼育』:個人的には一番好き。『他人の足』同様、黒人兵への接近•裏切りを通して、主人公の少年が自身のアンファンテリズムと決別する。(大人)社会の厳しさを教えられた気持ちになる。映画、『グリーンマイル』を彷彿とさせる。

    その他、傍観者に対する嫌悪と侮蔑。エゴイズムなど。
    大江作品は初めて読んだが、現実世界に目を背け、夢物語で終わらない所が好き。他の作品も買ってるので早く読んでみたい。

  • 湿気までをも文字で表現しているように感じる。

    『死者の奢り』がデビュー作というのが俄かには信じがたい。生と死が並べられるが、不思議と、重たいだけの作品でもない。

    『人間の羊』も強烈なインパクトを残す。正しさなど果たして誰かが決めるものなのか。

    読後に重たいものが残るのは『戦いの今日』だろう。誰が誰を殺めたのかすら一概には分からない。戦争の核心を突いているように思う。

    いずれもタイトルが秀逸だ。中でも、『飼育』という表題をこの作品に据える感覚が、大江ならではなのだろう。

    好きな作家になるかと言われるとそうはならない気もするが、時折取り憑かれたように読み返すことになりそうだ。

  • 閉鎖的な環境にいる人々の心の動きを描いた短編集。こういう重たい本久しぶりに読んだ。
    お目当てだった『飼育』は、ごちゃごちゃした文章でとっても読みにくかった。読みにくくて眠くなるのをこらえてどうにか読み切ったって感じ。この文体が味なんだろうけど私には合わなかった…
    全編通して主人公の閉塞感とか虚無感が描かれており、中でも『人間の羊』はズンとくるお話だった。他の話は時代の違いを多分に感じたけど、正義感を振り回す傍観者への嫌悪みたいなのは今でもあるあるだよなぁと思う。
    昭和34年発行ということで今ではありえない差別描写のオンパレードだった。人種差別がやばい。

  • 初めて大江作品を読んだが、具体的かつ特異な舞台設定に引き込まれる。
    短編集ということもあり、閉塞→嫌悪や恐怖を孕んだ壁外からの刺激→親しみや恐怖の融解→猟奇の再発→死等をきっかけとした主人公の成長・解放という流れがとてもわかりやすく、無駄なく感情移入しやすい。

    特に『飼育』『他人の足』『戦いの今日』が好きでした。

    大江作品にハマるきっかけになりそうだ。

全357件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大江健三郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×