性的人間 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126043

感想・レビュー・書評

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  • 表題作のみ読了。親からの資産家で裕福なJが、映画監督の妻、彫刻家の妹、カメラマン、詩人、ジャズ・シンガー、俳優らとの上機嫌なサロンをつくりあげ、海辺の別荘へ向かう車中、別荘での狂乱。閉鎖的な耳梨湾の集落に住む、悪霊を祓うためと称して姦通した女性の家を無言で取り囲む迷信深い漁民の群衆たち。絡み合う思惑と欲望とが水面下でぶつかりあい、別荘に潜入した少年を契機に、一夜でサロンはくずれおち。そして、急にJは痴漢になることを思い立ち、一見まともそうな痴漢の老人と、嵐のような痴漢の詩を書こうと目論む青年と出会い…と。約60年前に発表された時はおそらくセンセーショナルな問題作とされたのではないかと思うが。やめるために死を賭すか、捕まるまで続けるか、あるいは日常の生活にもどるか。Jが平穏な日々を、という示唆からの暗転は予想されたものの痛ましく。

  • 最後まで読んだが、あまり自分には合わなかった

  • 『性的人間』
    前半は7人の若者たちによる前衛映画撮影
    後半は主人公と老人と青年の3人による痴漢。青年は子どもを誘拐しつつも、線路に転落した子どもを救った英雄となり、主人公は痴漢で捕まる。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%80%A7%E7%9A%84%E4%BA%BA%E9%96%93

    『セブンティーン』 17歳の右翼の少年

  • 読書量が足りないような人間には、睡眠導入剤となる。
    寝る前の数分間でコツコツ読んでいたので、読み終わるのに1ヶ月はかかった。
    日本文学の古典を読むというようなノリで開始したので、この長期間にわたる性的人間生活は苦にはならなかった。

    寝る前の虚ろな状態で読み進めたため、話の内容等に関する感想はほとんどない。カオスティックな情景が常に漂い、暗澹とした雰囲気。寝る前の本としては最適なのでは?

  • 思春期の葛藤を性になぞらえて描いた作品。現代には少なくなっている作風に感じるが、軸に据えられているテーマは現代にも通じるものであり、楽しめた。

  • 2017年12月10日に紹介されました!

  • 「性的人間」
    痴漢道の蘊奥を極めようと奮闘する三人の男たち。痴漢という下劣な軽犯罪をここまで深く掘り下げる作者のイマジネーションの力強さにはもはや感嘆する言葉さえない。

    「セヴンティーン」
    いち右翼少年の誕生と狂奔を描く。作者の筆致にはいくら何でもやり過ぎだろうと、ちょっと悪ノリの感も否めないのだが、ファシズム、レイシズム、ポピュリズムという人類共通の欠陥を、この少年の一身をもって体現せしめた。見事!

  • 「性的人間」
    フリーセックス思想の限界に触れて
    彼はテロリストになった
    すなわち痴漢である
    加虐者であり、被虐者である彼は
    同時にあきらかな敗北主義者でもあったが
    たのもしい2人の痴漢仲間とともに
    めくるめく性倒錯の世界を切り開いてゆくのだった
    その終わりには何があるというのだろう?
    本当にろくでもない

    「セブンティーン」
    ナショナリズム・パトリオティズムに対しては誰もが恐れと羨望を感じ
    とりあえず悪と決めつけるしかない
    そんな時代
    与えられた自由よりも、あえて選び取った束縛に
    身を投じることでしか反抗期を得られなかった少年の
    悲しみと恍惚を描いた物語である
    二律背反が彼を果てしのない狂熱へと導く
    しかし本当に彼は彼の意志でそれを選び取ったのだろうか?

    「共同生活」
    入社するなり閑職に追いやられた若いサラリーマンが
    自宅にては妄想に苦しめられている
    その妄想とは、4匹の猿たちが四六時中見張っているというもので
    若者は、彼らに対する恐れと共に
    ある種の仲間意識を感じている
    それはミソジニーと、性欲を恥じる心が呼び寄せた
    ホモソーシャルだったのかもしれない

  • 「性的人間」「セヴンティーン」「共同生活」では、最初が一番良く、次点、次々点という感じ。
    どれも、薄暗い景色が目に浮かぶようで、卓越した描写力を感じる。読ませる文章で、すっかり疲れてしまった。

    「性的人間」
    まず、痴漢を題材にするというのが恐ろしい。そして、痴漢をインスタントで手近な性欲発散などといったものではなく、生を賭した冒険として描き出す。
    「痴漢について嵐のような詩を書く」という着想も恐ろしければ、話の中で描かれるさまざまな欲望たちもすさまじい。

    「セヴンティーン」
    段落分けの少ない文章の密度に押される。
    極右に染まることへ葛藤がなさすぎる、あまりに強すぎるというところに少しカリカチュアライズを考えなくもない。
    恥。サルトル的。

    「共同生活」
    サルトル的イメージがずいぶん強いような。
    猿の幻想は苦しめるものでありつつ、それが自分にとっては確かな手応えなのだ。

    AかBか、となったときに、その葛藤を一番イーブンに克明に描いているのが「性的人間」だったと思う。順応的人間か痴漢か。恥ずかしいセヴンティーンか極右か。恋人との健康な生活か猿との生活か。

  • エロさを超越した爽やかさ。
    思考が飛躍した一般人。
    的な感覚。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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