海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 3 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181349

感想・レビュー・書評

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  • 前半は宿命のライヴァル、ジェノヴァとの攻防を、後半ではヴェネツィアの女を描いている。1397年にジェノヴァに、対岸のキオッジアまで奪われ、海上を徹底的に封鎖された時がヴェネツィアが迎えた最大の危機であった。文字通りに四面楚歌の中で、よくぞ挙国一致でその難局を切り抜けたものだ。あわや、我々は今日あるヴェネツィアの姿を見られなかったところだったのだ。後半で興味深いのは、「カヴァリエレ・セルヴェンテ」という制度。フランス人ならずとも、夜に貴婦人をベッドまで送り届けて、「本当にそれでおしまい?」と思うだろう。

  • 塩野七生氏によるヴェネツィア史の第3巻。本巻では、ヴェネツィアの最大のライバルであった海洋都市ジェノヴァを取り上げ、第1次~第4次ヴェネツィア・ジェノヴァ海戦について詳細に記載している。本書によると、艦船1隻あたりの戦闘力はジェノヴァがヴェネツィアを圧倒していたが、銃後も含めた組織力と外交力ではヴェネツィアが勝っていた。計4回の戦争は、ともに痛み分けの結果に終わったが、その後ジェノヴァは衰退してフランス領になり、ヴェネツィアは何百年も独立を保ったことを考えると、大局的にはヴェネツィアの勝利といえる。ヴェネツィアは特定の個人に権力が集中しないよう政治制度が高度に発達していたのに対し、ジェノヴァは外敵との戦いより内輪の政治抗争の方が熾烈で、徐々に国力をすり減らしてしまった。もっとも、歴史を俯瞰して見ると、ヴェネツィアのような長寿国が例外なのであり、ジェノヴァも歴史に名を残すに足る強国の1つであったことは間違いない。(と考えたとき、日本は究極の長寿国と言えるのだろうか?西洋と東洋では、国家や政体の概念が異なるので、なかなか比較困難なのだが)
    それはそうと、最近は政治家も官僚も大企業もやたらと人々の「幸せ」を謳い文句にするけれど、大規模にそれを達成する手段は、結局のところ「宗教」か「戦争」のどちらかしかないのであって(本質的には「洗脳」ということ)、本当にそれでいいのかと思ってしまう…。私もサラリーマンの端くれなんで、上からやれと言われれば、宗教指導だろうが戦争指導だろうが一応やるつもりだけど。(前線に立つ気はまったく無い)

  • ヴェネチアのライバルとなった海洋国家の興亡と、ヴェネチアの女性たちについて書いている。アマルフィ・ピサなどいずれもライバルであったが、アマルフィはノルマンに侵略され十字軍に投資できなかったことが響いて脱落していく、ピサはジェノヴァとの戦いに敗れた。ヴェネチア最大のライバルはジェノヴァで黒海貿易、オリエント、コンスタンティノープルなどで対立、200年も休戦をはさんで戦いつづけた。第四次戦役の「キオッジアの戦い」(1380年)では、ヴェネチアはハンガリー、パドヴァ、ジャノヴァに三面包囲され、三ヶ月の籠城となったが、国家総動員体制をひき、初戦で敗れた提督(ピサーニ)を釈放、石を積んだ沈船による海上封鎖などで、ジェノヴァを逆包囲、無条件降伏に追い込んだ。ジャノヴァの商船を襲う役目を与えられていたカルロ・ゼンがもどってきて、勝敗は決した。ヴェネチアとジェノヴァは実力伯仲、なかなか勝負はつかなかったが、ヴェネチアでは内戦がほとんどなかったのに対して、ジェノヴァは船乗りとしてはコロンブスを出すなどヴェネチアより優秀だったが、個人プレーしか念頭になく、組織作りがよわかった。国内の4家族が常に争っていて、めまぐるしく統治者がかわった。市民階級が決起しても二分して争う状態で、ライバルに政権を渡すよりは外国に統治させるということも起こった。「キオッジアの戦い」の後は、5年で10人も統治者が代わり、フランス王の統治下に入り、スペインの保護領になったりした。
     女たちの歴史には彼女たちがはたした社交について書いてあるが、ファッションや「奉仕する騎士」などの民俗にもふれている。ヴェネティアン・レースやガラスの襟、娼婦をまねた胸のあいた服、帽子に穴をあけ髪だけ日焼けさせて金髪にするなど、いろいろな工夫あった。「奉仕する騎士」とは、若い貴族に夫人のともをさせ、夫人を賛美させる習慣で、若者に女性に対する幻想をすてさせ、夫人には「男気がないのに女らしくしろ」という無理はさせず、ビジネスで忙しい夫は妻の面倒をみてもらえるという利点があったらしい。女傑はほとんどおらず、トルコのスルタンのハーレムに献上され、スレイマンの孫を産んだチェチリアがヴェネチアのために動いたことがあるくらいだそうだ。一番悲惨なのは持参金節約のために結婚できなかった娘で、修道院行きである。このため修道院の風紀紊乱事件なども起こっている。また、10人委員会が発注した各国要人の暗殺見積書があるそうである。

  • やはり、ローマ人の物語初期のようなああのハラハラ感は望めないのか。

  •  「はじめに、商売ありき」の合理的な考え方をもっている、ヴェネツィア共和国の1000年に及ぶ歴史について描かれた本。初めに描かれていた第4次十字軍の話はとっても面白かった。自分たちの利益を最大限になるように考えつつ、大国の力をうまく利用していくところがとても面白かった。

     海洋都市であった4国家の比較も面白かった。これにより、ヴェネツィアの異質性がよくわかった。また、ジェノヴァとの戦いは熱いものをかんじた。ヴェネツィアの政治制度であるドージェや十人委員会および国会による権力分立制度はとっても素晴らしいものであり、日本も見習うべきだとは思ったが、この制度が維持できたのはヴェネツィア人の性格があってこそだろう。なぜならば、今の日本の政治家では、このヴェネツィアの方々のように国を想う気持ちはほとんどないだろうから。

     さらに、ヴェネツィアの商魂には驚かされた。トルコとの戦いでの大損を取り返そうと和平条約を締結した際にすぐ大使をコンスタンティノープルに派遣し、そのつなぎに捕虜となっていたヴェネツィア人を使うところもさすがだと感じた。このようにチャンスを逃さない姿勢が1000年繁栄できた要因なんだろう。

     この後、経済的発展に伴って、政治的・文化的に成熟していき、衰退していく。という人の一生だったら充実してやまないような一生だろう。奢れるものというより、平和でありすぎた故の外交感覚のマヒ。今の日本を見ているような気もした。

  • ジェノヴァとの戦いもすごかったですが、女性たちについての話も印象的でした。

  • 封鎖されたヴェネチアの一致団結っぷりが熱すぎて鳥肌立つ!と思っていたら、新宿を乗り過ごし、代々木で引き返す羽目になった。代々木には浴衣姿の女の子たちが大勢いた。

  • 当時の海洋都市国家はヴェネツィアだけではなかった。アマルフィ、ピサ、そしてジェノヴァ。
    「四つの海の共和国」と呼ばれ、現代のイタリア商船旗の中央に当時の国旗が描かれている、その国々は次第に淘汰されていく。
    最後に残ったヴェネツィアとジェノヴァ。そしてこの2国間で地中海の覇権を巡る熾烈な戦いが繰り広げられる・・・。

    第3巻はヴェネツィア以外の海洋都市国家の紹介、そして最大のライバル・ジェノヴァとの戦いの歴史を3分の2ほどを費やして記述し、残りはヴェネツィアの女性たちのことを詳しく紹介していました。
    当時の政治や文化を細かく紹介しているところは、流石としか言いようがないです。
    「ローマ人の物語」が基本的に編年体で書かれていたのに対して、本著シリーズは各話単位で記述されています。
    ヴェネツィア誕生から衰退までが、色々な視点で描かれていくので、「ローマ人の物語」とは違った面白さ・楽しさがあります。
    次が楽しみです。

  • ヴェネツィアとジェノバの地中海をめぐる戦いが描かれている巻です。
    ジェノバの様にいくら軍事力が強くてもそれだけで相手の国を滅ぼすことは難しいのですね。何が必要なのかというと、安定した内政の力。これが無いと国を永らえさせることは難しく、長い戦いを国体として続けることができない。
    とはいえ一歩間違えたらヴェネツィアは滅ぼされてしまうギリギリのところにいたわけで、やっぱり軍事力も大事なのだな、とは思いましたが(笑)
    面白かったのが海賊行為とアンチ海賊行為のゲームバランス。商船団一つ一つに十分な護衛を付けると軍船がいくらあっても足りない。ヴェネツィアはそれで守りが中途半端になってしまいジェノバにいいようにあしらわれるし、ジェノバに対する海賊行為に振り分ける軍事力も余っていないのでジェノバの交易を邪魔することも出来ない。
    最終的にはヴェネツィアもジェノバ式の運営を行うことになるのですが、攻撃は最大の防御を地で行く話だな、と妙に納得した。こうなるとたまに襲われる商船は運が悪かったねとなるのだが、こういう大義の為の小さな犠牲を今の時代は許容するかというとなかなか難しいものもあり。
    などと色々考えさせられる面白い巻でした。

  • 国家の伝記。感想は6で。

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