海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 6 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181370

感想・レビュー・書評

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  • 1から6巻までまとめてレビュー。

    地中海の女王、ヴェネツィアの物語。

    とてもしたたかに生き延びて行く様子が鮮明に描かれている。
    筆者の知識に脱帽するばかりてす。

  • 「海よ。私はお前と結婚する」

    豪奢なガレー船の上からヴェネツィア共和国の元首は、海に向かって
    指輪を投げ入れる。

    蛮族の侵攻から逃れて潟の上に作られた国。ヴェネツィア共和国には
    塩と魚しかなかった。生活に必要な品々は交易で得るしかない。だから
    彼らにとっては海に乗り出すことは必然であった。

    地中海の奥、アドリア海の沿岸に「海の高速道路」とも言うべき船隊の
    補給地を次々と築き、異教徒との交易も厭わない。それがヴェネツィアを
    国際都市にしていく。

    中世イタリアの歴史を読んでいると「ドゥカート」という貨幣表記が
    頻繁に出てくる。

    これはヴェネツィア共和国の通貨単位だ。純度の高い金貨・銀貨を
    造幣したヴェネツィアの通貨は高い信用を得ていた証拠だろう。

    交易による安定した経済、終身職の元首以外は選挙で選ばれ、特定の
    個人に権力が集中しないよう重要職は6か月又は1年の任期と決められ、
    一定期間を置かなければ再選はされない。

    政教分離も徹底しており、法王や枢機卿を出した家からはその法王なり
    枢機卿が亡くなるまで政府の重要職に就く者は選出されない。

    法王庁への距離の取り方も絶妙だ。通常なら各国の枢機卿は法王が
    勝手に任命するのだが、ヴェネツィア共和国は6名のリストを提出し、
    そこから法王に選択させる。

    永遠のライバル・ジェノヴァ、強敵トルコとの度重なる戦争。何度も
    「もうだめか」と思わせながら、勝利をおさめ本土へも属領を増やし
    ていく。

    大航海時代になると地中海貿易の重要性は格段に衰えるが、交易から
    手工業や本土での農業に経済の中心をシフトしていく。

    しかし、経済大国ヴェネツィア共和国にも夕暮れが訪れる。フランス
    革命後、力を得たナポレオンによるイタリア征服の靴音が迫る。

    かつては潟に囲まれた本国に籠城してでも自国を守ることで団結していた
    元老院にも以前の力強さはなくなった。圧倒的多数でナポレオンに屈する
    ことで難攻不落であった潟のなかの国を引き渡すことに決める。

    海を大いなる味方にしたヴェネツィアも、時代の流れのなかではゆるや
    かな下降線を辿り消滅して行くしかなかった。

    でも、考えずにはいられない。

    ジェノバもトルコも、ヴェネツィア本国を包囲しても決して潟に船を
    進ませることはなかった。ヴェネツィアの複雑に入り組んだ潟は、
    同じ海洋国家のジェノバでも迂闊には攻め込めないところだった。

    海軍力では格段に劣るフランスである。この潟に立て篭もって戦って
    いたならば、ヴェネツィアは持ちこたえることが出来たのではなかっ
    たか。

    地中海の海洋国家が数百年で姿を消していくなか、ヴェネツィア共和国は
    その独特な政治体制・経済基盤で1千年を生き抜いた。その国の消滅は
    年老いた貴婦人の老衰に例えてもいいのではないだろうか。

    「ヴィーヴァ、サンマルコ!ヴィーヴァ、ラ・レプブリカ!」

    消えゆく自国の政体に、聖マルコ広場に集まった民衆から時ならぬ声が
    上がる。聖マルコと獅子の、共和国国旗に向かい声は津波のように広がる。

    国としては小国であるヴェネツィア共和国は、最後まで誇り高かった。

  •  海の都の物語、楽しみに読んできたがとうとう最終巻。
     ここで塩野さんは、奢ることのないヴェネツィアですら栄枯盛衰を避けられなかった理由を考察している。要約するなら、国の経済の中心が海運・工業から農業に移ったために、土地のあるなしにより貧富の差が固定化し、能力ある人材が育つ環境が消滅したことだと。
     ナポレオンの台頭を予測するのが難しかったとはいえ、元老院も10人委員会も思考停止してしまい、フランス軍への無条件降伏を受け入れることにはならなかったかもしれない。唯一の救いは、書かれてはいないが、無血開城したために1000年の芸術品が破壊されることなく残ったことか。
     このシリーズを読むと、大陸型大国の間での経済立国のありかたについて、いつも考えさせられる。

  • p.87
     独占の弊害は、それが経済的な必要以上になされることによって、社会の上下の流動が鈍り、貧富の差が固定化し、結局は、その社会自体の持つヴァイタリティの減少につながるからである。
     こうなってはもはや、いかなる改革も福祉対策も効果はない。ヴェネツィアの場合は、それが経済構造の変化に起因していただけに、当時としては他国に類を見ないほどに完備した福祉対策をもってしても、貧民の数は、減るどころか増えるばかりであった。十四万の人口ヴェネツィア本国に、福祉によって生きている人々が二万人に達していたのである。

  • ひとつの国の興亡。

  • 国力が少しずつ衰退していき、ナポレオンに降伏するまでの話。それまで絶妙なバランスの上に国民と国家の利害を一致させ、外交を行なってきたヴェネツィアも最後の最後でバランスが崩れ、崩壊直前には”普通の”国家になってしまった。ナポレオンが攻めている本土に農地を持つ元老院も、気が気でなくて身動きがとれず後手にまわってしまった。身動きがとれなくなるような状況をつくらないことを主眼にヴェネツィアの政治は構築されていたのにも関わらず、結局は環境の変化によりそれまでの政治が維持できなくなってしまったわけだから。[2009/08/02]

  • 1、全6巻、読了するのにほぼ一月、長かった。内容も長かった!2、共通一次試験は、日本史と地理Aだったかなあ。西洋史は、人物名を覚えるのが苦手で手付かず。本編も、苦労いたしました。西洋史に興味を持つも、なんだか強国の理不尽な行いばかりが、とても気になります。とっても野蛮!3、ヴェネツィア共和国。なんだか川の流れに翻弄される笹船のよう。外交力とは、いったい何なんだ!

  • 塩野 七生のローマ人の物語が好きだったので、購入したのですが、とくに英雄などでないため、最初は退屈でしたが、ドンドンと引き込まれていきました。

    資源の乏しさ、アンチ・ヒローの国家、宗教からの独立性など千年続いた国家という点など、日本とは抱える構造が似ているため、ベネチアの歴史からは、いろいろと学ぶところが多いです。

    英雄による帝国は、英雄の死と共に老化していきますし、システムだけに依存した国家は、個人の勢いで負けてしまうところもあります。

    その両方のバランスを考えていた国家だとしても、最終的にナポレオンに滅ぼされてしまうところなど感慨深いです。

    おすすめです。

  • 6巻まとめての感想。

    年始くらいにローマ人の物語(文庫版)を読んだんだけど、ミニ・ローマみたいな趣がある本だった。
    作者にはヴェネツィアのみならず、ジェノヴァやナポリその他諸々の都市国家の歴史も書いて欲しいな。

    それにしてもヨーロッパってEUとかやってるけど、英国、フランス、スペインその他…の歴史を個別にみていくとまとまりがないというかなんか不思議な感じがします。

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