ローマ人の物語 (17) 悪名高き皇帝たち(1) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101181677

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  • ローマ帝国第二代皇帝ティベリウスは、アウグストゥスにもましてストイックな姿で描かれている。

    カエサルが構想しアウグストゥスが建設したローマ帝国という巨大な建造物を、細部に至るまで最後の仕上げを行い、長期にわたり持続させるための運営体制とメンテナンスを行った皇帝という印象である。

    財政面では緊縮財政を敷き、それまでは雇用対策や人気取りのためにも行われていた公共事業を、必要なインフラ整備とメンテナンスに限定し、社会保障政策である「小麦法」の対象も、累進性を強めることで困窮層への支給は充実させながらも支給総額は抑えるといった施策を進めている。

    ゲルマニアにおける防衛線をエルベ川からライン川へと戻したというのも、これまで撤退することはなかったローマの歴史の中では画期的と言えるだろう。

    歴史の中で彼が求められた役割がローマ帝国の創業でもなく建設でもなく、維持であったとするならば、このような比較的地味な施策の数々は間違いなく彼の前任者の構築したものを継承するものであったし、その役割を見事に果たしたと言えるだろう。

    ただ、アウグストゥス以上に厳格で、自らを律するとともに周囲にも同様に高い規範意識を求めたティベリウスは、人気という面では彼の前任者とは大きく異なる結果となったようである。

    「悪名高き皇帝たち」というタイトルは筆者の皮肉が込められているが、国家の運営を担う役割を黙々とこなし続けたがゆえに、後世からは必ずしも人気を獲得することはできなかった皇帝の姿も、このように個々の仕事を丁寧に追うことでその実像が見えてくるという点で、非常に考えさせられた。

  • ティベリウスの治世であるが、これまでのカエサル、アウグストゥスと比較すると業績が地味に見えてしまう事は古今東西、2代目の宿命なのかもしれない。
    だが、しかし、ティベリウスの行っている事は地味ではあるが、アウグストゥスが作り上げた帝政というシステムをローマに根付かせる為に必要不可欠な事ばかりで、こういう人は後年になってようやく評価される人がほとんどなんだよな。

  • ローマ人の物語〈17〉悪名高き皇帝たち(1) (新潮文庫)

  • 孤愁の人ティベリウスがカプリ島にひっこんでしまうまで。

    この前の巻では彼が復帰したときに兵士達が涙を流して喜んでいたと書かれていたので、まさかこんな風になってしまうとは思いませんでした。

    でも彼は誠実に実直に仕事をこなしていきます。
    新しいことをするというより、メンテナンスが中心。

    ティベリウス嫌いの歴史家タキトゥスでも次のように言うしかありませんでした
    「いかなる皇帝でも彼ほどに巧妙な人事を成しえた皇帝はいなかった」

    人気者だったゲルマニクス、息子ドゥルーススともに若くして死。でもティベリウスは冷静に事をすすめていきます。
    ゲルマニクスの妻、感情的に生きる大アグリッピーナは塩野女史の好みではないみたい。

    ボヘミアは前の巻でマルコマンニ族のマロボドゥヌスとの良い関係が書かれて、ここでもですが、この巻の終わりのほうでドナウ川流域ウィーンブダペスト等がはっきり登場してきます。

    最後になりましたが、ただひとりヴィプサーニアだけを愛したティベリウス…今までで一番好みかもしれません。

  • 二代皇帝ティベリウス。カエサル、アウグストゥスとは異なる地味で勤勉な仕事師。大国を創成期から安定期に移行させるには、カリスマではなく人事に長けた有能な指揮者が必要ということか。
    「ローマ帝国は、カエサルが企画し、アウグストゥスが構築し、ティベリウスが盤石にしたと言う事実では間違いない。ティベリウスは何一つ新しい政治をやらなかったとして批判する研究者はいるが、新しい政治をやらなかったことが重要なのである。アウグストゥスが見事なまでに構築した帝政も、後を継いだ者のやり方次第では、一時期の改革で終わったに違いないからだ。アウグストゥスの後を継いだティベリウスが、それを堅固にすることのみに専念したからこそ、帝政ローマは、次に誰が継ごうと盤石たりえたのである。」

  • 初代皇帝アウグストゥスの後を継いだティベリウス帝の苦闘を描く。

    著者は明らかに、ローマ帝国の維持発展という重荷をただ一人で担ったこの冷徹峻厳で孤独な政治家ティベリウスに肩入れしていて、気楽な議論ばかり続けている元老院(富裕なローマ市民600人からなる終身制の最高統治機関)には批判的。読者は自然、現在の日本の国会議員たちの言動に思いを至たすことになる。

    カエサル、アウグストゥス、アントニウスやクレオパトラが登場し、ローマ本国や周辺諸国を巻き込んで派手な軍事闘争を行った前の時代に較べて、動きはぐっと地味になるが、中身は充実。著者のパワーは衰えるどころか、逆にアップしたように感じられる。

  • 第二皇帝ティベリウス、第三カリグラ、第四クラウディウス、第五ネロの「悪名高い皇帝たち」の時代のお話。
    彼らを「悪」で括るのが正しいのかは置いておいて、彼らは「血統」で皇帝になった世代として括ることができる。

    初代が作り二代目で傾き三代目が潰すとかそういうフレーズがある。
    初代は思想と行動が、持っている実力のレベルで完全に均衡が取れている。というか持てる全てで理想に近づけることでそうなる。
    潰れるのが三代目かどうかは不定だと思うが、少しずつ思想がずれ、持てる行動力も上下することで、結果は元の理想から外れていく。そういうことだ。
    コピーはオリジナルから劣化するが、人間の引き継ぎの場合、劣化ではなく変化があるのだ。個性の違いと言ってもいい。

    丁度アウグストゥスが志したローマ帝国を潰すのに必要だったのが、五代目時点だったということだろう。
    決して彼ら個人個人が「悪」であったのではないと、私は考える。
    尤も、「悪」で無かったとは言えないことも多々あるようではあるが。

    人間は絶対に死ぬ。
    個性は絶対にある。
    ならば体制は絶対に続かないのか。
    当初の理想そのままでは、そうなのだろう。

  • アウグストゥス亡き後の、ティベリウス・カリグラ・クラディウス・ネロの四人の悪名高い皇帝の話。本巻はその第一章であるティベリウスの話。と言ってもティベリウスは堅実であり賢帝である印象を受ける。むしろアウグストゥスに途中あれだけ冷遇されたのに、こじらせずよくやっているな、と。私欲が垣間見えない分、アウグストゥスよりも清廉潔白な印象

    P200
    アウグストゥスが遺したシステムであっても、残すべきところは残しつつ、改めるべきところは改めるというやり方は、アウグストゥスの政治を継承することとは少しも矛盾しない。なぜなら、必要に応じての手直しをほどこしてこそ、構築した当の人の意図の永続に通ずるからである

    P212
    誇り高い人とは、何よりもまず自分自身に厳しい人である。自らを厳しく律する人間は、一人息子の死であろうと、悲哀に負けることだけは絶対に許さない。悲嘆にくれ、仕事を放り出すようなことは普通の人のやることであり、普通の人とは思っていない人間には、死んでもやれないことなのである。

  • ティベリウス即位とその統治

  • ティベリウスちゃんとやってるやん、というのが素直な感想。

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