- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101181882
感想・レビュー・書評
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キリストの勝利という題目だが、まだ上巻ではその色はあまり見えない。コンスタンティヌス死後の3人の息子の権力争い。そして辻邦生の「背教者ユリアヌス」の主人公が登場する。苦労人ユリアヌスの真っ当な行動が、どんな副作用を産むのか中巻へと進みます。
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久しぶりに期待できるカエサルが登場!これから先が楽しみ。
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コンスタンティヌス亡き後、帝国はその3人の息子と2人の甥に5分されて統治される。
が、直後に甥2人が暗殺され、コンスタンティヌスの息子3人の統治体制に。さらに、兄弟間の争いでコンスタンティヌス2世が死に、その後、蛮族出身の将軍により、コンスタンスが死ぬ。残ったコンスタンティウスがただ一人の皇帝となる。
反乱を起こしたマグネンティウスを倒すためにコンスタンティウスは発つが、東方に睨みを効かせるために、副帝を必要とし、自分の従兄弟に当たるガルスを選ぶ。しかし、ガルスは反抗的な態度を取り、最後は死罪となる。
代わりに立てられたのが、ガルスの弟のユリアヌス。コンスタンティウスの年の離れた従兄弟に当たるユリアヌスは、荒れ果てたガリアに送り込まれるが、そこで高い戦闘能力と統治能力を発揮し、蛮族に荒らされたガリアを再興する。
一方、コンスタンティウスは、父帝コンスタンティヌスの路線を引き継ぎ、キリスト教を優遇する政策を進める。 -
久しぶりに面白い人物が出てきた!ユリアヌス。「できないと思っていたことができ、しかもそれが人々を幸せにすることにつながるとわかったとき、その人は、これこそが自分にとっての使命、と思うのではないだろうか。」
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大帝コンスタンティヌスの後を継いだ皇帝コンスタンティウスの治世。
猜疑心が強く本質的には気弱であったというのが、コンスタンティウスの人物像に対する筆者の評だが、東西の正帝・副帝という四頭政でスタートした治世から兄弟や従兄弟である他の皇帝達を次々と粛清し、唯一の皇帝として君臨する過程は、父のコンスタンティヌスと繋がるものがある。
そして、そのプロセスで宦官が暗躍し始めるというところが、絶対君主制と呼ばれるようになったローマの帝政の状況を表していると思う。
皇帝としての彼は、軍事的には先帝ほどの才能を持っていたわけではないにしても、特に東方からドナウ川流域における防衛に十分な活躍を果たし、帝国の防衛という皇帝の役割を着実にこなしていた。
更に、キリスト教への対応という意味では、先帝が支配のための道具として公認したというこの宗教をローマ帝国の社会に定着させるという方針に「確信を持って歩みを進めた」皇帝であった。
皇帝の資産からの教会への寄進、教会への税の免除といった先帝の施策を更に進め、聖職者への税の免除・私有財産保有の容認といった支援に踏み切るとともに、偶像崇拝禁止令や神殿の閉鎖命令といった形で、ローマの多神教に対する抑圧を徐々に強めている。
特に、聖職者への税の免除は、元老院の弱体化やシビリアンとミリタリーの間の人的交流の遮断といった施策とあいまって、ローマの社会の高学歴層や富裕層をキリスト教聖職者への道に誘導していくことになる。
歴史的に見ればローマ社会のキリスト教化はすでに先帝の時代に決定づけられた方向性であり、コンスタンティウスは歴史の流れに従って、その方向性を粛々と推し進めたにすぎないのかもしれない。
本巻で採り上げられた彼の治世を通じて、ローマ帝国のあり方に対する皇帝自身の考え方というものは、今ひとつ明確な像を結ぶことがなかった。有能ではあっても、彼自身が帝国の方向性を切り開くということはなかったと言ってもよいのではないか。
この本後半で登場し、20代前半まで幽閉生活と哲学の学究生活を送りながら、副帝となり帝国の西方の防衛という課題に数少ない手勢で正面から立ち向かったユリアヌスの責任感と高揚感とは対照的な姿が浮かんでくる内容だった。 -
【内容】
コンスタンティヌス大帝の後、皇帝コンスタンティウスについて描いた一冊。
大帝亡き後、大帝の息子3人と甥2人で統治するようにとの遺言があったものの、まずは甥が排除され、その後、兄弟たちも、直接コンスタンティウスが手を下したわけではないものの、次々といなくなり、最終的にはコンスタンティウスが一人で、ローマを統治することになっていく。
コンスタンティウスは父親と同様に、キリスト教を奨励し、他の宗教を排除する方向にもっていく、これにより、ローマのキリスト教化が進み、ローマらしさが消え去っていく。
【得たもの?やってみること】
・特になし
【感想】
ローマ人の物語もいよいよ終盤になってきて、キリスト教にローマは占領されてしまう。
はじめは統治者の手段として、キリスト教が導入されたのに、そのうちキリスト教が主役をとってしまうようになるのは、宗教の力(価値観)は大きいのだろう。
ローマが滅んで、現在に至るまで、この時にキリスト教を導入したことが、歴史に連なっている。この時に別の選択がなされいればどうなったのだろう。
また、ローマでも最初はキリスト教を弾圧していた。日本でもキリスト教を弾圧した時期があったが、統治者にとっては、キリスト教の考えは危険な思想に見えるのは、東西で共通しているところが面白い。 -
コンスタンティヌス大帝の後からユリアヌス帝が副帝になるまでの話です。コンスタンティヌス帝といい,その前のディオクレティアヌス帝といい,後継者人事は難しいという印象を持ちながら読み進めていました。特に,4世紀のローマのように,下り坂を降りる一方だったローマであればなおのこと。
本質的に内気で感情を表に出さなかったコンスタンティウス帝がただひとりの正帝になった後に,若さとともに,周りに希望をもたらすユリアヌスが出てくることで,ローマの末期を扱う塩野さんの記述も明るさが戻ってくるように感じました。スキピオ・アフリカヌスにも使った「セレーノ」という言葉が好きな塩野さんですが,ユリアヌスにも「セレーノ」なところがあると思いながら読み進めていました。
次巻の主人公はその「ユリアヌス」です。 -
大帝と呼ばれたコンスタンティヌス没後の分割統治から粛清、統合ののち次男コンスタンティウスが父の遺志を引き継ぐ。後に背教者と呼ばれるユリアヌスが副帝として登場するまでを描く。ローソクが燃え尽きる前にその炎が勢いを増すような、そんな波動を感じてしまう。