図書室の海 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 9425
感想 : 812
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101234168

感想・レビュー・書評

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  • 渡すだけの小夜子
    サヨコの番外編とは知っていたはずだった。2ページ目にそれを暗示する名もあったではないか。でも彼はそれと気づくこともないままにこの話の主人公となるべき者を探し求めていたのだった。サヨコを読んでからもう2週間以上経つのだし、社会人にとって読み終えた本というのは、正直言って半分過去の一部みたいなものだと思う。自分が生きているこの場所、この読んでいる本だけが世界の中心で、ここだけが色を持って存在しているような感じだ。いや、過去の一部という言葉は語弊がある。彼はサヨコの面影を求めて番外編を読もうと思い立ったのは、単なる思い付きではなかったのかもしれない。4分の3を過ぎた頃だった。彼は、おや、と思った。デジャ・ヴを見たような感覚。それは、見覚えのある名前のせいだと気付いた。「関根さんが鍵を持っている」ー関根 夏ー。ようやくたどり着いた名前に、じわりと胸が熱くなる。そう、彼女だったのだ。ふと、後ろで誰かが動いたような気がした。彼は思わず後ろを振り返った。薄暗い書架の奥を見る。書架の奥には誰もいなかった。彼は、かすかに首の後ろが強張るのを感じた。理由のない胸騒ぎが心をかすめるのにも似た風景だった。そして彼はその場所にうずくまった。顔も知らず、名前も知らない、まだ見ぬ「彼女」を思って。

    10の短編からなるこの一冊。やはり、サヨコと会える!「図書室の海」は面白かったです。誰が登場するのかと思っていたら関根秋君のお姉さんでした。そうするとお兄さんは 春 なのか?いずれにしてもこの独特な世界観にははまりますね。その他には、サヨコよりももっと会いたかった融と貴子が登場する「ピクニックの準備」。前夜のワクワク感があって、本編の前にあってもおかしくない感じがしました。さらに興味深かったのは、二人の友人の名前、肇?美夜?さらには何かを計画しようとする「私」。この直後に恩田さんが一気に続きを書いていたら「夜のピクニック」はどんな内容になっていたのでしょうね。そして、最後にもう一つ。「春よ、こい」。これも良かったです。春の霞の中のような茫洋とした薄桃色に彩られた世界。この世界観で書かれた長編を是非読んでみたい、そう思いました。

    ということで、短編集なので一気に読み終えてしまいましたが、何だか不思議なまとまり感もあって、とても楽しませていただきました。

  • 短編が10篇。どれもページ数が短くサクサク読める。
    小夜子の番外編が目当てだったけれど、他の作品も楽しめた。

    恩田作品はわたしには合う合わないの差がすごくあって、学園モノ以外はあまり合わない方だけど、この本の10篇はどれも面白い。

    年代記を凝縮したという「オデュッセイア」。
    SFというよりファンタジー風味で好きです。
    ヴィジュアル的にはどうしても某動く城を思い浮かべてしまうけれど(苦笑)

    あとは、「夜のピクニック」の前日譚。うまく本編へ煽ってくれた感じ。
    もちろん、このあと「夜のピクニック」を読む予定。

  • なんとなく もわっとして…確かに恩田ワールドな短編でした。六番目の小夜子や夜のピクニックとリンクしてる所もなんか?良かった。

  • 私が初めて読んだ恩田作品。短編集で他の作品の番外編みたいな話も入っているので、本編を読んでから改めて再読したい。
    …と思いつつも、多くの恩田作品を読んだ今になってもまだ再読できていなかったりする。

  • 短編10編を集めた本ですが、他の長編作品のスピン・オフを多く含んでいます。

    「睡蓮」は、『麦の海に沈む果実』(講談社)に登場する水野理瀬の幼年時代を描いたもの。「ピクニックの準備」は、『夜のピクニック』(新潮文庫)の予告編。「図書室の海」は、『六番目の小夜子』(新潮文庫)の番外編になっています。また、「イサオ・オサリヴァンを捜して」は、大長編SF『グリーンスリーブス』の予告編ということですが、本編はまだ刊行されておらず、もう一つのスピン・オフ作品である『夜の底は柔らかな幻』上下巻(文芸春秋)が先に刊行されています。

    卒業の季節に何度もくり返し出会うニ人を描いた「春よ、こい」と、旅する城塞都市ココロコを描いた「オデュッセイア」が、とくに印象的でした。喫茶店で、客に出すコーヒーに砒素を入れ続けていたマスターとウェイトレスについての物語である「国境の南」は、幻想色が濃厚に立ち込めたサスペンス小説で、いかにも著者らしい作品だと感じました。この著者は、短編のほうがずっと作品が多いような気がします。

  • これも短編集の中では当たりだと思う。
    全部の短編の続きが気になる一冊!

  • ある地方に伝わる奇妙なゲーム。秘密裏にゲームを引き継ぐ“サヨコ”のほかに、鍵を渡すだけのサヨコがいた―。もうひとつの小夜子の物語「図書室の海」ほか、あるウエイトレスの殺意と孤独を描くぞくっとする話、記憶を刺激する懐かしくも切ない物語、異色SFと、様々な物語を次々と紡ぎ出す恩田陸の世界を堪能できる1冊。

  • 恩田陸さんの短編集です。 当時10代前半だったわたしには少し難しい本でしたが、相変わらずの不思議ワールドは大好きです。
    理瀬シリーズに関連した 睡蓮 が収録されていて、理瀬シリーズファンの方は是非!

  • 怖くもあり、どこか懐かしくもある。
    恩田陸のミステリー短編集。
     
    「図書館の海」(六番目の小夜子」の番外編)、
    「ある映画の記憶」(映画のシーンから導き出される過去の真実)、
    「オデュッセイア」(意識があり、動く陸地)など10話 収録。

    恩田さんすきだなあ。
    鳥肌が立ちそうなくらい恐ろしいシーンもあれば、
    ほっこりとした気持ちにさせたり、最後にはしっかりまとめたりと
    読者を楽しませるのが上手。

  • よく分からないのもあったけど、読んでいて引き込まれる作品ばかりだった。個人的には図書室の海がお気に入り。主人公は、私は主人公になれない人生なんだよねってカッコつけてるけど、自分からしたらめちゃくちゃ羨ましい青春送ってるように見えた。
    中学高校時代を思い出して、心が締め付けられる感じを思い出させてくれる。
    懐かしさだけが、僕たちの存在を証明する手がかりなのだから

著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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