図南の翼 (となんのつばさ) 十二国記 6 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (419ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101240596

感想・レビュー・書評

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  • いやーやっぱり面白い、十二国記。風の万里 黎明の空(上)の最後の方に、祥瓊とのやり取りで出てきた供王珠晶の物言いにすごく心打たれ、気になっていたのですが、まさか早くも登場、活躍とは。心読まれたかのように楽しく読めた。珠晶のキャラもあってか、この巻は景王陽子や泰麒の時のような暗さがなかったですね。

    有言実行。文句を言うなら自分でやれ、やらないで逃げるな。人にモノをいうならまず自分がやる。わからないことは教えを乞う。間違いは認め直す。じぶんの分をわきまえる。人に迷惑はかけない。じぶんのしたことにはちゃんと責任をとる。当たり前のことだけど、理想論と言えばそうかもしれないけど、実際にはできずにいる。そんなことを12歳という素直さ、純粋さゆえに成し遂げる。いい大人には反省することばかり。室季和(しつきわ)や聯紵台(れんちょだい)の大人の都合、考え方がわかるけど、公平公正にみればやはり逃げているのと同じなのか。

    しかし、まさかあの「更夜」が犬狼真君になっているとは!いやー、「―更夜」のセリフにはぞわぞわしましたね。ここでこの名を聞くとは。なんて心憎い演出・キャスティング。
    そして利広。ここで奏国登場。まあ、趨虞を持っている時点で王族関係者と思われましたが、そのまんまでしたがね。いままであまり語られていない奏国が。またいずれどこかでこの国も語られるのだろう。

    後半で珠晶が、じぶんが王になれるとは思っていない、他人の命まで背負えるはずがない、愚痴ばかりの人に私は蓬山に行ったと言うために来た、恭の国民としての義務だと思ったから、という自分の思いの告白に心打たれる。この考え方、視点の高さが王の器なんだろうね。王になれるとは思っていない、という本心がそれまでの「王になる」という言葉に隠れていた。単に夢描くのではなく現実を見据えた上での最善策を取っていくのがだただスゴイと思う。

    景王陽子、延王尚隆,供王珠晶、そして泰王驍宗、奏王先新。いやーこうして書くとすごいな。王の器、考え方。玉座は血で購うもの。この覚悟をもった人たちの更なる活躍に期待。楽しみだ。

    頑丘とのやり取り、「結論だけ言われて、はいそうですかと穏和しく言うことを聞くのは、言葉の通じない家畜だけよ。」「あたしが駮なら、もちろん頑丘を繋いで駮と逃げたわよ。でも、あいにくあたしは人間なの」人間とは何か、考えるとは何か、生きるとは、を全編通して問いかけている小説ですよね。

    「黄朱は騎獣に名前をつけない、・・・・これがその理由だ」「お前とかあいつとか、呼ぶじゃない。・・・それって、単に名前で呼ぶより、ずっと気持ちの上では親密なのよ、分かってる?」にウルっとするも、犬狼真君が連れてきてくれて。いやー良かったよ、駮が無事で。

    タイトル図南の翼。『ゆえに言うのだ、王を含む昇山の旅を、鵬翼に乗る、と。』今回はタイトルがそのままストレートにストーリーに絡んでいる。
    そして最後、麒麟に手を振り上げて「大莫迦者っ!」胸すく締め。あーー、はやく次が読みたい。

  • 恭国では先王が崩御してから27年の歳月が経ち、その間にも国は妖魔による被害が徐々に増えていた。早く恭の麒麟に次の王を見つけてもらわねば恭国は衰退の一途を辿るであろう。

    そこの首都、連檣に住む12歳の少女、珠晶は連檣の中で一番裕福な豪商の家に生まれ何不自由ない生活を送っていた。

    家生(使用人みたいな者)が満足に物が食べられない、家の外では誰かが妖魔に襲われるという情勢の中…自分は良いものを着て、ご馳走を食べ、家も安全であると言う状況に違和感を感じていた。父親に
    「昇山(麒麟が住む山に登り麒麟に王と認めてもらう事)しないの?」と問うも「私は商人だから」と受け流される始末。そう、誰もがこの状況を憂いて早く次の王が見つかれば…と不平をもらすのだが、誰かがやってくれると自分では動かない。そんな人々を珠晶は歯痒く思っていたのだがはたと自分もそんな人々と同類だということに気づいてしまう。

    そこからは早い早い。珠晶は覚悟を決め家を飛び出し王になるため黄海へ向かう…果たして史上最年少の王誕生なるか?

    とにかくこの聡明で勝ち気な珠晶のキャラが最高。人を思いやる優しさをもちながらもまだまだ子供とも思える精神性を持ち、アンバランスな感じなのだが困難な旅を通して大人の理屈というのも学んでいく。徐々に精神を熟成させていきながらも信念に対しては真っ直ぐ進んでいき、どんどん周りを巻き込んでいく。無鉄砲にも思えるこのパワフルさがたまらない。

    巻き込まれた可哀想な人たち(笑)も衝突したり、微妙な距離になりながらも何だかんだ珠晶を放っておけなくなる感じがいい。

    次巻への期待も高まる…んだけど、これだけの大風呂敷、僕が生きてる間に完結してくれるのかが非常に心配になってきた。


  • ・終盤の妖魔から逃げるハラハラが凄いと感じた。
    ・ショウケイへの叱咤の意味がわかる(何故、自分は違う暮らしや扱いを受けることができるのか?1つ1つ疑問を持つ)
    ・ハクの場面は感情が揺さぶられた

     やっぱり十二国記は素晴らしい。ファンタジーとか読みものとしてではなく、生き方とか考え方とかそういうところを描いてくる。もどかしい感じもあって単に綺麗事や理想論を並べてるだけではない。

     王になるまでの話だけど、そこからがスタート。

     十二国記が好きな人はやはり女性が多いのでしょうか?

  • この終わり方の秀逸さ、どうですかね?
    「月の影~」と甲乙つけがたし!!
    くよくよ悩んでぶぅぶぅ文句だけ一丁前の自分が情けない。
    やることやってから言いなさいよ、と、
    珠晶に頬を張られちゃいますね、今のままじゃ。
    でも、しっかり者の反面、
    子どもらしい好奇心や無鉄砲さもあって、
    本当に愛らしさにあふれる最強の王様です。
    お腹いっぱい読ませていただきました。
    ごちそうさま。

  • 恭国では、王が斃れて27年が経過し、治安は乱れ妖魔が徘徊する世界になっていた。誰も王になるべく行動をしないのであれば、私がなってやろうと12歳の少女が立ち上がる。
    これからの物語にも登場してくるのかしら?珠晶の活躍する姿を見てみたい。
    きっと、登場するに違いない。楽しみ。

  • 珠晶が蓬山を目指し、供王に即位するまで。もう、とにかく珠晶が魅力的で、ぐっと物語に惹き込まれた。頑丘とのやり取りなど、やきもきする場面も大いにあったが、すべてが気付きと成長に繋がっている。
    珠晶の芯をとらえる鋭い発言に、頑丘も影響を受け、人間臭い相貌が現れてきたのが好ましい。道に関する解釈をはじめとした珠晶の言葉は、読者の私にもすごく印象に残っている。
    それにしても十二国記、キャラクターの作り方がにくい。尚隆にひけをとらない、食わせ者の新顔が登場した。利広は本当にずるいなあ……放浪癖といい、好きにならざるを得ない。またこんなかたちで更夜と再会できるとは思っていなかった。天仙となっていたのかあ。
    ラストの平手打ちは強烈だった。後にも先にも、そんなことをするのは珠晶だけなのではないだろうか。兎にも角にも読後感が爽快。珠晶の活躍をもっと見てみたくなっている。

  • 再読。とにかく「珠晶〜〜〜!!!!」としか言えないよもう。わたしは自分に自信のある系主人公が大好きなんですよね、しかも裕福で頭も切れてっていう。たぶんリアルな人間関係でもそうだけど、自分の持っているもの(性格や実際の資産やなんでも)を嘆いてばかりの人が嫌なんだと思う。持っている人が、恵まれていると言われる人が、決して元から強く傷つかないわけじゃない。陽子もそうだけど、決して芯の強いキャラクターが最初からそういうわけではなかったり、もしくは途中に単なる悲劇ではなくて自分自身にも原因のある挫折をして乗り越えるところが、この物語の説得力で強さだなって思います。

  • - 他のシリーズ全く読んだことないんだけど、家の本棚にあったので読んでみた。前提知識なくてもちゃんと読めるようにはなっていて楽しめた。きっと他のシリーズ読んでたら嬉しい小ネタはたくさん散りばめられていたんだろうけど。
    - 与えられた環境が恵まれてるからこその葛藤があり、それに向き合って生きてきたなりの哲学がある。現状には不満。でも自分が王になれるとは思ってない。だからって挑戦もせず文句ばかり言って傍観している大人にはなりたくない。だから挑戦する。文句を言うなら挑戦してから言う。という一見めちゃくちゃな哲学が、なぜかすっと入ってくる。
    - 大人が当たり前にしている偏った意見や行動への、無知だからこその率直な疑問や意見が刺さる。無知だからこそ持てる、忖度のない、素直な疑問って大事にしないといけないなー。

  • 十二国記の中でも一番好きなキャラクターはなんと言っても珠晶。もちろん陽子や楽俊、延王延麒も大好きなんだけど、私の好きなキャラクターって珠晶みたいな子なんだよなぁ。
    相手が誰であろうと、何か文句があるなら直接言ってみなさいよ、聞いてあげるから!この腰抜け!とか言ってしまいそうなくらい(実際には言ってません笑)気の強い彼女が輝いて見えて仕方がない。
    12歳であんなに利発で、生意気ではあるけど自分の非はきちんと認めて謝ることもできるしどんな立場の人間に対しても認めるべくは認め、知らない事は教えを請う。彼女の大人に対する質問がいちいち痛い。私ももうすっかり大人だけど、「人を敬えない人間は誰かから敬われる事はない」それを肝に命じておきます。どうせなら心の中に珠晶を住まわせてしまおう。私がなよなようだうだ卑怯なことをしそうになったら、一喝してもらおう。よろしく珠晶。

    「例え10人を見殺しにしてでも、三百万の国民を守るためには王が生き残らねばならない。しかしそれは王以外の者の考え方であってはならなくて、王はその理屈を超越した人物でなければならない」というような内容を確か利広が話していたと思うんだけど、ここを読んで、ああ、そうかと思った。理屈じゃないんだよな。高い志というか、己の信じる道を己の意思で貫ける者でなければ王たる資質は無いんだよな。その点でも珠晶以上に供国で天に選ばれる人間はいないと思う、本当に。本当にあなたが王で良かった。

    そしてなんといっても、そんな風に一本気の強い少女と一緒に危険な旅をするのが、愛想の悪いおっさんと微笑みを絶やさないけど得体の知れないお兄さん、ってところがまたのめり込ませるところ。なんて素敵なトリオ!
    ちなみに、供麒が気弱だけどガタイのいいお兄さんで、その主が気の強い小さい女の子ってところがまた堪らない。他のシリーズにも出てくる珠晶から供麒への語彙力の高い罵倒は本当に笑っちゃうくらい凄まじい。さすが珠晶。

  • 「子供らしい」「女の子らしい」わがままさを持つキャラクターがどうしても苦手で、どんなに他が良くても途中で読むのを断念したりという事もよくあるのだけど、十二国記には案外そういう子が出てくる。『風の万里〜』の鈴しかり祥瓊しかり、そしてこの『図南の翼』の珠晶しかり。
    十二国記の凄い所は、そんな子達が出てきて、そりゃもう途中何度も読むのをやめたくなる程わがままで図々しくて無知で、でもそれが現実だということをビシビシ読み手に突き付けながらもぐいぐい最後まで読ませてくる。そして結果的にお説教じみた改心やお涙頂戴で濁すのではなく、自然にそれぞれが成長し、自然にキャラクター自身が強くなって、読了後には大好きになっているのが凄い。

    要は「強い女の子」が好きなのだけど、「強いと見せかけで実は弱い(それが俗に言う「女の子らしい」と定義され肯定されているような)女の子」は苦手(笑)。
    見かけや行動が男の子っぽいという事ではなく、芯の強さ。芯の強さは成長によって育まれていくということを、十二国記は何度も見せてくれる。どんなに救いようが無いように見えても、現実をしっかりと見据え、自ら考え行動し打破していく事で、人はいくらでも成長していく事が出来る。成長する事でその子が全く変わってしまう訳ではなく、考え方や行動の裏付けがしっかりするという事だけで、同じような勝ち気さや大胆な行動も印象は全く変わる。

    あくまで主題はファンタジーであり、冒険譚や活劇であり、大きな時の流れを感じさせる歴史絵巻だという事がまた良い。
    その中でごく自然に、人が人として成長する事の素晴らしさを、いやらしくなく描く。単純に「人間って素晴らしい」なんて言わず、人間の残酷でドス黒い部分も抉り出し、その中で「最初からできた人」でも「改心する」わけでもなく「ごくありふれたある程度の善人」が、気付き行動出来るかどうかで成長できるかどうかが決まる。それは一度きりのチャンスではなく、誰にでも何度でも機会はある。

    早いに越した事は無いけれど、人が成長する事に遅すぎる事は無いし、成長する事に限界はない。十二国記シリーズがこんなにも幅広い世代に読まれ、愛され、そして読んで欲しいと思うのはこういったことが所以かも。
    それでもまずは純粋にファンタジーとしてのドキドキワクワクを楽しんでもらいたいのが第一ではある。

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著者プロフィール

大分県出身。講談社X文庫ティーンズハートでデビュー。代表作に『悪霊シリーズ』 『十二国記シリーズ』『東亰異問』『屍鬼』など。重厚な世界観、繊細な人物描写、 怒濤の展開のホラー・ミステリー作品で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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