- Amazon.co.jp ・本 (419ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101240596
感想・レビュー・書評
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恭国では先王が崩御してから27年の歳月が経ち、その間にも国は妖魔による被害が徐々に増えていた。早く恭の麒麟に次の王を見つけてもらわねば恭国は衰退の一途を辿るであろう。
そこの首都、連檣に住む12歳の少女、珠晶は連檣の中で一番裕福な豪商の家に生まれ何不自由ない生活を送っていた。
家生(使用人みたいな者)が満足に物が食べられない、家の外では誰かが妖魔に襲われるという情勢の中…自分は良いものを着て、ご馳走を食べ、家も安全であると言う状況に違和感を感じていた。父親に
「昇山(麒麟が住む山に登り麒麟に王と認めてもらう事)しないの?」と問うも「私は商人だから」と受け流される始末。そう、誰もがこの状況を憂いて早く次の王が見つかれば…と不平をもらすのだが、誰かがやってくれると自分では動かない。そんな人々を珠晶は歯痒く思っていたのだがはたと自分もそんな人々と同類だということに気づいてしまう。
そこからは早い早い。珠晶は覚悟を決め家を飛び出し王になるため黄海へ向かう…果たして史上最年少の王誕生なるか?
とにかくこの聡明で勝ち気な珠晶のキャラが最高。人を思いやる優しさをもちながらもまだまだ子供とも思える精神性を持ち、アンバランスな感じなのだが困難な旅を通して大人の理屈というのも学んでいく。徐々に精神を熟成させていきながらも信念に対しては真っ直ぐ進んでいき、どんどん周りを巻き込んでいく。無鉄砲にも思えるこのパワフルさがたまらない。
巻き込まれた可哀想な人たち(笑)も衝突したり、微妙な距離になりながらも何だかんだ珠晶を放っておけなくなる感じがいい。
次巻への期待も高まる…んだけど、これだけの大風呂敷、僕が生きてる間に完結してくれるのかが非常に心配になってきた。 -
この終わり方の秀逸さ、どうですかね?
「月の影~」と甲乙つけがたし!!
くよくよ悩んでぶぅぶぅ文句だけ一丁前の自分が情けない。
やることやってから言いなさいよ、と、
珠晶に頬を張られちゃいますね、今のままじゃ。
でも、しっかり者の反面、
子どもらしい好奇心や無鉄砲さもあって、
本当に愛らしさにあふれる最強の王様です。
お腹いっぱい読ませていただきました。
ごちそうさま。 -
恭国では、王が斃れて27年が経過し、治安は乱れ妖魔が徘徊する世界になっていた。誰も王になるべく行動をしないのであれば、私がなってやろうと12歳の少女が立ち上がる。
これからの物語にも登場してくるのかしら?珠晶の活躍する姿を見てみたい。
きっと、登場するに違いない。楽しみ。 -
再読。とにかく「珠晶〜〜〜!!!!」としか言えないよもう。わたしは自分に自信のある系主人公が大好きなんですよね、しかも裕福で頭も切れてっていう。たぶんリアルな人間関係でもそうだけど、自分の持っているもの(性格や実際の資産やなんでも)を嘆いてばかりの人が嫌なんだと思う。持っている人が、恵まれていると言われる人が、決して元から強く傷つかないわけじゃない。陽子もそうだけど、決して芯の強いキャラクターが最初からそういうわけではなかったり、もしくは途中に単なる悲劇ではなくて自分自身にも原因のある挫折をして乗り越えるところが、この物語の説得力で強さだなって思います。
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- 他のシリーズ全く読んだことないんだけど、家の本棚にあったので読んでみた。前提知識なくてもちゃんと読めるようにはなっていて楽しめた。きっと他のシリーズ読んでたら嬉しい小ネタはたくさん散りばめられていたんだろうけど。
- 与えられた環境が恵まれてるからこその葛藤があり、それに向き合って生きてきたなりの哲学がある。現状には不満。でも自分が王になれるとは思ってない。だからって挑戦もせず文句ばかり言って傍観している大人にはなりたくない。だから挑戦する。文句を言うなら挑戦してから言う。という一見めちゃくちゃな哲学が、なぜかすっと入ってくる。
- 大人が当たり前にしている偏った意見や行動への、無知だからこその率直な疑問や意見が刺さる。無知だからこそ持てる、忖度のない、素直な疑問って大事にしないといけないなー。 -
十二国記の中でも一番好きなキャラクターはなんと言っても珠晶。もちろん陽子や楽俊、延王延麒も大好きなんだけど、私の好きなキャラクターって珠晶みたいな子なんだよなぁ。
相手が誰であろうと、何か文句があるなら直接言ってみなさいよ、聞いてあげるから!この腰抜け!とか言ってしまいそうなくらい(実際には言ってません笑)気の強い彼女が輝いて見えて仕方がない。
12歳であんなに利発で、生意気ではあるけど自分の非はきちんと認めて謝ることもできるしどんな立場の人間に対しても認めるべくは認め、知らない事は教えを請う。彼女の大人に対する質問がいちいち痛い。私ももうすっかり大人だけど、「人を敬えない人間は誰かから敬われる事はない」それを肝に命じておきます。どうせなら心の中に珠晶を住まわせてしまおう。私がなよなようだうだ卑怯なことをしそうになったら、一喝してもらおう。よろしく珠晶。
「例え10人を見殺しにしてでも、三百万の国民を守るためには王が生き残らねばならない。しかしそれは王以外の者の考え方であってはならなくて、王はその理屈を超越した人物でなければならない」というような内容を確か利広が話していたと思うんだけど、ここを読んで、ああ、そうかと思った。理屈じゃないんだよな。高い志というか、己の信じる道を己の意思で貫ける者でなければ王たる資質は無いんだよな。その点でも珠晶以上に供国で天に選ばれる人間はいないと思う、本当に。本当にあなたが王で良かった。
そしてなんといっても、そんな風に一本気の強い少女と一緒に危険な旅をするのが、愛想の悪いおっさんと微笑みを絶やさないけど得体の知れないお兄さん、ってところがまたのめり込ませるところ。なんて素敵なトリオ!
ちなみに、供麒が気弱だけどガタイのいいお兄さんで、その主が気の強い小さい女の子ってところがまた堪らない。他のシリーズにも出てくる珠晶から供麒への語彙力の高い罵倒は本当に笑っちゃうくらい凄まじい。さすが珠晶。 -
「子供らしい」「女の子らしい」わがままさを持つキャラクターがどうしても苦手で、どんなに他が良くても途中で読むのを断念したりという事もよくあるのだけど、十二国記には案外そういう子が出てくる。『風の万里〜』の鈴しかり祥瓊しかり、そしてこの『図南の翼』の珠晶しかり。
十二国記の凄い所は、そんな子達が出てきて、そりゃもう途中何度も読むのをやめたくなる程わがままで図々しくて無知で、でもそれが現実だということをビシビシ読み手に突き付けながらもぐいぐい最後まで読ませてくる。そして結果的にお説教じみた改心やお涙頂戴で濁すのではなく、自然にそれぞれが成長し、自然にキャラクター自身が強くなって、読了後には大好きになっているのが凄い。
要は「強い女の子」が好きなのだけど、「強いと見せかけで実は弱い(それが俗に言う「女の子らしい」と定義され肯定されているような)女の子」は苦手(笑)。
見かけや行動が男の子っぽいという事ではなく、芯の強さ。芯の強さは成長によって育まれていくということを、十二国記は何度も見せてくれる。どんなに救いようが無いように見えても、現実をしっかりと見据え、自ら考え行動し打破していく事で、人はいくらでも成長していく事が出来る。成長する事でその子が全く変わってしまう訳ではなく、考え方や行動の裏付けがしっかりするという事だけで、同じような勝ち気さや大胆な行動も印象は全く変わる。
あくまで主題はファンタジーであり、冒険譚や活劇であり、大きな時の流れを感じさせる歴史絵巻だという事がまた良い。
その中でごく自然に、人が人として成長する事の素晴らしさを、いやらしくなく描く。単純に「人間って素晴らしい」なんて言わず、人間の残酷でドス黒い部分も抉り出し、その中で「最初からできた人」でも「改心する」わけでもなく「ごくありふれたある程度の善人」が、気付き行動出来るかどうかで成長できるかどうかが決まる。それは一度きりのチャンスではなく、誰にでも何度でも機会はある。
早いに越した事は無いけれど、人が成長する事に遅すぎる事は無いし、成長する事に限界はない。十二国記シリーズがこんなにも幅広い世代に読まれ、愛され、そして読んで欲しいと思うのはこういったことが所以かも。
それでもまずは純粋にファンタジーとしてのドキドキワクワクを楽しんでもらいたいのが第一ではある。