黄泉の王: 私見・高松塚 (新潮文庫 う 5-5)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101244051

作品紹介・あらすじ

1972年3月、明日香村の高松塚古墳から華麗な彩色壁画が発見され、日本国中の人びとを興奮のるつぼに投げこんだ。だが、壁画の一部は削り取られ、人骨には頭蓋がなく、大刀には刀身がない。いつの時代の古墳か、被葬者はだれか。たぎる情熱をこめて果敢に古代史の真相に肉薄する著者が、生臭い権力闘争と、愛と死のドラマを再現し、闇に葬られた悲劇の皇子の姿を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • この人の本は、歴史や考古学の素材をミステリー仕立てに料理してくれるところがおもしろい
    この人の万葉集の位置づけも興味深くて、その観点から万葉集を読むと確かに別の歴史が浮かび上がってくるかもしれない
    もっとも万葉仮名の解読は難儀だけど
    史料を存分にブン回して謎解きをしているようだけれど、多分、古代史や考古学の専門家にとってみれば、反論に資する史料があるんだろうけど

  • 高松塚古墳に葬られたのはいったい誰だったのか。定説はないようだけれど、ウィキペディアによると、梅原先生が主張する弓削皇子の可能性は低いとのこと。しかし、本書を読んでしまうと、もうそれしかないと思えてしまう。一つのストーリーとして出来上がっているわけで、そう思えばいろいろなことに納得がいく。と書いたものの、時代背景がよくわかっているわけでもないし、万葉集はほぼ飛ばし読みなので、とりあえず梅原説を信じようといったところ。聖徳太子と法隆寺のこと、柿本人麻呂のこと、そして藤原不比等のこと、すべて梅原先生の言うことを信じておくしか道はない。他に読んでいるわけでも、知識があるわけでもないので。それにしても、本書を読む中でつくづく思ったのは、万葉集を読めるようになりたい、作者の思いを感じ取りたい、ということ。それで、最近久しぶりに再会した高校時代の国語の先生に何を読めばいいか聞いてみた。そうしたら、小学館本をすすめられた。国語教師のバイブルと言われているそうだけれど、もっと、軽く読めそうなのを期待していたのに、まあでも覚悟を決めて読んでみたいと思う。次に大書店に足を運んだときに探してみよう。それと、瀬戸内寂聴の源氏物語と。

  • 極彩色壁画で有名な高松塚古墳の被葬者についての考察本。

    ・斬首のカタチではないのに遺骨に頭蓋骨がないこと
    ・剣・鏡・玉と三種の神器に似た副葬品があるが、剣に刀身がないこと
    ・四神・日月・星宿など天皇をとりまく世界観が壁画で表現されているが、四神は朱雀がなく、日月や玄武の顔は削り取られ、星宿には天皇を示す北斗七星がない
    など、あえて不完全な世界が構築されており、地上とは異なる世界(黄泉の国)の天皇として死者をなだめようとしている怨霊鎮魂の墓と著者は言う。

    以上のことから、埋葬者を何らかの事情で自死させられた皇位を望める地位にいた皇子と推定し

    ・壁画の内容から律令制度の思想がうかがえること
    ・三種の神器は持統天皇の時代に整えられたこと
    ・持統天皇以降は火葬が主だが高松塚の埋葬者は土葬であること
    ・いわゆる「聖なるライン」上にあり、終末期(のちに藤原京時代と報告される)の古墳と思われること
    などから、埋葬者を弓削皇子とし、記紀に詳細な記載のない弓削は同じく詳細な記載のない紀皇女(文武天皇の后と推定)との不倫で自死させられたのではないかとしている。

    高松塚古墳の発掘は昭和47年で、この本の刊行は翌年であるから、初期の報告書のみでの考察であり、例えば壁画のある神社仏閣は鎮魂の意味があるという説は後にキトラ古墳で壁画が発見されたことから一概に該当しない。

    しかし、記紀を藤原不比等による勝者に都合の良い歴史書とし、万葉集など他の文献からの考察方法はとても面白かった。

  • 教えて頂いて読みましたが予想以上でした。高松塚古墳の被葬者に関して梅原節が炸裂。万葉集からのアプローチが私には非常に入りやすかったのですが、これが物語風であればもっと入り込める世界であったと思う。この推察にある程度の創作で補って描かれていたらきっとたまらない。数々の検証も納得出来るし大体において私好みな説を展開される梅原先生ですがいささか強引にもっていかれてる感もあって妙に自分の中で、その被葬者とされる悲劇の皇子の人物像にブレーキをかけたくなってしまった。それはある意味ドツボにハマってるのかも。高松塚古墳おそろしい。

  • 古本屋で梅原さんの本、まとめ買いしてきました。
    相変わらず面白いです。
    読んでいて思うのは時の権力や政治に対抗する手段として文学や劇と言うものは発展して行ったんだなあ〜としみじみ思いました。文学や詩と言うものはその時勢をおのずから反映するものなのですね。今の文学も頑張れ!と思います。…まあ自分がそういう本を選んでないだけかも知れませんが…

    誰が高松塚に葬られていたのか、又梅原さんが考える皇子の万葉集に載せられた詩歌の本意は何か?読んでいてぞくぞくしました。いやあ〜昔も今も政治の本質と言うものは変わってないんでしょうね。面白かったです。

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著者プロフィール

哲学者。『隠された十字架』『水底の歌』で、それぞれ毎日出版文化賞、大佛次郎賞を受賞。縄文時代から近代までを視野に収め、文学・歴史・宗教等を包括して日本文化の深層を解明する〈梅原日本学〉を確立の後、能を研究。

「2016年 『世阿弥を学び、世阿弥に学ぶ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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