遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101248042

感想・レビュー・書評

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  • 大学の推薦図書として高校3年生の時一度は手に取ったものの、ほとんど読み進めませんでした。
    それから8年ほど経ったでしょうか、いつの間にか母親になった今、実家に帰った際ふと目に留まり、家に持ち帰りまた読み始めました。
    すると、藤原節の面白いこと、面白いこと!
    あっという間に完読してしまいました。
    1980年代と少々前の話ですが、イギリスの歴史、地理、天候などから来ると思われるイギリス人の思考や行動が実に興味深くユーモラスに描かれています。
    年代も国も職業も、自分の世界とかけ離れた人の生活を覗けるのは非常に貴重でありがたいですね(^^)

  • 日本橋

  • 1209年創立。日本で言えば鎌倉時代。
    そんな由緒正しきケンブリッジ大学に、文部省の長期在外研究員として我らが(⁉︎)藤原氏が乗り込んだ。

    氏の著書はどれも(笑えるという意味でも)面白く、共感ポイントもすこぶる多い。しかしケンブリッジ滞在時の記録をしたためた本書だけがなかなか手に入らず、今回ようやく悲願達成に至った!

    藤原氏が客員教授として初めに招致されたのがアメリカのコロラド州。その頃のエピソードの記憶が濃厚だったから、毛色の違う英国ライフは自分にとっても新鮮だった。
    労働者階級やニュースで流れるイギリス英語に苦戦しつつも、大学で他の教授と互角に渡り合う氏に惚れ惚れ。英語力もしかり、あとは度胸に3年のアメリカ生活で培ったユーモアと、見習いたい点が山ほどあった。(イジメにあった次男くんに「何でやり返さない」と「藤原家伝来の戦法」を叩き込んだ点には感心出来なかったが…)

    「数学者」と副題にあるので(頭を抱えたくなるような)数式や定理を連想するかもしれないが、他著同様心配ご無用。登場はするが軽く流せる程度だ。
    それに教授方も人の子。各々の人生・家族・人間らしい悩みetc.が寄り集まり、さながら一つの文学作品だった。(本書自体もどちらかと言えば文学的要素が強い!) 彼らの教養の高さもグッと作品を味わい深いものにしており、それだけでも読む価値がある。

    イギリス人をどこか特異な集団だと感知しながら上手く説明できずにいたが、謎を解く鍵の一つが彼らの、これまた特異なユーモアにあったと言うのが一番腑に落ちた。
    George Wellsの『タイム・マシン』よろしく、今昔の作品を行き来してユーモアから探っていくのもアリだな。。今年と言わず、今からでも!



    ■フレーズメモ↓↓(氏の著書を読んだ際は何かしらメモってしまう…)
    「戦争の真実を頭で知ること、そして心で感じることが、若者にとっていま最も重要なことと思います。人間が理性だけで、戦争を廃絶することは不可能なのですから」
    …氏の英国ライフを助けてくれたブライアンのお父さんの証言。第二次大戦で独軍と闘った経験を語る中で出てきたものだが、心が大きく揺らいだ。

    「人品というのは、洋の東西を問わず、一目瞭然である」
    …ここでもまた共感ポイントを発見!思わずメモる。紳士淑女の集まりに出席した際さすがの氏も気後れしたみたいだが、「日本人だから何だ」とジョインしに行ったと聞いて思わず拍手を送った。(買い被り過ぎ?笑)

  • 数学者である藤原さんのケンブリッジ滞在記。名だたる教授陣との交流や息子が直面したレイシズムとの戦いなどとても興味深く一気に読了。最終章ではイギリスとイギリス人について語っており、イギリス人を特徴づけるユーモアとイギリス経済を絡めた考察が面白かった。

  • 著者の1987年の1年のケンブリッジ大学での客員研究員としての生活を描いているが、1年とは思えないほど濃い内容でとても良かった。またイギリスやイギリス人についての説明が興味深く、イギリスやヨーロッパに対する理解が深まった。ただ自分のいったジョークが受けた、的な自慢めいた記載も多く少し鼻につく。メインは次男が学校でいじめられた時の父親としての心境、行動だろうが。このあたり、子供も心配だが仕事も重くてなかなかそこまで手が回らないなど同じ父として非常に共感するものがあった。
     ルース・ローレンスという15歳で博士論文を書いている天才少女の話が出てきた。これに対して著者は、こうした天才児は時々報道されるがその後大成したとういう報道は一度も聞いたことがない、と否定的な感想を述べている。実際、このころから25年ほどたっているが、ルース・ローレンスさんはイスラエルの大学の准教授であり、それほど目立った業績を上げている様子はない。著者は数学ばかりやってきた彼女にたいし、野山を駆けまわったり、恋をしたり、文学や音楽に感動するなどといった経験を通して得られる情緒なくして良い研究ができるのだろうか、と心配する。このあたりも共感した。

  • 藤原正彦さんの英国滞在記。

    著者の本は今までアメリカに関するものしか読んでなかったから、読んでて純粋にイギリスという国の勉強になりました(と言ってももう20年以上前の内容だけど)。

    数学の天才のはずなのに相変わらず僕のように凡人にとっても読み易く、ひいては楽しく読ませてくれる文章の達人です。

    内容はというと、僕はイギリス行ったことない上にアメリカ育ちというのもあって、
    「やっぱり英米間の隔たりって深いんだなぁ」
    ってしみじみ感じました。
    きっとイギリスで僕は米語を話しません。

    でも一度は行っとかないとね!

  • 今のイギリス情勢にも納得できる。

  • イギリスに住んでいた人の目線から見た、風変わりなイギリス人のものの考え方や日本との文化の差についての言及が非常に多く、観光者としてではなく居住者としてその土地の人びとと関わらないと見えてこない外国の側面が描写されており、非常に興味深く読むことができた。特に第十二章でイギリス特有のユーモア感覚について書かれた箇所は一読の価値がある。イギリスの料理はおいしくないという話は所々で耳にするが、この本でもイギリス料理に関しては辛辣に評していて実際に確かめてみたくなった。

    この本をより特徴づけているのは、なんといっても著者が数学者であるということだ。数学者という言葉にはどこか自分のいる世界とは違うところにいる人という印象を受けてしまうが、この本に登場する様々な数学者もまた人間であり、ジョークを飛ばしあったりそりが合わない相手もいたりと彼らの日常にも自分たちに近しいものがあると感じた。

    基本的に面白おかしく、時に考えさせられるというエッセイとしてのみならず読み物としてとても優れていると思う。

  •  私にはイギリス人が、何もかもを知ったうえで、美しい熟年を送ろうとしているように見えた。彼等は、年輪を重ねた自分達が、テニスチャンピオンになったり、マラソンで世界新記録を樹立することが、できないのを知っている。ならば、騒々しく、生き馬の目を抜くような、軽重浮薄で貪婪な若者であるより、気品あり、知恵もある熟年でありたい。それは繁栄、富、成功、勝利、栄光などの先に横たわる物を、既に見てしまった者の生き方だった。
     それは丁度、ベルリンの壁が壊され、東欧諸国が次々に解放され、自由を得た歓喜に人々が酔い、涙を流すのを、茶の間のテレビで見たいた時の複雑な気分に似ている。暗いトンネルを抜け出た彼等は、きらめくような自由の光に眩んでいた。しかし我々は、このめくるめく光の向こうに理想郷がないことを、もう知っている。自由を標榜する各国で、自由の名の下でかつての道徳や情緒は低下し、社会や人心の荒廃がもたらされたのを、目の辺りにしてきた。
     イギリス人は何もかも見てしまった人々である。かつて来た道を、また歩こうとは思わない。食物や衣料への出費は切り詰めているが、精神的余裕の中に、静かな喜びを見出している。不便な田舎の家の裏庭で、樹木や草花の小さな変化に大自然を感じ、屋根裏をひっかき回して探してきた、曾祖父の用いた家具に歴史を感じながら、自分を大切にした日々を送っている。もちろん悲しみや淋しさを胸一杯に抱えてはいるが、人前ではそれをユーモアで笑い飛ばす。シェイクスピアの「片目に喜び、片目に涙」である。

    いかなる組織においても、最も重要な判断は人事である。人事さえうまく行き、有能な人間が集まれば、あとは自然に良い方向へ流れていく。人事を司る人間に必要なものは、何と言ってもすぐれた大局観と公平さである。この二つを兼ね備えた人間がいれば、その人に人事を一任するのが最もよい。民主主義とは多数決であるから、しばしば力関係が反映され過ぎ公平を欠くし、大局観も平均値的レベルにしかなり得ない。学内人事におけるすぐれた大局観とは、その学問分野全体を展望する広い視野と、これからの潮流を流行にとらわれずに見通す洞察力である。公平とは無私である。
     この二つを兼ね備えた人間を探すのは、考えるほど容易でない。たとえいたとしても、民主主義花盛りの現今では、その人間に一任とはなりにくい。そこで通常は、学問的業績の高い人とか政治能力の高い人、人格の高い人、派閥の長などが民主的会議の場で実権を握ることになる。ところが、このような人が、上に述べた二つの資質を持っているとは限らないのである。学問的業績が高いということは、細分化された現在の学問では、それだけ自らの専門への傾斜が強かったということは意味しても、すぐれた大局観を必ずしも意味しない。人格や政治能力が学問的見識と無関係なのは言うまでもない。
     日本の大学がうまく機能しない、最も重要な原因は、この学内民主主義にあると思う。世界中で最もうまく運営されている、と思われるアメリカの大学では、日本のような直接民主主義をとらず、間接民主主義をとっている、民主的選挙によって選ばれた学科主任、学部長、学長などが、権力を握るのである、例えば学科主任は、学科の人事はもちろん、給料の決定にまで、強い影響を及ばせる立場にある、主任の意志でほとんどのことが決まるだけに、主任の責任はそれだけ重くなる。日本の大学における長が、権力も責任もないのと、対照的である。
     イギリスの大学は、どちらかと言うと日本の大学に似ている。近代民主主義を発明した国だけに、仕方ないのかもしれないが、それだけ大学の活性化は遅れているし、運営もうまく行ってない。

  • 数学だけではなく、文化的な事柄にも通じている著者のことがよくわかった。
    217ページ付近には、この本がバブルの頃に書かれたことが理解され、その頃のイギリスの状況が将来の日本であると予言し、かなり的中している。

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著者プロフィール

お茶の水女子大学名誉教授

「2020年 『本屋を守れ 読書とは国力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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