- Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101272610
作品紹介・あらすじ
どうしてそんなことを?と訊かれたならば、魔がさしたから、としか答えようがない。縄はどんな抱擁よりもきつく、私の躰と心を抱きとめる-。仕事に追われる日々の合間、自分を縛ることを密かな楽しみにしている「私」を描いてR‐18文学賞大賞を受賞した表題作、女子高校生の初恋が瑞々しい「渡瀬はいい子だよ」など、"不器用"さすら愛おしい女の子たちをめぐる、全6編。
感想・レビュー・書評
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フェティシズムとは渇望なのだ。
縄、ラバー、ゴミ、使用済みコンドーム…に執着する女性がそれぞれ主人公の連作短編集。
彼女達が求めて止まないもの。フェティッシュのその先にあるのは「自分という存在を理解してくれる人」、ただそれだけであることが切ない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
表題作は先に映画を観賞済み。「祈りは冷凍庫へ」でいきなり折れそうになり、「明日の私は私に背く」で再度折れそうになりましたが、無事読了。ラスト二編の後半でやっと救われたかな?!男としては…。
星は本当は2つ半てトコ。 -
共感は全部は出来ないけど、全編において女性として本能的に理解できる部分が多い。
あとがきの、『フィクションの可能性』という言葉は、あとがきだからこそ示唆に富んでいて素敵。 -
特殊な性癖だから…と言うワケではなく、誰もが持っている″誰も入れたくない部分″が痛い位あざやかに描かれている。
あとがきの「だれかの孤独や切実な気持ちに寄り添える」が、ピタリと来る物語。
渡瀬の話が特に好き。
各話が微妙につながっているあたりもツボ。 -
きっと誰にも受け入れられない性癖。
それらを自分の心に、頑なにしまって震えている女性たち。
その切実さに胸打たれる6編だ。
SMやラバーやのぞき。
全てが著者の性癖と重なるわけではないと思うが、
ちゃんと書けていることに関心してしまった。
ただそれらの題材はあくまで表層的なものにすぎない。人が生きるために、いかに一見無駄なことが必要であるかを表しているように思える。
「いちばんおいしい状態で食べたい。それは確かに当然の欲求だ。なぜ私はそれを平気で切り捨てているのだろう。自分のルールを死守するために、無駄だと排除していたもの。そのなかにこそ、かけがえのないものが混じっていた気がして、胸がざわめいた」
物語の中の女の子のように、社会ルールに縛られて、自分の心の声を犠牲にしてしまっている人は多いのではないだろうか?
一度、心を解き放ってしまうと、いかに楽なことか。笑
周囲から好奇な目で見られても。
これを読んだら、なんだか女性が今までよりも、愛おしく見えてしまうから不思議だ。 -
どの話もすごくしっくり魅力的で文章が読みやすくてすきです。
ひとりひとりに大事な譲れないものがあって、それはきっと退屈なものだったり、想像もできないものだったりするんだろうな。
一回くらい縛ってみたくなるような、ちょっと新しい扉でも開いてみたいような、ステキな本でした。 -
最後の話が一番好き。
R18文学だったって後から知ったんだけど「ふがいない僕は〜」の方がよっぽどR18だと思う(笑) -
西加奈子著『ふる』(河出文庫)をよんで「なんとなく切なくやるせないのだが、そこはかとなく元気をもらえるお話」とレビューしたが、こちら蛭田亜沙子著『自縄自縛の私』にいたっては「なんとなく切なくやるせないく元気になれないお話し」であった。この小説の内容と著者氏名、蛭田っていうのが意味深であった。元気になれない原因が体のどこかにひっついている、それを剥がさないと元気になれない様な・・・でも、そんな自分が大好きな変態さんのおはなし。
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フェティッシュ
私がいる -
なんて、アブノーマルな世界なんだ。
正直、想像もしたことがない世界が繰り広げられていて、最初は驚きました。
自分を縄で縛る、なんていうのは易しいほうで、使用済みコンドームをコレクションする、ラバースーツに身を包む、恋人以外の男性と性交を繰り返すなど、これらの行為で光悦とする女性たち。
自分の知らない世界ながらとても官能的で、人の性癖というのは随分といろいろあるものだ、と思ったものです。ですが、本書は単にエロチックな小説に終わりません。
これらは、仕事に追われる日々や、抑圧された毎日、上手く生きれない自分との折り合いをつけるために生み出されたものだと気付きます。時にそれは意識的に、あるいは無意識から。
決して一般的に認められるものではないながら、それらがあることで日々をなんとか生き抜ける、そんなある種の必死さのようなものが行間から感じられます。
最初はアブノーマルな世界だと感じたものが、段々と、そもそもノーマルって何だったかな・・・という思考に変わっていくのがおもしろい。
これらは連作短編集となっていて、それぞれの登場人物がリンクしています。すなわち、特殊なものだ、隠すべきものだ、とそれぞれが抱えて生きているけれど、実際のところ自分だけじゃなくて、案外身近にいる人たちも大なり小なり何か抱えて生きているという。
最後は「渡瀬はいい子だよ」という短編で本書を終えるのですが、これがいちばん爽やかで、すっきりした読了感が得られる1冊となっています。
著者の文体も好き。ちなみに以下が、「渡瀬はいい子だよ」の冒頭です。
終戦記念日を過ぎると、頬にあたる風は急激に冷ややかになった。夏は、だれかが午睡で見た夢だったみたいに、あとかたもなく消える。今日の空気の質感と海の色には憶えがあって、ああ、もうじき一年が経つんだ、と悟った。”アノヒト”が失踪し、お母さんの生まれ育ったまちに引っ越してから、季節がひとめぐりしたんだ。
ね。素敵なはじまりだと思いませんか?