日本文学100年の名作 第8巻 1984-1993 薄情くじら (新潮文庫)
- 新潮社 (2015年3月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (503ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101274393
作品紹介・あらすじ
深沢七郎 「極楽まくらおとし図」 、佐藤泰志 「美しい夏」、高井有一 「半日の放浪」、田辺聖子 「薄情くじら」、隆慶一郎 「慶安御前試合」、宮本輝 「力道山の弟」、 尾辻克彦 「出口」、開高健 「掌のなかの海」、山田詠美 「ひよこの眼」、中島らも 「白いメリーさん」、阿川弘之 「鮨」、大城立裕 「夏草」、宮部みゆき 「神無月」、北村薫 「ものがたり」
感想・レビュー・書評
-
本は読んでいないが映画で触れていた作家が3人。ああ、あの作品の原作者かと発見と繋がりを感じた。
佐藤泰志の他の作品を読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
全10巻で日本文学100年の歴史を綴る中短編セレクト集の第8巻。1984年から1993年に発表された名作14編を収録。時代は昭和のバブル時代から平成へと進んでいく。様々な事件があったこの時代に描かれた作品は、いつ何が起こるか分からない危うさを感じるものが多いように感じた。
深沢七郎『極楽まくらおとし図』。深沢七郎の代表作というと『楢山節考』が有名であるが、この作品にも通じるものがある。結末を知り、二度読みしたが、何とも恐い話である。
佐藤泰志『美しい夏』。秀雄と光恵の若い夫婦の時間を切り取ったような作品。秀雄の苛立ちは、この時代を象徴しているのだろうか。そんな秀雄に寄り添う光恵の姿が心地良い。
高井有一『半日の放浪』。定年退職した『私』の日常から、社会から必要とされなくなったかのような疎外感が伝わる。
田辺聖子『薄情くじら』。四十五歳の主人公が鯨食べたさに妻と争う姿が滑稽であるが、その真相が分かる時、何とも言えぬ切なさを感じる。捕鯨禁止や週休二日制など、この時代らしい背景も描かれている。
隆慶一郎『慶安御前試合』。さすが、隆慶一郎と言える時代小説である。政治に翻弄されながらも、己れを見失う事の無い剣豪の気高さ…これが、この時代に隆慶一郎が伝えたかったことなのか。
宮本輝『力道山の弟』。昭和三十年代の力道山の弟なるインチキなテキ屋とともに当時の父親の姿を思い出す主人公。思わず、物語に引き込まれる文章は見事と言うしかない。
尾辻克彦『出口』。このセレクト集にこれまで収録された作品の中では異質であり、一番笑える作品だった。極めて主人公は真面目なのだが、タイトルの意味を知り、思わず、ニヤリと笑ってしまった。確かに小学校の頃は学校で大をするのに抵抗があった。さらに後半の主人公の置かれた危機的状況が非常に面白く、泉昌之の『かっこいいスキヤキ』に収録されている『ロボット』を彷彿とさせる。
開高健『掌のなかの海』。ロンドンの酒場の話から、少しずつ物語が広がり、知らず、知らずに物語の世界に引き込まれる。物語の広がりとともに主人公が酒場で知り合った老医師の孤独と悲しみに目頭が熱くなる…
山田詠美『ひよこの眼』。高校生の恋愛物語かと思いきや、何とも深い、深い物語だった。『ひよこの眼』というタイトルに全てが凝縮されている。
中島らも『白いメリーさん』。都市伝説を追いかけるフリーライターを主人公にしたホラー作品。噂の伝播と人間の心の底に潜む闇…時代を象徴するかのような作品である。
阿川弘之『鮨』。駅で手渡された鮨を巡る話。一つだけ食べるか、食べまいか迷う主人公が滑稽であるが、残りの鮨にまつわる、その後の物語がまた深い。
大城立裕『夏草』。この時代だからこそ描いたかのような戦争の悲劇。昭和二十年代の沖縄…死と隣り合わせの極限状態に置かれた夫婦…二人の子供を亡くし、生きる希望も消えかけるのだが…
宮部みゆき『神無月』。個人的には、この頃の宮部みゆきが好きだ。読ませてくれる時代ミステリー小説。毎年、神無月に起きる押し込み強盗…ミステリーだけではなく、人間の温かさを感じる作品。
北村薫『ものがたり』。真相は読者が考えるといった面白い趣向のミステリー。結婚三年目の夫婦の家に妻の妹の茜が大学受験で居候することに。茜が語る創作した時代劇… -
前半の印象が悪すぎる。
逆に後半は好みのものが揃っていて満足。 -
読み出して、蘇る80年代のあまりの圧迫感に、最後まで読めるかなーと不安になったが、杞憂であった。
「薄情くじら」○、「出口」傑作! -
日本文学100年の名作、第8巻。1984~1993年に発表された短編を収録。表題作『薄情くじら』は田辺聖子の作、収録作家は深沢七郎、佐藤泰志、宮本輝、山田詠美、中島らも、宮部みゆきなど。
佐藤泰志は近年、再評価されて、映画も公開されたが、『美しい夏』はある意味で泥臭かった佐藤泰志らしい短編。流行りそうにないと言ってしまえばそれまでだが、じんわりといい話だと思う。
尾辻克彦『出口』は、8巻の中で一番……いや、既刊8冊の中でも1、2を争うインパクトw お上品な内容ではないが、誰もが経験したことのあるスリリングな戦いをこういう表現に仕上げたところが凄い。とにかく変なエネルギーを感じる1作。
山田詠美『ひよこの眼』は確か読んだことがあったかな。その頃は余り印象に残らなかったが、読み直してみると味わい深い……ような気がするw そういえば山田詠美自体を読まなくなって随分経つなぁ……。
中島らも『白いメリーさん』も、既読。しかしこれのインパクトはかなり強かったようで、読み始めるとぶわーっと記憶が蘇ってきた。分類するなら都市伝説系怪談とでも言うのだろうか。オチを映像で想像するとかなり怖いw 個人的には、『中島らも短編のNo.1』ではないのだが、アンソロジーに収録するならやっぱり『メリーさん』かな……。
全10巻予定のアンソロジーも残り2冊。この先の収録作がどうなるか楽しみ。 -
深沢七郎『極楽まくらおとし図』A
「不要になったものは山の彼方に捨ててくる」「徹底して理性的なリアリストだった」と解説にあり、膝を打つ。
「楢山節考」にも通じるが、庶民の懐に入り込んで描きながらもどうしようもなく透徹した眼差し。
深沢の魅力がひとことで言い表された。
佐藤泰志『美しい夏』A-
「ここのみにて光かがやく」の原作者。自殺者。
村上春樹の影に云々という紹介を読んだことがあるが、初めて触れた。
言いようのない苛立ち。中上の書いた人物が思い出された。
高井有一『半日の放浪』B-
これは個人的な感想だけど、いまひとつ伝わらなかった。
田辺聖子『薄情くじら』B+
ケチ臭くなり味覚も復古調になったオジサン。
唐突にもたらされた、父が……という挿話に、急に視界が開けたような。
なかなか面白い。
隆慶一郎『慶安御前試合』B-
罠の張り合い、肚の探り合い。
「無限の住人」の絵柄で思い浮かべることでケレンミたっぷりに。
宮本輝『力道山の弟』B
これは再読。
人と人が登場すれば自然と睦み合う。
ただの動物……かと思いきや、語り手の父の行動から心情が察せられ、ああこれが人間だ、と。
純文学の手本。
尾辻克彦『出口』A
これは酷い。笑
犬でも馬でもどっちでもええわ。
開高健『掌のなかの海』B-
これも申し訳ない。私の未熟さゆえわからず。
ウイスキーの飲み方など知らないし、その飲み方ひとつへのこだわりをかっこよく感じる人生観にも縁がない。
つまりは開高が苦手なのだ。
山田詠美『ひよこの眼』A-
山田詠美は高校の頃に「蝶々の纏足」に強烈に共感していたが、近年の文芸誌に載る軽薄な文体や軽薄な選評に辟易していた。
この作品はちょうどその中間にある。
しかしところどころワンフレーズで殺された。
「好きな男には、呑気な幸せをさずけたいと願う程に大人になっていた」
「吐く息が白くなって行くってことは、体の中があったかいってことだもんな」
「あの人は、私が初めて出会った、人生に対して礼儀正しい人だったのに」
中島らも『白いメリーさん』B+
間違いない。
いま読めば「呪怨2」が似ている。
阿川弘之『鮨』C
こういう小説の跋扈が一番いやだ。
説教くさいじじいは早く消えろ。
大城立裕『夏草』A
戦場小説はあまり好きじゃない。
が、これは戦場を越えて、もっと広い。
成り行きで高まった性欲。しかし成り行きはすでに必然だった。
成り行きで「手榴弾を妻の乳房に押し当てていた」、が、その後の求め合いと改心は必然だ。
宮部みゆき『神無月』B
キューブリックの映画みたい。
北村薫『ものがたり』B-
少女が仮託するなら時代劇でなくトレンディドラマなんじゃ……と素朴な疑問。