- Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101287546
感想・レビュー・書評
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過去に囚われ一歩も動けなくなってしまった男女の物語である。
好き嫌いがはっきりと分かれる物語のような気もする。
正直に言えば、この手の物語はとても苦手だ。
無意識にどこかに救いが見えないかと探してしまう。
何でもいいのだ、俊介の中にでも、かなこの中にでも、ほんの少しの未来が見える瞬間があれば救われた気がしたと思う。
そんな薄っぺらな感情などあっけなく潰されてしまうほど、物語は容赦がない。
かなこが本当に望んでいるのはいったい何なのだろう?
破滅と未来、相反するものへの渇望がかなこの中に渦巻いている気がして辛くなってくる。
すべて壊してしまいたい。何もかも失くなってしまえばいい。
どうせ何処へも行けないのだから。どうせ無かったことには出来ないのだから。
諦めと祈り。
幸せになんてなれない。どうせ私なんて…。
かなこに一番必要だったのは、過去の自分を許してあげられる自分になること。
そんな気がしてならない。被害者にどんな過失があろうとも、そんなものは関係ない。
誰が何と言おうと犯罪を実行した者が悪いにきまっている。
俊介のように「場に流された」だけだとしても、人生の中でいずれそのツケを払わなければならない、払ってほしいと思う。
傷を癒してくれるはずの家庭すら、かなこにとっては再生の場所にはならなかった。
狭量な父親のせいで…。
かなこが最後にした選択が正しかったのかどうかはわからない。
でも、かなこは歩き出そうとしたのだ。
俊介と離れて、ひとりになって、生きていこうと決めたのだ。
お願いだからもう放っておいてやって。
俊介にそう言いたくなるようなラストだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
幼児殺害事件が主題と思いきや、その隣家に住む男女の話が主題となり物語が進行して行く。
自らが犯した過去の過ちに、ずっと苛まれ続ける尾崎俊介。
渓谷のある街で、揺れ続ける被害者と加害者の関係性。
人間の深層心理の「負」の側面を描く吉田修一の世界観がとても現れている作品だったと思います。 -
積ん読チャレンジ(〜'17/06/11) 23/56
’16/11/17 了
真木よう子主演で映画化され、映画を観る直前に購入した作品。
映画も胸に傷を残す作品だったが、小説も一口で飲み込むことの出来ないような作品。
都内からほど近い渓谷で起こった殺人事件。
母親による息子殺し、という導入からどんなストーリーが紡がれていくのかと思ったら、いつの間にか視点はその家族と隣の部屋に住んでいた若い男女に向けられる。
知らぬ間に過去にある事件を起こした男と、そんな男と同居している女性の過去と今を紐解き、繋いでいく物語へと変容を来していく。
そのすり替えの巧みさと、胸に一物を残す独特の読後感。
ページ数も少なく、読みやすい作品。
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気に入った表現、気になった単語
「許して欲しいなら、死んでよ」
「非難もできない、礼も言えない。
たぶん、それが自分たちの関係なのだと、改めて思い知らされる。」(P217〜218)
【狷介(けんかい)】
[名・形動]頑固で自分の信じるところを固く守り、他人に心を開こうとしないこと。また、そのさま。片意地。「狷介な人」「狷介不羈(ふき)」 -
引き込まれてすぐに読み終えた。2人の関係を最初に知るとありえないと思ったけど、読むうちにありえるだろうと思わされた。
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読み終わって、しんどかった。
許されない、逃れられない過去。
逃れられない者同士、幸せになることを恐れて。 -
映画「悪人」が好きだと言ったらおすすめされた作品。情景描写が豊かで、真夏のうだるような暑さと、気付いたら理性では説明できないもので動かされていく様がとてもリアル。何が正義かとかは関係ない。人の心なんて理性では説明できない。「こういうことってあるだろうな」と思わされて、ぐいぐい引き込まれた。
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おもしろいねぇ。読み終わったあと、二、三十分は引っ張られるぐらいの重さ。今、その状態。たぶんあと、十五分ぐらいは引っ張られる。
この人の隙間をついてくる感じ、ほんまにすごいよね。