安楽病棟 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 65
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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101288130

感想・レビュー・書評

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  •  痴呆病棟を舞台にした終末期医療について考えさせられる作品。
     全てが日記・手紙調で書かれており、病棟での歳月を追っているため、文章はかなり長めになっている。文章自体は読みやすいのだが、登場人物も多いため「誰がどんな症状で、家族はどんな様子…」といったことを確認しながら読み進めるとかなりの時間を要する。
     167ページまでは入院患者の紹介(患者本人や家族などから)のため、看護師の視点がなく本書を読み始めたときは「?」といった感じだったが、徐々に読み進めていくうちに内容が明らかになってきた。
     ミステリーとされているが、謎解き要素は少ない。ただ、痴呆の現状と医療の問題点は浮き彫りにされているように思えるので、ミステリーとしてよりは医療ものとして読み進めていく作品に思える。

  • 健康に暮らしている者の傲慢なのだろうけれども 私は香月氏を支持するかな。

  • 前半は年老いて、これから痴呆病棟へ入ろうと考える本人やその家族の側から描かれ、後半は痴呆病棟で働く看護師の側から描かれている。
    両方からの目線で書かれているので、状況がリアル。
    今から17年位前に書かれた作品だが、高齢化社会となった今も十分に読みごたえがある。

    2018.11.6

  • 配置場所:摂枚文庫本
    請求記号:913.6||H
    資料ID:95140043

  • さすがは帚木作品。突っ込み具合が半端じゃない。ミステリーの要素よりも安楽死の是非を問うノンフィクの要素が強いかな。まぁそれにしても重い。ちょっと重すぎた。

  • 最初に一人一人の入院までの過程が短編風に語られ、その後、病院での生活風景が続き、最後にサスペンス。「閉鎖病棟」によく似た構成でできています。
    この人の文章はよほど私の波長と会うのでしょうか、導入部では一気に没入できました。しかし、祖父や母のことを思い起こさせる中盤はちょっと辛い。延々と痴呆の実態がつづられます。なんだか一種のルポルタージュみたいです。何がテーマなのか、どうエンディングにつながるのかと心配した頃、いきなりサスペンスに変わります。
    サスペンスが書きたかったのか、痴呆と言う社会問題を提起したかったのか、どちらにしても中途半端な感じは否めません。

  • 安楽死のことより、老人の抱える問題、特に痴呆老人のことが詳しく描かれていて、興味深い。
    40歳から老後が始まる、という記述にドキリとした。

  • 深夜、引き出しに排尿する男性、お地蔵さんの帽子と前垂れを縫い続ける女性、気をつけの姿勢で寝る元近衛兵の男性、異食症で五百円硬貨がお腹に入ったままの女性、自分を23歳の独身だと思い込む女性…様々な症状の老人が暮らす痴呆病棟で起きた、相次ぐ患者の急死。理想の介護を実践する新任看護婦が気づいた衝撃の実験とは?終末期医療の現状と問題点を鮮やかに描くミステリー。

  • 刊行されてから20年近く時間を経ているが、
    内容は色褪せないどころか、むしろ、切実になっている。

    いずれもモノローグで記述されており、読み始めは戸惑ったが、
    読み進むにつれ、全体像が掴めるようになり、
    その結末たるや、読者に大きな問いを投げかけるものである。

    高齢化してゆくのが自明である現代日本において、
    誰しもが考えるべきテーマだと思った。

  • 初めてこの人の本読んだけど、この人すごい!と思った。
    痴呆老人、介護士の客観目、安楽死。
    日本がこれから直面する問題であろう題材をミステリー仕立てに仕上げられている。

    最初の語りあたりは、正直気怠くて、ずっと最後まてこんな調子かなあ。。だったらこの本海外小説並みに分厚いし、途中で挫折しようかなと思ってたんだけど、途中からドンドン面白くなっていって引き込まれていった。

    直近未来に痴呆になる可能性がある親を持つ私には、小説の話だけとはいかず、かなり学びの感覚で読んでいった。

    それにしても、登場人物の看護士の着眼点は見事としかいいようがない。
    途中涙あり、笑いあり、驚きあり、で読み終わったらなんともいいようがない充実感に満たされた。

    もしかしたら、中年の私だからこの本に感動したのかな(*^^*)

    ま、でも年齢層関係なしにぜひいろんな方に読んでもらいたい一冊だと思ったよ。

    この人の本はこれ以外にも評価が高かったので
    今度読んでみよっと!

  • 2014.9月 読み終わり

  • 痴呆病棟を舞台にしたミステリーという括りだが、ミステリー要素はオマケ。新米看護師の目から見た痴呆病棟の叙述は密着ドキュメンタリーを観ているように細部まで描写されている。(身近に痴呆の人を見たことがない方は信じないだろうけど、かなりリアル)新米看護師の患者や家族との関わり方は慈愛に満ち、病棟で起きるハプニングもユーモラスにも思える。終末期の人間に関わるすべての人に対して粛々と問題提起する本。読んだ人は、家族なら、自分ならどうする?と考えずにいられなくなるはず。興味がある人は是非読むべき。

  • 冒頭だけ読んで眠るつもりが結局読破。
    手紙、あるいは報告書による細かいオムニバス形式で話が進む。安楽死の是非、尊厳ある死とは。医療ミステリの枠を大きく越え、筆者の描く問題提起が痛切に伝わってくる。
    「閉鎖病棟」とはまた違った切り口からの精神病棟の描き方。どちらも無視出来ない人間の有り様で、どちらも読者に強く考えを促す作品だ。
    倫理観が邪魔をしていないか、その倫理観は誰の立場に立ったものなのか、本当に患者のことを考えるとは何か。真の意味での「思いやり」を問われる長編。

  • まず、痴呆老人の実情にびっくりします。この小説の主人公の看護婦の観察眼のするどさ、気配りの細やかさに感心します。
    物語が進む中でじりじりと噴出してくる終末医療の問題点と疑念。
    ミステリーとしてではなく、私たちが向かっていく老人としての生活を知る上でも必読の書です。

  • 「少しくらいなら考えたことはあるけれど、【自分の意見はこうだ】といえるところまでは考えてはいなかったな」と思わせる問題を取り扱った小説でした。「安楽死」や「老人介護」など、今なお課題の多い内容に、序盤は家庭場面・中盤以降は医療場面を舞台に触れられていました。
    意外なラストにも注目、です。

  • 数年前に読んだときは辛くて60ページくらいで断念していたけど、とてもよかった。

  • 考えさせられる。

  • ミステリ要素すら終末医療という避けられないテーマに組み込んだ良作。自分の未来を投影出来ればいくつもの読み方ができる。

  • 帚木さんの『閉鎖病棟』が良かったので、今度はこちらを~。
    て久しぶりの帚木さんの作品だよ。

    老人性痴呆症、老後の生活、そして終末期医療を主筋にして書かれた小説です。
    かなーり重い内容で460ページの長編。
    考えさせられるね~。
    パパが死ぬ前に入院してた頃、ちょっとだけ看病したのを思い出しながら読みました~。

    今の時代、介護や看護は誰にでも切り離せない問題となったけど、
    本当にみんなは理解してるのか?
    そう思うわ~。

    私は癌のパパの看病をそんなにしてたわけじゃないけど、最後は寝たきりになって少しは看護婦さんの手助けを少しはしたかな?
    オムツの替え方、洗浄の仕方とかシーツの替え方、少しは知ってるからね~。
    でも、果たして今の人たちの何人がそれを知ってるのか?

    呆けても、一人の人間。
    それぞれ自分の人生を生き抜いてきて、呆けも人それぞれ。。。
    『呆け老人』を一つにひっくるめられるのではなく、一人一人の尊重がないと本当の介護はできないんじゃないか?と思う。

    今は本当に物が豊かにありすぎて、それが当たり前のように生活してるけど、
    おじいちゃんやおばあちゃんの若い頃は戦争から生き延び、物のない貧しい生活を生き抜いてきた人たち。本当に尊敬しないとダメだし、呆けても一人の人間として扱ってあげないと可哀想。

    そして衝撃的だったのはオランダの医療事情。
    もうダメだと思うと、医者や肉親は患者を死なせることに賛成してしまう。。。
    生きても障害を持つだけ。金がかかるだけ。生きてることに意味がない。
    そんなことを勝手に思って、患者を殺してしまう。
    それが普通なんて信じられない。
    それって殺人だよね~。
    オランダ人じゃなくてよかった。。。

    呆けて自分が誰かも他人が誰かも、何を食べたかも分からない人を殺す権利は誰にもないはず。
    脳死の場合は別として、意志をもって何かを出来る生活を送ってるなら、誰でも生きる権利があるはず。
    私はそう思う。

    最後の章では、まんまとやられたな~。
    これ、ミステリーだったとは思わなかったから、私としては大どんでん返しされた感じ。

    でも、この一冊は絶対持ってて損はない本。
    とても勉強になりました。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

帚木蓬生の作品

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