土の中の子供 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101289526

作品紹介・あらすじ

27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。著者初の短篇「蜘蛛の声」を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 新潮文庫の100冊。
    「キュンタうちわしおり」がほしくて購入。

    133回(平成17年上半期)芥川賞受賞作。

    実は中村文則さんの作品は「教団X」を挫折したことがある。当時は読書に時間が取れなかったのか、内容が合わなかったのか、理由は覚えていないけど、なんとなくアレルギーを感じていた。

    今回はリベンジの読書。
    字も大きいし、中編なのでスイスイ読める。
    冒頭の「私」を不良が容赦なく鉄パイプで暴行する残虐なシーンも、目を背けることなく読める。
    自らの恐怖を克服して生き延びる姿は感動的だし、希望を感じる結末には好感が持てる。結構面白く読めた。

    しかし、芥川賞選考委員の山田詠美は「不感症の原因が死産。いかにも若い男子が考えそうなことですな」と言っている。
    また、村上龍は「虐待を受けた人の現実をリアルに描くのは簡単ではない。」「そういう文学的な「畏れ」と「困難さ」を無視して書かれている。深刻さを単になぞったもので、痛みも怖さもない」とバッサリ。
    確かに、そういう軽さも感じるんだよなぁ。

    アレルギーも克服できたようなので、中村さんの他の作品も読んでみよう。

  • 表題の芥川賞受賞作と「蜘蛛の声」2編

    幼児期の厳しい虐待の記憶から、被暴力への依存性とも思われる主人公タクシードライバー、27歳。

    彼は、被暴力の中で思考する。
    自身の生の認証は、死との狭間で可能なのか。
    彼は、数々の死の欲動の中、抵抗し踏み留まる。

    実親を拒否し、「土の中の子供」としての出生を受容した時、僅かだが、現実の未来が訪れる。

    主題が幼児虐待になるので、読者を選ぶかもしれない。

    短編の範疇なので、仕方ないかと思うけど、ラスト近くの慰問会のエピソード、又、彼に肯定的な対応をみせた同施設の男の子の成長・自殺、彼の施設入所時の医師の話等は、もう少し書き込んでいたら、彼の屈折の遍歴を辿れたかもしれない。


    「蜘蛛の声」

    社会あるいは、自己との闘いからの逃避。
    存在自体を曖昧にしてしまう雰囲気が良い。
    まあ、蜘蛛をださなくても良いんじゃないか?

    何か期待してしまう作家さんでした。他の作品も読みたくなりました。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    圧倒的な理不尽、人間の強さ、尊厳

    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)

    僕は、土の中から生まれたんですよ。

    親から捨てられ、殴る蹴るの暴行を受け続けた少年。彼の脳裏には土に埋められた記憶が焼き付いていた。新世代の芥川賞受賞作!

    27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。人間の業と希望を正面から追求し、賞賛を集めた新世代の芥川賞受賞作。著者初の短篇「蜘蛛の声」を併録。


    ⚫︎感想
    幼少期の、あまりにも理不尽で一方的で悲惨な被虐体験から、生きるための自ら生むしかなかった防衛策の呪縛から、自らを解き放つ。

    圧倒的な悪の力を前に、「生きる」ということを究極に追い詰められながら、考え抜いた主人公を描いた素晴らしい作品だった。

    幼少期の被虐体験をされた10名ほどの方のインタビューを見たことがあるが、大人になっても傷が癒えるということはないと知ったし、その影響は大人になってからも計り知れない。逃げ場のない子供を追い詰める卑劣は許されるはずないが、起こりうることもまた止められない事実としてある。やはりなんとか行政や周りの大人が気づいて救うしかないと考える。

  • 冒頭からかなりのグロいシーンが展開される。親に捨てられ、親戚に虐待を受け、愛情を知らないまま成人し社会に馴染めない底辺の生活。救いようのない不幸へ自ら堕ちてゆく、そんな生き方しか選べない不憫な人生が痛ましい。帯に書かれていた「この本は人を狂わせる。」が正しくピッタリ当てはまる。唯一の救いは、白湯子の存在。愛しているわけではないが、いつしかお互いになくてはならない存在へと二人の存在が変化してゆく様に感じた。

  • 中村文則「教団X」を2020年
    読もうと思いながら読めなかった、今年中村文則のこの作品に図書館でであった。

    冒頭集団リンチから始まる。
    あー辛い、読むのをやめたい。
    やめたい、やめよう。

    本文より

    ー殺したろうぜ
    ーいや殺さんでいい

    はるか遠のく意識の中で、主人公は聞いてる。
    苦痛を感じながらこのまま
    時間が過ぎていけば
    私は何か、他のものになるのではないか

    場面は変わりなんとか
    家にたどりつき同居人白湯子のもとに
    彼女もまともではない、アルコールに溺れ
    悲惨な過去に縛られ
    どちらを向いても希望などなく
    悲惨
    昔読んだ本にこんなことが書いてあった
    『幸せは一通り同じだけど
    不幸は幾重もなって訪れる』みたいなこと
    モーパッサンあたりの本、このわたくしめのいい加減さ。

    本文より
    二親はこの子を捨てた
    引き取った遠い親戚は虐待をし続ける
    虐待し続ける時にあげる声が可笑しいと彼らは笑った、よく笑った
    かれらが笑うことを喜んでくれることを、私は自分にとっての希望だと思っていた。
    この本の凄いところは
    虐待の最中でも、自分を見つめて、見つめて究極に自分を見つめる
    真っ向から対峙する。

    ここまで人として扱われず
    いじめられて虐められていくと
    本文より
    私の中の意欲のようなものか、段々となくなっていく
    主人公は、もはや27歳
    タクシードライバーである
    ある日強盗に会う、
    死ぬ?殺される?

    もうやめて、希望はないの?
    何か生きていくよすがでもでてこないと読者私は
    逃げ出したかった。ー

    本文よりーこの世界の、目に見えない暗闇の奥に確かに存在する、暴力的に人間や生物を支配しょうとする運命というものに対して、そして力ないものに対し、圧倒的な力を行使しようとする全ての存在に対して私は叫んでいた。私は生きるのだ、お前らの思い通りに、なってたまるか。
    いうことを聞くつもりはない。私は自由に自分に降りかかる全ての障害を、自分の手で叩き潰してやるのだ。ー

    極限、死のそこまで行き
    地獄を見続けたからこその主人公の行き着く境地。

    悲しいとかじゃない
    なんの涙かわからない
    ただただ感動で泣いていた。
    表題の「土の子供」の意味がわかる。
    途中でやめなくてよかった。











  • 相変わらず中村先生の本に出てくる人は暗い。前回読んだ「世界の果て」でも感じたことだが、喜怒哀楽も起承転結もかなり掴みにくい。まだまだ、私には難しかった。

    主人公の感じている"恐怖"は今までどんな場面でどのくらい身体や心を蝕んできたんだろう。そう考えるだけで心が痛くなる。
    白湯子と出逢ってお互いを知っていく過程で、誰かと生きることに幸せを感じるようになっていくのかな。最後のページのように彼がもっと強く、そして幸せに進むことを願う。

  • 癖の強い言い回しが多かったけど、慣れるとすぐに読むことができた。
    内容は面白かった。
    時間の無駄にはならない。

  • これ以上ない程、暗い。
    虐待がテーマだけに、主人公の気持ちの移り変わりに共感できる人と出来ない人がいると思った。でも自分にとってこの小説はほんとに出会えてよかった。ここまで暗くて陰鬱な現代の純文学に出会ったことが無かったし、これぐらいにリアルな心理描写が出来るのは中村文則さんだけだと思った。自分と自分が一致するために、自分から痛みを求める主人公。そのようにして、自分の生きる軸を見つける。彼はその方法しか生きるすべがなかったのだと思うと、泣けてくる。
    後ろ向きすぎる応援歌みたいだなと思った。

  • 2017年3月23日読了。
    養父母からの虐待の記憶を引きずり、死の淵ぎりぎりまで近付こうと、わざと殴られる主人公。鬱々とした、暗い内省的な文章が続きますが、決して退屈ではなく先へ先へ読ませる魅力があります。幼少時のエピソードを読むと、これだけ厭世的になるのも仕方ないと納得。最後は救いがあり、良かった。
    短編の「蜘蛛の声」は面白かった。ある日突然すべてを捨てて橋の下で暮らすようになる男の物語。

  • 古本屋でたまたま目につき、教団Xで聞いたことある作家さんだし、買ってみるかくらいの気持ちで購入した一冊。結果的にとても刺さった。村上龍とか筒井康隆とか重くてバイオレンスで漢臭くて繊細な感じが好みなのでタイプだった。
    内省の描写は細かくて、「私」からみた世界でしか描かれていないのでのめりこんでしまうような気がした。不感症の白湯子とのセックスのあと「私のセックスが終わると~」とか、わざとビルから転落したときの「なぜああいう行動を取ろうとしたのか。いや、その理由もわかっていたし~」とかとにかく主観的で、考えが二転三転するのも人間だなと思う。境遇が似ているわけでもなんでもないけど、細かく共感できる表現が多かった。土の中の子供の「私」は不幸に恵まれすぎてないか??と思ったが、こういう人生もあるのだろうか。。フィクションの世界であってほしい。
    これから中村文則の作品色々と読んでみたい。本作で何度か出てきて、ポイントと感じた箇所は以下。

    土の中の子供:(暴力、痛み、落下は)始まったら止まらない。決定した事柄をただ待つだけ。
    蜘蛛の声:隠れているという状態、その行為が、たまらなく快感だった。

  • 中村文則作品全般に漂う、陰鬱で湿り気を帯びた悪意を感じさせる。読んでいて、ズシンと重たくなり、日常の閉塞感で常に溺死寸前、空気の底を感じる。
    気づけば中村氏の描写に深く引き込まれていく。この物語最終は救いであると信じる。

  • 圧倒的な暴力の支配の末に土の中に埋められた主人公。身体が強ばり、息苦しくなるような虐待の描写にしばし手が止まってしまった。
    土の中から生まれたと言った主人公の言葉が全てだと思う。
    白湯子と二人お墓参りに行けるといいな。

  • 非常に重苦しい2編の短編である。重苦しさを感じるのは、著者が小説という手法を使って登場人物の心の中に抱える闇の全てを明らかにしようとしているからだろう。

    表題作の『土の中の子供』では親に捨てられ、孤児として虐待された過去を持つ主人公が暴力をきっかけに死を切望し、それに向かっていくという物語である。虐待され、疎外され続けた精神の崩壊と、生と隣り合わせの死を描き、最後には微かな光を見せてくれる。

    表題作とは対極にあるような『蜘蛛の声』を併録。

  • 幼い頃に親に棄てられ、引き取られた親戚の家での日常的な虐待の末、土の中に生き埋めにされた主人公。この悍ましい被虐体験の記憶、暴力によって搔き乱された精神に深く刻み込まれた恐怖心、憂鬱感、厭世感、自殺願望を絡めながら、宿命に囚われて生きる人間の業とかすかな希望の光を語った『土の中の子供』は、衝撃の芥川賞受賞作品。 日常生活から離脱し、橋の下で暮らし始めたサラリ-マンの心情を語った『蜘蛛の声』が併録されている。

  • 表題作は、第133回芥川賞受賞作。他に、短編『蜘蛛の声』を収める。

    『土の中の子供』は、冒頭、衝撃的なシーンで始まる。
    主人公の「私」は、チンピラの男たちに取り囲まれ、ずたぼろに殴られている。それも自分で好き好んでケンカを売ったのだ。勝算などない。ただ自分を痛めつけようとして男たちに因縁をつけたのだった。
    「私」は27歳。タクシー運転手。
    同棲している女はいるが、この女もどこかやさぐれている。学生時代に妊娠して中退することになったが、相手は他に女を作って逃げた。それでも産む決心をしたものの、子供は死産だった。それ以来、性的に不感症になっていた。不誠実な男に引っ掛かってばかりで、生活は荒み、酒浸りである。付き合っていた男とケンカをして、部屋をたたき出された後、「私」に拾われるように、一緒に住むようになった。

    「私」は深い闇を抱えて、捨て鉢に生きている。そうなっても道理の理由があった。
    子供の頃、実の両親に捨てられたのだが、引き取られた先でひどい虐待を受けていたのだ。
    物語の中盤を越えたあたりで、養家での暮らしが回想の中で綴られる。
    身体的な虐待。精神的な虐待。心を殺さねば生きられないような日々。
    その果てに、養親は新聞記事になるような大きな事件を起こす。

    表題の『土の中の子供』は、彼が経験した虐待を示している。
    養家から逃れるきっかけとなった事件の回想シーンの描写はすさまじく、読む方も息苦しさを感じるほどで、著者の筆力の高さを感じる。
    一度、「土の中」を経験した者は、そこから抜け出し、生まれ変わり、生き直すことができるのだろうか。

    ある意味、「私」が自身の身体を痛めつけようとするのは、生存を確認する作業のようにも見える。
    極限状態を超えたところで、何か別の存在になれるかのような、生まれ変わりの「儀式」のようにも思える。

    ラストは希望が覗くようにも見えるが、単純なハッピーエンドではないだろう。
    「私」のこれからの人生が屈託なく過ぎるようには思えない。
    その屈託を越えて、「私」は人生に何らかの喜びを見出すのか。そうであればよいとは思うけれども、そうである保証はないとも思う。

    もう一篇の『蜘蛛の声』は少しシュールな味わいの作品である。
    会社を辞め、橋の下で暮らすようになった男。
    けれども橋の下に住む蜘蛛は、男が子供の時分からここに住んでいるという。
    話を聞いているうちに、男は蜘蛛が正しいような気がしてくる。
    揺らぐ自我。襲い掛かる幻覚。
    読む者に揺さぶりをかけるような、奇妙な魅力のある小品。



    *作中に、血を吸った蚊を叩き潰すところがあるのですが、ここで著者は蚊に対して「彼」という言葉を使っていて、「えー、蚊って血を吸うのはメスだけじゃん?」と少し気になりました。「彼」という言葉に「オス」の意味は乗せてないのかもしれないですけど。というか、気にするのはそこではない気が我ながらしますけれども(^^;)。

  • 中村さんが人の抱える闇を描こうとしている姿勢がすごく伝わってくる。

    自分の命を玩具のように扱って、死に近づこうとする主人公。幼い頃養親に虐待された影響だというのが次第にわかる。マンションの高層階からイモリやカエルを落とすシーンなんかは、命を弄ぶその嗜虐性にゾクっとしたし、施設の長との間での空想の問答もドキドキさせられた。だけど最終的に主人公が抗うことを選ぶところで、この人案外まともな人なのではという気がした。

    主人公が少し能弁すぎて物語に入れなかったのか、あるいは自分が虐待を受けた経験が無いからなのかわからないが、「狂気」を描けているかというと、少し物足りなさを感じてしまった。でもこういうテーマで書き切ってしまうのは凄いと思った。しかも27歳で。

    個人的には石原慎太郎さんの選評が良かった。
    「背景に主人公の幼い頃からの被虐待という経験がもたらしたトラウマが在る、ということになると話がいかにもわかり過ぎて作品が薄くなることは否めない。」
    「観念としてではなしに、何か直裁なメタファを設定することでこの作者には将来、人間の暗部を探る独自の作品の造形が可能だと期待している。」
    そらこんな力のある小説家なら他の小説も期待するよなぁ…と思った夜でした。

  • 救われた〜

  • 幼少のころ親に捨てられ、養父母に酷い虐待をうけた主人公。トラウマから逃れるため、暴力と恐怖の中に自ら身を置こうとする。
    銃や遮光と違い、終盤は光が見えたような気がして救われた。
    1人でも信じて見守ってくれる人がいるのって強いよね。

  • 『何もかも憂鬱な夜に』もそうだったけど、個人的にはたぶんそれよりもずっと暗くて憂鬱な感じで、それなのにやっぱり最後、一筋とも取れないけれど救われに近い誰かの存在が見えることで憂鬱だけが残る読了感では無くなってるような気がする。

  • 『土の中の子供』は、暴力にさらされた少年が、やがて大人になり、生と死のはざまを彷徨い、最後に微かな光が見えるような、そんな小さな物語。他に収録されている「蜘蛛の声」も同様に、自棄になった男が生の意味を探ろうとする。作者の内奥に疼く、たった一つのテーマが、これでもかというように憂鬱に綴られる。こういうの、俺は好きだな。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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