茜さす 上巻 (新潮文庫 な 13-9)

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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292090

感想・レビュー・書評

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  • ン十年ぶりにこの本に再会できました。
    昔よりも、じっくり読むことができたと思います。

    これは、永井先生にしては珍しく現代のお話。
    職場に関しては、これはけっこう古い本なのに、今もあまり変わってないのかなーなんて思いつつ読んでいました。

  • 現代の物語をとっかかりに、
    劇中劇のように歴史小説の世界が
    広がると思っていたが、まったく逆だった。
    万葉集を切り口に額田王・持統天皇を中心とする、
    人間模様・愛憎を借景としながら、
    現代の女子学生の生き様が描かれる。

    面白いのは”現代”といっても、
    書かれたのは約30年前の1991年。
    30年前と今の社会通念やモラルは
    大きく変わっている。
    万葉の時代・平成・令和の時を経た、
    女性の生き方や考え方、
    社会での在り方の変遷を感じることができる。

    主人公は友田なつみさん。
    お嬢様女子大で国文学を専攻する4年生だ。
    ゼミ、卒論、就職活動に忙殺されている。
    鎌倉の実家でぬくぬく暮らしながら、
    社会の厳しい洗礼を浴びる。
    うまいこと行かない卒論、
    でも一方で学問の面白さにも気づき始める。
    就職活動では友人の結果に焦りを感じながら、
    その選択に彼我の違いを考えさせられる。
    ボーイフレンドとの関係性、
    恋や性についての悩みもある。

    最後のモラトリアム期間。
    理想と現実の狭間で、
    ひとつずつ道が定まっていく。
    期待と不安に揺れ動いた自身の日々を思い出す。

  • 女子大で国文学を専攻しているなつみは、岡崎助教授に指導されるゼミで額田王の発表をする。
    「あかねさす」は「むらさき」の枕詞か。むらさき草は白い花が咲く、違った解釈はないのかと質問され。あかねは言葉につまり、卒論は「枕詞」にする。

    無事卒業したが二度入社試験で落ち、叔母の紹介で極小の下請けの書籍企画会社に入る。女ばかりの職場で揉まれ社会の厳しさを少し知る。

    卒業前に友だちと明日香を旅して偶然発掘現場を見る。古代の遺跡をじかに見たことで衝撃を受ける、古代史でしか知らなかった明日香に生きた人々、中でも鸕野讃良皇女(後の持統天皇)に強く惹かれる。
    職場が倒産し、再度明日香を訪ねる。発掘作業中の研究員にアルバイトを頼み込み、無理やりもぐりこんで働き始める。
    このあたり、思いつめ実行に移す気力が、社会人で鍛えられ強さかもしれないし、なつみの熱中度の強さが運命を引き寄せる気がする。

    持統天皇の系図を見、そして、天智、天武時代へと思いが深まる。流れとしてついに壬申の乱に行き着く。
    研究員たちと吉野から美濃まで、大海人皇子軍の跡を歩き、書物の中の出来事を実体験する。その間に起きた争いや、王位継承をめぐる勢力の移り変わり、複雑な血縁関係で作られた皇室の歴史。そこで生き抜くための智恵。全てが遺跡の中から時を隔てて感じられる。彼女は祖父を殺され父母が死に、13歳で大海人皇子の后になる。姉の大田皇女も同じ大海人皇子の后になったが一足早く大津皇子を生む。8年後天智天皇が病み、可愛がっていた大友皇子が次の天皇になるという、早々に大海人皇子は紛争から逃げるように出家していたが、一族を連れ吉野宮に入り、壬申の内乱が起こることになった。鸕野讃良皇女も時に輿に乗り、急坂は歩いてともに吉野に入る。額田王と天智の子、十市皇女と大友皇子の間に子供がいた。大友が天皇になれば十市皇女が皇后、鸕野讃良皇女と女たちの戦いが、煌びやかな暮らしの底には渦巻いていた。
    援軍も多く大海人皇子軍の勝利で天武天皇が誕生する。

    研究員になり明日香の民宿におちついたなつみは、ふと知り合った泉という紳士に心を惹かれる。彼の誘いに乗りそうになるが、泉とは距離が離れているところに、粗野で見かけもよくない梶浦の思いがけず深い知識と無骨な優しさに親しみを感じたりもする。

    こうして、古代、明日香の地に生きた人々の歴史と、なつみの若い女としての生き方、友人たちの選び取った人生にも触れながら。話が進んでいく。血のつながらない伯父と結婚した叔母のキャリアウーマンらしい都会的な生活も挟みながら、稲淵の古い民宿に移り8畳の部屋いっぱいに持統天皇ゆかりの地の地図を広げて、古代史の中に生きようとする、なつみの生き方に引き込まれた。
    子らが書かれた頃を今読むと、情勢も言葉遣いも変化している。なつみを取り巻く男たちとの交わりも筋書きとしては少々型どおりだったが、これにかかずらっていると、肝心の飛鳥時代の出来事が上滑りになったかもしれない。まだ不明な点が多い古代史を、持統天皇のお足跡をたどるという形で描いた物語はおもしろかった。
    手の届くところで育ち、中学時代に初めて読んだ「壬申の内乱」という岩波新書の地図を持って、何度も訪れてきた万葉ゆかりの土地や、陵の史跡、秋に稲淵の棚田を燃え立たせるヒガンバナ、石舞台など、なつみの自転車とともに走るのも楽しかった。その上、同じ熱中症にかかりやすい性格も大いに共感した.

  • 会社に本を忘れて茜さすを読み始める。
    卒論に古典を選び調べ始めるとどんどんのめり込んでその世界で仕事をしたいとマスコミに就職するも、ブラックで給料も支払われる事なく倒産する。お嬢様で育ってきたいい経験と自分のやりたい事に向かって突き進みながらも挫折も味わう。人間の成長を感じる上巻で一気に読んでたけど、飛鳥時代の話は全然分からないから、飛ばし飛ばしだったので主人公の言っている恋だの疑似愛だのさっぱりだった。
    人間関係が複雑すぎる。。
    今読んでも違和感ない文章でさすが永井路子さんだって思いながら下巻に突入!

  • 奈良にまつわる小説が読みたくて、本書に出会った。

    読み始めるうちに、歴史上の人物にまつわるいろいろなことを思い出した。

    大友皇子。中大兄皇子(天智天皇)の息子。以前友人の家系図を見せてもらったら、彼女の先祖は大友皇子と知り、古代飛鳥時代から脈々と続く血筋にたいへん驚いた。

    持統天皇の幼名は、鸕野讚良皇女(うののさららのひめみこ)。そういえば、神田うのさんの名前の由来はこの人だったか。

    そんなミーハー的な感動は最初だけ。
    途中から、歴史にまつわる話と現代女性の生き方が折り重なって表現されて、とても読み応えがあった。
    1988年に書かれたという本書は、今読んでもとても新鮮で、女性の精神的な自立について深く描かれている。

    主人公のなつみが考える、個族という生き方。孤独だと悲壮がるのではなく、個人として自立して生きていく。そんな立派な決意があったわけでなく、結果的にいま、個族になってしまった私がいるが、本書を読むと、少し勇気がもらえる。

    本書を読み終えた今日、帰宅すると友人から結婚式の招待状が届いていた。一緒に結婚式に参列する他の友人は皆既婚者で、これでこの仲良しグループの中で結婚していないのは、私だけになる。よりによって、今日招待状が届くなんて、動揺するかどうか、試されているのか。それとも、読み終えるタイミングを待っていてくれたのか。

    どちらでも構いやしない。
    胸のざわつきは否定できないが、友人の晴れの日に、個族の一人として、堂々と参列いたしましょう。

  • 永井路子

  • 「茜さす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」
    飛鳥時代の愛憎劇を女子大生が追いかける。バブル時代の話



    茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流


     現代から古代へ思いをはせる歴史小説。現代の友田なつみの思考の中身が多くて、歴史的内容を読みたいと思った人には冗長に感じる。しかし、これでいいのだろう。

     飛鳥時代は日本史ではもう古代である。だから謎が多い。現代人は想像するしかない。だから創造する自由もあるのだろう。
     現代人のなつみが「イマ」を生きながら過去の人間関係を創造していく過程はユニークである。そして、創造する過程があまりに無駄のない最短距離に近いものだと、それはうさん臭くなる。だから主人公なつみが遠回りをしながら、ゆっくり古代の恋物語を想像して古代の女性の恋心に思いをはせて魅了されていく冗長さは、深みを出している。

     蘇我氏や藤原氏のうさん臭さが見え隠れする飛鳥時代の、特に天智天皇から天武天皇、持統天皇くらいの時代はドラマがいっぱい詰まっていそうである。

     持統天皇の怨念を感じられる、女性の歴史小説。

     一度5年前くらいに読み始めて飽きてしまったが、この辺の時代に少し詳しくなってから再び読み始めたら面白く読めた。

  • <上下巻読了>
     珍しく現代が舞台の本作は、刊行年に関わらず、内容が色褪せていない。
     焦点は、女性の生き方の模索。
     飛鳥の地と歴史を今の世から眺めること自体を、作中の視点とした試みは面白いとはいえ、現代と古代の融合に微妙な違和感が残ったのも否めない。
     愛と性と自立に関する談義も刺激的かつ興味深いものの、登場人物たちに託された道筋が乱立するに留まる印象はあるし、端々の提言も抽象的な理論を抜け切っていない気がする。
     それでも尚夢中で読破したのは、己自身の迷いや悔いが物語の主体に投影されるからなのだろう。
     主人公・なつみが持統天皇の生涯を追う必然性は見定められなくとも、生きる道と信念に惑い、密かに古代に惹かれる女の一人として追従せずにはいられない。
     孤独ではない、独立した個人である、『個族』を選択する彼女らの姿が心強かった。
     現代小説のパターンの類に陥らず、安易な起承転結には収まらない本書は、年齢を重ねる毎に異なる感慨をもって読み返す日が来るのだろう。

  • 子供の頃 この作品を読んで 進路を決めました(笑)
    女子大生って すごぃ研究をするんだなぁと思って・・。
    今でも初心を思い返したいときは 必ず開く本です。
    初めて読んだ永井作品であり ここからたくさんの作品に
    魅かれて行きました。

  • 今となるとちょっと古い印象もあるけれど、素直に読めて、流れを楽しめる小説。主人公が万葉の時代に興味を抱き、ゆかりの地を歩き回ったりなど、歴史の話としても面白い部分がある。

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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