なめらかで熱くて甘苦しくて (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.08
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感想 : 48
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292434

作品紹介・あらすじ

少女の想像の中の奇妙なセックス、女の自由をいまも奪う幻の手首の紐、母の乳房から情欲を吸いだす貪欲な嬰児と、はるか千年を越えて女を口説く男たち。やがて洪水は現実から非現実へとあふれだし、「それ」を宿す人々を呑み込んでいく……。水/土/風/火の四大元素と世界の名をもつ魅惑的な物語がときはなつ、愛し、産み、老いていく女たちの愛おしい人生と「性欲」の不思議。

感想・レビュー・書評

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  • なまめかしいタイトルから、想像していたものと少し違った(それはそれでよいが)。重い、この時期重いのは辛く、星三つになった。
    生(母性も)と性と死を描いてある。話を追うごとに難解になってゆく。
    二つ目の「terra」。また私は川上さんの世界に引きずられてゆく。沢田と対話しているのは、女友達と思っていたら違った。最後に謎が明かされる。死の無念さをこんなにも淡々と語って、いや淡々だから余計にやるせない。
    「死んじゃったな、麻美」
    「つまらないなあ、死ぬと」
    あなたが巻いてくれなくなったので、最後に自分で巻いてみた左手首の紐を確かめようとしたけれど、もう体がないので、できない。
    土に還って二酸化炭素や窒素に分解されて記憶もすっかりなくなって、それからまた何かのかたちをとるかもしれない。でもずいぶんと先のことだ。
    数日尾を引いた。心で号泣した。著者の好きな短編の中でもかなり上位だ。また川上さんにやられた。
    希しくも、これを読んでいたとき、(私の)スマホの通知音が僅かに響いた。好きな俳優さんの訃報を知った。
    二つが繋がり離れられないお話となってしまった。
    最後の二つはまだまだ私には難解すぎて、何度も読み返すが今一つ付いてゆけなかった、もどかしい。
    そう簡単に読み解ける一品じゃないですよね。
    いつも思うが、言葉にならない思いが言語化されている。そういうところ、心奪われる。

  • 川上弘美さんの小説は、2種類に分かれると勝手に思っている。
    静かながら美しいストーリー展開がある「センセイの鞄」系と、奇妙でいい意味で気持ち悪い「蛇を踏む」系。
    この小説は短編集なのだけど、前半は「センセイの鞄」系で後半になるにつれて「蛇を踏む」系になっていく印象。
    一番最後の「mundus」はラテン語で「世界」という意味らしいけど、はっきり言って常人には訳がわからない。ストーリーの説明をしろと言われても難しい。けど、読んでいて奇妙に心地よい。
    全体的に、とても哀しい。
    そして、そこはかとない色香がある。
    なんとも感想が難しい小説だった。
    奇妙な世界に引きずり込まれたい人にはおすすめ。

  • 冥府、エロス(性愛)とタナトス(死)の狭間。(解説より)

    生と性愛と死。みずみずしさから始まり、枯れて光って溶けて消えていく。

  • 重いし、暗い。
    展開もなく、暗い短編を言葉重く書いてある

  • 160317*読了

  • この作者独特の世界観が強くて、全体的に難解だったし、読後感も不思議な感じだったけど、「aer」という作品だけはすごく共感できて、印象に残った。妊娠、出産、育児についてかなり独特の書き口で描かれているんだけど、母親の母性の中にはここに描かれているような不安定なもの不穏なものも含まれていると思う。母性や子供への愛情は神話や夢物語ではなく、生々しい人間の感情なんだと思わされるところが良かった。

  • 女の人生の四季と、その折々の性についての短編集。序盤の3遍はわりと読みやすいけれど、最後の2篇はとっつきにくいかな。段々と神話じみてくるというか、古典文学や遠野物語に近い雰囲気があると思う。私の年齢からして、始めのaquaが少し理解できるかなという程度。人生の夏〜冬にかけてはこんなもんなのかなと想像することしかできないけど、いつか肌感覚としてわかる日が来るのだろうか。
    3編目のaerを読んで、女の人って子どもを産むと子どもが全てになりがちだなと思う。尊敬できる女性達が、子どものサッカー教室や中学受験についておもむろに話し合い始めると、途端にばかみたいと思ってしまうのはなぜだろう。所帯染みた感じがいやなのか、単なるモテない私のひがみなのか。こちらの小説を読んで、子どもを愛するのは母性愛ではなく、単に愛であると言い切った潔さというか痛快さというか。私は母性なんてクソ食らえと思っているので、自分にも動物になって恋愛し子どもを産み落とす日が来れば最高に面白いのにな〜、と期待しておくことにする。

  • つややかでなまめかしくて好きだった。進んでゆくごとにぼやけていく。

  • 5篇の短編からなるこれは、どのタイトルもラテン語である。水、土、空気、火、世界。
    全ての短編に性と生と死を感じた。それと、人称の使い方がおもろしろかった。アクアでは、水面と汀という2人の少女が登場する。地の文は水面主観で語られるが、その際水面は汀と呼び捨てで呼んでいる。しかし、会話文になると田中さん、と姓呼びになり距離を感じられる。この2人と同じ生まれの少女が行方不明になり、全裸で死体となり発見される。この少女はいつもどこか2人の少女の中をさまよう。

  • 子どもは親を冷静なまなざしで見抜いている。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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