夢見通りの人々 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101307053

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  • 単行本の初版は1986年。
    三十余年も前の人々の営みを描いているにも関わらず、古臭さを全く感じさせない。
    むしろ、人間の表面に現れるものと、心に内在する強さや脆さの同居という本質的な問題に迫る、痺れる名著。

    舞台は、大阪の小さな、うらびれた「夢見通り商店街」。
    主人公は、密かに詩人を夢見るうだつの上がらない通信教育の営業マン。
    競馬狂いで夫婦喧嘩の絶えない中華料理店家族。
    上昇志向、名誉欲にまみれた強欲のパチンコ屋経営者。
    盗癖のある息子に悩む吝嗇の時計店店主。
    ダメンズの年下美男子を次々と囲う厚化粧の場末のスナックママ。

    商店街に住まう訳ありの人々の在り様が連作10章で綴られる。

    中でも印象的だったのが、慈しむべき存在の夫と息子を失い、天涯孤独で煙草屋を営む老婆トミの章。
    過剰な説明などせず、彼女が抱える孤独の穴を淡々とつづる。
    「過去に生きる瞬間のほうが多かった」

    「今現在」ではなく、「過去」に生きる老婆の哀しさがまるで、水たまりに広がる波紋のように静かに描かれる。

    顔や体に痣をもつ場末のスナックのママの心の機微にも揺さぶられた。
    人間の心の基底に持つコンプレックスのなせる業。
    背負う宿業とその人の立ち居振る舞いの一見奇妙な連動。

    10章を通じて、誰もが何某かの塊を心の底に抱えながら、必死に、一所懸命生きている。足掻いている。
    そのさまが、善悪という価値判断を伴わず、淡々と、粛々と呈される。
    宮本輝さん、やっぱりいい。

    このところ、若手人気女性作家の作品を読み続け、不器用な登場人物が旧来の価値観に基づいた他人の心ない振る舞いや言葉に傷つき…のようなパターンが続いて、説明過多、描きすぎに少し疲れていたところ。

    そうした作品も旧来の価値観に風穴を開ける一端を担うのだが、ジャッジメントのための言葉が多すぎる印象。

    善悪を手放して、「人」を描く名作でした。

  • 人間の愚かさや世の中の皮肉さがそこらじゅうにちりばめられています。

  • もはや個性が強すぎるを通り越し、とてもクセのある人が何故か集まっている夢見通り。
    各章ごとに書かれる人々の日常は、それぞれ何らかの問題を抱えているが、夢や希望を持っている。
    しかし、結局思い通りの結果にはならず、とてももどかしい。
    だけど、その上手くいかない感じがやけに人間らしくて、しっくりくる感じもする。
    ある意味、人間クサイお話です^^

    いつも他人の問題に巻き込まれるけど、なんだかんだ言って仲介役を引き受けてしまう里見春太の人柄が好きですね
    彼はそういう運命なんだろう・・・


    宮本輝さんは天才ですね^^

  • 大坂の夢見通りという商店街の1軒に下宿する
    里見春太とその商店街の一癖も二癖もある人々のお話
    少しにがくって、生々しくって、おかしくて、悲しい
    読んでいてすごく思ったのは、宮本輝さんの小説って
    ストーリーも長短編かもテーマも時代も色々と違うけど
    芯はずっとぶれていないんだなぁということ
    やはりこの本も読み終わって元気が、勇気がもらえました
    もう20年以上も前の小説、今読んでも輝いています

  • 淡々と粛々と精読しました。
    この作家さんの作品はジンワリと染み入る様な読後感が好き!‼️

  • 超絶面白かった。


  • 夢見通りに生きるそれぞれ生き様が切実な重みをもって胸に迫ってくる。深く重い人生観を啓示する宮本先生の技量に心底酔わされる。

  • ぜひとも、このような本を書いてみたい

  • 読み進めるほど、目が離せなくなりました。自分も商店街の住人で、たまたま通りかかって目にしてしまったような、そんな気分で読んでました。

著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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