ホルモン奉行 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101326719

作品紹介・あらすじ

ホルモンと一口に言っても種類は様様、食べられ方も千差万別。その文化的背景は知れば知るほど奥深い。ホルモンを使った郷土料理の知恵を学び、魅惑の食材、油かすやサイボシを紹介。BSE騒動に憤りつつ、日本各地、果ては米国、韓国など海外の内臓食事情も現地調査。「鍋奉行」ならぬ「ホルモン奉行」を名乗る著者の、ホルモン食文化の多様さと美味しさを伝えるルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • 内容(「BOOK」データベースより)
    ホルモンたずねて三千里!日本列島はもちろんのこと、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、世界各国をまたにかけた、うまくて熱いルポルタージュ。

    ホルモンのグルメツアーでは無く(もちろん最高にホルモン食べたくなる本ですが)、屠畜業界への人々の差別や、そもそも古くからの因習に伴うアンタッチャブルな部分を赤裸々に語ってくれている本です。丁度BSEが最高潮の頃の本なのでその部分もかなりの項数を割いておりますが、何よりやはりホルモンを美味しく食べる為の熱い想いが伝わってきて、ぼくも今すぐにホルモンにかぶりつきたいという思いを胸に抱きました。ほんと美味しそうなんですよ!処理したてのホルモン食べたい・・・。

  • ホルモン奉行

    著者:角岡伸彦
    発行:2010年5月1日
    新潮文庫
    初出:月刊「部落解放」(解放出版社)12回連載(2001年~)、単行本(解放出版社)2003年6月

    新潮文庫の紹介文では「サイボシや油かすってどんなもの?BSE騒動に物申す。日本各地、そして海外のホルモン食文化まで現地調査したルポルタージュ」となっている。一方、この文庫版で解説を書いている趙博氏(パギヤン)は「日本初のホルモン社会学本」としている。

    読み始めると、ルポルタージュなの?紀行エッセイでは?と思えるが、やはりルポといえばルポ。しかし、背景を文献などで掘り下げて解説しながらのノンフィクションものではなく、あくまで現場主義、現地主義の出張型ルポルタージュ。本人がいろんなところでいろんなホルモン料理を食べるが、グルメ本のような大げさな食レポはなく、作り方や素朴な個人の感想にとどまるので、その面で期待したら外れるかも。

    それに対し、著者は神戸新聞の記者から大阪人権博物館の学芸員を経験した人であり、被差別部落に関する著作も多い。自らも出身者であり、この本についても、被差別部落や在日韓国・朝鮮人の歴史や文化との関係について触れながら、ホルモンという食文化について語る集大成的な名著であるとの期待を抱かせて読ませるのだが、読んでみるとそんな大げさなことでもなかった。

    読後感は、なにより、「牛タンが食いたい」「サイボシが食いたい」「テッチャンも久しぶりにメシと一緒に食いたい」だった。

    2000年から2年ほどかけて取材したものが元々。それに、文庫化するにあたり2010年の情報まで加筆している。最初の印象的なテーマは「油かす」。今では「かすうどん」は多くの関西人の知るところとなったが、2000年代初頭ではまだまだ知る人は少なく(僕も当時は知らなかったはず)、その意味では先駆的なルポルタージュといえる。油かすは、牛の小腸を脂ごと揚げたもの(肥料に使う油粕とは別もの)。でも、これだけでは意味不明。小腸には脂がいっぱいついている。それを脂ごと輪切りにしていき、炒めると段々油が出てくる。すると揚げ物をする時の油のようにたまってきて、今度はその油が脂を失った小腸を揚げ物のようにし始める。1時間ほど時間がかかるようである。それを引き上げ、残った油に次の小腸を入れて同じようにする。「かすうどん」は、その油かすを入れたうどん。ずっと部落内の食べ物だったが、今では部落外でも食べられる人気メニューとなっている。

    サイボシもグッと惹かれるテーマだった。元々は馬の肉を干したものだったが、今は馬や牛の肉を燻製にするのが主流のようだ。サイボシは割とよく知られているが、どんな食べ物か知っている人は少ないかもしれない。こちらも部落内の食べ物だったが、本を読むとどうやらなかなか手に入りにくいらしい。干し肉、燻製肉が大好きな身としては、ぜひ食べたいが(たぶん食べた経験はあると思う)、結構、いい値がするらしい。

    8章は「怒りの奉行の巻」として、BSE騒動を斬っている。もちろん、各地の焼肉屋をまわって食しながら、その状況をルポし、話を聞いている。この章まで来るとグッと面白く、深い内容になってくる。いまではすっかり人々の記憶から飛んでしまっているBSE騒動。あれほど誰もが恐れていたのは、一体、なんだったのだろうという気がする。著者のジャーナリスティックな先見性もこの章になると理解できてくる。

    「とんちゃん」とは何か?
    話は戻るが、この本によると、ホルモンとは、関東では牛や豚の腸のみをいうらしいが、関西では正肉(しょうにく)以外のものをすべてホルモンと呼ぶ。僕が生まれ育った名古屋では、少なくとも70年代までは「とんちゃん」と呼ばれていた。そういうと多くの人が名古屋人は豚の内臓を食べるのかと言うけれど、名古屋時代に聞いたところ、「とんちゃん」の「とん」は豚の意味ではなく、内臓の部分の意味であり、名古屋で食べているのは牛だと言われた。その後、大阪でいろいろ聞いたり、本を読んだりしていると、2通りの意味があるように思えてきた。この本の冒頭近くにその答えがあった。

    在日韓国・朝鮮人が多い京都の東九条で生まれ育った崔忠植さんという人の証言として小学校時代の話があり、「ホルモンは当時トンチャンと呼んでたんですよ。トンは糞(くそ)、チャンは腸のことです」と書かれている。大学時代にはトンチャンパーティもしたという。テッチャン(大腸)とも書かれていることから、どうやら小腸をトンチャンといったようである。

    「ホルモンは放るもん」という俗説
    もう一つ、よく「ホルモン」は「放(ほ)るもん」、すなわち捨てるもんが語源だと解説しながら食べるおっさんが多いのだが、僕は、それは絶対嘘だと思っていた。この本では、詩人の金時鐘氏ですら「これは決して英語じゃなくて、大阪弁の『ほってしまうもの』、つまり捨ててしまうものの大阪弁である『ほるもん』が定着した〝朝鮮人語〟なんですよ」と言っていることを紹介している。さらに「日本人が食べないで土に埋めて捨てたものを、(在日韓国人が)掘って持ってきたから『掘りもの』になり、『ホルモン』になった」という「掘るもん」説も紹介している。そういう俗説を紹介しつつも、最後には〝ホルモン注射〟や〝男性ホルモン〟などと現在も使われているドイツの医学用語からきたのではないか、というのが有力だ、と締めくくっている。

    なお、作家の唐沢俊一氏は、かつてラジオでこう解説していたのを覚えている。戦後、GHQが日本人の貧しさは子沢山が原因の一つであるから、産児制限をすべきだと判断し、各地で専門家による講演を行っていった。その際、性ホルモンが多いと性欲がわくのでそういう食べ物を控えるようにと説き、その際に内臓料理が例にあげられたので、ホルモンと呼ばれ始めたのだろう、と。本書の解説では、趙博氏が1941年に「ホルモン煮」の登録商標があった史実をあげて、「放るもん」説を否定している。

    ***********

    *以下には「ほんまかいな」と思える内容もあり

    ズームイン朝が肉じゃがに豚・肉のどちらを入れるか調査をしたところ、境界線は愛知県豊橋市周辺だった。名古屋は鶏入りの肉じゃがが主流だった。

    三重県御杖村の猪料理「山おやじ」。

    東北地方を中心に活動している猟師・マタギの世界では、牛肉とも豚肉とも違う文化がある。熊の内臓は「ウチ」といい、内臓だけで作った汁は「ウチ煮」と呼ばれる。

    大阪市内の矢田では油かすは昔から食べられてきたが、数キロしか離れていない浅香では流通していない。不思議だなあ。

    屠場で出た牛や豚の脂肪は専門業者が引き取りに来る。加工されるのは皮と肉の間にある皮脂と牛脂で、牛脂の中で一番いいのは腎臓のまわりについているケンネと言われる部分。牛肉買ったらついてくるやつ。業者に引き取られた脂肪は固形石鹸に使われる。ヤシなど植物性油脂より皮膚には穏やか。人も牛も同じ動物だから。

    凶弾に倒れた黒人のイスラム教指導者、マルコムXは同胞に向け、
    You gutseaters!(あなたがた、腸(はらわた)食いたちよ!)と呼びかけたという。  *ほんまかいな

    辻調の河合鉱造先生は「中国人は医食同源という考え方を持っています。最近、心臓の調子が悪いな、というときはいろんな動物の心臓を食べるんです。肝臓の調子が悪いときは肝臓を食べる。実際、理にかなっているんです。効果がある」  *ほんまかいな

    中国ならどこでも犬を食べているわけではい。また、ひこよになりかけの卵は南のほうでは食べるけど、北京の人は気持ち悪がって食べない。

    在日朝鮮人二世のヤーさん(人名)の食体験を聞く。小さい頃は豚や牛よりも犬を一番食べていたらしい。その昔は部落でも食べられていた。

    ホルモニストの平山さんによると「犬は赤犬がうまいと言うやろ。あれは嘘。犬は黒でも白でも、背中に脂肪のあるのがうまい」

    2001年は近鉄バファローズが強かったが、某スポーツ紙では紙面に「強牛」という見出しはやめとこうという話になってしまった。音的に「狂牛」と重なるから。抗議が殺到したので牛関係は過敏になっていた。

    沖縄には肉を焼くという調理法は基本的にはない。

    仙台で牛タンが名物になった歴史は意外に新しい。戦後間もない1950年、市内の焼き鳥屋「太助」で初めて「牛たん焼き」が登場。店主の佐野啓四郎氏が進駐軍から流れてきた牛タンに、試行錯誤の末、塩とこしょうで下味をつけて炭火で焼いたら人気が出た。1952年に牛タン専門店になる。その後、佐野氏の協力で1975年に「喜助」がオープン、その5年後に仙台駅前店がオープンし、創業会長の大川氏が「仙台名物 牛たん焼き」の看板を掲げた。

  •  

  • ホルモンとは何か。その真髄をご覧あれ。

  • ホルモン(内臓肉)の由来から、日本各地のみならず海外を含めたホルモン料理の実態、BSE騒動・・・ホルモンへの熱い思いはびんびん伝わってくるのだが、本としてのまとまりは?著者のキャパを越えてしまった感が。

  • ホルモンは放る物ではなかった

  • 焼肉屋でお馴染のホルモン。ホルモンといへば『じゃりン子チエ』くらゐしか連想しないわたくしに、自らホルモン奉行を名乗る著者が蒙を啓いてくれました。

    まづホルモンの定義ですが、わたくしは牛や豚の腸と捉へてゐましたが、関西では内臓全般を指すのだといふことです。
    さらに本書ではタン(舌)やテール(尾)なども含め、精肉・正肉以外のものはすべてホルモンと呼称してゐます。案外ゆるやかな定義であります。自由でいいさね。

    元元は一般的な食材ではなく、在日朝鮮・韓国人や非差別部落の人たちの食文化だつたと語ります。著者のプロフィールを見ると、その関連の著書が多いみたいです。眉間にシワを寄せながら深刻に語られがちな話題ですが、あつけらかんとした文章なので、読者も「ああ、さうなの」と気楽に読めます。

    で、ホルモン奉行は関西を始めとした日本各地や、本場の韓国そして米国紐育など、精力的に取材を重ねます。ホルモンへの(いささか過剰な)愛情に満ちてゐるのであります。その取材ぶりは、特段のホルモン好きでもないわたくしでも食べたくなります。

    特に気になつたのは「サイボシ」つてやつ。食べたいですなあ。初めて知りましたが、正肉を加工したものなので、厳密にはホルモンとは呼べないさうです。
    しかしその発生・流通・消費などの面がホルモンと相通づるものがあるので、とりあげてゐます。わたくしの住む豊田市で食べられる店はあるのでせうか...

    食べ物の本はあまり読まないわたくしが、珍しく面白く拝見いたしました。
    では、ご無礼します。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-100.html

  • フィールドワークとしては認めるが結局個人感想文の域を出ていない

  • タンやレバーなどの「肉」以外の全ての部分が、世の中でこれだけ大事に食べられていたのか、再発見できる本。焼肉屋のホルモンだけでなく、世界中の様々な料理を味わってみたくなります。ただ、見た目で手を出しづらいのが悩ましいところですね(^_^;)

  • 安っぽいグルメ本ではない。バカバカしいほどホルモンを食べているが、被差別部落の話しやBSEに関する報道の在り方などは勉強になる。鶴橋いきて~!

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著者プロフィール

1963年、兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒。神戸新聞記者などを経てフリーに。著書に『被差別部落の青春』(講談社文庫)、『ホルモン奉行』(新潮文庫)、『はじめての部落問題』(文春新書)、『とことん!部落問題』(講談社)、『ふしぎな部落問題』(ちくま新書)、『ゆめいらんかね やしきたかじん伝』(小学館文庫)、共著に『百田尚樹「殉愛」の真実』(宝島社)などがある。『カニは横に歩く 自立障害者たちの半世紀』で第33回講談社ノンフィクション賞受賞。

「2017年 『ピストルと荊冠 〈被差別〉と〈暴力〉で大阪を背負った男・小西邦彦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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