- Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101338910
感想・レビュー・書評
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米国の威信が失墜したなどと喧伝され始めてから久しいですが、それでもなほ「唯一の超大国」「世界の警察」としての存在感は保つてゐるものだと、何となく思つてゐました。
しかし『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』を読みますと、いかに米国人自身が疲弊し、迷走してゐるのかが分かります。事情通ならとつくに知つてゐることなのでせうが、無知なわたくしは初めて知ることも多いのです。書名にもあるやうに、報道されぬ事項が多すぎることもあります。
飢餓人口が4200万人とか、医療保険未加入(貧困の為)が4700万人とか、乳児が一日平均77人死んでゐるとか......およそ先進国とは思へない数字が次々と出てきます。
著者の堤未果さんは、あの同時多発テロ事件(いはゆる「9・11」)を目撃(たまたま隣のビルで勤務中だつたさうです)し、それ以後「テロとの戦ひ」に突入してゆく米国の暴走ぶりを目の当たりにした人。『ルポ貧困大陸アメリカ』などといふ著書もあり、この国の貧困層と呼ばれる人たちを精力的に取材してゐます。
2004年大統領選(共和党ブッシュ×民主党ケリー)にて導入される電子投票に反対して、55日間もハンストを続けた青年がゐました。彼は堤さんに、強引に自分を取材するやうに仕向けるのでした。米国のメディアはコントロールされてゐる。ならば外国のメディアに期待するしかない。
前回2000年の選挙(共和党ブッシュ×民主党ゴア)でも電子投票は一部で導入されたのですが、機械の信頼性に大きな問題があるのださうです。フロリダ州では、ブッシュにプラス4000票、ゴアにマイナス(!)16000票入るといふ間違ひがあつたとか。しかも再集計の必要なしと判断されたと。この機械の製造元会社のCEOが熱心な共和党支持者であることも疑惑を呼ぶ材料ですな。
結局ハンストもむなしく、2004年もブッシュが再選されました。しかし出口調査ではケリー有利でした。かうした逆転現象は、2000年でもあつたさうです。そして電子投票機は、やはり各地でトラブル続き(予定通りか?)であつたと。ある投票所では「ケリー」を選択しても、必ず「ブッシュに投票でいいですね?」と画面に出る不具合があり、それは最後まで放置されたとか。
また、機械の絶対数が足りないため、投票まで6時間待たされたとか、犯罪歴(スピード違反)があるから投票出来ないとか、8時間待たされた挙句、機械に不具合があるから投票出来ないと断られたり......ケリー支持の多い黒人居住区や貧困層が多い地域の話です。
ううむ、どこかの独裁国家の話みたいですね。先進国で起きてゐるとは、俄には信じ難いのですが、色色信じられない事が起きるのも米国であります。
また、米国の徴兵制の実態もルポしてゐます。向学の志があるのに、貧困ゆゑ大学進学を諦めざるを得ない層が、リクルーターと呼ばれる勧誘員の言葉巧みな甘言により徴兵に応じます。学費は軍が出すとか、実際には前線での戦闘はしないとか、卒業後のバラ色の進路とか。
しかし実際は、かういふ若者たちが真先にイラクへ派兵されて、人間扱ひされぬ殺人マシーンとして消耗させられるのでした。
それでも堤未果さんは、絶望することなく、まだこの国には希望があると諦めてゐません。ポジティヴであります。「革命を起こすのはいつでも弱者だ」といふ、黒人女子高生の言葉を紹介して。
現在行われてゐる次期大統領争ひでも、格差解消を訴へるサンダース氏が最後まで若者たちの間で人気を保つてゐたのも、問題発言だらけのトランプ氏が共和党の候補として残つたのも、米国に漂ふ閉塞感のやうなものを打破して欲しいとの願ひがあるのでせうかね。ただ、こんな時は「ヒトラー」が出現しやすい。日本でも要注意ですよ。
デハ今日はこんなところで、ご無礼いたします。
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勇気とは、目をそらさないこと。問いかけるのをやめないこと。
堪え性がない、単純で純粋で、弱くて強いアメリカ人達。
これも、この国の一面。 -
この本が発行されてから4年。アメリカは変わっただろうか…そして日本は
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体系だった論文ではなく、ルポであるけれど、余計に現場の臨場感が生々しい。
格差が拡大し、進学や医療の費用が工面できない人々が、次々と国によって使い捨てにされ行く現実。
電子投票機の不正を訴えハンガーストライキをする実業家だった男性。
校内で生徒を米軍がリクルートする活動に異を唱え、学外に追放することに成功した高校生。
イラク戦を進める政権に抗議する為、ブッシュ大統領の牧場周辺で座り込みをする息子を戦場で失った母親たち。
一人ではたいした力を持ちえない弱い市民が、いかにして国の暴走から自分や子供たちの生存権を守ろうとしているかという戦い。
一般市民が政治や社会に無関心でいることが最大の問題なのだ、ということが様々な苦闘の中から浮かび上がってきます。こういう層が、テレビや新聞のプロパガンダを無批判に信じ込んでしまい、暴走する政府を支持してしまう。自らが餌食になるというのに・・・
よその国の出来事なんかぢゃない。
今の日本でも起ころうとしている、もしくは既にじわじわと進行中の事態。
ぼーっとテレビや新聞を眺めているだけの人々に、真実を知ってもらうことが何より大切なんだと思います。
TPPに乗り遅れるなとか、押し付けられた憲法は改正すべしとか、規制緩和構造改革とか、元々普段からあった領海領空侵犯を大きく報道して国防軍化だとか、事故の収束も被害者への補償もできないのに原発を再稼動や輸出とか、内容もろくに知りもしないで言葉の勢いに乗って投票してしまう人々に、どうしたら本当のことを知ってもらえるのか。
参院選が近づくにつれ、焦燥感ばかりがつのります。 -
これがアメリカの全てではあるまいが、これも又アメリカと言えよう。政治的にはかなり民主党寄りであるが作家が必ずしも政治的中立である必要もあるまい。情報を盲信せず批判的に読むのは読者側の責務であろう。内容は『アメリカの見えない徴兵制』が衝撃的。軍のリクルートに活用する為に学校が生徒の個人情報を軍に提供し、学内では軍事教練のようなコースまである。不法滞在者に対して市民権を餌に勧誘するとまである。無料ミリタリーゲームを開発しユーザーを洗脳、早期訓練する話などはまるでSFの世界。次は『貧困対国アメリカ』を再読予定。
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堤未果のアメリカレポート。知らないうちにワンコインの文庫本になっていた。アメリカがなかなか浮上しない理由が、経済的なことだけに限らない、というのがわかり、(そして、日本もそのプチモデルになりうるかも…?)暗澹たる気持ちになる。
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今まで自分が持っていたアメリカのイメージがこの本を読んで一変した。先進国アメリカ。貧富の差が大きいとは聞いていたけど、、、こんなにひどいとは。無知な自分が恥ずかしかった。日本も格差が広がりつつあるし、決して他人事ではない。無知のままいたらそのまま流されて気づいたときにはもう手遅れになるかもしれない。
堤さんの本はどれも興味深いものばかり。その中でもこの本はとても読みやすく、オススメ。 -
前作の「貧困大国アメリカ」と併せて読了。
アメリカに抱く敬意や憧憬の感情が
かなりの割合でふきとんでしまうであろう事実の数々。
読後感は「怒」。
自由と機会均等を貴ぶアメリカは
ごくごく表層的なアメリカであったのかもしれない。
こんな国に明日はない。
いつかはわからないけど、根元から崩壊する。
そんな予感がする。