いじめの時間 (新潮文庫 え 10-51)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 119
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101339610

感想・レビュー・書評

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  • いじめの報道が毎日のように繰り返されている。

    ブックオフで何気なく手に取ったこの本を読んでいる間に、
    世間が(というよりメディアが)このような状況になったのも、
    なにかしらを感じずにはいられなかった。

    いじめは、いじめをなくそう!といったところで、それは戦争をなくそう!と同義くらいの遠さで我々の眼に映る。
    その根は深く、また鬱屈した、それこそ人間の原悪のようなもので。
    何があったから、いじめ、いじめられるんではない。
    というのが、ものすごくわかりやすく書かれている小説。

    アンソロジー系は、好き嫌いがとにかくはっきり出るのだが、
    今回はそれぞれ短編ながら読み応えがあった。

    特に『緑の猫』『亀をいじめる』が良かった。

    多くの人は、いじめるにしろ、いじめられるにしろ、傍観するにしろ、
    多少なりとも通過するこの問題だが、
    読み終わった後、あの逃げ場のない、その世界が全てな感じが息苦しく思い出され、
    そしてそこから逃れるため自ら命を絶ったこどもたちの未来を思うとたまらなくなる。
    その形でしか逃げられなかったというのがわかりすぎて、
    安易に自殺はだめだ!だのいう大人に憤りを感じずにはおられない。

  • 江國香織、角田光代の名前に惹かれ手に取ったけど、やっぱりきつかった…。
    "いじめ"がテーマですもの、そりゃ、ね。

    中学時代、目についたものすべてに触れないと気が済まなかった。
    いつもと違う順番で歯を磨いたらその日一日もうダメな気がした。
    強迫観念のようにそれはつきまとい、二階の自室に入りベッドに入ってからまた一階に降り、触り切れなかったところを触ってから寝る、というようなことをしたこともあった。
    当時は自分のお守りのような儀式だと思っていたけど、今ならわかる、相当心の病に侵されていたんだと。

    本作の最初に収録されている江國さんの「緑の猫」に登場するエミもまさにそうだ。「制服が汚れていないか」日に何度も確かめたり、「蟻を踏んでしまわないように」下ばかり見て歩いたり、「どのくらいの頻度で瞬きをすればいいのかわからない」といって長いこと目を開けていたりする。
    どれだけ長く吸って吐けばよいのか、呼吸の仕方すら分からなくなってしまっていた中学生の私を見ているようで、いたたまれない気持ちになった。
    他の作家さんは、エンタメとしていじめを捉えているような節があり、なんだか遠い存在に思えてしまったが、江國さんの作品だけは、すぐそばに感じられた。
    激しく見えるいじめも、その実、すごく静かだと私は思う。

    いじめを受けたことのある人にしか、いじめをテーマにした作品を書かないでほしいと思ってしまう。あまりにも現実とかけ離れていたから。

  • いじめ、あったかな?ないわけないか。でも無視や仲間外れはいじめなのか?誰と話すか誰と遊ぶかなんて個人の自由じゃない?仲良くするのは義務じゃない。いじめって何?暴力と窃盗と器物損壊と名誉毀損は犯罪。

  • 「緑の猫」江國香織
    「亀をいじめる」大岡玲
    「空のクロール」角田光代
    「ドロップ!」野中柊
    「リターン・マッチ」湯本香樹実
    「潮合い」柳美里
    「かかしの旅」稲葉真弓

    この中だったら、角田さんの書き方が好き。水泳ができない私がいじめられる話だが、一番リアルであるように感じた。
    物語として不気味で面白かったのは「亀をいじめる」かな。

  • 複数の作家による、「いじめ」をテーマにした短編集。
    全体的に、読後感がとても悪い作品。中でも「亀をいじめる」は抜群に胸糞悪い気分が味わえます。

  • いじめられっこの持つぶつけようの無い思いを他の何かにいじめるという形で発散する様はまさにいじめられっこがいじめっこに変わる瞬間だなあと思った。
    ひたすら怖かった。

  • 本屋の古本コーナーで他の本と衝動買い。いじめに興味があるとかではないけど湯本さんの名前があったので。
    あまり本読まないので湯本さん以外初見。全作品読みやすかった。
    学校を舞台にした作品ばかりで、学生の頃、いじめられてたわけではないけどややはみられがちでクラスの様子を伺いながら過ごしていた私にとってどことなく懐かしく現実的。
    いじめ問題の解決をどうこうすべきではないのか、なんていう問いかけが一切なくただ淡々とイジメを描いているのがよかった。
    人と話さない、なんか変、不潔っぽいとか、集団の調和を乱す不安因子を素直に避けて爪はじく。いじめに遭うやつもいじめるやつも両者悪いと言うけれど、確かにそう思うとうなずける。
    一番面白かったのは湯本さん。共感できなかったのは非現実的で軽い印象のかかし。飴ちゃんの話は嫌いじゃない。金魚の話はめっちゃリアル。みんな孤独だなぁ。

  • 作家それぞれが「いじめ」を題材に短編を書いている。
    とにかく全体的に暗くて気持ちがざわつく。
    この短編集では、他の作品であまり感じない気味の悪さ、居心地の悪さを感じる作家さんが多い。

    テーマがテーマなだけにあまり救いのある話もない。
    だからこそいじめたことのある人間は読んでほしい。
    いじめられたことのある人間には生々しくて、ちょっときつい後味だ。

  • ●江國香織
    ***緑の猫
    どっかで読んだ話だなぁと思ったら同著書の『いつか記憶からこぼれおちるとしても』短編のひとつ。やっぱり江國香織さんの書く話は重いのに柔らかいふわふわしたかんじ

    ●大岡玲
    ***亀をいじめる
    んー。あんま好きじゃない。というか嫌いにちかい。卑劣な表現が多すぎる。
    自分が動物、とくに犬を溺愛しているからこそ読むのが苦痛でしかならなかった。
    動物虐待なはなし

    ●角田光代
    ***空のクロール
    泳げない子っているよね。あたしプールだけは習わせてもらってて良かったと思う
    女子特有のいじめ。こんな酷い卑劣ないじめはなんか例えるならば花より男子とかライフみたいな感じ。だけどいじめた子に対し最後革靴に23匹の金魚を入れたいじめられた主人公がやったのはなんか鳥肌が立った

    ●野中柊
    ***ドロップ!
    あんま好きじゃないかな。いじめという感じではないきがした。成績でクラスが決まるような学校に行ってないから感情移入しにくかった

    ●湯本香樹実
    ***リターン・マッチ
    これはすきなほうかな。
    いじめられてた子がひとりひとりに脅迫状というか決闘状をいじめた子にひとりひとりに送りつけ、1対1で戦うはなし
    そのなかのひとりと仲良くなりそのなかでどろどろになるはなし

    ●柳美里
    ***潮合い
    とにかく一人称がころころ変わる。
    転校生の子。なんで気にくわないのかわからない。話の意図がはっきりしてなくてもやもやした感じ

    ●稲葉真弓
    ***かかしの旅
    これは好きかな。
    いじめられてた子が家出しノートに先生や母親、かばってくれた大阪に行ってしまった女の子、いじめてた子、そして再び先生に書き綴るはなし
    ――先生、知っていますか。イジメは伝染するんです。
    うん、まさしくそうだなって思った。
    この手紙届いているといいな


    トータル的に見てなんか暗いじめじめしたはなしばかり
    江國香織さんと角田光代さんのはなしはじめじめしてはいないけど、心が不安定なときとかに読むような本ではないです。

  • もちろんこれはフィンクションですが、何とも気の重くなる本でした(笑)まぁタイトルで分かるんですが、あまりにも想像通りで・・・

    ほとんどの作品が学校でのいじめを描いています。
    いじめが解決されたり、ハッピーエンドで終わったりしない所が妙にリアル。そして、親や教師、大人は何の助けにもならい!!と言われているようで辛くなりました・・・

    一番強烈だなと思ったのは「亀をいじめる」。
    そして最後に「かかしの旅」があった事で少し希望の光が見えた。

著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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