日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101363516

感想・レビュー・書評

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  • お茶を習い始めて25年。著者の森下さんが茶道の中で感じてきた人生の味わいを綴ったエッセイ。茶道という目で見た景色たちの描写が美しくて、読んでいて時間が止まるような瞬間が何度も訪れて驚いた。
    ぼくの茶道へのイメージは、堅苦しくて、作法が厳しくて、茶室という個室で行われるという程度のものだった。確かにそういう一面もあるんだけど、茶室の中から自然や四季と繋がって、そのみずみずしさを閉じ込めて味わえるような自由なものでもあるんだと知ることができて興味深かった。

    雨を聴くエピソードは、特によかった。細やかな雨音の描写と、それを浴びて洗い流されていくような心象風景の爽やかさ。自分も茶室にいて、雨音を聴いているんじゃないかと思ったほどだった。その前の、秋雨と梅雨の音が違うと気づいたシーンも好き。目を凝らし、耳をすませば、どんな日にも気づくことがあるんだろうなと教えてくれる。

    「過去や未来を思う限り、安心して生きることはできない。道は一つしかない。今を味わうことだ。過去も未来もなく、ただこの一瞬に没頭できた時、人間は自分がさえぎるもののない自由の中で生きていることに気づくのだ……。」
    この一言も味わい深い。ぼくは不安障害を治療中なんだけど、まさしく不安は自分がどうにもできない過去や未来から発生するんだよね。心療内科の先生の言葉と思いがけず繋がってびっくりした。今ここにいることを大切にしていきたいね。

    「会いたいと思ったら、会わなければいけない。好きな人がいたら、好きだと言わなければいけない。花が咲いたら、祝おう。恋をしたら、溺れよう。嬉しかったら、分かち合おう。
    幸せな時は、その幸せを抱きしめて、百パーセントかみしめる。それがたぶん、人間にできる、あらんかぎりのことなのだ。」
    最近、知人を亡くしたばかりでこの言葉は身に沁みる。人生も季節のように過ぎていく。だからこそ、その時の季節を丁寧に見つめ、味わうことが幸せなんだろうね。不安障害との付き合いも今後どうなるかはわからないけど、他人ではなく「きのうまでの自分」と比べながら、少しずつでも前に進んで楽しんでいけたらいいなと思っている。

  • 読み始めて2日。
    この本に夢中になって読み続け、
    気がついたら読了していました。

    「会いたいと思ったら、
    会わなければいけない。
    好きな人がいたら、
    好きだと言わなければいけない。
    花が咲いたら、祝おう。
    恋をしたら、溺れよう。
    嬉しかったら、分かち会おう。
    幸せな時は、その幸せを抱きしめて、
    百パーセントかみしめる。
    それがたぶん、人間にできる、
    あらんかぎりのことなのだ。」
    帯にも書いてあるこの言葉。
    出会った瞬間、この一節に恋をしました。
    一期一会のこの人生。1度きりの、この人生。
    その一瞬を大事に噛み締めて、生きていく。

    雨の日も晴れの日も、どんな日も良い日。
    前を向いて生きていこう。

  • どれだけ時間が掛かっても、自分の力で自分のタイミングで成長できればいい、人生の大切なことに気付ければいい。
    そういうメッセージに捉えられて、なんだか救われたような思いです。
    人生ってこういうものなんだなって読んでいて少し分かったようで、でもやっぱり自分で見て聞いて感じないと分からないんだなと、当たり前のことだけど改めて教えてもらった事。それが詰まっている。
    「いつか、いつか。」と後回しにする癖はやめてしまわないとな、今を生きる、一生懸命生きる人になりたい。

  • 初めての育児に少し疲れていたとき、束の間のひとりの時間を得て本屋に寄り、この本を手に取りました。

    飛ばし飛ばし読むのではなく、丁寧に読みたい本だと思いました。
    ゆっくりカフェで読みながら、あぁ私はこういう時間が好きだった、と思い出させてくれた本でした。

  • 友人から、この本を薦められた。なんとなく著者の名前に見覚えがあった。調べてみると、『前世への冒険』(光文社)を書かれた方で、その本はとても面白かったし、レビューも書いたので、記憶の片隅に残っていたのだ。それだけで、もう読む理由は十分だった。
    本書を、とくに若い人たちに読んでほしい。副題が示している通り、本書は著者が茶道を通じて得た学びや気づきが主題になっている。そう聞くと、もう逃げ出す読者がいるかもしれない。茶道なんて、敷居が高くて、古臭い伝統をありがたがって、侘びだの寂びだの言ってるだけの道楽でしょ。じつは、著者も始めはそう思っていた。当時はまだ高校生で、仲のよい従姉妹に誘われて、お稽古の帰りに寄り道して、喫茶店で一緒におしゃべりするのが楽しかっただけ。
    最初のころの戸惑いが、ありのままに書かれている。ひとつひとつの動作に「なぜそうするの?」と問う著者。しかし、それに対して先生は「なぜでもいいの。とにかくこうするの」「意味なんてわからなくてもいいから、そうするの」とにべもなく答える。学校では、「わからないことを鵜呑みにしてはいけない。理解できるまで何度でも聞きなさい」と教わってきたのに、まるで反対だ。うるさい作法にもイライラする。やることなすこと、いちいち細かく注意され、自由など全くない。悪しき伝統の鋳型にはめられるようで、思わず反発する。その上、複雑な手順や毎回変わる道具を覚えるためにメモしようとすると、「メモしちゃダメ。頭で覚えちゃダメ。とにかく何度も繰り返すの」と理不尽なことを言われる。
    しかし、それでも著者は、毎週毎週、お稽古に通い続けた。雨が降れば行くのが面倒と思い、晴れれば他のことをしたいと考える。サボりたい理由はいくらでもあった。でも、行けば必ず気が変わった。やっぱり来てよかった、と思う。先生のお茶室では、いつも何かが待っていた。
    この辺りの展開が、『前世への冒険』と重なる。『前世への冒険』では、占いなどまったく信じていなかった著者が、自分の前世はルネサンス期の彫刻家デジデリオだと告げられ、半信半疑ながらもこの人物について調べているうちにどんどんのめり込んでしまい、ついには全仕事を放棄してイタリアに飛ぶ。
    私が本書を薦める理由は、始めは好きになれなかったお茶に、しだいに夢中になっていく過程が面白いから、だけではない。現代人は何でも頭で理解しようとするクセがついてしまい、感覚を研ぎ澄ますことの大切さを忘れてしまった。結論を急ぎ、いち早く答えを出すように強いられてきた。それがどれほど歪んだ心のあり方なのか、まざまざと思い知らされるからである。
    読み進めるにしたがって、著者の中で何かが変わっていく様子が、虚飾のない文体を通してはっきりと伝わってくる。どうして先生は、「なぜ」と聞くことを否定したのか。「考えないで、見て感じなさい」という言葉の真意は何なのか。がんじがらめだと思っていた作法の中に、究極の自由を見出した瞬間の歓び……。
    もうお分かりだと思うが、著者は茶道の魅力を伝えたいのではない。題名の「日日是好日」。その意味は、辞書を引けばわかるだろう。しかし、意味を理解するだけでは、本当に学んだことにはならない。頭で理解することで、茶道のすべてがわかるだろうか。「身につく」という表現があるが、身についたことだけが学んだことだと思う。われわれは日頃どれだけ知識を誇り、頭でっかちになっていることか。そのことに気づかなければならない。

  • 茶道を通して作者が感じた日々のことを瑞々しく描いたエッセイ。
    茶道に興味がなくても、むしろ興味がない人ほど読んでみてもいいかもしれない。作者自身、「なぜ自分は茶道に通っているのだろう」と思いながら続けている様子が描かれている。だからこそ季節の巡りに気づく瞬間や、茶道にまつわる物事の点が線を結ぶ瞬間が、生き生きと読者に伝わってくるからだ。

    長年かけて得てきた体験を、こうして惜しげも無く伝えてくれる人柄が現れている作品。
    日々に追われ、日々の意味を失っている方にも、なんとなく人生このままでいいのかな、と思っている人にもおススメです。

  • 会いたいと思ったら、会わなければいけない。好きな人がいたら、好きだと言わなければいけない。花が咲いたら、祝おう。恋をしたら溺れよう。嬉しかったら、分かち合おう。
    幸せな時は、その幸せを抱きしめて、百パーセントかみしめる。それがたぶん、人間にできる、あらんかぎりのことなのだ。
    だから、だいじな人に会えたら、共に食べ、共に生き、だんらんをかみしめる。
    一期一会とは、そういうことなんだ……。


    私たちはいつでも、過去を悔やんだり、まだ来てもいない未来を思い悩んでいる。どんなに悩んだところで、所詮、過ぎ去ってしまった日々を駆け戻ることも、未来に先まわりして準備することも決してできないのに。
    過去や未来を思う限り、安心して生きることはできない。道は一つしかない。今を味わうことだ。過去も未来もなく、ただこの一瞬に没頭できた時、人間は自分がさえぎるもののない自由の中で生きていることに気づくのだ……。

  • 映画化ということで手に取りました。

    この主人公のよう茶道というと一昔は花嫁修業の一つというイメージや
    単なる趣味の一つだろうということのイメージでしたが、
    この本を読んでイメージががらりと変わりました。

    お茶をたてることから作法、お茶の道具、そしてお茶菓子など
    お茶を通して季節柄から何から何まで通じていることなり、
    それが生き方までに通じているなんて
    なんて素晴らしいことなのだと思ってしまいました。

    お茶を通して今この瞬間に生きている歓びを
    感じなければいけないと思い、
    時間を大事にして、
    日本ならではの季節感を味わいたいと思いました。
    茶道の良さ、そして日本人としての素晴らしさも教えられた気がします。

    そして茶道の先生がいつも言っていた「一期一会」の大切さが身に沁みました。
    幸せな時には、その時の幸せを抱きしめて、大事な人に会えたら、
    共に食べ、共に生き、団欒を噛みしめるということ。
    その他にも本当の自由ということ、学ぶということについて
    人生の歩き方についてなど学べることが沢山あって、
    心の中にすっと言葉が馴染んで入り込んで納得出来ました。

    とても読みやすくて読んでいると心が落ち着くので、
    また後でゆっくりと再読したい一冊になりました。

    「日日是好日」という言葉もとても素敵な言葉なので、
    これを忘れないようにしたいと思います。

  • 文庫本で250ページほどの小さな本だが、「お茶」ってこういうものだったんだと自然に共感することが何度もある、すてきなエッセイ。著者は、お茶の稽古を毎週続けて25年。その間、二十歳の大学生も人生のさまざまな時を経るが、そばにいつもお茶があった。副題となっている『「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』がそのまま各章のタイトルとなっている。

    1.「自分は何も知らない」ということを知る
    2.頭で考えようとしないこと
    3.「今」に気持ちを集中すること
    4.見て感じること
    5.たくさんの「本物」を見ること
    6.季節を味わうこと
    7.五感で自然とつながること
    8.今、ここにいること
    9.自然に身を任せ、時を過ごすこと
    10.このままでよい、ということ
    11.別れは必ずやってくること
    12.自分の内側に耳をすますこと
    13,雨の日は、雨を聴くこと
    14.成長を待つこと
    15.長い目で今を生きること

    都会の真ん中に生まれて育った私にふるさとはない・・・けれど、この本に登場する景色や音、におい。。などに触れるとふと自分の幼いときの何かを思い出させてくれるような気がする。「雨の日は、雨を聴く」。庭のヤツデの葉にあたる元気な雨の音や、冬の日にお湯が沸くあたたかな音に気づいた著者の五感は、読者の共感を呼び覚ます。

  • なんとなく惹かれなんとなく買った本、なのにずっと積読になっていたのだけどmixiでこの本の話を連続で見聞きし、そういえばと読み始めました。温かい日差しの公園で読むにはぴったりの本でした。

    道端に咲いている草花、雨が降る直前の空気の匂い、風が梢を鳴らす音、川面に流れる水の音、それに季節ごとの空気の温度や湿度。
    床の間の掛け軸に書かれた書、お茶と一緒に出される和菓子の種類にも
    その場や季節、参加している人に相応しい内容と意味がある。
    私はお茶をきちんと習ったことはないけれど、お茶って、日本の文化って、こんなにスゴイんだって思った。こんなに美しく凛としていて、こんなに深い中身のあるものなんだって。
    先生は「形にあとから心を入れる」と教え、ひたすら繰り返させたそうだ。学ぶことには好奇心も必要だけれど、「なぜ」が必ずしも必要ではなく、後からその「なぜ」を自分で気付くことも大切なことなのでしょう。
    心にしみる言葉がたくさんたくさん散りばめられているステキなエッセイです。
    私も自然とお茶をしてみたいなと思いました。

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著者プロフィール

森下典子(もりした のりこ)
1956年生まれのエッセイスト。『週刊朝日』のコラム執筆を経て、1987年その体験を記した『典奴(のりやっこ)どすえ』を出版。代表作『日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』は、大森立嗣監督・脚本、黒木華主演により2018年10月13日映画化され、樹木希林の遺作ともなり、大きな話題となった。他に、『いとしいたべもの (文春文庫)』『猫といっしょにいるだけで』などの作品がある。

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