この人の閾 (新潮文庫 ほ 11-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101449227

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞を受賞した表題作のほか、3作を収録した短編集。

    どの話もほとんど場面が変わらず2人程度の登場人物の会話を楽しむ物語。

    漫才のようにゲラゲラ笑う会話ではないが、共感したり、深い内容だったりで、ずっと読んでいたくなる本。

  • この人の評論は間違いない、と大学時代の恩師に言われ、何度か読んだが難しすぎて分からなかった。でもかろうじて理解できる部分に、間違ったことは書いてなかったと思う。
    この人の閾、新しい小説の一つとして、悪くない読書時間だった。ちょいちょい出てくる考察がいらない、いっそそういうものすらなくした小説が読みたい、読者に対するヒントなしの。この地に足がついた文章は読んでいて心地よい。
    芥川賞の選評見ても、まぁどの芥川賞も大抵そうだけど、賛否両論。技術的な部分やまとまりはともかく、みんなそれぞれ独自の小説観を持っていて、それはプロの作家であるのに、賞レースにおいても一定の評価基準がないのは、芸術であるがゆえ。一つの小説で色んな読み方が、楽しみ方、うまい部分、表現があると思うけど、たぶんいい読み手はそれをなるべく多く汲み取れるし、いい作品はそれが多くて質も高いんだと思う。
    シンプルなゆえに味わい深く、そういうことを考えた。

  • 短編集。ほわんとしていていい感じ。

  • 日常茶飯な会話や光景なのであろうが、
    鋭い観察眼と感性を持った保坂さんが、
    あろうことかそれを言葉、文章で表現する能力をも、
    持ちあわせていらっしゃった奇跡に感謝。
    エラそうでゴメンナサイ。

    「この人の閾」1995 年 第 113 回 芥川賞受賞作品。

  • 第113回芥川賞を受賞した表題作を含めた4話からなる短編集。どれも繊細かつ緻密な描写による文章が淡々と丹念に積み重ねられていているのですが、そこに描かれているのは何気ない日常の風景であって、ドラマ性は皆無でただただ過ぎ去った時間をいかに受け止めていくかといった視点のもとで綴られた文章は、まるでエリック・サティのピアノ作品を可視化したようなきわめてアンビエントで既視感を伴ったモノといった印象を強く受けます。
    そもそも普通の生活を送っていれば、日常でさほどドラマティックなことが起きるでもなく、ひたすら時間の海に溺れて生きているようなものなのですが、それを客観視した上で言語化すれば、きっとこの短編集のような話はそれこそ無数に生み出せるでしょう。そんな平凡な日常をあえて文章化するということは、すなわち時の流れによって変化していくモノ - 人であったり、街並みであったり、風景であったり - をそのまま受容することであり、変わっていく様子をありのままに認識するということなのでしょう。
    関係性すら排除したような作風なので、読みづらい=感情移入できないという面は否定しませんが、たまにはこういった鏡面的な内省を含んだ文章というものを欲するときがあるのです。
    秋の夜長に最適な一冊ですね。

  • 保坂和志の物語に共通するのは、主人公が決して決断しないこと。優柔不断といわれるかもしれないけど、決断を迫られる現実に身をさらしていると、なんかほっとできるのでした。

  • 何気ない日常を題材にした小説。
    本当に何気ない。
    事件があるわけでもなく。
    何気ないというか何もない。

    文章表現が独特。
    ト書きのような表現を多用する。
    一文が長い。
    「~して、~して、~だが、~して、~である。」のように。

    あとは登場人物が思考する、その回路が面白い。


    評価が真っ二つに分かれるそうですが、個人的には良い作品だなと思います。

    ちなみに短編集です。

  • これを私がおもしろいと思うのは、ただただ流れていく感情をとどめるのではなく見返し、面白いのもとをつかみとろうとするからだろう。ふかふかと流れていくムードの枠組みを見ているからだろう。完全に共感でしかないが、同じような立ち位置に立って物事を見ているのだろうと思う。そして日常を切り裂かない程度のだれもへのやさしさはここが限度なのだろう。これ以上踏み込まない踏み込ませないものを、信じられないとは言わないし、これ以上踏み込んでも信じたとは言わない。
    家が隣の夫婦と散歩するはなしでそのことを思った。前のプレーンソングもそうだけど、この夫婦の奥さんにしても、ちょっとイタい感じがするが、そこのところには踏み入れないし、わざわざ付き合っていても押し付けがましくない。

  • 働くのに思想はいらない。ここで感想書きました。
    http://blog.livedoor.jp/subekaraku/archives/4225836.html

  • 心地良い場所に明かりがあたり、素直な言葉がこころに染み込んでゆくのです。

著者プロフィール

1956年、山梨県に生まれる。小説家。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2018年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。主な著書に、『生きる歓び』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』ほか。

「2022年 『DEATHか裸(ら)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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