君に勧む杯 文豪とアルケミスト ノベライズ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101802312

作品紹介・あらすじ

さよならだけが、人生だ。本の中の世界を破壊する侵蝕者との戦いのため転生した井伏鱒二。原因不明の不調に悩まされる彼は、侵蝕された自著『かるさん屋敷』への潜書に向かうが、物語は井伏の心の傷を抉る世界に変容していた。その中で井伏は、作家として大成することのなかった親友の想いがこの事態を引き起こしたのではないかという悲しい疑念を抱くが……「文豪とアルケミスト」公式ノベライズ第三弾。

感想・レビュー・書評

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  • 文アルラノベ第三弾。第一弾は初回ということもあり文アルの世界観掘り下げを色濃く出してきた中で、作家芥川の話を、第二弾はオールキャラで小泉八雲の『怪談』の中へ入っていく話を、そして今回はかなり作家・井伏鱒二の人生と著作を調べ上げて作ったかのような、文アル×作家の人生というハイブリッドで濃厚な一冊に仕上がっている印象だった。
    前作の作家がエンタメに振っていたからなのか、今回はなかなか文章の上手い作家を持ってきたと感じ、一文一文に独特の味があった。何より、作家・井伏鱒二を丁寧に描いていこうという気概を端々から感じたのが素晴らしかった。文アルではなかなか見られなかった作家本人の家族の話や、「戦争や戦いという場」について井伏鱒二という作家がどう捉えて作品の中に落とし込んでいったのかという点が作中の端々から垣間見えていて、作者の井伏に対しての理解や眼差しなどを感じ取れる所が好印象だった。その「戦い」に対しての井伏の考えが、文アルというジャンルの「潜書」にそのまま生かされていく構成は見事という他ない。文アルというジャンルの点でいうと、文劇(舞台版)などがかなり濃厚に主人公に据えた文豪を掘り下げてくれる印象だが、本書はそれに匹敵するほど濃厚に「井伏鱒二」一人に集中して掘り下げがなされていくので、大変読みごたえがあった。他の登場キャラクターとしては、井伏の師匠に当たる佐藤春夫、太宰治、同時代人として横光利一、その友人である川端康成などが登場するが、いずれも井伏に対してひとかたならぬ絡み方をする。これぞ関係性を重視する文アルの醍醐味である。井伏ファンには是非お勧めしたい一冊。
    あと個人的には太宰が文アルのキャラとは思えないほどクールで切れ者な判断をするので見ていてかなり史実分を濃く受けた印象だった。太宰はメディアミックスによってかなりキャラが変わるので本書でまた新たな一面を見た気分だったし、最後に井伏と釣りをやるシーンがとても良い締め方だと思った。

  • 今までの文アルノベライズで一番好き!
    太宰と井伏先生の関係が非常に尊いです。太宰が飄々としてる、と思いきや切れ味するどくてとても良い味出してました。あと登場した作中キャラも素敵でした。平知章。
    井伏先生と言えば『山椒魚』と『黒い雨』しか知らなかった人間ですが、『かるさん屋敷』と『さざなみ軍記』めっちゃ読みたくなったのでこれは文豪コラボ作品として大成功ではないですかね…。
    今後劇場版とかドラマCDとかでやって欲しい完成度。

    仁木英之は初めて読んだけど文章読みやすいし話の展開も好きだなぁ。『僕僕先生』を積んでるはずなのでちゃんと読みたいと思います。

  • 井伏の半生と著作を分かりやすく説明してくれる序盤から中盤。井伏の故郷もお酒も魅力的。
    しかし友はいつ出てくるのか。ぽっかり空いた、その場所にいたはずの友。早く思い出して!!
    と思いながら読んでいたら最後の数十ページで無事クソデカ感情にやられました。
    もっとはやく出てきてほしかったな。

    あと太宰が、ゲームや文劇とはまた違った魅力があってものすごくいいですね…

  • 悪くはないのだが、展開としては退屈だなと感じてしまった。井伏先生について基本的な知識を仕入れておかないと話が分かりづらいかも。太宰先生との会話が多めなので、二人が好きな人はもっと楽しめるのでは。

  • 面白かったし読みやすかったし、回を増す毎にクオリティが上がってる文アルノベライズ第三弾。
    前後してゲーム本編では覚醒の指輪の実装があり、舞台化の第五弾があった訳ですが、今までは作品を掘り、作家性を掘り、作家同士の関係性を掘ってたのが、転生したこと自体や侵食者との対峙姿勢みたいなものを掘り出したので、五周年を迎えて新たな局面に入ったんだな……と感慨を覚えています。
    今回も前回の小泉八雲と類似して(怪談の各話が次々と現れるのと同じ様に)、井伏鱒二・横光利一・佐藤春夫・太宰治の四人で井伏鱒二の著作(かるさん屋敷を始めとして、さざなみ軍記や厄除け詩集)を辿るうちに井伏鱒二の心の深いところへ降りていくというような構成で、場面の移り変わりが早いので読みやすいんですけど、一方前回ほどアクションが重視されておらず、その分、場所や心理の描写が多いな~という感じでした。
    今回、めちゃくちゃ評価したいポイントとしては、太宰治の性格を表す「東北の御曹司らしい強い含羞と謙虚さ」という一文で、か、完璧すぎるな~!?!?!?!!という衝撃を太宰治ファンならずも受けたんですが、他のコラボ(アニメや舞台)では子どもっぽさや自信過剰なところやその癖自信がなく、芥川先生のファンであるところばかりがピックアップされ、それもまた一面ではあり、キャラ付けとしてはわかりやすいものの、あまり頭のよさみたいなのを感じることはなかったんですけど、今回は無邪気ささえも計算された頭のよい繊細で傲慢な育ちのよい文学青年みたいな感じで、良!良!良~!!!!って感じで、本当にこの為だけにも読む価値がある、それほどの太宰治でした。
    ただ、一方で、シーンの欠落を感じる部分がちょいちょいあると言うか、もしかしたら途中で削ってるのかも知れないんですけど、前後の文章で違和感を覚えることが多々あり、例えば、前のシーンで横光が戦っていたのに次のシーンで怪我の手当てを受けているのが佐藤だったり、別の人物と話していた太宰が井伏の会話に急に合流してきたりという、ちょっとしたことなんだけど、少しストレスを感じる描写があるので、そこだけはどうして~!?という感想です。

  • ソシャゲ「文アル」のノベライズ第三弾。あの仁木先生が書かれると言うことで発売前から期待しかありませんでしたが、素晴らしいノベライズに仕上げて下さいました。
    作家、井伏鱒二への愛がつまった一冊で、井伏の生い立ちの知識を仕入れてから読んだ方がより楽しめるんじゃないかと思います(ざっくりの知識はWikipediaなんかでも仕入れられるのでそこらへん先に読んでみてから…)。
    温厚な人物が抱える矜持みたいなものが行間から迸る、味わい深い一冊でした。

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著者プロフィール

1973年大阪府生まれ。信州大学人文学部に入学後、北京に留学、2年間を海外で過ごす。2006年『夕陽の梨─五代英雄伝』で第12回歴史群像大賞最優秀賞、同年『僕僕先生』で第18回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。「僕僕先生」シリーズは読者の圧倒的支持を集め、ベストセラーとなる。著書に「千里伝」シリーズ、「くるすの残光」シリーズ、「黄泉坂案内人」シリーズ、「立川忍びより」シリーズ、『撲撲少年』『真田を云て、毛利を云わず 大坂将星伝』『三舟、奔る!』など多数。

「2022年 『モノノ怪 執』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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