泥棒日記 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102119013

感想・レビュー・書評

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  • 本屋で何を思ったか
    「ジャン・ジャック・ジュネありますか?」
    と聞いた。
    私の問に店員の浮かべた表情は曖昧で、果たしてルソーそれともジュネ?と考えていたのだと思う。
    いつもながらのこの勘違い、いい加減どうにかしたくなってきた。



    今年の課題図書の一つジャン・ジュネの「泥棒日記」。
    思いの外早くに着手してしまった。
    なんとなしに流れを感じ。
    三島に近い小説を何となくぶつ切りに読んできたその系譜で、波に乗りたかったのだ。
    悪いもんではない。



    読んでの感想は”懐かしい”というものだった。
    好きな部類の小説だ。
    それはひしひしと感じた。たぶん高校時代にこの小説と出会っていたら、私は歓喜していたと思うが、いいのか悪いのか、今は落ち着いて読める。
    理由はどことなく似ているのだ、エルヴェに。
    私は高校時代、本当にエルヴェ・ギベールに熱狂していた。
    一種の恋、とも言えるほどに私は彼に心酔していたのだ。
    エルヴェの何にか、その辛辣さ、潔さ、意地の悪さ、ニヒリズム、美しい瞳。
    なんだろうな。
    私の彼との強烈な出会いは「犬たち」だった。
    読む人が読めばただのポルノ小説だ。
    それを手に取った場所は市の図書館だ。
    何の理由もなかった。唯一言えることと言えば当時私は外国の作品ばかりを手に取っていた。
    外の世界に対するあこがれの出口がそれだったのだ。
    完全に目から鱗だった。
    芸術の分野に性的な表現を用いるのはよく見られるものだ。
    だが、性的な表現の中に芸術を見いだすというのは当時の小童の私には衝撃的だった。
    要は視点の問題、といえば話はそれで片づくのかもしれないが、ポルノをメインとしてものを考えた時に芸術の視点は求められてはいないのではないか、と私はもっともらしく考えてしまったのだ。
    いや、そういってしまうとエルヴェはただのポルノ作家なのかって話になるのだが、もちろん違う。
    でも、残念ながら「犬たち」は、ほぼ当時の私にはポルノとしか受け取れないようなものにしか見えなかった。
    だからこそ、私は誘われたのだ。
    小説の中でここまでかぐわしい、言ってしまえばよいが、いわば生臭いほどにそんな臭気をただ酔わせる存在。
    そしてそう取られてもよいと言える覚悟が見えたエルヴェという存在に、私は驚きをくぐり抜けた先に何かがあるのだと言うことに気がついたのだ。
    エルヴェはいわばきっかけの存在なのだ。


    で、説明が長くなったそんなエルヴェなのだが、彼の文章はどちらかと言えば簡素だ。
    そして見方が曲がっている。
    へそ曲がりとでも言うべきか。
    一方でジュネは、その特殊な生い立ちではあるが曲がってはいない。
    純粋に、正直に、なんとも己がとらえたままのありのままに描いている。
    だからこそ肉々しいし、どうも文章が汗や垢のようなものにじっとりと汚れているのだが、けして穢れてはいないのだ。
    ただ、肉を感じる。
    いい意味でも悪い意味でも。
    特にスティリターノやアルマンに関する記述はまるで自分がジュネになったかのような錯覚を覚えるほど、執拗で、やらしく、そしてうまい。
    それが正直読んでいて、私は嫌いではなかった。
    野性的で耽美的な部分は全くないのにどこかしら、何ともたまらない魅力がある。
    じゃぁ何が似ているのかと考えてみて感じるのはやはり、両者の共通点で一番にあげられる『ゲイ文学』と言う枠組みなのだろう。
    そうひとくくりにするのが私はあまり好きではない。
    でもそうなのだろうとも思う。
    彼らのどこかメインストリームにはない幻想的な世界が美しいのだろう。
    何よりも現実に近い、しかしまるで酔っているかのようにはかない夢に終わってしまいそうな世界。
    そういう世界での文章が私は好みなのかもしれないな。
    なんだかわかりづらい表現だな。
    この辺に関してはエルヴェを再読してみて真偽を確かめてみないと何とも。



    泥棒であり、男娼であり、強盗であり、前科者だというのに、驚くほど文章がうまい。
    この経歴の内にいったいどこで習得したのだろうか。
    他の人にはけしてこの人のようなものは書けないだろうと思った。
    唯一無二の存在。
    それがジュネ。
    ここまで汚く、文章を盛らずに描けると言うことは視点においても他の人間には不可能だろう。
    さすがサルトルが「聖」という言葉を冠した人だと思った。
    言い忘れたが、これはいわばコラムのようなもので、ジュネをのぞき込むことができる一冊だ。
    次は物語を読んでみたい。
    『花のノートルダム』とかがいいのかな。

  • ピカレスク(悪態)文学の最高峰とも言われる作品。
    1人の泥棒(脱走兵∧男娼)の目線を通して既存の価値観に真っ向勝負して、そして敗北する。
    「背徳の美学とは、いかなるものか?」ということが知りたければ是非一度手に取ってみてください。
    ここまで世の中を斜めから見れたら『ホンモノ』だと思います。

    この作品に関連して、
    第一次世界大戦後に欧州でおこったダダイズムや
    デカダンスの概念などを一緒に考察すると
    非常に深みのある社会の一面が垣間見えるように思います。

    このジャンルに興味のある方は。
    ○ランボー「地獄の季節」(これもある意味詩集です)
    ○ボードレール「悪の華」(詩集)
    など読んでみてください。

  • 圧倒的に重い小説でした。
    理解できないことを当然のように並べられ、理解できるかと問われる。
    「理解できない」と答えるしかないけれど、それでもその表現や奥にあるものは何なのか、必死で目を凝らす。
    そんな作業の積み重ねで、読み終えた頃には疲労困憊でしたが、そういう作業と向き合わせてくれる何かがある、そんな小説であるように思います。

  • 父なし子として生まれ、母に捨てられ、裏切りと盗みをおぼえ、泥棒と男娼をしながらヨーロッパを放浪し、前半生のほとんどを牢獄ですごしたジュネの自伝的作品。

  • この書物『泥棒日記』は、すなわち、「到達不可能な無価性」の追求、である。

    この本、凄い。

    善悪とか美醜、そんな基準を超えた、常識をぶち壊すジュネの感性。それが、視覚的でなく感覚的に迫ってくるから、怖くてしょうがない。脳みその1しわ1しわから、あぶら汗がびっしり出てくるような恐怖とスリルは、もう、楽しむ以外に為す術が無い。興奮と感嘆の中に僕は取り残される。自分の母親に「涎をたれ流すか、彼女の両手の中にげろを吐くだけで我慢しよう」とか、「痰が人を感動させずにはいない生命力に満ち」ているとか、「糞をする犬が感動的」だとか、モノの観点が全然違う。真の芸術家の狂気、始めて感じた。

  • 愛すべきジュネ(笑)自分に誇りを持っていいんだよ?と教えてくれたのはジュネでした。もう、そんなの、忘れてしまってますけど。しかし、長くて濃かった…(笑)20代前半で読んだもの。捨てられず、売れなく(笑)納戸の本棚にも仕舞えない大切な本です。

  • 彼の小説の中ではこれと、「葬儀」が好きでした。もちろん、「薔薇の奇蹟」「花のノートルダム」もいいです。
    ジュネに関しては堀口大学さんの訳も合ってますよ。

    • galahadさん
      堀口大学の翻訳した「泥棒日記」を探しています。 長岡市立中央図書館の「堀口大学文庫」などでも調べたのですが、未だ発見していません。 もし、も...
      堀口大学の翻訳した「泥棒日記」を探しています。 長岡市立中央図書館の「堀口大学文庫」などでも調べたのですが、未だ発見していません。 もし、もし、御存知ならば、御教授いただきたいのですが。 Best regards
      2010/09/25
  • 少し(というか大分)前に出版された本だったので、文字が小さく詰まっていて、見かけ以上に長い話でした。
    ジュネは醜いものを、本来醜いものに使うべきではない美辞麗句によって美しく描いているが、決して美しいものを醜く描いていると言うわけではない。それでも、あまりの乞食っぷり(当時それが至る所で見られたものとはいえ)の描写には驚きました。泥棒としての罪悪感のなさも。
    ジュネの愛(男色)は配偶行動抜きの、まさに真実の愛だったといえるのではないのだろうか?そう思わせるような日記でした。

  • ¥105

  • 男性に「今何時?」と聞いてみたくなる。
    その趣味はないけども。

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著者プロフィール

ジャン・ジュネ(Jean Genet)
1910年、パリで生まれる。父は不詳。七ヵ月で母親に
遺棄されモルヴァン地方の指物師の家の養子となる。
小学校卒業後わずか一〇日で職業訓練校の寄宿舎から
逃走。放浪する間の微罪のため一五歳で少年院に収監
される。一八歳で軍隊に入隊、中東、モロッコなどに
配属されたのち、1936年脱走する。訴追を逃れるため
贋の身分証でスペイン、イタリア、ユーゴスラヴィ
ア、チェコスロヴァキア、ポーランド、オーストリ
ア、ドイツ、ベルギーを転々とする。

1937年フランスに戻り、以後七年間に窃盗などの罪で
一二回告訴される。1942年、フレンヌ刑務所在監中に
詩集『死刑囚』を出版、以後矢継ぎ早に『花のノート
ルダム』『薔薇の奇蹟』『葬儀』『泥棒日記』など、
犯罪者の、また同性愛者の立場を公然と引き受けた特
異な小説群を発表、コクトー、サルトルらの賞賛を受
け作家としての名声を獲得する。1949年に最終恩赦を
受けたのち六年間沈黙。

1955年から戯曲『黒んぼたち』『バルコン』『屏風』
を発表し劇作家としてカムバックする。1968年以降は
アメリカ黒人解放闘争、パレスチナ解放闘争、移民運
動などに加担、ときおり特異な政治評論を発表してい
たが、1986年パリで死去。パレスチナ滞在期の追憶を
中心とする長編回想記『恋する虜』が絶筆となった。

「1999年 『アルベルト・ジャコメッティのアトリエ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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